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第七話「見えない駆け引き」

第七話「見えない駆け引き」






 銀の姫将軍の救出。するとはいえ、収穫期を迎えるまではひと月はある。その事も考慮して話は保留となった。

 政治的な交渉により解放される可能性もある。何より事態が自分たちの思わぬ方向に転びかねない。

 そうシャルロットは言う。その事にグラディスもソラも反対をしなかった。

「では、ひと月ほどぉ。ここに滞在させていただきますねぇ」

「帰りなさいよ!」

「いやですわぁ」

 シャルロットは睨めつけるが、どこ吹く風で受け流す金の姫将軍。

 ちょうどいいとこのままの顔ぶれで、シャルロットは軍議に入った。

 カトリーヌ=ルが机の上に、周辺の国を表記された地図を広げる。

 グレートランドのグラディスを交えたのは、皇国がどう動くかを知るためだ。

「ホワイトポリスは大丈夫かしら?」

 ソラはわからないと言う。

「シルバーラインを制圧されるのは予想外でした」

 目つき悪い少年の言葉に、シャルロットは首肯する。グラディスは表情を変えない。

 シルバーラインを制圧したマゴヤとノワールフォレからすれば、多方面から攻撃できる状況だ。おまけに頼みの綱であるヴェルトゥブリエやグリーンハイランドの援軍は、しばらくは望めない。おまけに陸路は寸断されているも同然。

 使者を送り出しても敵の妨害にあう可能性があった。

 ノワールフォレはシルバーラインにある唯一の西の港。そこからブランシュエクレールの北の港に攻撃が可能。

 マゴヤは山脈があるとはいえ、どこからでも攻撃できる状況である。

「幸いにもルミエール領には、魔王軍がいます。が、積極的に迎撃に動くかどうかわかりません」

 バーナードが補足し、ソラは頷く。そして目つき悪い少年は黙って説明を促す。

 その後の説明を彼に任せたのだ。

 これはバーナードがどれほどの才があるかの確認でもあった。

「山脈には罠の敷設は可能でしょう。こちらの方が地理に明るいこともあり、余程のことがない限り越えようとはしないと思われます」

 おまけに他種族の協力を得られるのだ。先の二回の戦いからマゴヤも警戒しているはずである。

「となると、ホワイトポリスが落とされた場合、向こうは二面作戦を仕掛けてくるかしら?」

 北と東からの挟撃を仕掛けてくるのではと、シャルロットは考える。

 アオイは首をひねった。

「ノワールフォレって海上戦力があるんですか?」

「ないな。経験もないから陸路を使うかもしれない」

 バーナードは断言する。海に接した領地を持っていないノワールフォレにとって、海からの攻撃は自殺行為である。

 当然ながらブランシュエクレールには海上戦力を有していたし、経験もあった。

「さらにぃ。グレートランドも威信をかけてぇ、シルバーラインを奪還しようと動くわぁ」

 山脈は東の山道と北の先端が陸路を使えるのである。が、北の陸路は整備されていない。

 ブランシュエクレールが二面作戦をされる危険性があるのと同様、ノワールフォレも二面作戦を強いられる可能性があった。

「干渉領地の南も断崖絶壁で海は使えないわぁ」

 うんうんと全員が頷く。

「ここまでは、ブランシュエクレール内で戦うことを考慮したものです」

 バーナード国内での戦闘ならば、専守防衛でまず負けないはずだと言う。

「ホワイトポリスが健在になるとぉ。話は変わってくるわねぇ」

 グラディスの言葉に全員が頷く。

 シャルロットは迷ったものの、グラディスの前でホワイトポリスに援助を求められていると説明。ソラたちは知っていたがグラディスは初耳である。

 しかし、やぁっぽりぃの一言で終了。

「いいの?」

「ブラックシティ周辺もぉ。とっくにノワールフォレが領有権を主張しているころだわぁ」

 シャルロットの問いに、グラディスは否定も肯定もしない。責任を追わないつもりだ。

 金の姫将軍の言う通り、この時すでにブラックシティ周辺はノワールフォレが領有権を主張。

 親ノワールフォレの住民は喜んで鞍替えをしていたのである。

「書記がいないから非公式で言うけどぉ、元のまま戻りましょうはぁ、すでに出来ないでしょうねぇ」

 それでも金の姫将軍は、やるやらないについて言及しない。

 つまりブランシュエクレールの出方次第だと、言外に言ったのだ。

「ホワイトポリスからの救援要請に従い、我々は戦力を引きずり出される形になります」

 戦場の優劣が無くなってしまう。それどころか、戦力はマゴヤのほうが圧倒的に上である。

「先の戦いにマエカワがいたわ」

「なら、今が絶好じゃないですか。大将首を取りに行くべきです」

 いやとシャルロットは首を振る。

 首を取れば終わるかもしれない。だが、難しいのだ。

「大体一キール(約一キロ)の距離から、魔力で生成した矢を放ってくるわ」

 全戦力を持ってしても届かない可能性がある。

「私やソラが前線に立って、攻撃を凌ぎ続けるのは難しい。おまけに相手は後退し放題だ。戦力が伸びきった側面を突かれるかもしれない」

 もう一度攻め込んでくれればあるいはと、シャルロットも言うが。腑に落ちない様子。

 シャルロットはまだ魔導具に能力があるのではと考えていたのだ。

「能力の一側面だけを見せて、こちらに突撃できると思わせているのかもしれない」

「どちらにせよ。今は打って出るべきではないし、大将首を狙いに行くべきではないと思います」

 バーナードはいずれ戦う機会がやってくるのだから、そこまでこちらの狙いを伏せておくべきだと言う。

 現状、ブランシュエクレールがマゴヤに勝つ方法はひとつである。

 真正面からぶつかれば負けるのは必至。大軍に勝つのは大将を討ち取るしかない。

「っていうか、それは置いといてホワイトポリスではどうするの?」

 バーナードはやはり専守防衛だろうと言う。

「シルバーラインが陥落するのを待つしか無いですね」

 シルバーラインをグレートランドが再奪還すれば、ヴェルトゥブリエやグリーンハイランドの援軍がやってくる。

 それらを持って真正面からぶつかると見せかけ、大将首を狙う。

 これがバーナードの提案した作戦だ。彼はソラを見やる。ソラも異論はないと頷く。

「加えて、ホワイトポリスで戦う場合、いつでも撤退できるようにしておくべきです」

 シャルロットの眉根が釣り上がる。

「それは――」

 シャルロットは口開けてから、ソラの言いたいことを理解した。

 ホワイトポリスは味方であっても、救わねばならない対象ではない。援軍の要請には応じた形をとり、いつでも逃げ出せるようにしておくべきなのだ。

「そうね。そこら辺もまあ追々」

 シャルロットたちは目下、収穫期まで敵の攻撃を凌ぐことに全力をあげることを、認識し合い。銀の姫将軍の救出の方法はその時にまた考えようということで、軍議を終えた。






 グレートランドを追い返すことを成功して二日。

 シルバーラインの城の広場では処刑が執り行われていた。

 彼らはマゴヤの兵士である。処刑の理由は、銀の姫将軍やアイヴィーに手を出そうとしたのだ。

 それを眼下で眺めながらヨリチカは嘆息する。

「さっさとお前が手を出せば良いのではないか?」

「完全に心を折らねば嫁に迎えても背後から刺されるだけでしょう」

 マエカワはそうかと納得した。

「それより殿。我はホワイトポリスの攻略を具申します」

 マエカワが今度は首を振る。

「もう二、三度。攻撃してからそこら辺の判断もしておきたい」

 最初こそはミツヒデの弔い合戦という意気込みであった。だが今は完全にそうとは考えていない。

 マエカワはブランシュエクレールと戦ってわかったことがあったのだ。

「あの山道。相性が悪い」

 道が均されており、騎馬で進むには進みやすい。勢いに任せて突撃すれば山肌からの挟撃。

 山道を抜けようとしても、壁で相手の得意な陣に組み替えられてしまう。

「山を越えるのは?」

 マゴヤの将軍は首を振った。

「越えるまでの被害が大きいだろう。戦列も乱れて各個撃破される危険性が高い」

 なにより土地勘がない。自殺行為だと却下した。

「中に突入できたとしても補給線が伸びてしまう」

「確かに」

「城が必要だな」

 ブランシュエクレールを攻めるには、東の山道の前に城を建築して、そこから波状攻撃を続けるしか無いのだ。

 それは現実的ではない

 築城の妨害もしてくるだろう。マエカワが常に起きて、魔導具を使い続ければいいが、完成前に倒れてしまう。

 ヨリチカやスミレを置いたとしても、数で押されて倒されてしまうのは、明白。

「ならば、こちらに得意な戦場に引きずり出すのが、賢明よ」

 ホワイトポリスはそのために残しておく必要があると、マエカワは言う。

「もちろん攻め込めれば、それに越したことはない。収穫期までに二回は、様子を確かめる。それからホワイトポリスの処遇を決めても遅くはない」

 だが攻めこんでも、歓楽街まで攻めこまねば意味がなく。そこまで攻め込んでしまえば、補給線が伸びてしまう。

 シルバーラインまで攻め上がってしまった都合、これ以上の戦線拡大は命取りと言えた。

「ノワールフォレもこのまま、攻め上がりたいと言っております」

「馬鹿な! 西の港で満足すればいいものを」

 ここに来てノワールフォレはさらなる領土拡大を主張。マゴヤに割譲を持ちかけていた。

 パスト公爵の戦力を大きく削ったこともあり、南は手薄となっている。もちろんグレートランドの精鋭中の精鋭が集まってはいる。

 だが、マエカワの魔導具と、ヨリチカの魔導具があれば押し返すことが出来ると考えたのだ。

 加えてグレートランドは、先の銀の姫将軍の捕縛以降、不協和音に陥っていた。

 敗残兵たちが、各地で好き勝手に暴れ、有る事無い事を吹聴しまわっているのだ。

 ここに来てグレートランドの攻略。その可能性が持ち上がったのである。

 マエカワ将軍は考え込んだ。

「とはいえ、地固だ」

「かりこまりました」

 グレートランドを攻め上がるにしても、ブランシュエクレールを攻めるにしても、制圧している領土を、治めなくてはならない。

「この弓のお陰だな」


 この五日後。ユミヅル・マエカワは五千の兵力を率いて再度山道を駆け抜けた。






~続く~


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