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ぷろろーぐ・2  母の事情

私と目の前の人物、芸能界に入ってから私を支えてきた夫の間に重い沈黙が続いている。


「・・・考え直しては、くれないのか?」


「ごめんなさい。知ってしまった以上あなたとこれ以上一緒にはいられないの。」


彼と私の間にあるテーブルにはすでに私の名前が書かれた離婚届。

「・・・そうか。」


彼がおもむろにペンをとり、書きはじめて判を押した。


「これは私が出しておくから。・・・お世話になりました。」


「・・・許されるとは思ってない。だが、それも君のことを思ってのことだ。君を騙すような形になってしまったがそれだけは信じてほしい。」


「わかってる。あなたはマネージャーとして正しいことをした。私があなたを好きになったのは私のせい。・・・知ってしまったぐらいですぐにあなたから離れてしまう現金な私が悪いのよ。」


それが私達が夫婦としての最後の会話だった。



そして、翌日、離婚会見のあと、すぐに私は愛しい家族のもとに向かった。






〜〜〜〜〜







夫の最後の親切で彼等の住所を教えてもらい、私はその街にやってきた。

来る途中で何度か私を見ている人がいたが、変装もしていたし、まさか前の晩に離婚会見を開いていた人物がこんなところにいるとは思わなかったのだろう。

おかげで私のことに気づいた人はいなかった。


タクシーを拾ってたどり着いた先は町外れのボロアパートだった。


「・・・ここに、いるのね。」


私が緊張で身を固くしていると扉の一つが開いて中から全身黒ずくめの女性がでてきた。


「瓜・・・?」


こちらに気づいたらしい女性は高校時代の友人である瓜のようだ。

昔からああいう格好なので久しぶりに会ってもすぐに分かった。


「久しぶりね。琴音。離婚したってニュースを見て、来るんじゃないかと思ってたわ。」


「じゃあ、やっぱりここに鏡治きょうじと雛がいるの?」


「あなた・・・。そう・・・、だからだったのね・・・。」


彼女は悲しげな瞳で私を見た。

その表情を見て私の心臓は締め付けられるような痛みを覚えた。


「どういう、意味・・・?」


聞きたくないと頭のどこかで叫ぶ自分がいたが、私は震える声で何とか言葉を発することができた。

「・・・宝良君は八年前に死んだわ。」


「ッ!!」


瓜の言葉に私は目の前が真っ暗になったような錯覚を起こした。


・・・死ん、だ?八年も前に?・・・八年前と、いえば、ちょうど私が結婚した・・・!ま、まさか・・・。


「・・・宝良君が死んだのはあなたが結婚する前、それもただの交通事故よ。だから、あなたが今、考えているようなことじゃないわ。」


その言葉にホッとすると同時に怒りが込み上げてきた。


「どうしてまぎわらしい言い方を!!」


「雛ちゃんは生きてしまったせいであなたの結婚を知ってしまったけどね。」


その一言で急激に怒りの炎が消えていき、再び暗闇へと叩き落された。


「・・・雛ちゃんは自分を必死に育ててくれていた宝良君が死んで悲しんだわ。ずっと、ずっと、それこそ昼夜問わずに泣いていて食べることも忘れて泣いた。その間に私が色々な手続きとかは済ませて、何とか雛ちゃんを説得してお通夜の準備をしていたときよ。・・・あなたの婚約が報じられたのは。」


「う、うそ・・・。」


「私だって驚いたわ。こんなタイミングで婚約するなんて神様の悪戯としか思えないくらいに最悪のタイミングだもの。」


何でそんなときに結婚してしまったのだろうと私は昔の自分を止められるものなら止めたいと心の底から思った。


「ねぇ、琴音。人間の一番怖い表情ってどんなものだと思う?」


いきなりのわけの分からない質問に私は答えることは出来なかった。


「私は怒りに染まった顔でも、憎しみに染まった顔でもなく無表情だと思うわ。・・・あなたの婚約を知った瞬間に感情というものが全て消えたあの雛ちゃんの顔を私は一生忘れられない。」


瓜は言いながら悲しそうな目でその当時のことを思い出すかのように目を細めた。


「それまで目の端に涙を溜めていたのが嘘のように引いて、しゃくりあげていたのにそれも止まって、声にも感情の起伏がなくなって、通夜の席でもずっと無表情でやりとおしたわ。もっとも、周りはそれを宝良君が死んだショックだと思っていたみたいだけど・・・。」


瓜のいつもは柔らかい視線が今だけは刃のように鋭く尖り、私に向けられる。


「ハッキリ言わせてもらえば、私はあなたが嫌いよ。雛ちゃんをあんな目に合わせておきながら今更ノコノコ会いに来て何の冗談のつもりって言いたいくらい。」


「し、知らなかったの!わ、私は鏡治が私を捨てたって聞いて、それで、雛も連れて行って、二度と会わないって言ってたって聞いて、それで、」


「聞いただけで、本人に確かめようとしなかったんでしょう?」


「そ、それは・・・。」


「結局、あなたは自分が傷つくのを恐れて逃げたのよ。そんな自分優先の人間がまた雛ちゃんを傷つけることがないって信じられると思う?」


瓜の言葉の一つ一つが私の胸に突き刺さり、後悔の念が強くなっていく。


「私、は・・・。」


ごちゃごちゃに乱された心でそれでもなお揺るがない想いが口から零れ落ちる。


「それでも、雛に、私の子に会いたいの!お願い!会わせて!!」


頬に涙が伝うのを感じながら必死に瓜に懇願する。今、あの子との関係まで断たれてしまったらしまったら私はきっと私ではいられなくなってしまうだろう。そんな想いが心の何処かにあった。


そんな私に瓜は背を向ける。そのことに私は絶望を感じて、恥も外聞も投げ捨てて、声を上げて泣きそうになったとき


「・・・雛ちゃんの部屋は私の部屋のすぐ隣よ。今は学校に行ってるけど、あなたが来ると思って、私が用があるって呼び出しておいたから学校が終わればすぐに帰ってくるはずだし、鍵は開けて置いてあげたから部屋で待ってなさい。」


「え・・・?」


私は瓜の言葉の意味を一瞬理解できずに呆然とした。


「・・・私がどれだけあなたを嫌っても、雛ちゃんにとってはあなたは大事で、大好きな母親なのよ。だったら、会わせてあげたほうが雛ちゃんが喜ぶから私は我慢するわ。」


「ありがとう!ありがとう!」


私は嬉し涙を流しながら何度も瓜にお礼を言って、彼女が自分の部屋に戻った後に雛の部屋で愛しい息子が帰ってくるのをどんな風に謝ろうか必死に考えながら待った。





実際に帰ってきてその姿を視界に収めたときには考えていたことなどすぐに頭から吹き飛んでただひたすらに謝ることしか出来なかったけど・・・。



特に今後の展開に関しては考えていない完全な思いつきの作品なので読者の方々に満足していただけるかどうか不安で仕方がありませんが、書く以上は出来る限りいい作品に仕上げたいと思います。

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