01 うちの弟はお姉ちゃん 2012/11/11(日)
これは女装のお話です。一部に同性愛的描写も含みます。苦手な方は回避お願いします。
「こんばんわー。撮影どんな状況でしょう」
もはや勝手知ったるスタジオに入り、知り合いのスタッフの人に聞いてみる。
「おはよう、弟クン、いつも出迎えありがとうね。いい感じで進んでいるし、もうそろそろ終わりそう」
スタジオの中では、3人の女の子たちが色々ポーズを取ってフラッシュを浴びている。ファッションに詳しくないから良く分かんないけど、秋も終わりのこの時期なのに、春ものの撮影っぽい。多分。
全体的にはシンプルだけど、襟と袖のところにフリルがついていて可愛らしい衣装。
女性向けファッション誌の読者モデルの撮影。他の2人もクラスで一番、学年で一番レベルの容姿とスタイルの持ち主だ。
それでも真ん中の悠里が一番ひときわキレイで可愛い、と思ってしまうのは、身内びいきのせいなのか、惚れた弱みのせいなのか。とりあえずスタッフさんたちからの話でも『超人気』と言っていたので、ただの事実だと思ってしまおう。
日本人離れした長さの手足に、均整のとれたやや細身の身体。ほっそりした首の上に、世界一の美人(※俺調べ)の小さな顔が乗っている。
服に合わせているのか、表情やポーズもいちいち可愛い。いつもとは違う彼女の新しい側面に改めて惚れ直して、胸をドキドキさせてしまう。
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
「悠里ちゃん、お疲れー」
「雅明、お待たせ」
「お疲れ、お姉ちゃん」
『もうそろそろ終わりそう』って言葉は本当だったようで、それほど待たされることもなく撮影も終わり、化粧を変えた悠里がスタジオから出てくる。ちょっと意外だったけど、最後の撮影で着ていた服そのままである。
「その服、お姉ちゃんの私服だったんだ?」
「二人のときは『悠里』って呼んで、って言ってるでしょ? あ、ありがと」
以前、悠里と2人きりの時にした記憶のある会話。ああ、じゃあやっぱりこれは『悠里』でいいんだ。少しあった警戒心を解きつつ、悠里が運んでいた大きなスーツケースを受け取って歩き始める。
「……それはともかく、この服のことなら、今日の報酬代わりにもらって来たんだ」
「そんなことってあるんだ?」
「これ、雅明が気に入ったみたいだから特別に。……と言っても、これまで結構やってることだしね」
「へぇ」
スタジオの片隅で見学していただけなのに、ちゃんと見られていたのか。しかしそこまで分かりやすいのか俺。
「それに、トップスはちょっとだけど、ボトムスは汎用性高そうで気に入っちゃった」
そう言ってくるりと回って見せる。足首丈の半ば透ける白いスカートと、悠里のつけている香水の匂いがふわりと広がる。
袖と襟にフリルが入った可愛いデザインの白いブラウスに、ピンクのカーディガン。『トップス』『ボトムズ』が何を指すかは知らないけど、確かにいい感じだと思う。いつもはスタイリッシュでカッコいい感じの彼女だけど、こういう格好すると無茶苦茶可愛いことに気付かされる。
まだ人目があるからと一応我慢して、駐車場に停めてあるうちの車の前についたところで、周囲に人目がないことを確認したうえでそんな衣装をまとった細い身体を抱き寄せる。
ほんのちょっと驚いた表情をしたあと、口許をほころばせてにこりと笑う悠里。
身長が172cmある俺と5cmしか変わらなくて、今日は少しヒールのある靴を履いているから、ちょうど真正面に来ている整った顔。健康的に日に焼けた滑らかな肌、長く濃い睫毛、すっと通った鼻筋に見とれながら、ピンクの口紅に彩られた愛らしい唇にそっと自分の唇を重ねる。
……って。
「俊也お前か」
「キスの味で分かるとか、なんかエロくっていいよね」
姉であり、恋人である悠里の顔で、ニヤリと笑う義弟。
スタッフの皆様、読者の皆様、美少女モデルとして写真に写っているのがこんな弟でゴメンナサイ。
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1年半ほど前の話。
母親が再婚して、俺は『瀬野雅明』という名前になった。
その時に紹介されたのが、瀬野哲也という名前の新しい父親と、悠里と俊也というその子供たち。
たぶん一目惚れだったのだと思う。
同じ学年、3ヶ月ほど年上。どんなアイドル、モデル、女優よりも美しい、義理の姉となった少女を俺はずっと目で追い続け、自覚した時にはもうとっくに恋に落ちていた。
大学入学後にダメ元で告白し、OKが貰えたのが今でも嘘みたいに思える。
それ以降、恋人同士として交際しはじめた俺たち、なわけだが──
ここで問題になってくるのが、義理の弟の俊也。
2歳も年齢の離れた男女の姉弟なのに、一卵性双生児の双子のようにこいつは悠里と瓜二つなのである。顔だけでなく身長や体格までほとんど一緒で、ついでに声真似まで完備。今日みたいに化粧までしてしまうと俺でも見分けがつかない。時々姉と入れ替わって、女性向けファッション誌で現役女子大生の読者モデルをしているこの外見スーパー美少女、実は性別男の高校2年生。
それだけならまだしも、悪戯で(たぶん悪戯。きっと悪戯。悪戯だったらいいな)姉のふりをして俺にモーションをかけてくるのが困りものなのである。
以前うっかり一緒にラブホテルに入って本番寸前までいってしまったのは、今でも俺の心の中に残る黒歴史だったりするのだ。