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第四話  喫茶『紅葉《もみじ》』

何だかよく分からないけど、僕のせいで皆の様子がおかしいのは確かだと思います。


朝からかぐやちゃん、昼に乙ちゃんと皐月さん。凄く落ち込んでいたけど原因が分からない僕には励ましようが無いです。


九陽君に相談をしても


「お前が自分で気付かなければ意味のないことだ。」


と言われ、有害指定物質、もとい葉月君に聞いてみれば


「俺が敵に塩を送るまねをするとでぼぉ!!」


何かむかついたのでアッパーを決めておきました。


というわけで、午後の授業中は机に突っ伏して朝の母さんの兵器、もとい料理のダメージに耐えながら悶々と考えていたのですが何も思い当たらずに放課後になってしまいました。


「・・・雛君、君、今日休んでいいよ。」


「すいません・・・。」


バイト先の喫茶店『紅葉もみじ』に来たのですが、茶髪で常にダルそうな目をしている駄目な人間の空気が漂う店長が僕の顔を見るとすぐにそんなことを言われました。


未だに顔が若干青ざめていて足もともふらつく僕を見ればそう言われても仕方のないことです。


とりあえず、客として席に座ってまたテーブルに突っ伏していました。


「お客様。ご注文は?」


「ふぃ?あ、冬琉とおるちゃん。こんにちは。」


顔をあげると店長の趣味であるメイド服に身を包んだバイト仲間の紅葉くれは 冬琉ちゃんが無愛想な顔で立っていました。


一つ年下の高校一年生で水色の髪をボブカットにして縁なしの眼鏡の向こうに冷たい視線をもった眼があり全体的に冷たい感じのする子です。でも実際は、少し厳しいくらいでいい人なのです。


店長曰く、最近は胸が小さいことが悩みだとか。それを聞いていた冬琉ちゃんに泣くまで店長がぼこぼこにされていたのも記憶に新しいです。


「ご注文は?」


「あ、水だ・・・、いえ、じゃあ、紅茶で。」


「かしこまりました。」


水だけで結構です、と言おうとしたら睨まれたのでその圧力に屈して紅茶を注文しました。


整った顔立ちの子が冷たい表情で睨んでくると迫力があるんです・・・。


「今日は一段と冬琉は不機嫌だね。」


「心なしかそう感じるぐらいじゃないですか。」


何時の間にか対面に座っていた店長に驚くこともなく答えます。


普段から感情の変化が分かりにくい冬琉ちゃんですが、バイトを始めて一緒に仕事をするようになると段々と彼女の感情の変化を感じ取れるようになれました。


「いやいや、さっきまでは上機嫌だったのだよ、これが。それがついさっきああなった理由、わかるかい?」


「さぁ?僕にはさっぱり。」


「それはだね。冬琉ぐあっ!!」


鈍い音とともに店長がテーブルに倒れました。


「店長。仕事中はちゃんと働いてください。」


その後ろに何故か赤い液体の付着した灰皿を持った冬琉ちゃんがいました。・・・何がついているか僕にはワカリマセンヨ?


決して追及して店長の二の舞いになることを怖れたわけではありません。


「くっ・・・。あの無感動だった冬琉をこんな凶行に走らせるとは流石は雛君だ。」


「テンチョウ?」


「すいませんでしたっ!!」


冬琉ちゃんが灰皿を再び、持ち上げると店長は驚くほどの速さで土下座を敢行する。というか、店長、頭の怪我は大丈夫なんですか?


ちなみに、店長の名前は紅葉 夏春かしゅんさんといい、名前から分かるとおり冬琉ちゃんの父親ですが威厳はこの通り微塵も感じられません。


「あ、水いぶぎゃぁ!!」


「・・・。」


「ぶへっ!ぼふっ!ばきっ!ぎょえ!ぶへらっ!!ごふっ!!がはっ!!ぎゃあぁぁぁ!!」


頭を上げたときにスカートの中を覗いてしまったらしい店長に無言&無表情のまま冬琉ちゃんが何度も灰皿を振り下ろしました。


すぐそばで猟奇的殺人事件の犯行現場のような光景が繰り広げられているにも関わらず、いつものことなので従業員を含む店にいる全員が何事もなかったかのように平然としています。


「ぐっ・・・。わ、私を倒したところで、第二、第三の私が必ずや現れるぞ。」


「そう・・・。じゃ、ここで殺しても問題ないわね。」


店長がふざけると冬琉ちゃんはマジな雰囲気が感じられる冷たい声を出して店長を見下ろしながら灰皿を振り上げました。


「戦略的撤退っ!!」


本気で命の危機を感じたらしい店長は床をゴキブリのように這いながら逃走を始めました。気持ち悪い上に店長が通った後に血痕が点々と残っていていい迷惑です。


「ふっ!」


「ぐはっ!!」


冬琉ちゃんが灰皿を投げると店長の後頭部にクリーンヒットして悲鳴をあげ痙攣をした後、動かなった店長の亡骸?をすぐに他の店員たちが慣れた手つきで片付けて店の奥に放り込みました。


店員の誰にも敬われず粗雑に扱われる店長に一応、黙祷を送りました。


「もう、冬琉ちゃん、あまりはしゃいだら駄目じゃない。」


「すいません。チーフ。」


そうしていると栗色のウェーブをかけたロングヘアーで細目のおっとりした女性がお盆とモップを持ってやってきました。


この人は冬琉ちゃんの母親で店長の奥さんである紅葉 秋穂あきほさんでこの店のチーフであり、実質上の最高権力者です。


「はい。冬琉ちゃんはお掃除をしてね。で、こっちは雛君が注文した紅茶よ。」


「はい・・・。」


「ありがとうございます。」


冬琉ちゃんはモップを受け取り、黙々と掃除を始めて僕は紅茶をもらって口をつけました。


「はふっ。相変わらずここの紅茶は絶品です。」


「あら?紅茶だけなの?」


「いえいえ、ここのメニュー全部ですよ。」


実際、本当にここで販売されている品々は本当においしくてここに通う常連さんのほとんどは味にうるさい人達です。かといって、この店に堅苦しい空気はなく先程のような惨状が常に温かい目で見てもらえるくらいに和む空気がかもし出されていてこの街の隠れた名店として一部の人には知られています。


「そうだ・・・。秋穂さんに聞きたいことがあるんですけど。」


「秋穂さん、だなんて他人行儀な呼び方じゃなくてお母さんって呼んでもいいのよ?」


「いえ、僕の母さんは一人だけですから謹んで遠慮します。」


何故か僕にお母さん、と呼ばれたがっている秋穂さんは僕と顔を合わせるといつも同じようなことを言っていて、たまに微妙に発音が違うみたいな時もあるのですが気のせいだと思っています。


「そう。家はいつでも歓迎するのに、残念・・・。で、聞きたいことって何?」


「さっきまで冬琉ちゃんがご機嫌だったらしいですけど何かあったんですか?」


さっき店長に聞きそびれたことが気になって秋穂さんに尋ねてみました。


この店でそんな馬鹿をする人はいないと思いますが、冬琉ちゃんに何かイタズラをした人がいるなら撲さ、ゲフンゲフン、お仕置きをしておこうと思いそう聞きました。


冬琉ちゃんは冷たい空気のする子ですが綺麗な容姿をしているのは紛れもない事実なのでお客さんの間でも人気があります。

 以前にたまたまこの店にきた態度の悪いお客さんが冬琉ちゃんにちょっかいをふっかけて、店員一同で制裁を加えたりもしました。そのときは何故か警察沙汰になりお客さんが全面的に悪いということになったうえ、連行されるときにお客さんはお巡りさんに震えて泣きながら助けてくれと訴えていました。そのときに秋穂さんが怪しい笑みを浮かべていたのが印象的で僕はこの人には絶対に逆らわないようにしようと心に誓ったものです。


「ん〜〜〜。教えてほしい?」


唇に人差し指を当てて少し考える仕草をした秋穂さんはいたずらっぽい笑みを浮かべて僕に聞き返してきました。


「まぁ、出来れば・・・。」


「だって、冬琉ちゃん?」


秋穂さんが呼びかけると冬琉ちゃんは一旦、手を止めて顔だけこちらに向き直りました。


「そんな事実がない以上答えられません。」


そう言ってすぐに掃除を再開しました。


「ふ〜ん・・・。あらあら?冬琉ちゃん、そこ、汚れてないよ?」


にやにやした秋穂さんが言うと通り、何故か冬琉ちゃんは店長の血痕とは無関係のところにモップをかけていました。


「・・・。」


指摘された冬琉ちゃんは一度、ピタリと動きを止めると何事もなかったかのように血痕のほうに行って掃除を始めました。


「あの、それで理由は?」


「じゃあ、ヒント1、冬琉ちゃんがご機嫌になるのは今日に限ったことではありません。」


「キャッ!」


冬琉ちゃんが滅多に出さない女の子らしい悲鳴をあげて何故か何もないところで転びました。


「あ、」


「気にしないの。で、分かった?」


「い、いえ。」


「ヒント2、冬琉ちゃんのシフトはよく雛君と重なっています。」


「あうっ!」


立ち上がるために冬琉ちゃんが近くのテーブルに手をつこうとして、手をつき損なって今度は顔から地面に転んでいました。


「ふ、冬琉ちゃん?」


どうしたのでしょう?いつもはしっかりものの冬琉ちゃんがさっきからドジっ娘になっています。


「分かったかな?」


「え、いや、その、そんなことより冬琉ちゃんの様子が・・・。」


「いいの、いいの。で、分かった?」


「い、いえ、分かりません。」


「じゃあ、ヒント3、その原因にはある人が関係あります。」


「チーフ、話してばかりいないで仕事をしひぇっ!ッ〜〜〜〜〜〜〜!!」


床にお尻をついたまま秋穂さんに文句を言おうとした冬琉ちゃんが今度は舌を思いっきり噛んだようで口を押さえて痛みにもだえています。


「ふ、冬琉ちゃん、大丈夫ですか?」


「ん〜〜〜。流石に可哀想かな。これ以上言っちゃたら答えを言ってる様なものだし。」


「ッ〜〜〜。」


冬琉ちゃんが立ち上がりながら秋穂さんを睨んで無言の抗議をしています。


らしくない冬琉ちゃんとニコニコとその視線を受け流す秋穂さんの二人の間に漂う微妙な空気を感じて戸惑っていると、来店を告げるベルがなりました。


「ほ、ほら。二人ともお客さんですよ。」


とにかく、この状態を脱しようと二人に他のことに注意を向けてもらおうと僕が話しかけました。


「そうね。いらっしゃいませ〜〜〜!って、雛君のお客さんじゃない。」


「え?」


秋穂さんに言われて、入り口の方を向くとそこにはいつも通り黒い格好の大家さんと髪型をサイドポニーにして眼鏡をかけた母さんがいました。


大家さんはこの店の常連さんの一人でいつも僕の仕事ぶりを見に来るので秋穂さん達とも顔見知りです。


母さんたちも僕に気づいてこっちにやってくるのですが・・・、何故でしょう?何かややこしいことになりそうな気がしてなりません。しかも、僕関連で・・・。


出来ればこの予感が当たらないように祈りました・・・。



本当はこのまま琴音達と秋穂達のからみを書こうと思ったのですが、そうすると長くなりすぎるので無理矢理ですがここで切らせてもらいました。

 書いていてキャラがどんどん増殖していきますが作者自身、あとどれくらい出すのかまだ決め切れていません。出来る限りキャラが被らないようにしったいですが作者の貧しい想像力では被ってしまうこともありえるので、その点はどうかお見逃し下さい。

 とりあえず、次は今回出てきたキャラでのからみを書きますので誤解を解くのはもう少し先になります。

 どんな些細なことでもいいのでご意見・ご感想のほうを送っていただけると作者の励みになりますのでどんどん送ってください。

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