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第八話「第二皇子は行動を起こす」

第八話「第二皇子は行動を起こす」






 マゴヤの二度目の襲撃も撃退に成功する。

 陣頭指揮はブークリエ宰相が執り行い、前線にはソラが立つ。マエカワ将軍の魔導具対策として立っていた。前線で敵兵を削るというよりは、攻撃を防ぐ盾である。

 守戦に秀でている。それがソラのブークリエ宰相に対する感想だ。

 戦を終えて陣に戻ると、砦が出来つつあった。敵の斥候にも見つかっているはずである。

 ヤリノスケの策で、敵を誘い込むための砦だ。

 山道を越えた先にあるのは歓楽街である。それも荷を運ばない馬を使って一日かかる距離。荷車を引いた馬なら二日。徒歩なら三日である。

 故に補給線が伸びてしまうのだが、その前に敵にとっても味方にとっても前哨となる砦があれば別だ。

 それをこの砦が担っている。

 ブランシュエクレールに攻め込みたくなるように、仕向けたのだ。

 奪わせない自信と、奪われてもそく奪い返せる自信から建築している。

 砦の建築はまだ宿舎ができている程度。壁などは一部である。大部分は幕舎で寝泊まりしていた。

「そうじゃソラ」

 ブークリエはソラを呼び止める。

「サキュバスモールとサファリラインとロン商会からそれぞれ奴隷を千人ずつ買っておいてくれ」

「え?」

「ああ、それと増築計画書はシャルリーヌ殿下が受理したので、後日殿下から見せてもらっておいてくれ」

「は?」

「陛下は以下のことを了承済みだ」

「はい……」

 ヤリノスケが捕捉する。

 先の戦いで捕虜などを買い取った見返りに、奴隷を買うと約束してしまったのだと言う。

 先の戦いとは、アポー伯爵を使いマゴヤを誘き出した時である。

 大量の捕虜を扱いかねたブランシュエクレール。かといって解放すれば敵の戦力になってしまうことから、全員を奴隷として売り払ったのである。

「その際に約束したのだ」

「三千人って……」

 前回の倍だ。

 その事も見越していたかのように、三大商人は増築計画書に則って歓楽街を拡大させていた。

「三千人の奴隷の仕事はお主に任せると陛下が仰っていた」

 そんな話は聞いていない。五日前に別れた時に、一言も言っていなかったのだ。敢えて言わなかったのだなと、ソラは肩を落とす。

「ダークエルフの皆さんだって、まだ扱いかねているんですよ」

「わかっておるわい」

 わしの息子の領地にくれてもいいんだぞ。とブークリエ宰相は言うが、ソラは拒否する。

「なんなら、奴隷をお主の愛妾にしてしまうのはどうだ? 三千人選り取り見取りだ」

 打算も込めてヤリノスケは提案する。

 が、ソラは困惑した。

「なんだそういうのは苦手なのか? 男なら色々と女を抱くのも大事だぞ」

「あ、いえ」

「もしや女に興味が無いのか?」

「あ、あります。ありますよ。いやですが客将ですし、子供が出来た場合の責任が」

「良いではないか」

 ソラはここで初めてヤリノスケの思惑を理解する。

「そういうのはもっと」

「大体お主な。お主は知らんだろうが、他の種族たちの娘たちからは子種を求められているのだぞ」

「そういえばそういう話だったな」

「へ?」

 歓楽街の創案者で、さらに戰場で強いという風評が出回っていた。また内乱でドラゴンを倒しまくったという証言もあり、他種族たちはなんとかもらえないかと画策しているのだという。

 前者は自分たちが楽園だと思っている場所に来れたことへの感謝。後者は種族としての本能からである。

 彼が契約している神霊たちは現れてはくすくすと笑い出す。

「レーヌやカトリーヌも王宮に戻るのであろう? ならば何人か侍女を見繕ってもいいのではないか?」

 ソラは苦し紛れに考えますと言ってその場から逃げ出す。

 しばらく歩きながら、自分の幕舎に戻るとオスヴァルトとエヴラールが待ち構えていた。先の戦いの報告に来ていたのである。

 ソラ急いで報告を受け取り二人に休憩を命じた。

「そうだオスヴァルトさん。今から新兵千人を訓練させて、どれくらいのモノになりますか?」

 呼び止められたオスヴァルトとエヴラールは顔をしかめる。

「収穫期を挟むんですから、結構厳しいですね」

 ソラはそこで聞いた理由を説明する。先ほどの三千人の奴隷の話を彼らに話す。

 二人も納得はしつつも、勧めはしなかった。

「豊作らしいからな。俺達の手伝いも必要なのだろう?」

 エヴラールの問いにソラは頷く。

 内乱はあったものの豊作との報告だ。ルミエール領に至っては隠し集落なども上乗せされるため、その量は一気に膨れ上がる。

「扱いかねますな」

 オスヴァルトは常にもまして神妙な顔つきとなった。

 兵士と採用するのも付け焼刃的に思いついたモノだ。今から訓練させて、武具を整えるのは難しい。

「現状でもまだ武器の支給。訓練はまだ足りてないですね」

 オスヴァルトの言葉にエヴラールが首肯する。

 武器の支給や補填などは、トゥース公爵令嬢とその側近の竜人の女性が、大部分を請け負ってくれてはいた。それでも足りておらず、八千人の調練は骨が折れるのだ。

 ヴェルトゥブリエに出向していたのも効いていた。

「軍事力になるのはありがたいですが、訓練してマゴヤとの戦に間に合わせるのは難しいです」

 ソラはわかったと言うと、二人を今度こそ解放する。

「一応、こちらでも考えておきます」

「お願いします」






 幕舎でストロベリー第二皇子は唸った。部屋にはピエールとジョナサンも顔を並べている。

 彼が思った以上に事態が動いていたのだ。自分の手の中で事が達成出来ると思っていた二つの案件は、予想外にグレートランドに手痛い結果を招いた。

 ひとつは銀の姫将軍の戦力を削ろうとしたものだ。彼が思った以上に壊滅的に追い込んのである。さらにパスト公爵の戦力も半分も削った。結果だけ見れば上々だ。

 しかし、現状はグレートランドの領土を奪われ、自らも大きく後退させられていた。

「ブランシュエクレールに向かってくれればいいものの」

「ブランシュエクレールの豊作らしいです。それを鑑みてだと思われます」

 ストロベリーの側にいる黒いローブをまとった存在が声を発する。ヤマブキだ。

 黒いローブからは光るひとつ目が、半月を描く。

 ノワールフォレは収穫期を終えてからブランシュエクレールを侵略を考えているのではと、ヤマブキは予想した。

 ヤマブキの予想は一部当たっていたのである。

 ノワールフォレは来年の冬までブランシュエクレールの攻撃を考慮していなかった。マゴヤに引っ張られる形で出てきた物の、海上都市の基礎が出来上がってから侵略するつもりなのだ。

 そのことを露ほども知らない二人は考え込む。

「こちらだけではない。ヴェルトゥブリエも上手く行かなかった」

「申し訳ございません」

「お前を責めているわけではない。お前はよくやった。俺の落ち度だ。この二つは俺の落ち度なのだ」

 ひとつはグリーンハイランドを煽っての戦争だ。結果だけを見れば戦力を失いあった。だが、その実グレートランド、ストロベリーにとって不利益に働いている。

 互いの国の領土を割譲し合ったのだ。グリーンハイランドは物資の出荷窓口が二つに。否、三つに増えたのだ。

 ヴェルトゥブリエが一部領地を通ることを許可したのである。これによりグリーンハイランドの特産物は三つの貴族を天秤にかけることが出来る状況になっていた。これ幸いとグレートランドのとある貴族が物流を優先し、関税をかけない形でグリーンハイランドの特産品を引きこもうとしていた。

 その経路が問題だ。

 ヴェルトゥブリエが許可した領土をまたぐ経路である。つまりグリーンハイランドとヴェルトゥブリエとその貴族にとって利益が転がり込むことになるのだ。

 その貴族はグリーンハイランドに融通しつつ、ヴェルトゥブリエと距離を近づけようとしていた。

 彼が本当に欲しているのは、ブランシュエクレールまでの道だ。

 歓楽街の話と、海上都市の話はグレートランドにももたらされている。他ならぬ金の姫将軍が証人となってしまったため、その存在は確かなモノとしてグレートランドと周辺国に波及していた。

「おまけに金の姫将軍が噛んだとかな!」

 歓楽街の一部は金の姫将軍の管轄となっていたのだ。そう彼女はグレートランドの誰よりもブランシュエクレールに近づき、ブランシュエクレールの海上都市にも関われる位置にいる。

「あの魔女めぇ!」

「殿下」

 ストロベリーは黙ってヤマブキの言葉を促す。

「恐れながら」

「よい。お前が言葉を切る時は、俺の主旨を曲げるモノなのだろう? 怒るかもしれないが、その時は落ち着くまで待って欲しい」

 ヤマブキが慎重に言葉を選ぶ時は、ストロベリーの思惑とは反対を提案する時だ。

「ブランシュエクレールを我々の味方につけるのです」

 しばらくの沈黙が幕舎を支配する。

 ストロベリーは顔を真赤にして歯ぎしりした。

 誰もが怒るだろうと身構える。

「それだ! さすがだヤマブキ! お前はやっぱり私の女神だよ!」

「あ、え? 良いの……ですか?」

 これにはピエールもジョナサンも戸惑いを見せた。

「良い! 良い! 良いではないか! そうかそうか。そういう発想もあったな!」

 ストロベリーは高笑いをし始める。

「ヤマブキぃ! 早速策を練るんだよぉ!」

 ストロベリーは頭皮に爪を立て、かきむしった。

「敵に出来ないなら! 味方に引きずり込む! くっはっはっは! 最高じゃないかァ!」

 笑いが終わるまで待ってからヤマブキは声を発する。

「ブランシュエクレールは現状マゴヤの侵略に怯えているはずです」

 ヤマブキは増援を送ることを提案。

「シルバーラインは奪われてしまっているぞ」

「ええ、ですから海上からでしょう」

「その前に窓口を作らねば」

 ピエールの言葉にヤマブキは頷く。

「南はパスト公爵です。ちょっかいを出してくるでしょう」

 ストロベリーは狂喜に満ちた笑みを浮かべた。

「ならば奪えばいい」

 ストロベリーは自身の案を口にする。それをヤマブキが修正。ピエールとジョナサンは戦慄を持ってそれを受け取る。

「ピエール。お前はパスト公爵を焚き付けてこい」

「仰せのままに」

 ピエールは音もなく幕舎を後にした。

「ジョナサン。お前はブランシュエクレールに向かい、窓口を作ってこい。金の姫将軍を頼っても構わん」

「俺ひとりでですか?」

 あまりの大役にジョナサンは目を白黒させる。

「お前は人が良い。だから大丈夫だ。金の姫将軍には全部話しても構わん。ある程度の不利益は飲む。今は時間が惜しい」

「微力を尽くします」

 ジョナサンは片膝をついて頭を垂れた。






~続く~


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