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瀬野家の人々(R-15版)  作者: ◆fYihcWFZ.c
後期 アキのモデル修行な日々
11/21

10 チャイナ娘@中華街(※俊也視点) 2013/04/20(土)

        <<俊也視点>>


「瀬野君、ちょっといいかな?」


 土曜の補修終了後。帰宅しようとしたところに、一緒に授業を受けていた女子達が押しかけてきた。


「これから僕、用事があるから、時間かからない話ならいいよ」

「あ、それならすぐに終わると思う。……これ、瀬野君でいいの?」


 差し出されたスマホの画面上で、動画が流れ出す。タキシード姿の少年と、その少年に似たブルーのイヴニングドレス姿の少女が交互に登場し、色々なポーズを取っているCM画像。


「ああ、これもうオンエアされたんだ」

「じゃあ? じゃあ?!」

「おっと、瀬野。それ少し職員室でも話題になってたんだ。うちの学校、バイト禁止だぞ」


 いつの間にか担当の先生や他の生徒もやってきて、ちょっとした人垣になっている。


「タキシードの子が僕じゃないか、って話ですよね? これ、僕の姉が男装してるんです」

「えぇ──っ? こんなにそっくりなのに?!」

「確か使用法が2つある商品の宣伝ってことで、タキシードの男装とドレス姿の2通りで撮影した、って言ってたかな。……だからその人は、僕じゃないです」

「へぇ──そうなんだぁ。でもお姉ちゃんがCM出るなんて凄いよね。名前なんての?」

「瀬野悠里。何年か前から雑誌のモデルやってて、最近はテレビにも出てるみたい」

「あの人ってやっぱり瀬野君のお姉ちゃんなんだ。そうじゃないかって前から思ってたけど」

「聞かれたときには答えてたんだけどね。別に言って回ることじゃないし」

「何か、証明できるものはあるかな」

「姉の卒業アルバムを持ってきますよ。一応証拠になりますよね?」

「でもさ、お姉ちゃんが男装すると瀬野君そっくりってことは、瀬野君が女装すると、お姉ちゃんそっくりになるってこと? あの人すっっっっっっっごい、美人だよね?」

「うん、なるのかもね。女装してって言われても、する気はないけど」

「えぇ──もったいなーいー!!」

「見てみたい見てみたい」

「一度でいいから女装してー」

「駄目、駄目……じゃあ、僕、帰るよ」


 お姉ちゃんのサインをもらってくる約束とかさせられつつ、教室を後にする。


「……それはそうと、スマホの持ち込みも禁止だから、お前それ没収な」

「えっ? えぇ──っ?! おーぼーだぁ──っ!!」



 帰宅しながら、頭の中で自分の台詞を反芻。うん、嘘は言っていない。

 ──ドレス姿の『少女』が実は僕ということを、説明してないというだけで。


 2日がかりの撮影日、1日目の男装での撮影後に色々あって、結局僕が『悠里』として参加した2日目。

 プロのメイクさんに本格的にしてもらった化粧、綺麗な付け爪をしてもらった指先の優美さ、纏ったサテンシルクのドレスの滑らかさ、高価なアクセサリの輝き、出来上がった映像上の『悠里』の姿の美しさ愛らしさ。思い出すと、今でも鼓動が高まるのを止められない。


____________



「ただいまー」

「あ、俊也さん、おかえりなさい」

「俊也、お帰り」


 家に戻ると、ややハスキーな甘い声と、甘ったるい匂いとが迎えてくれた。手早く着替えを済ませてダイニングに向かうと、可愛いエプロンをつけた『アキちゃん』がにっこり微笑んで、改めて「おかえりなさい」と言ってくれる。

 食卓につき、出された昼食を食べる。今日はお父さんとお姉ちゃんが仕事で不在だから、母と兄と僕の、この3人で全員だ。


「あれ、2人とも、もう昼飯は食べたの?」

「うん。俊也さんが食べたらすぐに出発できるように、って、メイクの前に」


 撮影用ということで、いつもと違って濃い目の化粧。といってもケバい系でなく、アキちゃんの愛らしさを絶妙に引き出した可愛い系のメイク。前々から化粧栄えのする人だとは思っていたけど、ここまでとは思ってなかった。


「そのメイク、どうしたの?」

「んーとね」


 と、お姉ちゃんと僕が懇意にしている美容院の名前を挙げて、


「そこの店長さんにやってもらったの」

「ああ、あの人プロのメイクで食べていける腕してるよね。流石に上手いなあ」

「だよね。だよね。あたしも早く、あの人の腕に追いつけるといいんだけどなぁ」


 ここ1ヶ月の間、何気に誰よりも『美の追求』に熱心な義兄だった。

 もともとうちの一家では最も余裕のあった時間を、メイクの練習や美容に注ぎ込み続けている。女装に消極的なふりをして、自分を可愛く磨くことに余念がないのが面白い。

 特にメイクの腕は、『甘い点はまだ多いけど、私たちが抜かれる日もそんなに遠くないかなぁ』と、お姉ちゃんが嬉しそうな表情で語っていたのを思い出す。ほんの2ヶ月前。最初にメイド服を着せたときにちらほらと見え隠れしていた違和感も、今では余程注意してないと見つけることすら困難だ。

 昔僕がやらされたみたいに、自分が誰も男だと思ってない女の子たちに囲まれて、24時間ずっと少女として1週間ほど過ごす生活を送らせてみたいなとも考えてみる。そのくらい、ごく自然に女の子している2つ年上の義理の兄。モデル業で美人/美少女に接することの多い僕でも、表情がくるくる変わるたびについつい見蕩れてしまう。


「俊也さん、今日のあたしどうかな? おかしな所とかない?」


 僕の視線に気付いたのか、少し恥ずかしそうな表情でそんなことを聞いてくる。


「いや、アキちゃんとっても可愛いから、すっかり見蕩れてただけだよ。どこも変じゃない」

「うわあっ、ありがとう!!」


 無垢で無邪気で無防備な笑顔を満面に浮かべて、僕の言葉に凄く喜んでくれる。見ている僕も、なんだかつられて笑みが零れる。そんな素敵な笑顔だった。

 目の前で繰り広げられる、“息子”2人のそんな会話。


「そうそう、アキはわたしに似て美人なんだから、不安になることはないのよ?」


 世をはかなんで辞世の句でも詠みたくなる人もいそうな状況なのに、ニコニコしながら会話に加わる、この義理の母親の動じなさに一種尊敬の念すら覚えてしまう。


____________



「じゃあ、2人とも頑張ってね……俊也、アキをお願いします」


 食事と支度を終えて、アキちゃんがお義母さんから包みを受け取って、2人で家を出る。


「アキちゃん、その包みは?」

「野菜たっぷりで、美容にも健康にもいいマフィンだって。今日、ちょっと時間が余ってね。ママに教えてもらいながら作ってみたの」


 なるほど、帰宅したとき感じた甘い匂いの正体はこれなのか。


「あたしまともにお菓子作りしたのって初めてだから、美味しくできたか不安だけど。撮影終わったら食べたいなぁ、って」


 しかしお姉ちゃん、お義兄ちゃんに女子力でもう完敗しているような気がしなくもない。


「僕にも食べさせてくれるかな?」

「もちろん! ……あ、まずあたしが食べてみて、それで美味しくなかったらバツで」


 指で小さく×印を作りながら、はにかんだ表情で言う。中身は大学2年の男だというのに、仕草や表情がいちいち少女めいて可愛すぎた。


 フリルやレースの一杯ついたワンピースに、フリル付きのカーディガンの、ピンク一色の装い。スカート丈は膝が覗く程度で、足首の締まった綺麗な生足がそこから伸びている。僕の学校の校則もあって、そんなに髪を長く伸ばせない僕たち姉弟。それよりもう長くなった髪を、ショートカットの女性に見える感じにセットしてある。

 義母もそうなんだけど、アルビノが少し入っているんだろう。高校時代は黒く染めていた髪も今は蜂蜜色がかった茶色で、肌は陶磁器を思わせるほどの滑らかな白さを帯び始めている。琥珀色にきらめく瞳の色が、すごく印象的だ。

 『女としては』彫りが深い顔立ちもあって、ハーフか、いっそ外国人の美少女のようだ。

 電車の車内でも、そんな可憐な姿は注目を集めまくっていた。純粋な容姿やスタイルならお姉ちゃんのほうが上なんだけど、それでも人を惹きつける雰囲気は天成のものがある。


「今日のモデル、ってどんな感じでやればいいのかな」

「お姉ちゃんの撮影風景は何度も見学して知ってるよね? あんな感じ。まあ気楽にしてればいいよ。いつもの素敵なアキちゃんをみんなに見せてあげてね」


 今日はそもそも、お姉ちゃんに来た仕事だった。中華街でチャイナドレスのレンタルをやっている店の、広告用の写真のモデル。お姉ちゃんがやるには日程的に折り合いがつかなくて、『アキちゃん』が代理でモデル役をやることになったという流れ。約10年前の『アキちゃん』時代、『彼女』はかなりモデルとしても経験を積まされていたのだろう、というのというのがお姉ちゃんと僕の見解。最初にネコミミメイドの衣装を着せてみたときから、立ち方にも、動作にも、その名残が強く残っていた。

 僕達が『モデルやらない?』と2人で何度も誘っていたのは、実はそういう要素も大きい。ようやくこれからその姿が見られると思うとかなり興味深かった。


____________



 土曜昼過ぎだけあって観光客で賑わう中華街を通り、目的のお店へ。


「あらまあ! すっごい美人さんたちだこと。代理、ってことでちょっと不安だったんだけど、これなら十分以上に合格点。1人って話だったけど、2人なのね?」


 外見は貫禄たっぷりだけど、おネェの混じった中年男性の店長さんが歓迎してくれる。「僕はただの付き添いで、ついでに男です」と言うと、凄いがっかりしていたけれど。

 店長さんから撮影方針とか聞き出しながら、今日着る衣装などを選んでいく。服を替える度に、顔を輝かせて喜ぶアキちゃんの笑顔が眩しい。補正下着がはみ出したり、ラインが見えたりしない衣装を選ぶのは少し骨だったけど。

 少し遅れていたカメラさんも到着して、撮影開始。


「体を入り口に向けて、右手を腰に当てて、視線をこっちに向けて。──いい感じ、いい感じ! アキちゃん。ここに今、一番好きな人がいると思って、最高の笑顔をちょうだい!」


 アキちゃんがカメラさんの声に従ってポーズを取り、喜びの表情を浮かべる。

 その瞬間、部屋の空気の色自体が変わったような気がした。カメラさんも見蕩れたのか少しの間静止したあと、シャッターを鳴らし始める。


 引き出しが多い。1つ1つの表情が魅力的だ。部屋の隅で見学しているだけなのに、すごくワクワクしている自分を覚える。天衣無縫で無邪気な愛くるしさに、体の芯をぞくぞくさせるような妖艶さが混じる。その不思議なアンバランスさから目を離せない。

 今着ているピンク色で超ミニのチャイナドレスにそんな雰囲気が良く似合って、まるでアキちゃんのためにあつらえたオーダーメイド品のように見えた。


 僕が学校に行ったあと、お姉ちゃんが補正下着とお義兄ちゃんの体を使って『女性の体』を再現すべく、散々遊んだのだろうか。ここ一ヶ月の本人の美容の努力の賜物もあわさって、とてもこの薄いドレスの下に男の体が隠れているとは思えない、見事な曲線美が形作られている。接着剤で胸に直接貼り付けた、乳首まである超リアルなBカップのフェイクバスト。アンダーバストの差があるから、衣装の上からだとDくらいあるように見える。今着てるドレスは胸の部分がちょっと小さくて、本来そこにない双つの丘が窮屈そうに納まっているのも余計に色っぽい。

 コルセットで絞った、高い位置できゅっと括れたウエストのラインと、ヒップアップガードルにパッドを入れて作った腰つきまでの、流れるようなラインがセクシーだ。下着が見えないぎりぎりの丈のスカートから覗く、引き締まった長い生足もなまめかしい。


 カメラさんの指示に従い、扇を持った腕を水平に指し伸ばす。肩からむき出しの、人形のパーツめいたすらりとして白い腕。指がそんなに華奢じゃないのが残念だけど、女の手と言われて違和感を覚えるほどでもない。ドレスの色にぴったり合う、マニキュアの施されたピンク色の爪が綺麗だった。

 ちょっと条件が変わっていれば、この花のように可憐な美少女めいた義理の兄の代わりに、僕がこのドレスを纏えていたのにと、嫉妬心が微かにうずくけれど。


 赤い足首丈のドレス、黒くて長袖のドレス、短い袖付きで膝丈までの青いドレス、緑色のアオザイ、中国の古典衣装、赤と金も眩しい中国の婚礼衣装etc.etc.準備していた衣装に次々と着替え、途中化粧直しを挟むくらいで息を付く間もなく撮影を進めていく。

 ラスト、僕の提案で入れることになった、私服に戻って店内で衣装選びをしているシーンまで終えて撮影を終える。


「アキちゃん、良かった!! 凄かった!! 可愛かった!!」

「本当?! ありがとう!!」


 思わず歓声を上げた僕の胸に笑顔で飛び込んできて、受け止めるのに一苦労。なんだか小さな女の子みたいな印象だったけど、中身は僕より重い男性なのだ。

 撤収作業をしているカメラさんを眺めながら腰掛け、休憩に入る。


「アキちゃん、本当におつかれさま」


 お店の人に出された冷えた烏龍茶をチューチュー飲む。そんな仕草さえ凄く女の子らしい。


「さて、作ってきたマフィンの出来はどうかな?」


 ぽむ、と掌をたたき、いそいそと包みを広げて一口サイズのマフィンをかじる。


「どう? おいしい? 僕も分けてもらえそう?」

「これなら……うん。なんとか大丈夫、かな?」


 少し不安の残る表情で、おずおずと差し出してくる。受け取って頬張ると、控えめな甘さが口の中でとろける。『お菓子作りが得意』って言っているクラスの女子が作るのと、同じくらいの出来栄えだろうか。初めてでこれなら充分以上だろう。将来が楽しみになる味だった。


「うん、すごく美味しいよ。きめが細かくて、しっとりしてて。甘さもいい感じ」

「本当? 良かったぁ」

「もう一つ頂戴。……ありがとう。じゃあ、アキちゃん初仕事お疲れ様でした。あーんして」


 一瞬きょとん、としたあと、ピンク色に輝く艶やかな唇をあけて目をつぶってくれる。無邪気な姿に悪戯心が動いて、他のもの(僕の舌とか)を入れたくなったけど自制。渡してもらったマフィンを半分に割ってその口に入れ、残りを自分で食べる。


「本当なら僕が用意してたご褒美をあげるシーンだけど、そこまで気が回らなくてごめんね」

「ううん、すっごく嬉しい。……俊也さん、ありがと」


 そう言って返してくれた笑顔は、抱きしめて本当に唇を合わせたくなるくらい素敵だった。


「そういえば聞いてなかったけど、君たち恋人同士?」


 撮影終了直後から席を外していた店長さんが戻ってきて、僕たちに声をかけてきた。


「いえ、兄弟ですよ」

「へえ兄妹かあ。うちの子たち、顔を合わせるたびに喧嘩しかしてないから羨ましいわねェ」


 何か漢字が違っていたような気がしなくもない。


「あ、あたし今日、マフィンを作ってきたんです。よければみなさんもお一つどうでしょう?」


 皆で集まって、マフィンを食す。凄く好評で、僕もなんだか嬉しい気分になる。


____________



 そのあと、スタッフ用のPCで撮影画像を確認する作業を少し見学させてもらう。


「わあっ!! これがあたしなんですね。こんな可愛く撮っていただけるなんて、ありがとうございます! ドレスもすごく素敵で良かったです!!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ様子が、なんだかとても可愛らしかった。

 報酬を受け取り、普段用にメイクを直したりしたあと、店を出て傘をさす。


「アキちゃん、今日はすごく良かったよ。百点満点で二百点あげて、ついでに花丸つけたくなるくらい。どうかな。もっと本格的にモデルやる気はない?」


 僕の言葉に、考え込む様子のアキちゃん。


「ま、すぐに決める必要は全然ないから、気が向いたら声かけてよ。……で、どうしよっか。このまま帰る? それとも遊んでいく?」

「俊也さんは、どうしたいの?」

「僕はね……うん決めた。これからアキちゃんとデートする!」


 少しぱらつく雨の中、相合傘で中華街を回りはじめる。昔はよく来ていた、でもここ暫く来ることのなかった懐かしい街並み。(地元育ちなのに)ここに来るのは初めてというアキちゃんを案内しつつ、色々歩いてみる。

 ローズピンクのワンピースと、クリームピンクのカーディガンというピンクずくしの少女らしい衣装と面差しは、この中華街だと少し浮いていたかもしれない。それが身長の高い、見事なスタイルの持ち主であるという不釣合いさもあって尚更に。

 身長172cmで60cmを切っている今のウエストは、強く抱けば折れそうな印象を見る人に与える。僕と違って素の状態のヒップのラインは男のものだけど、そのウエストとの対比があると『引き締まった美尻』に見える。巨乳というほどではないけど、充分豊かで形の綺麗な胸との対比もいい感じだ。いつもお姉ちゃんや僕自身が浴びるのとは少し種類の違う視線に、楽しい気分になる。


____________



「あなた達、ちょっと良いかな?」


 そんな声に呼び止められたのは、小さな水族館を出たくらいだった。スカウトだろうか? デート中に声をかけるとは無粋な、と思いつつ声の主の顔を見て驚く。


「弓月摩耶、さん?」

「……その名前で呼ばれるのも随分久しぶり。それも男の子で知ってる人がいるなんて」


 背が高くてスタイルがいいスーツ姿のその美人に誘われるまま、すぐ近くのカフェに入る。


「俊也さん、知ってるヒトなんですか?」

「えーっとね。……お姉ちゃんがモデルやってる雑誌で、昔読者モデルやってた人」

「よく知ってるのね。もう覚えてる人誰もいないと思ってた」

「もちろんですよ。弓月さんに憧れて、読者モデルに応募したんですから……えっと、僕の姉の話なんですが」


 本当は、彼女に憧れて読者モデルに応募したのは、僕だったりするわけだけど。あのころはまだそんなに慣れてなかった女装をして、写真を撮って姉の名前で書類を作成。書類選考を通ったらお姉ちゃんに面接に行ってもらう。今思えばかなり無茶をしたものだ。


「あっ、あなたひょっとして瀬野悠里さんの弟さん?」

「はいそうです。瀬野俊也、っていいます」

「なるほど、道理でそっくり。なんで今まで気付かなかったんだろ、ってくらい」

「弓月さんって今、何をされてるんですか?」

「そうそう。それを忘れちゃお仕舞いよね。今はわたし、こんな感じ」


 渡された名刺を受け取って眺めてみる。


──『芸能プロダクション ○○事務所 山田瞳』


「山田瞳っていうのは?」

「それがわたしの本名。……わたし、モデルとして結局芽が出なくて、それでもこの業界にいたくて、後進を育てたいなあ、ってお仕事」

「なるほど、そうなんですか。弓月さん、もっと活躍してるところ見たかったんですが」

「それよりわたし、あなた達が活躍しているところを見たいな。……どうかな。是非芸能界入りして活躍して欲しい。わたし達がそのお手伝いできるなら嬉しいし」


 結局その場での回答は保留させてもらって、3人分の名刺をもらって別れる。正直僕自身の気分はかなり傾いていた。憧れだった人と一緒に働けるというのも大きいし、初見で僕のことをきちんと男と認識して誘ってくれたのも、個人的にポイントが高かった。


「……あ、やっと思い出した。あの人一度だけ、会ったことがあるんだ」

「へえ、どこで?」

「甘ロリの格好で初めて外出して、初めて女子トイレに入ったとき、入り口で一緒になって」


 『袖振り合うも多生の縁』、だったか。そんな偶然。


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