表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/672

第六話「前途多難」

第六話「前途多難」






 ソラたちは歓楽街に到着したのは朝のことである。荷車や彼らをダークエルフたちが交代で運ぶからと申し出たため、予定よりも早く着いたのだ。

 サキュバスモールのサキュバス族の娘にダークエルフを預けた。海上都市三大商人の商社サキュバスモール。そこでは歓楽街の奴隷の管理をお願いしている。

 故に今回もその段取りに乗ったのである。

「よお! 相変わらず目つき悪いな」

 褐色の肌に緋色の頭髪をハンマーヘッドに象る青年。

「お久しぶりですフェルナンドさん」

 二人は握手を交わす。

 彼はこのひと月。自分のかつての故郷に帰っていたのである。借金を返すためと、本格的にブランシュエクレールに商社を構えるためだ。

 そんな褐色の商人の傍らに年の頃は十くらいの少女が顔を覗かせる。

 その瞳が特徴的だった。オッドアイ。右がゴールド、左がアメジストの瞳の少女。頭髪はプラチナブロンドを二つに結っていた。

「その子は?」

「ああ……その……」

 フェルナンドは言いづらそうにした。周囲を見渡しソラに耳を貸せと素振りで伝える。

「実はな。オオサカのとある大貴族の娘で、俺が預かっている」

 帰る道中。奴隷商人が売っていたのを見て買ったという。そして大金はたいて奴隷の印である隷印呪を、解呪師にお願いしたのだと言う。

「せっかく帰れるようにしたんだが、帰りたくないって言い出してよ。奴隷に売りだしたのが実は自分の親だったんだと」

 そこでソラは全てを察する。オッドアイを凶報と受け取り、実の娘を売りだしたのだろうと。実際その通りだと少女は言う。

「助けた手前、ほっぽり出すのも無責任。だから、次にやりたいことが見つかるまで俺が預かることにしたんだ」

 フェルナンドは困ったように笑って言った。

 褐色の商人は白い歯を見せて笑う。

「お願いがあるんだけど」

「嫌です」

「まだ全部言ってない! お願い聞いて!」

 フェルナンドは金を貸してくれと、ソラに頭を下げた。

 会社を立ち上げる金が無いという。

「借金返済とで、全部消えちまったんだ! 頼む!」

 ソラは肩をすくめると、いいですよと応じる。

「その代わり、こちらのカラミティモンスターを高く買ってもらいます」

 フェルナンドはソラの背後にある荷車の山を見る。慌てて駆け寄り、軍隊蜘蛛の牙や毛、外殻などを手に取る。

「凄いな。軍隊蜘蛛の群れか? 被害は?」

「初期に見つかったので辛うじて」

 軍隊蜘蛛は群れで活動するため、集落が全滅するなどよくあることなのだ。一国が総力を上げて対処するべきモンスターである。

「これは良いものだな。わかった高く買おう。金額は後でいいか?」

「いいですよ。それも含めて貸しにしておきます」

 フェルナンドは助かると言うと、少女を呼び寄せあれこれ素材を手に取り、説明していく。少女はうんうんと頷きながら、真剣に聞き入っていた。

「ソラさぁん」

 ソラの背後に突然現れたのは、黒絹の長い頭髪に、背中だけが露出した赤いフリルのあしらった黒のドレス。長大な得物を来るんだ布。

 少女のような容貌のグラディス・ゴールドラインだ。

「お久しぶりですぅ」

「お、お久しぶりです。何か御用ですか?」

 驚きつつも、ただならぬ事態であると、ソラは予想した。

「考えているとおりですよぉ。大変な事態ですぅ」

「心を読めるのですか?」

「なんとなくよぉ」

 ソラはしてやられたと頭をかいた。

 そこに歓声が起こる。

 振り返り見ると、白馬に乗ったシャルロット。彼女が歓楽街に到着したことで、歓声が起こったのだ。

 側にはレーヌとカトリーヌ=ル、彼女らも本格的に戦闘に参加していた。

 二人は先の内乱でマナ出血毒を盛られ、長い治療期間を経てようやく戦線に復帰出来るようになったのだ。

 シャルロットはソラを見つけると、馬を駆けさせて近寄る。そして近くにいる他国の人間を見つけて、一瞬だけ嫌そうな顔をする。

 それに対するグラディスはいやですわぁとにこやかに言う。

「やれやれ」

 ソラは頭をかきながら鼻で息を吐く。






「我の嫁になりたくなったら、いつでも言うんだぞ」

 ヨリチカの言葉に睨みを持って返すフィオナ。

 彼女は現在、自身の居城にある地下牢に囚われていた。

 食事の時以外は猿轡をされ、手足に金属製の枷に、金属製の首輪に鎖で、牢に繋がれている。着ているモノはひとつもなく。美しい肢体を覗かせていた。

 その食事や下の世話もヨリチカの侍女が行っている。

 暗闇の中でも映える銀色長髪。燃え盛る炎のような瞳には戦意が宿っている。

 ヨリチカはその瞳に満足すると踵を返して、地下牢を後にした。

 程なくすると彼の側近であるトシイエが駆け寄ってくる。

「どうした?」

「グレートランドが攻撃を仕掛けてきました」

 語気から旗色が悪いと察したヨリチカは、嘆息した。

「昨日退けたばかりなのに、まかた……ノワールフォレは?」

「動いていますが、援軍を要請しています」

 胸中無理もないかとつぶやくと、大きく手を叩く。

「いいだろう。我が出る」

 守護将軍が二人いるのだ。

「おまけにそのうちのひとりは、グレートランド最強の男だ」

「デューク・ブラックライン」

 うむと頷くヨリチカはどうしたものかと思案する。

 収穫期まで持ちこたえればシルバーラインはマゴヤとノワールフォレのモノとなったもどうぜんだ。

 ヨリチカは収穫期の間、この地を要塞化することを計画していた。

「伝令! マエカワ将軍がこちらにやってきております!」

 兵士が叫びながら駆け込んでくる。

 ヨリチカは急いで飛び出すと、迎える準備を整えた。

 城門が開かれると、マエカワ将軍の一団が城へと入場する。ヨリチカはすぐに自身の主君を探し、駆け寄った。

「戦果はいかがでしたかな?」

「損害を出しただけだ。魔導具が使えなかった」

 ヨリチカはその言葉に愕然となる。信じられないと首を振ったのだ。

 先の戦いでその力を目の当たりにしていることもあって、彼が受けた衝撃は小さくない。

 ユミヅル・マエカワは説明する。シャルロットに直撃する手前で大きくブレること。そして勢いが落ちることを。

「だがな?」

 頭上に構えて魔力の矢を放つ。

「問題ありませんな」

 空高く伸びる光条はブレることなく昇っていった。

「だろう? まだ戦で二回しか使ってないからな。色々と癖を理解しておく必要がありそうだ」

「そうですか。では、試射しに参りませんか?」

 ヨリチカは手早くノワールフォレの援軍に向かうと報告。マエカワ将軍もちょうどいいと、同行する旨を伝える。自身の手勢を休むように指示を出すと、ヨリチカと共に戦場へと向かう。




 遠くから矢を放つだけでは芸がないと、ヨリチカに護衛を命じると前線に突撃を開始するマエカワ。馬上で左右の手を巧みに使い、矢を途切らせることなく射放つ。

 それらは寸分違わずにグレートランド兵の脳天を射止めていく。

 頭上へと構えて放ち、破裂させて矢の雨を降らせる。戦場は阿鼻叫喚となった。

 一際大きな馬蹄が轟く。

「来たか!」

 ヨリチカが振り向くと、漆黒の甲冑を身に纏った一際大きな男が突出してきた。

「黒の超将軍と見た! 某はヨリチカ・マサダ!」

「我が名はデューク・ブラックライン。王のご意思で討ち取らせてもらう」

「こいやぁあああッ!」

 ヨリチカは大剣と大盾を構えて突貫。大盾の魔力吸収能力を発動。黒の超将軍はくぐもった声を漏らすが、メイスで地面を吹き飛ばす。

 ヨリチカの馬が衝撃で落命。ヨリチカは跳躍。魔力で足場を作り、黒の超将軍の背後へと回りこむ。

 が、魔導馬の後ろ蹴りに、大きく吹き飛ばされた。

 黒の超将軍は視線を彷徨わせ、マエカワ将軍を発見。足で魔導馬の腹を蹴ると、目標へと駆け出す。

 距離にして約二百ミール(約二百メートル)だ。

 対するマエカワは余裕の笑みを崩さない。

 魔力で矢を生成し、大きく引き絞り放つ。通常の矢の三倍の速さで駆け、黒の超将軍の胸板を完璧に捉えた。

 黒の超将軍は二つの武器を上空に投げ上げ、自身は走る魔導馬から下馬。馬に引きずられるようになったものの矢を躱す。

「そんな避け方があるか!」

 マエカワ将軍はたまらず叫ぶ。はっと我に返り頭上を見上げる。武器は魔導馬の進行方向に向かって落ち始めていた。

「まさか!」

 黒の超将軍は引きずられながらも、魔導馬に飛び乗り落ちてくる武器を掴み取った。魔導馬の腹を蹴って大きく跳躍。

 馬蹄でマエカワを踏みつぶさんと迫った。直前で馬から飛び出すように下馬。地面を転がってマエカワが自分の居た場所を見ると、先程まで乗っていた馬が上半身と下半身で折れていた。

 マエカワは背筋が凍る思いをする。少しでも遅れていたらと思うと、怖気が走るのだ。

 黒の超将軍と視線が交差した。

 ユミヅル・マエカワは叫ぶと、足腰に力を入れる。

「こいよや! 黒の超将軍さんよぉ!」

 弓を構えて矢を生成。

「お前とわしの勝負じゃ!」

 大きく引き絞る。

 恐怖はしても、それ以上にマエカワは高揚感に中てられていた。

 デュークは短く叫ぶと馬を走らせる。マエカワは狙いを定め、自分の持てる魔力を全てを注ぎ込む勢いで魔導具に込めていく。

 魔導具の弓が大きく展開。大弓よりも一回り大きくなり、弓の前方に円陣が三枚展開される。

 デュークはもちろん、マエカワですらその事態に驚く。

 引き離し、矢が放たれる。

 円陣をくぐる度に、光は増大。三枚目を超える頃には光の奔流となっていた。

 黒の超将軍は避けられないと判断すると、両の武器に魔力を込めて光と真っ向勝負。

 周囲を巻き込んだ大爆発が起こった。


 この影響で、両軍とも混乱に陥ったため、その日の戦闘は終わりを告げる。






「救出ですか?」

「そうよぉ」

 ソラの言葉にグラディスは面白そうに応える。彼らは場所を歓楽街の役所の一室に写していた。部屋にはソラ、グラディス、シャルロット、バーナード、アオイ。そしてカトリーヌ=ルだ。

 部屋の外ではレーヌが護衛している。

 金の姫将軍から、銀の姫将軍の救出の依頼を受けたのだ。

 しかもそれは金の姫将軍の個人的なお願いではない。

「勅命よ」

「腑に落ちないわね。自国の軍が負けるとでも思っていたの?」

 シャルロットは気に入らないと言い捨てる。

 結果的に見れば、自国の軍の負けを見越した申し出に見えたのだ。

「それは我が身命を賭けて言うわ。違うわ」

 いつもの間延びした言い方ではない。その言葉にシャルロットは面食らう。

 アップル皇帝の当初の想定は、グレートランドがマゴヤを撃退。前線基地に戻ったところを交渉に持ち込み。

 その裏でブランシュエクレールを使って、救出を行おうとしていたのだ。

「どの道、銀の姫将軍は交渉で取り返せないわぁ」

 でしょうねと返すシャルロット。

「お受けになってもらえないのかしら?」

 シャルロットは拒否しようとして、しばし考えこむ。

「見返りは?」

「銀の姫将軍と婚姻。というのはどうかしら?」

 グラディスは淡々と結婚すれば、ブランシュエクレールの影響力を、シルバーラインに与えることが出来ると言う。

「ちょっと待ちなさい」

 グラディスは冗談ですと提案を引っ込める。そして意味深にソラを見つめた。

「彼なら見合いますよぉ?」

 ソラはとんでもないと拒む。

「話の腰を折ります。まずお受けになるのですか陛下?」

 シャルロットは頷く。自身が春先には王位を退くことを考え、シャルリーヌならばどうするかと考えたのだ。

「それとその結婚は、皇帝も承知しているのでしょうか?」

「してないわよぉ。ただ一任はされているしぃ」

 銀の姫将軍がブランシュエクレールの男と結ばれれば、東の方面は安泰といえる。そうなればヴェルトゥブリエやグリーンハイランドの、物の流れはほぼ妨げられないと言っていい。

 ただ候補として上がった人物は客将であった。しかも流浪の人間である。

 グラディスもそれを理解して、すぐには決めようとしなかった。

「まあ、見返りは追々ねぇ」

 その言葉にシャルロットとアオイはほっと胸を撫で下ろす。それに気づかなかったのはソラだけである。

 目つき悪い少年は頭をかいてから、口を開く。

「お受けになるとしても、今すぐには動けません。マゴヤの警戒は今が一番強いでしょう」

 グラディスは頷き応える。

「収穫期に入る直前。そこが唯一の機会ねぇ」


 猶予は一ヶ月。






~続く~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ