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第二話  早朝。 〜失恋?〜

母さんと暮らすことが別に嫌なわけじゃないんですよ?むしろ、そこまで僕のことを思ってくれて嬉しいんです。でも、ですね・・・。


「何か言うことは?」


「親子なんだから別にいいんじゃないかなぁ〜、と。」


「親と子供でも最低限守るべき節度というものがあるんじゃないんでしょうか?」


「あ、あははは。・・・怒ってる?」


「怒られるようなことをした覚えがあるんですか?」


「ゴメンなさい。だから、その感情の篭らない平坦な声は止めてください。」


ああ、そういえば僕ってあの日以来、頭にきてるときは感情が消え失せて無表情、無感動になるんですよね。うん、無意識のうちに予想以上に怒ってるらしいです。


で、朝っぱらから息子の布団に忍び込んできた常識の足りない母さんに土下座をしようと問答無用で無言の圧力をかけてしばらくすると多少溜飲が下がってきたのでため息をつくと目を逸らします。


「とりあえず、その目のやり場に困る格好はさっさと止めてください。」


現在の母さんの格好は下着を下だけはいて上はワイシャツ一枚、第二ボタンまで開けているという年頃の青少年には刺激が強すぎる格好です。そんな格好で布団に忍び込むものですから怒ったわけです。


さっきまで頭にきていたので何も思いませんでしたが、少し冷静になるととても直視は出来ません。


「あ、やっと男の子らしい反応。」


「カアサン?」


「着替えてきます!」


一言圧力をかけると一目散に部屋から出て行きました。


ちなみにこの家は僕の部屋と今僕がいる部屋しかないので、昨夜は母さんは僕のベッドで寝てもらって、予備の布団を引っ張り出して僕はこの部屋で寝ました。


布団を片付て手早く服を着替えたとき、着替えた母さんが戻ってきました。


「おはようございます。」


「おはよう。って、今気づいたけど、本当に早いわよね?」


母さんの言うとおりまだ朝日も昇っていません。


「これからバイトですから。」


「バイト?」


「はい。新聞配達のバイトです。父さんがいなくなってお金を稼がないといけませんでしたから。」


それでも中学に上がるまでは大家さんの厚意に甘えていたのですが、中学に上がってからはいくつかバイトを掛け持ちしてできる限り大家さんにお金を払って住まわせてもらっています。それでも、ちょっとした条件と破格の安さですが。


「朝食は帰ってきたら作るんでそれまで適当に時間を潰しててください。」


「ううん、待ってる間に私が朝食は作っておいてあげる。」


「え・・・?ああ、そういう発想もありましたね。」


今までの習慣と大家さんの壊滅的、もとい、独創的な料理のおかげで誰かに作ってもらうという選択肢が抜け落ちていました。


「それじゃあ、よろしくお願いします。」


「任せておいて。腕によりをかけて作るから。」


母さんがご飯を用意して待っていてくれている。そう思うだけで嬉しくなっていつもより足取りが軽くなって出かけました。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



自慢じゃありませんが僕は体力と足腰には自信があります。


「はっ、はっ、はっ。」


それというのも町外れにあるあのアパートから毎日のように登校していることと高校に上がってからはこうして走って新聞配達をしているからです。


自転車を使えばいいじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、他の人が使って僕の分までないので仕方ないんです。


「おはよう。」


「おはようございます。」


最初は紅い髪をなびかせながら走る僕に驚く人がたくさんいましたが今では自然と挨拶出来るくらいに慣れたようです。


半分以上配り終えて坂道を登っていくと登りきったところにある洋館の前に人影がありました。


「おはようございます、お兄さん。」


「おはようございます、かぐやちゃん。」


雪のように白い髪を腰まで伸ばし紅い瞳の僕と同じくらいの身長のこの少女は姫夜ひめやかぐやちゃん。


頭をきっちりと下げて礼儀正しく挨拶をしてくれるとてもいい子です。


「はい。どうぞ。」


「ありがとうございます。」


足を止めて新聞を渡すと微笑みながら受け取ってくれます。


「体は大丈夫ですか?」


「はい。ここのところは調子がいいんです。」


かぐやちゃんは生れつき体が弱く、特に日の下にいると具合が悪くなるらしくあまり家から出ることがないそうです。


「こうしてお兄さんとお話してるからかもしれませんね。」


「そうじゃないですよ。かぐやちゃんが頑張ったからこうしていられるんです。」


今から三ヶ月ほど前にかぐやちゃんは手術を受けました。手術自体の話は何年も前からあったらしいですけど、失敗すれば命を落とすということと成功率の低さから本人が受けることを拒否していたそうです。


手術は無事に成功して、それからしばらくは病院で療養していて二週間ほど前に帰って来ました。


「それならなおさらお兄さんのおかげですよ。私はお兄さんに手術を受ける勇気をもらったんですから。」


「でも、僕ら手術前に最後に会ったときは喧嘩して、ひどいことを言った覚えがあるんですけど?」


そのときはかぐやちゃんと過去の僕、一番荒れていた頃の自分が重なって怒りが込み上げ、きついことを言ってしまい家に帰って頭が冷えると後悔していました。


でも、何故か次に会った時にお礼を言われて以前と同じように付き合っています。


「何ででしょうね?」


聞いても毎回微笑みながら誤魔化して答えてくれませんが、彼女が元気になってよかったということで自分を納得させています。


「話は変わりますが、お兄さんに一つお知らせがあります。」


「お知らせ、ですか?」


「この度、体の状態が改善されたので学校に通えるようになりました。」


「本当ですか?」


「はい。お兄さんと同じ学校に通うことになりますのでよろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願いします。でも、勉強についてこれるんですか?」


「それなら大丈夫です。おとちゃんの勉強を手伝っていたことが多かったのである程度は分かっていましたし手術が終わってからも乙の教科書を借りて勉強しましたから。」


乙ちゃんというのはかぐやちゃんの双子の妹です。二卵性らしいのでかぐやちゃんのようなアルビノと病弱な体質は持っていませんが、顔立ちはそっくりです。


乙ちゃんはかぐやちゃんとは対称的に元気一杯な子で、姉であるかぐやちゃんに対して過保護なお姉ちゃん大好きっ子です。


でも、頭がちょっと弱い子なので勉強のほうがあまり芳しくありません。


「そうですか。何時から学校に来るんですか?」


「今日からです。」


「随分急ですね。」


「お兄さんを驚かせようと思ったんです。あ、先輩とお呼びしたほうがいいですか?」


言い忘れていましたが彼女は一つ年下で高校一年生です。でも、彼女からかもし出される落ち着いた雰囲気はもっと年上に見えさせていないことも無いです。


「いえ、かぐやちゃんの好きなように呼んでください。」



「では、今までどおりお兄さんと呼ばせてもらいます。それはそうと、お兄さん今日は何だか機嫌がよさそうですね?」


「え?そうですか?」


「はい。お兄さんの笑顔がいつもより1.5割り増しで綺麗ですから。」


1.5割り増しって何を基準にしているのでしょう?それに、僕の顔のほとんどが隠れているのに笑顔の綺麗とかが何で分かるんでしょうか?


「何かあったんですか?」


「ええ、まぁ。」


素直に母さんと暮らせるようになったと言ったら、色々聞かれて迂闊なことを口にしてしまいそうです。


母さんは大女優の燈鏡 紅です、ということが知られたら僕はともかく母さんに迷惑がかかってしまうかもしれません。女優にスキャンダルはその道の障害になってしまいますし、それは僕の望むところではありません。ただでさえ母さんは離婚直後で注目が集まっているんですから僕という息子の存在は格好のネタでしょう。


「ずっと昔から大好きで、思いを伝えることも会うことも出来なかった人と昨日会えたんです。」


というわけで少しぼかして話すことにしました。


「え・・・?」


しかし、何故かかぐやちゃんの表情が凍り付いてしまいました。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ、な、なんでもありません。」


いつも落ち着いているかぐやちゃんが少し落ち着かない様子で声も震えています。一体どうしたんでしょうか?


「あ、あの、それで、お兄さんはその人にお兄さんのす、好きだって想いを伝えたんですか?」


「はい。」


「あ、相手の方はど、どのようなは、反応をしましたか?」


「とっても喜んでくれました。」


「あ、ああ、相手のか、方は、お、お兄さんのこ、ことをど、どう思っているんですか?」


「絶対に必要な人だって言われました。」


母さんにそこまで言ってもらえたときの嬉しさと少し恥ずかしさが込み上げてきてちょっと照れてしまいます。


「つ、つまり、そ、相思、そ、相愛という、ことですか?」


「う〜ん、そういうことですかね。」


お互いに深い家族愛で思いあっているのでその表現もあながち間違っていませんよね?


「そ、そうです、か・・・。」


「あの人にとっては僕は二番目なんでしょうけど、それでも僕はとても嬉しいんです。」


「に、二番目・・・!そ、その人にはお兄さんより好きな人がいるんですか!?」


「は、はい?そうですけど、僕はそれでもいいですから不満はありませんよ?」


母さんの一番は父さんですし、僕もそうであって欲しいですから何も文句はありません。でも、何でかぐやちゃんはこんなにも動転しているのでしょうか?


「うっ・・・。」


「え?か、かぐやちゃん?ど、どうしたんですか?」


目の端に涙が溜まってきたかぐやちゃんを見て僕は慌てました。


「一番にお兄さんを愛していない人に負けるなんて・・・。」


「ま、負ける?何のことですか?」


「・・・ごめんなさい。気分が優れないんでもう中に戻ります。」


「え、あ、ちょっと・・・。」


「さようなら・・・。お兄さん。」


かぐやちゃんは踵を返すと走って家の中に入っていきました。今日は調子がいいんじゃなかったんでしょうか?


何だかよく分かりませんでしたが何かあったみたいなので今度あったときには相談に乗ろうと思います。




おまけ


母さんの手料理は大家さんと同レベルな壊滅的、もとい、独創的な料理でした。・・・ぐふっ。


手料理のシーンを書こうかとも思いましたが、中々そのシーンがうまく思い描けなかったので省略となりました。ですが、いずれ壊滅的料理を前に奮闘する雛を書きたいと思います。

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