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瀬野家の人々(R-15版)  作者: ◆fYihcWFZ.c
中期 アキの春
6/21

06 実は初めてではない女装外出 2013/03/16(土)

「君は分からないかもしれない。でも、この出会いは本当に運命なんだ」


 やたらにしつこいナンパだった。

 おまけにかなり電波まで入っていた。


「君が何も覚えていないのは分かった。だから、これだけは教えて。ねえ、今の君がなんて名前なのか、って」


 これまで何人かナンパが来たけど、俺が黙って何も反応しないでいると去っていった。

 なのに、なんでコイツだけはこんなにしつこいんだろう。温かい喫茶店から、この状況を(多分)ニヤニヤして見ているだろう俊也が恨めしい。

 今の俺は約10年ぶりの甘ロリ姿。172cmの身長に3cmの厚底靴、メイクはギャル系というんだろうか派手目な感じ。衣装は白とピンクのフリル満載と、客観的に見ればどこのちんどん屋かと思いそうな姿なはずだが。

 このナンパ男の「美人!」「綺麗!」「可愛い!」連呼を聞いているとその気になってしまいそうなのが怖い。自分や身内の『可愛い』評価なんて当てにならないと知っているだけに、その客観的? な感想に唇がほころびそうになっている自分が嫌だった。

 本気で困惑していると、俊也がやってくるのが見えた。その姿が本当に助け神に見える。


「ごめんごめん、待たせちゃったね!」


 ……まあ、よくよく考えたらこいつが諸悪の根源なわけで、マッチポンプもいいとこだが。駆け寄って手を繋ぎ、ナンパ男に軽く手を振って、そそくさとその場を離れる。

 いつもと違い、俊也の目線の位置が俺と一緒だ。あのブーツは上げ底なんだろう。それとなくガラスに映る姿で確認すると、黒いジーンズに包まれた細い脚が身体の半分を軽く上回って長く伸びて、嫌味なくらいになっていた。悠里そっくりなだけあって、肌が綺麗で端正な顔立ちは、どこの王子様という感じだ。


「アキちゃん、すごい人気者だったね?」


 その王子様(・・・)がからかう声で言う。


「あれ、罰ゲームかなんかじゃないか? 俊也こそ、女装のときはナンパ凄そうだけど」

「んー。スカウトなら余裕で来るけど、ナンパはあんまり来ないかな」

 

 美少女すぎて声がかけにくいとかあるんだろうか。


「それにしてもアキちゃん、随分板についてついてるんだね。普通に女の子っぽいよ」

「よせやい。こっちはバレないように必死なのに」


 慣れない厚底靴を履いて、内股になるように、手の振り方も仕草も女の子らしくなるように。ほぼ10年前のことで忘れていると思っていたら、実行できているのが意外だった。


「声は、男そのまんまだけどね」

「俊也みたいに女の声出せないからしょうがない。練習する気もないし、このままでいいよ」

「でも本当に似合ってるって。履歴書の特技欄に、特技:女装って書いてもいいくらい」


 そんな履歴書、激しく嫌だ。


「履歴書にそんなこと書くのは、俊也に任せとくよ」

「僕のほうは、むしろ趣味:女装になるのかな」


 やっぱり嫌な履歴書だった。


____________



 ちょっとしたことで、俊也と賭けをしたのが半月くらい前。

 それに見事に敗北した俺は、今こんな姿で街中を歩くという羞恥プレイを受けている。


 一人っ子だった俺にとって、初めて出来た年齢の近い同性の兄弟。そういえば、悠里を間に話すことはあっても、あるいは『悠里を演じる俊也』として話すことはあっても、直接俊也と2人だけで話す機会はあんまりなかったからいい機会かも。それが、俺が女役での『デート』という場なのは、大いに異議を唱えたいところだが。


 今日も仕事の悠里と朝別れて、その後俊也と2人で一緒に歩いて移動(ついでにその時点で、念のため俊也が本当に俊也であることを確認)。『待ち合わせ場所』が一方的に見える喫茶店に俊也を残して別れ、春の日差しの下、30分ほど晒され状態でじっと待機。

 ナンパに会う様子をたっぷりと鑑賞されたあと合流し、只今散策中。厚い白タイツを穿いているとはいえ、膝上20cmの、ふわっと広がるスカート。3月の風が吹き込んできて、微妙に寒い感じがする。一応短めの白いコートを羽織っているけど、上着の防寒も充分でもないし、少し震えが走る。


「寒いの?」


 その俺を気遣うように、俊也が心配そうな顔で聞いてくる。


「少しね……」

「モデルやってると、11月とかに春物の撮影とかするから、感覚狂ってきてるのかな」

「そういえばそうだっけ。……じゃあ、もう夏物の撮影?」

「うちの雑誌だとそんな感じかな。仕事先で結構違って、1月のビーチで夏服の撮影したときは死ぬかと思った。でも他のみんなは平然としてるし、鳥肌立てるな! って言われるし」


 想像を絶する世界だった。

 その世界はともかくとして、寒いと生理現象が来やすくなるわけで……俺は困っていた。


「ごめん、トイレ行かせてもらっていい?」

「ちゃんと女子トイレに入るようにね。その格好で男トイレ入ったら変態だから」


 これを言われたくないから困っていたんだが、至極あっさりと断言されてしまう。

 近場の店に入って、女子トイレへそそくさと移動。


(恥ずかしがってたら目立つだけ……堂々としてれば大丈夫……)


 出来るかボケ。


 あげく、ついた女子トイレは行列ができているし。壁とお見合いしながら、じっと待つ。

 昔、連れまわされていた時はどうしていただろう。思い出そうとしていると、後ろにもう一人女性が並ぶ。つい、まじまじと見てしまうのを止められない。身長は170cm越えているようで、おまけに履いているヒールも高いから今の俺より背が高い。タイトなスーツ姿は見事なスタイルを映えさせる、そんなクール系の美人さんだった。

 悠里とタイプの違う美人につい見蕩れてしまったけど、いけない今の自分は女なんだった。笑顔で会釈されてドギマギして、(たぶん引きつっていたであろう)笑顔を作って軽く返礼。ようやく空いたので、半ば逃げるように個室に突貫する。


 ふう、と息をつく余裕もない。男便所には絶対ないピンク色のタイル、ピンク色の仕切り。そして自分の纏う白のコート&ピンクのミニスカートが目に入ってきて気が滅入る。コートのボタンを外すと、出てくるのはこれまたピンクと白のフリル・レースの山と、盛り上がる2つの丘。

 前回、Dカップのパッドを入れて、素の胸囲の差のせいで凄い巨乳になってしまっていたので、今回は反省してやや控えめのBカップのパッド入り。手触りも重みもリアルな本格派。そこから意識をそらしつつ、スカートとパニエをごっそり持ち上げる形でたくし上げ、白タイツを腿の半分くらいまで下ろす。


 便座に腰掛け、俊也から忠告を受けていた『音姫』を探して周囲を見渡す。

 これだろうか? 手かざしすると、流れ出す録音の水音。これが必要と思う女の子の考え方は理解できそうにないけど、男と女で小の音は違うだろうからまあ助かる。


 それでも用を足し終えて、タイツ、スカート、コートを戻す。変な状態になってないかもぞもぞ確認。男なら一瞬で終わるはずの工程が、今は面倒極まりない。これまたピンクのドアを開けて個室を脱出。男便所とは違う、妙な匂いが少し辛かった。

 さっきの長身美人さんは、化粧直しをしているところだった。時間をかけすぎたかも。洗面台の大きな鏡に、派手な姿の可愛らしい少女が映っている。それが自分であることに気付いて、『可愛い』と一瞬でも思ってしまったことに落ち込む。しかしこれ、完璧に変態行為だ。ばれたらやっぱり犯罪者扱いなんだろうか。


 女の人が出たり入ったり化粧したりおしゃべりしたりしている、男子禁制の女の園。目立っているのは確かだけど、男じゃないかと不審がる視線がなさそうなのは助かる。白のコートにフリル付きの短めなスカート。付け睫毛までしたギャル系?の化粧。ゆるく波打つ、茶色の肩にかかる髪(もちろんカツラだ)。鏡の中のそんな自分に戸惑いながら手を洗い、エアータオルで水分を飛ばす。

 いつもなら放置するかズボンで拭くだけの残った水分が気になり、ポシェットから細かいレースと刺繍の入った白いハンカチを取り出し、マニキュアまで塗られた指先を拭う。その柔らかい手触りが、微かに漂う香水の匂いが、何よりも雄弁に『あたしは女の子だよっ』と語りかけてくるようで、なんだかドキドキしてしまう。

 ポシェットの中に入っていて目についた、口紅を取り出して唇にあてがう。初めての体験なだけに半分以上あてずっぽだ。なんとか形にはなったと思うけど、正直良く分からない。


 今度、悠里か俊也に習って、きちんと女の子らしく化粧直しとかできるようにしなきゃ。出来れば声も女のものを出せるように──って俺、今一体何を考えた?

 一時的な、形だけだと思っていた女装に、心が段々と侵食されていきそうなのが怖かった。


 やたらに長く感じたトイレをげっそりした思いで出ると、俊也が女の子達に囲まれていた。美人モデルの姉と瓜二つという、並外れた美貌とスタイルの良さ。今は上げ底靴で『背がやや低め』という弱点も克服してしまっている。逆ナンパを受けるのもしょうがないか。その美少年がこちらに気付き、笑顔でこちらに手を挙げる。

 なんだかドキンとさせられてしまった自分が悔しい。

 右手で女の子達に手を振って別れ、左手を恋人つなぎで手をつなぎ、歩き始める俊也。悠里と見分けが付かないくらいに繊細な、華奢な指先。その柔らかい感触にドキドキする自分に気付いてドキドキしてしまう。


「まあ、あの美人が恋人ならしょうがないかぁ」

「王子様とお姫様って感じで絵になるぅ」

「実は有名な芸能人かモデルの変装だったりして」

「ああ、なるほど。それ、あるかもぉ」


 さっきの女の子達の声が、立ち去る背中に聞こえてきて、さらに困惑してみたりもするが。


____________



 四方山話をしながら適当に昼飯をとり、店や街をふらついたり、カラオケに行ったりと、『デート』を堪能して、7時前、仕事を終えた悠里と合流。待ち合わせ場所に、細身の愛らしい姿を見つける。

 俺と色違いでおそろいの、黒のコート、膨らんだ黒と白のミニスカート、黒いタイツの姿。いつもは『男としては長め、女としては短め』なショートカットで通している髪は、今はウエストあたりまで伸びる、長い黒髪のカツラで隠してある。

 その場所には他にも結構待ち合わせ人がいるけれど、華やぎと可愛らしさで周囲の女の子たちを軽く圧倒している。こちらに気付き、微笑んで小さく手を振る姿に見とれる。


「お姉ちゃん、お仕事お疲れ様。……あ、荷物は僕が持つよ」


 悠里が足元に置いていた、大き目のバッグを持ち上げながら俊也が言う。


「今日はどんな仕事だったの?」


 昼間の話もあって、少し気になったので聞いてみる。


「今日は6月号の撮影で、浴衣特集。神社に行って色々着替えて」

「うわ。寒くなかった?」

「浴衣って特に涼しいわけじゃないし、余裕、余裕♪ ……やっぱり浴衣とか気になる?」

「うん、見てみたいな。すごく似合うと思うよ」


 なかなか機会のない和装。でもテレビ画面に映る振袖姿はとても可愛かったし、できればそんな姿の悠里を間近で見てみたい。……悠里のふりした俊也の振袖姿なら、近くで散々見たんだが。


「やっぱりそっかー。ピンクが似合うかな? 最近フリル付き浴衣とかミニとかあるもんね♪」

「かわいいの多いよね。アキちゃんにぴったりの浴衣探すの、今から楽しみだ」

「ちょっと待て。なんで俺が女物の浴衣を着る前提の話になってる?! 俺は着ないからな!」

「えー」


 抗議の声が見事にハモってしまった。


「百歩譲って女装アリだとしても、何で可愛い系に走るわけ? 違和感ありすぎない?」

「んー。自覚ないのかな?」

「だとすると、無意識のままやってるのか。凄い逸材だなぁ。アキちゃん、女装すると仕草とか可愛くなるんだけよね。大人っぽい格好すると多分、違和感ありまくりだと思う」


 正直女装しただけで、自分の動作が自然と女の子っぽくなるのは自覚していた。しかしまあ、傍から見ているとそんな感じになっているのか。少しショックではあった。


「何か食べたいものある?」

「なんとなく、パスタ食べたい気分かな」


 悠里の言葉に従い、お洒落なイタリア料理店を探して移動。男モードで一人ではまず絶対に入りたくない、女性向けの感じの良い店だった。

 適当に注文をしたところで、隣の席の女性2人組から声をかけられる。


「……あの、男の方なんですか?」

「俺のこと? うん、そう。賭けに負けた罰ゲームでね。みっともない格好でごめん」

「えー。うっそー。すっごい美少女で、どこのモデルさんかと思ってたのに」

「女子力で絶対あたしら完敗だよねー。身体細いし可愛いし」


 この2人に比べたら確かに細い部類に入るんだろうか。一人は男子の言う『ぽっちゃり系』、もう一人は女子の言う『ぽっちゃり系』って感じの女の人たちだ。


「あ、勝手に会話に割り込んでしまってごめんなさい」

「ああ、全然問題ないよ。何なら一緒に食べる? 机くっつけてさ」


 俊也のイケメンすぎる申し出。

 少し話して彼女たちの机が移動して一つに並んだあと、軽く下の名前だけの自己紹介。


「でも雅明さん、近くで見ても全然男だって分かんない。声が男だからびっくりしたもん」

「ひょっとして、悠里さんも実は男とか?」

「私、男に見えるかな?」

「まー、そりゃ、幾らなんでもありえないか。これが男なら、わたし女やめないと」

「俺、そこまで女装似合ってないと思うんだけどな……俊也のほうがずっと女装うまいし」

「あ、分かるかも。っていうか今の状態でも、俊也さん、あたしらよりずっと美少女じゃ」

「瀬野悠里……ってモデル、知ってるかな? 俊也が女装すると彼女そっくりになるんだ」

「んー。ちょっと知らないかなぁ」

「あ、あたし知ってるかも。前、テレビで見て、『この子可愛いなー』って思ってた」

「へー。どんな子だろ。スマホで検索かけていい?」


 そのコメントに、顔を見合わせて同時に吹き出す悠里と俊也。おずおずと手を挙げて、


「さっきはフルネーム名乗ってなかったけど、私が瀬野悠里、本人です」

「え──────────────っ?!」


 笑顔で名乗る悠里に、女性2人が思いっきり驚き、店じゅうの注目を引いてしまった。


「うわー。芸能人と直接会うなんて初めてだ……サインもらってもいいですか?」

「さっき、知らないって言ったばっかりなのに」

「いいの! 今日からファンになるって決めた! だって、こんなに可愛いんだもん!」

「うん、ありがとう。……私、読モだし、『芸能人』ってレベルじゃないけどね」


 まあ、メアドとか交換したりもしつつ、そんなこんなで和やか? に食事も終わって。


「雅明、ちょっとこっち見て……やっぱり口紅取れてるかな」


 そう言って自分のウエストポーチから口紅を取り出し、塗り始める。長い睫毛に縁取られた大きな黒い瞳に、至近距離で見つめられる。白くてほっそりした指先が、俺の唇の近くを往復する。気付いたけど、これ間接キスになるんだろうか。なんだかドキドキしてしまう。


「きゃー。絵になるぅ」

「写メ、写メ」


 ギャラリーのことはまあ意識の外に追いやって。


____________



 その2人と別れ、女子トイレで潰れたパニエを直したりしたあと、夜の街を歩く。

 今日は悠里も高いヒールを履いていて、目線が俺と殆ど変わらない位置にある。その長身の、甘ロリ&ゴスロリの美少女?2人が歩くと目立ってしょうがない。本当は悠里と手を繋いで歩きたいのに、俊也と手を繋いで歩く不条理がきついが。

 店の明かりや照明が明々と照らす夜道。ほとんど黒一色なのにキラキラ輝いて見えるほっそりした姿。仕事帰りで疲れているだろうに、歩く仕草は一分の隙も無く可憐で優美だ。いつもと違い、長いつややかな髪が背中で揺れるのも目を引く。


「ねえ、カノジョたち、暇してるの?」


 前からやってきた、男性3人組から声をかけられる。なんかチャラくて嫌な感じだった。


「この子、僕の連れですから」

「お、僕っ娘? リアルでは初めて見るけど、なんか可愛くていいよね」

「いや、僕おと……」

「つーか、お前らなんで男をナンパしようとしてるんだよ。眼科行けよ。それともホモか?」


 女と間違えられ困惑する俊也をかばって、男達の前に出る。あえていつもより低い声で。


「男……?」

「けっ、オカマかよ」

「他の2人もそうなんか?」

「でもあれだけ美人なら男でも……」


 混乱するナンパ男達を尻目に、2人を手招きして先へと進む。今ので俊也と繋いでいた手が離れたので、悠里と並ぶ位置に移動して、手を差し伸べる。にっこり笑って、握り返してくる悠里。その柔らかな感触にドキドキする。

 ──それにしても今日はなんだか、ドキドキされっぱなしな一日だ。そんなことを思う。


____________



「はぁー。今日は本当に疲れたー」


 家に帰りコートだけ脱いで、ベッドに腰掛ける。いっそこのまま寝てしまいたいくらいだ。


「お疲れ様。女装外出はどんな気分だった?」

「もう、こりごり。2度とやりたくない」

「そうかな? 結構まんざらでもなさそうだったけど」

「自分がそうだったからって、俺まで一緒にするなよ、俊也」


 俺はノーマルな男で、きちんと悠里という(これ以上ないくらい可愛い可愛い)女の恋人もいるんだ。女装は無理やりさせられているだけで、趣味でもなんでもないんだ。

 そう思いつつ、同じくコートだけ脱いだ悠里を手招きし、ベッドに呼び寄せる。


「なぁに?」


 と怪訝な顔で聞く悠里の細身の身体に抱きついて、そして半分無理やり唇同士を重ねる。

 ……って、オイ。


「お前か俊也!」

「ピンポーン♪ ……雅明ってば、相変わらず鈍すぎ」


 黒メインで白の飾りが要所要所に入ったゴスロリの、悠里そのものの可愛い姿。悠里そのものの可愛い声。──でもこいつは、間違いなく俊也だった。

 いつの間に入れ替わったんだ? 晩飯の後は機会がないし、遡って考えて合流したあとも可能性はなさそうだ。朝、出発時には確認済みだ。とすると……


「俺が、『待ち合わせ場所』で30分放置されてたときか。入れ替わったのは」

「そういうことー。私が悠里ってこと分かってくれると期待してたのになぁ。ちょっと残念」


 じゃあ、今日一日『俊也』と思ってデートしていたのが実は悠里で、合流して色々ドキドキさせられたりした『悠里』が実は俊也だったのか。……うわぁ。


「浴衣の撮影っていうのは?」

「それは、きちんとお仕事してきたよ♪ もー、ばっちり」


 しかし、一度『確認』させておいて、その後入れ替わり。確か前もあったパターンだ。

 それだけに、見事に引っかかった自分の迂闊さが恨めしい。


「だけど、女装して恥ずかしがってる様子って、なんだか新鮮で可愛くてよかったな。俊也ったらそういえば最初からノリノリすぎて面白くなかったし」

「……ボク男の子なのに、こんな格好させられて、すごい恥ずかしいの……」


 外見は芸能界でも上位に入りそうなゴスロリ姿の美少女が、少年の声でもじもじと言う。

 悠里は「似合わなーい」と笑っているのに、少し萌えてしまった自分が辛かった。

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