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第八話「駆け引き」

龍を宿す者たちの英雄譚

第八話「駆け引き」






 ジンは顔を真青にして、馬を走らせる。彼の後ろでおっかなびっくり馬に乗っているアランはフルヘルムのため表情はわからない。

 ジンたちは林道を駆け抜けていく。

「くそっ。どうしてこんな事に……」

 ジンはたまらず吐き捨てる。言葉にはどこか力がなく、悔しさだけを歯噛みしていた。

「急いで帰ろう」

 アランの言葉にジンは「ああ」とだけ応える。

 馬を走らせる二人の視界に、追われている者の姿が飛び込む。

 その者は大勢の人に追われていた。武器は手に無い。頭をすっぽり覆う外套を身にまとって森を駆け抜けていた。怒号が飛び交い、徐々に逃げている人物を追い詰めていく。目の前の相手を追うのに必死なのか、ジンたちにはまだ気づいていない。

 ジンは馬を走らせながら思考を巡らせる。その途中、先ほど見た光景が脳裏をよぎった。

「あんなのはもうゴメンだ」

 アランは並走すると頷いて見せた。

「行こう」

「だな」

 ジンは長剣を抜刀。アランは馬から降りると、近くの木に固定。木登りをして、木から木へと移動していく。

 集団の人数は十三人。

 馬蹄の音で集団の視線がジンたちに向いた。彼らは冷静に弓を構えて矢を番える。

「遅いな。遅いんだよ」

 ジンの脳裏には仲間の素早く冷静かつ、的確に番える仲間の姿を幻視した。彼の知る仲間と比べて遅い。

「圧倒的に遅いんだってんだよ!」

 矢が放たれる。森の中ということもあり、矢をかいくぐるのは難しくない。例え矢が当たりそうになっても――。

「無駄ァ! 馬狙えっての!」

 ――彼は斬り払いをして見せた。

 一重に斬り払いが出来たのも、弓矢を使える程度の相手だったおかげである。これが相手がカエデならば彼は絶命していただろう。

 馬で駆け抜け、そのまま体当たりして二人を轢き殺し、一人の頭を馬蹄で踏み砕いた。通りぬけ座間に長剣を二振り、血飛沫が飛び散る。

 残り八人。

 アランは追いつくと、予め用意しておいた石を投擲。大きさは拳大。それが一人に命中。相手の視線が上に向く。

 アランは木の陰から降り立ち、背後から短剣で首に刃を突き立てる。

 注意がアランに向ききる前に駆け抜け、通りぬけざまに数人斬りつけた。

 残り七人。

 傷を負って動きが鈍くなった数人は、戦意が弱まる。そこへ馬蹄が轟く。

 彼らは断末魔の叫びをあげて、絶命。馬の体当たりを避けた者も、長剣の刃と、馬蹄の餌食となる。

 残り四人。

 残る四人は逃げる人物を追いかけていた。

 アランは逃げている人と、追手の間に入り込む。一振りの短剣を逆手で構えた。

「そいつは逆賊だ。庇えばお前たちもただでは済まないぞ」

「一体俺が何をしたっていうんだよ!」

 追われていた青年は叫んだ。

「うるさい! お前の存在そのものがパッセ侯爵にとって邪魔なのだ」

 パッセ侯爵。その言葉にジンとアランは、容赦捨てた。

「パッセ侯爵が絡んでいるんだな。そしてお前たちは、その手先! なら

戦うしかないってことだ!」

 ジンは叫ぶと追手四人の背後から馬蹄で襲う。取り逃がした二人のうち一人はアランの短刀の餌食となった。

 最後の一人は戦意を喪失させて、その場から逃げ出していく。

「あんた大丈夫か」

「ありがとう。なんかお前らは命の恩人だ!」

 頭を覆っていた外套を取り除き、青年は頭を下げた。上げた顔を見てジンとアランは殺気立つ。

「お前は」

 青年は突然の殺意に、呆然とする。

「え? ちょっ! ま、待って! なんか待って! なんか勘違いしているって!」

 追われていた青年の顔を二人はよく知っていたのだ。





 シャルロット達がフェリシーと交渉している間。褐色の商人はとある貴族の屋敷にいた。

 その屋敷にある一室、執務室だ。そこで彼は後ろ手に縄で縛られていた。左右には武器を持った人間が彼を警戒している。

 フェルナンドの目の前にずんぐりうとした老人がいた。白髪交じりの灰色の頭髪。髭。ブークリエ伯爵である。その側には一人の男がいた。年の頃は中年くらいである。

 伯爵は調度の少ない机の上で、褐色の商人を見定めようと、くまなく観察していた。

 二人の眼光は鋭く。特にブークリエ伯爵はお衰えを感じさせない。

 視線が交わる。

「貴様が噂の主か?」

 ブークリエ伯爵は息を吐くように問う。

 フェルナンドはブークリエ伯爵領内で、派手に噂をばら撒いたのだ。そこを彼の家臣たちに捕らえられたのである。

(ここまでは手はず通りだ。しかし――)

 彼は相対する老人を見て、内心ため息を吐く。

(こいつには下手な小手先は通じないな)

 考えこんでいると、左右の男たちが武器をちらつかせる。フェルナンドは右腕の感覚に意識を集中した。

(今日はいけそうだな)

 彼は腹をくくった。

「そうだぜ。俺だ」

 ブークリエ伯爵の目が一瞬細くなる。

「わからんな。なぜ、そうまであっさり――」

「聞きたいことがあるんだが、アデライド女王の末期は、体中に赤いブツブツが出なかったか?」

 ブークリエ伯爵は反応しなかった。

 フェルナンドは「だろうな」と内心思いながら、ブークリエ伯爵の横にいる男性を見やる。

 フェルナンドは確信した。

 商人の視線に気づいて、老伯爵は顔を手で抑える。隣にいた中年の男性は露骨に動揺を示したのだ。

「俺が聞きたかったのはそれだけだ」

「まさか、それを知るために?」

 ブークリエ伯爵は問いかけながら、視線で左右の男に目配せをした。彼らの手に力がこもる。

「ああ、アデライド様が本当に毒殺されたのかどうか、それを確認したかっただけだ」

 フェルナンドは笑う。その言葉を聞いた全員が、呆然となる。

 彼は聞いてもいない彼らに、説明をし始めた。

「その昔、毒が開発されたんだ。要人を周囲に気づかれないように、暗殺するための毒がな。それの症状は熱病を繰り返して発し、衰弱していくんだ。マナによる治療も効かず、最終的には――言わなくてもわかるな?」

 その見極め方が、赤いブツブツである。もちろんこれだけでは、そうだと判断するには足りない。だから、商人の情報網を活用して、彼は調べるのだ。

「それの服用は一回じゃ無理だ。複数回何度も何度も飲ませないといけない」

 そこまで聞いたブークリエ伯爵は、叫ぶ。

「これ以上の混乱は許さん! やれ!」

 振り下ろされる刃。

「このわからず屋がァ!」

 緑の発光が部屋を満たす。

 二振りの剣は、根本から折れて彼らの背後の床に突き刺さっていた。

「あ」

 最初に声を発したのは、ブークリエ伯爵の隣に立っていた中年の男性だ。

 彼らの眼前に白い甲冑を纏った存在が現れていた。否、フェルナンドが変わったのだ。

 その存在を見た者はまず、右腕に目がいくだろう。左の腕よりも大きいのだ。それも二回りもでかい。体は筋肉が硬化したような甲冑。鋭い瞳は緑柱石を彷彿させた。頭部に悪魔を思わせる一角の角。

「ゴ、ゴーレムか?」

 フェルナンドは右手の甲をブークリエ伯爵に見せつけるように握り拳を作って見せる。

 手の甲には緑の宝玉があった。それが閃くと、宝玉を中心にマナの渦が巻き起こる。

「マナだ。マナが見える」

 フェルナンドの左右にいた男の一人が言葉を漏らす。

 部屋にあるマナ計測器の目盛は八割をゆうに超えていた。

「押し通るぜ。これから商いをしなくちゃならんのでなあ」

「わかった。暴れるな。帰してやる」

 ブークリエ伯爵はすぐに負けを認める。

 フェルナンドは右拳を下ろす。マナの渦は消え失せた。

「こっちも悪かった。多少強引にいかないと、道は開けないからな」

「わかっているのか? お前が掴んだことが確かというわけでもないのじゃろう?」

 フェルナンドは「そうだ」と頷いて、最後の質問を投げる。

「だから、確認だ。誰なら毒を飲ませられた?」

 ブークリエ伯爵は渋った。しかし、隣にいた男性は代わりに口を開く。

「ゾエ。という侍女なら可能でしょう」

「お前!」

「違うかもしれませんね。しかし、それでも私は確かめたい。私の忠誠を誓ったあの人が毒殺なんて信じたくない。だから――教えるのです」

 フェルナンドは頷いて応じる。

「何かわかったら文を送る」

 白い一角の戦士は角を撫でると、屋敷を後にした。

「今日は使えてよかった……」

 その後、フェルナンドは宿でしばらく寝込んだ。






 ソラとシャルロットはフェリシーたちと会ってから一日経って村に戻った。フェリシーを無事に国外に送り出し、その足で帰ってきたので時間がかかったのである。

 二人に待っていたのは、最悪の情報であった。

 沈んだ村人たち、カエデたちもまた表情を暗くしていたのである。

 村の集会場に、主だった面々が会した。

 シャルロットは目でジンに促す。

「村長たちは、反逆者として絞首刑になっていた」

 ジンの言葉にカエデ、シルヴェストルは顔を暗くする。ソラとシャルロットは、動揺を見せなかった。彼らはこの事態をすでに想定していたのだ。

 その様子にジンは「やっぱりか」とため息混じりに言う。

「こうなっていたのはわかっていたのか」

 シャルロットは口を開いたが、それより先にソラが声を発する。

「ええ。こうなるとわかっていました」

「そうか……それならなぜ」

 なぜ行かせた。それを言おうとしてジンは首を振る。彼らにあたってもしかたがないことくらい、彼にもわかっているのだ。

「確認です。もし本当にそんな行動に出ていたのなら、みなさんの命にも関わります」

 ジンは唖然となる。

「どういうことだ?」

「村長は助けを求めて、パッセ侯爵の邸宅に向かったはずです」

 村長の顔も直轄地の人々も知っているはずだ。そして村が盗賊に襲われていることも知っているはずであった。

 つまり誰もが彼の身の潔白を知っている。にも関わらず、なぜ殺さなくてはならないのか。

「口封じか」

 カエデは冷静に言い当てる。ソラは頷いて応えた。

「となると、俺達の村も危ないな」

 ソラは「ええ」と頷く。

「なんでだ?」

 シルヴェストルの声は大きくなっていた。本人も無意識に追い詰められており、余裕がなくなってきているのである。

「死人に口なしって奴だな」

 パッセ侯爵の悪評。そして、王女の生存を知る者はいなくなる。それらを踏まえて強硬策に出たのだ。

「上手くない手です。ですが、確実です」

 ソラは先の事を考えれば、悪手であると述べてから続ける。

「しかし、これは皇国にとっても美味しい状況ですね、この国を制圧した時に出る不満を、全てパッセ侯爵に向けることが出来ます」

「なあ、そんなことよりなんか早く逃げる算段つけようぜ」

 一人の青年がどうでも良さそうに話に加わる。シャルロットは露骨に嫌悪の表情を向けた。

「待ってくださいよシャルロット陛下ぁ~。なんか俺達は運命共同体ですよぉ~」

「殴る」

 肉を打つ音が響く。直後に青年は頬を抑えながら「痛い」と叫んだ。

「なんか酷いじゃないですか陛下!」

「うっさい。貴族の息子でしょうが! 助けてやるんだから、少し言葉を選びなさい。それでも貴族の息子?」

 青年は「だって~」と情けない声を上げる。

「それでこの人物拾ったとで完全に俺達はお尋ね者だな」

 シルヴェストルは言いながら青年を恨めしそうに見つめた。

「そこをなんとか~。なんか助けて下さいよぉ~」

 ジンは深い深いため息を吐く。

「まさか、パッセ侯爵の息子を拾うだなんてな」

「なんか本当に助かりましたよぉ~。ありがとうございます。それとよろしく」

 彼の名はジョセフ・パッセ。パッセ侯爵の実の息子である。しかし、彼はパッセ侯爵にとって邪魔な存在となり、殺されそうになっていたのだ。そこをたまたま通りかかったジンとアランによって救助されたのである。二人は、殺そうかとよっぽど迷ったのだが、ジョセフは彼らに交渉を持ちかけたのだ。

 ジョセフは情報を売ることで、身の保障を求めたのである。

「それで、その情報ってのはなんなのかしら?」

 シャルロットはつまらなさそうに聞く。顔見知りであったが、彼女はまわりから馬鹿と聞いていたので、興味を持っていなかった。実際会った印象も馬鹿である。

「ああそうね。なんかマゴヤが皇国の干渉領地で戦闘を始めたみたいなのよ。どうもうちに来ようとしているみたいねぇ~。それで皇国が――」

「ちょっと待て」

 シャルロットはジョセフの襟首を掴んだ。

「でたらめな事を言わないで」

「く、苦しい。嘘じゃない。嘘じゃないです」

 ソラはその話を聞いて、思案顔になる。

「動きが早過ぎるじゃない! どういうことよ!」

「お、俺にもさっぱり……で。しまってるしまってます」

 ソラはシャルロットの手を掴む。それで察した彼女は手を離した。

 王女は肩で息をするように、深呼吸をする。

「それで、皇国がなんですって?」

「あーなんか苦しい。死ぬかと思った。あ、なんでも、領地に入ったのを確認したら制圧するみたいな話」

 ジョセフは至って真面目に話しているつもりであった。あるのだが、しゃべり方といい、態度といい、周囲を逆撫でするような言動をとっている。

 それが加算されてか、シャルロットの怒りは爆発した。無言でジョセフを殴り飛ばすと、ソラに向き直る。

「どうしよう」

「そうですね……」

 彼らの後ろでジョセフが顔面を抑えて「痛い」や「鼻血出てるじゃん」などと声をあげる。

 ソラは考えあぐねていた。

 マゴヤの動きの早さは彼の予想外である。その兵力の多さから、軍の編成でしばらくかかると彼は見積もっていた。しかし、彼らはその予想を大きく上回る早さで動いていた。

 侵入を許せば、同盟国を守るという名目で皇国はブランシェエクレールに侵入することが出来る。後は、多少強引に動いても彼らはこの国を乗っ取ることが出来るだろう。

「なんか万策尽きたって感じですかね?」

 ジョセフはいつの間にか起き上がり、話に加わる。鼻血はすでに止まっていた。

「お前は」

「なんかうちの親父倒しちゃえばいいじゃない」

 ジョセフは気楽に言って「それで一発逆転って寸法よ」と自慢気に言う。言った直後にシャルロットの拳が炸裂。背後でのたうち回る。

「それができれば苦労しないでしょうが!」

「まったくだな。いい加減なことを」

 カエデは憮然とした態度で、ジョセフを見下ろす。シルヴェストルはやれやれと肩をすくめた。

「今は王宮にいるんですよね?」

 ゲルマンの言葉にシャルロットは「たぶんね」と返す。

「大丈夫ですよ。俺を殺し損ねてますし。親父の性格上、絶対陣頭指揮とって、陛下の死を確認しようとしますもん」

 ジョセフはまたもケロッとした顔で話に加わる。シャルロットが拳を振るおうとしたが、ソラに制された。

「そういえば、なぜパッセ侯爵に追われたのです?」

 ソラの疑問にジョセフは「よくぞ聞いてくれた」と大仰に言う。

「なんかこの国が消えて皇国になるなら、俺という存在が邪魔になるらしいのよ。なんか結婚するらしいし。貴族の娘をもらってなんか皇国の貴族の仲間入り、みたいな?」

 シャルロットはジョセフの顔面を振りぬいた。

「とりあえず、パッセ侯爵がこっちに来るっていうなら、迎え撃つまでよ」

「となると、こちらに来る道中で奇襲を仕掛けるべきですね」

 ソラは地図を広げて睨んだ。パッセ侯爵の邸宅から、まっすぐ伸びる林道を指でなぞった。

 そこまで黙って話を見守っていた面々が一歩前に踏み出る。

 ゲルマン、カエデ、シルヴェストル、ジン、アランだ。

「俺たちも連れて行ってほしい」

 ジンが代表して言う。言い終えると、カエデ、シルヴェストル、アランは頷いた。

「奴に目にもの見せてやる!」

「我らも主を守るため、この命をかけましょう」

 ゲルマンは微笑むと、続ける。彼の背後にいる面々はまだシャルロットに、心からの忠誠を誓えておらず、彼らはどこか所在なさ気であった。

「一応、我々としても仕返しの機会と見ております」

「いいわねソラ」

 ソラは「はい」と応える。しかし彼には漠然とした不安が湧き出た。






 マゴヤのヨリチカは猛将として名を馳せていた。本人の技量はもちろんのこと、知謀も兼ね備えており、人柄良好。部下に優しいと評判だ。

 苗字の無い部下であろうとも、奥さんが出産するという話を聞いて、祝品を持たせ、前線から送り返すほどである。

 故に彼の部隊の士気、練度は高く、団結力は非常に強い。

 彼らは皇国の領土、すなわちブランシェエクレールとノワールフォレの干渉領地を通り過ぎる予定であった。しかし、それは敢え無く断念。

「銀の姫将軍め。やってくれるな」

 名を馳せる名将とその部隊と言えど、苦戦を強いられていた。

(まさかここまで早い対応をされるとはな)

 ヨリチカは内心舌を巻いている。

 横断できないとなれば、前線の要衝となる砦を構築するしかなく、銀の姫将軍をやり過ごしながら彼らは砦を三日で構築。周辺の村を適度に襲って略奪を行い、士気を維持しながら、再度横断できないものか思案する。

「皇国の意思と見るべきでしょうか?」

「いや、ノワールフォレの情報筋だと、違うらしい」

 側近の男と話しながら、地図を睨む。

 彼らは今砦の中の一室で今後の方針を話し合っていた。

 部屋は急造のため、飾り気がない。だが、それをヨリチカはたいそう気に入っていた。壁にはヨリチカが使う飾り気のない大剣。巨大な長方形の鉄の板に、柄が付いているだけのような大剣だ。

「我らがブランシェエクレールに進入することは、奴らにとっても利する行動だ」

「では、なぜ?」

 ヨリチカは唸る。

「この領土を治めることに、強い責任を持っているということだろう。あっぱれだ」

「こちらはいい迷惑ですよヨリチカ殿」

 ヨリチカはふんと鼻を鳴らす。

「おのが主に楯突いても、自身の治める領土に責任を果たすのだ。あっぱれと言わずなんと表する。むしろ刃を交えることは誉れと受け取れ」

 その部屋に一人が転がり込んでくる。

「どうした?」

 側近の男が報告を促す。

「物見より、銀の姫将軍の一団来ました!」

 ヨリチカは凶悪な笑みを浮かべて、壁に立てかけてある大剣を掴んだ。

「戦の始まりだ!」




 ヨリチカの部隊と銀の姫将軍の一団は、互いに陣形を変えて、互いに翻弄していく。そんな中、互いの陣営から単騎飛び出す姿あり。

 ヨリチカと銀の姫将軍である。馬蹄を轟かせ、二つの影は真っ直ぐに互いの存在をつぶさんと突撃する。

 マゴヤの猛将は迫り来る脅威を睨む。

 赤と黒のドレスにフリルがたくさんあしらわれていた。ところどころ馬に乗るため、鎧をつけるために改造されており、それを堂々と着こなしていた。銀の長い頭髪にドレスと同じヘッドドレス。真紅の瞳。整った目鼻立ち。

 ヨリチカは敵でなければ求婚したなと思う。表情は物静かでまったくと言っていいほど無表情。

 彼女の武器もまた大剣。ヨリチカと違い片刃の大剣だ。

 互いに馬がすれ違う瞬間に獲物を全力で振りぬいた。緑の光を纏った一撃は、大気を震わせる。

「カッ! カッ! カー! それでこそだ!」

 ヨリチカは笑う。

 彼らは巨大な獲物を片手で振り回し、剣戟を交わす。

「問う! お主の主君の意思ではないと聞いた! お主にこの戦に立つ理由があるのか!」

 尚も刃が交じり合う。

「是非もなし」

 声は低い、しかし凛とした響きがあった。強い意思を宿した眼差しにヨリチカは満足そうに笑ってみせる。

「ならば、全力でお相手するまでよ!」

「承知」

 激しい激突とともに、大地が破裂した。






~続く~


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