第八話 ドナドナ
今回は計4791文字です。
親友二人の頼みを何とかはぐらかして放課後になりました。
「・・・・行かないとダメですか?」
「当たり前だ。」
現在、僕は九陽君に担がれて連行されています。
九陽君、力持ちですね〜。それとも僕が軽いだけでしょうか〜。
なんて現実逃避をしてみますが状況は変わりません。
何故、こんなことになっているかと言いますと、とりあえず誤解だけは解いておけ、という九陽君のありがたいような、ありがたくないようなそんなお言葉を聞いて何かと理由をつけて逃亡をしようとした僕を九陽君と葉月君の二人がかりで拘束して、皐月さんがいるであろうという剣道場へ連行されているのです。ちなみに、葉月君は皐月さんの所在の確認のために先に行っています。
ああ、午後になってからの雨模様は憂鬱な僕の心を表しているかのようです。
ところで、この学校は剣道場に行くには一度、一階に降りて靴を履き替えてからじゃないと行けないようになっていて、放課後ということは当然、そこには部活に行こうとする生徒や帰ろうとする生徒がいるわけで、そんな中を学校でも有名なイケメンである九陽君に担がれながら行くのは大変目立つわけです。一種の羞恥プレイです。へるぷみー、です。
そんな願いが悪魔にでも届いたのでしょうか。
「「「あ・・・・・。」」」
そこに偶然いたかぐやちゃんと乙ちゃんに遭遇しました。このとき、神様なんて絶対にいないと思いました。
「姫夜姉妹か。丁度いい。一緒に来てもらえるか?」
ちっともよくないです。むしろ、悪化しています。
ううっ、かぐやちゃん達も母さんと僕の間柄を誤解してるんですよね?ただでさえ、皐月さんにも説明をしなくちゃいけないのに二人も増えるなんて・・・・・、無理です。耐え切れませんですっ。羞恥で死ねますです!
「ふしゅう〜〜〜〜〜。しゃ〜〜〜〜〜〜〜〜。」
「お、お兄さん?」
「・・・・・頭でもおかしくなった?」
「気にするな。で、来てもらえるか?これに関することで大事な話があるんだが?」
そんなに大事でもないと思いますです。きっと二人とも忙しいと思いますです。無理に誘うのはよくないと思いますです。
「・・・・・はい。分かりました。」
「姉さんが行くなら私も行く。」
「ふみゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
「あまり騒ぐな。暴れるな。」
に、逃げないとです!殺されます!羞恥心で殺されますですっ!!
「姫夜姉は初対面だったな。八夜 九陽だ。雛の親友をやらせてもらっている。」
「あ、どうも。姫夜 かぐやです。あの、お兄さん、どうかしたんですか?」
「気にするな。ただ恥ずかしがっているだけだ。」
「はぁ・・・・・。」
言わないでください〜〜〜〜!!言われると余計に恥ずかしくなるです〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
「・・・・・赤面するお兄さん・・・・・、いいかも・・・・・。」
「ね、姉さん?」
何か言っているようですが、それどころじゃありませんですっ!!恥ずかしいです!無理です!
「とりあえず、場所を移させてもらう。こっちだ。」
暴れる僕をしっかりと担いだまま九陽君は靴を履き替えて、僕の靴を持ちながら移動します。
その後ろを二人はちゃんとついてきています。今なら売られていく動物さんたちの気持ちが分かると思います。・・・・・・もう、諦めました。
僕が逃走しようと努力をしているうちにその努力も虚しく剣道場まで辿り着いてしまいました。
「・・・・・何をした?」
「何もしてねぇよ!姉貴のことを聞くために声をかけようとしたらいきなりだ!!」
そこには何故か簀巻きにされて一応、情けはかけたのか屋根の下に放置されている葉月君がいました。
「日頃の行い、か。」
あ、やっぱりそう思います?
「あの、こちらの人は?」
「そこの見知らぬ可愛い子!初めまして俺は」
「「社会のゴミだ(よ)。」」
「なわきゃねぇだろ!!というか、乙ちゃんには何で二回目にして社会のゴミ扱いされないといけなへぼろぉ!?」
喚く葉月君の簀巻きにされている胴体に乙ちゃんの鋭い蹴りが入りました。
「名前で呼ぶな。虫唾が走る。あと、姉さんをいやらしい眼で見る奴は死ね。」
「えっと、それで、この方は?」
「おお!久しぶりにまともな反応をされたっ!」
「非常に残念なことにこいつも雛の親友の暦 葉月という。」
「テメェ!俺に失礼過ぎるだろ!」
かぐやちゃんの二度目の問いかけに渋々、苦虫を噛み潰したような顔で葉月君のことを紹介する九陽君に葉月君は何故か怒っています。
「初めまして、乙ちゃんの姉の姫夜 かぐやといいます。先程は乙ちゃんが失礼な真似をしてすいませんでした。ほら、乙ちゃんも謝って。」
「何でこんな奴に。」
「乙ちゃん。」
「・・・・・・ゴメンナサイ。」
かぐやちゃんに言われて、棒読みながらも乙ちゃんが謝りました。
「やっと、やっとまともな人間が現れた!!いや、女神が現れた!!」
「今、ほどいてあげますから待っていてください。」
「人の優しさが身に染みるぜ・・・・・。」
何か感動をしているらしい葉月君を助けようとかぐやちゃんが近づき、縄に手をかけようと手を伸ばし
「・・・・・・俺は暦の馬鹿っぷりが雛にうつらないか常々心配している。」
「八夜先輩、この剣道場に用があるのでしたら早く中に入りましょう。」
九陽君がボソッと呟くとかぐやちゃんは何事もなかったかのように葉月君から離れました。
「見捨てられた!?か、かぐやちゃん、俺を助けてくれないのか!?」
「乙ちゃんも何でそんな何もないところでボーっとしてるの?」
「俺の存在がなかったことにされてる!?」
「いい気味よ。あと、あんたが姉さんの名前を口にするな。汚らわしい。」
「げふっ!?」
さっきの再現のようなことが行われました。
「乙ちゃん?いきなり独り言を言ったら変な人に見えるよ?」
しかし、今度はかぐやちゃんは咎めませんでした。
「・・・・・清々しいほどの無視だな。」
「何のことでしょうか?」
そう言ったかぐやちゃんの笑みをどこか黒く感じたのは僕の気のせいでしょうか?
「ところで、暦。暦姉は中にいるのか?」
「ああ。簀巻きにされている俺を一瞥してから無視して入っていったから間違いない。だから、助けてください。お願いします。」
「よし。じゃあ、中に行くぞ。」
「って、引きずるんじゃねぇ!ほどきやがれ!」
「置いていってもいいんだが?」
「どうぞ遠慮なさらず引きずってください。」
その言葉に遠慮なく従って九陽君は僕を担ぎつつ、葉月君を引きずって中に入っていきました。
中では男子と女子が別れて練習していて女子のほうに向かっていき、その中で他の人達と明らかに動きが違う二人のほうへと近寄っていきました。
あ、片方の人が面を決めました。
その後、礼をして下がるとお互いに面をとりました。負けたほうが皐月さんだったみたいです。
「調子が悪いみたいだけどぉ、どうしたのぉ?」
「・・・・・すまない。」
勝ったほうの女性、防具に書いている名前を見ると彩華さんというらしい人がさっきまでの動きから想像できないほどのんびりした声で心配そうに浮かない顔をした皐月さんに話しかけていました。
「少しいいか?」
九陽君が声をかけると二人がこっちを向きました。
「八夜君とぉ、弟君とぉ、え〜とぉ、どなたですかぁ?」
かぐやちゃん達はともかく、有名人の二人は知っていても僕のことは知らないみたいです。
「・・・・・・。」
皐月さんは僕のほうを気まずそうにちらちら見ています。気まずいのは僕のほうです。
「姫夜 かぐやです。よろしくお願いします。」
「姫夜 乙・・・・・。」
さて、何で途中から僕の台詞がなくなったかと言いますと
「ふしゅ〜〜〜〜〜〜〜。」
未だに言語機能が回復しないからです。諦めたところで恥ずかしいものは恥ずかしいんです。
「この野生化してるのは宝良 雛だ。諸事情でこんな風になってるが普段はまともな奴だ。」
「どうもぉ、彩華 睡蓮ですぅ。よろしくぅ。それでぇ、何の用ですかぁ?」
「少し暦姉を貸してもらえるか?調子を取り戻させる。」
「出来るんですかぁ?」
「確実に。手短にここで済ませる。」
「じゃあ〜、どうぞぉ。」
そう言って皐月さんを僕らに差し出してきました。
「さて、雛。」
九陽君が僕を下ろすと、僕はすぐに逃げ出しました。
「暦。」
「おうっ!」
「ふみゃ!?」
何時の間にか簀巻きから脱出した葉月君が僕を取り押さえ、羽交い絞めにすると皐月さん達の近くまで連れて行きました。
「雛、たった一言、それだけ言えばいい。分かってるな?」
「うぅ〜〜〜〜〜。」
「言っておくがそれまで解放する気はないからな。」
その一言が言いにくいんじゃないですか。
「ほら、言っちまえよ。」
葉月君が後ろから催促してきます。
前には何だろうかと僕を三対の瞳が見ています。
うぅ〜〜〜〜〜。あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。むぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「・・・・・・・・・・・・・・・・です。」
「何だ?」
ううっ、皐月さん、何で今はこっちをちゃんと見てるんですか?
「・・・・・・・・・・・・・・じゃないです。」
「何ですか?」
かぐやちゃん、何で何か期待するような眼で見てるんですか?
「・・・・・・・・・・・・・恋人じゃないです。」
「何よ?はっきりしないわね。」
乙ちゃん、何で若干口元が緩んでるんですか?
「・・・・・・昨日、言ってた人は恋人じゃないです。」
「「「本当に?」」」
首を縦に振って肯定しました。
「「「・・・・・・・。」」」
ああ、黙らないで下さい。何か言ってください。
「・・・・・・・・紛らわしいのよ!紅チビ!!」
「げぶらっ!!」
覚悟はしてましたけど、乙ちゃんが本当に殴ってきました。ちなみに葉月君は僕が言った直後に僕を放して離れました。
「覚悟出来てるんでしょうね・・・・・?」
乙ちゃんは指を鳴らしながら僕のマウントポジションを取りました。
「・・・・・出来るだけお手柔らかに。」
今日も気絶かぁ・・・・・。そんなことを思いながら拳を振り下ろす乙ちゃんを見ていました。
乙ちゃん、そんなに嬉しそうに拳を振り下ろして僕を苛めるのがそんなに楽しいんですか・・・・・?
おまけ。
「そう、か。雛に恋人はいないのか。」
「嬉しそうですね。」
「べ、別にそういうわけじゃない。」
「そうですか。だったら、私がお兄さんの恋人になっても問題ないですよね。」
「・・・・・・・。」
「何ですか?お兄さんに対して皐月先輩はそういう感情は持っていないんじゃないですか?」
「・・・・・雛は渡さない。」
「そうですか。でも、負けませんから。」
おまけ2。
「あれ止めなくていいのか?」
「彼女もいらない不安を抱えたんだ。あれくらいは許してやってもいいだろう。」
「いや、普通にもう雛の奴、気絶してるぞ?」
「雛なら大丈夫だろ。」
「・・・・・・まぁ、いいか。」
おまけ3。
「ふ〜ん。」
「何だ?」
「あの子が皐月ちゃんのぉ、好きな子なんだぁ。」
「そ、それはだな・・・・・。」
「ふ〜ん、へぇ〜、あの子がねぇ。どこがよかったのぉ。」
「いや、あの、その」
「真っ赤になっちゃってぇ、かぁわいい〜。」
「ううっ・・・・・。」
やっと誤解が解けました。その部分よりそこに辿り着くまでが長くなってしまいましたが、とりあえず次に進めようと思います。と言っても、まだどうするか決めてませんが・・・・・・。
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