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第五話「救出依頼」

第五話「救出依頼」






 夕闇が空を覆う。眼下に広がる戦場は敵味方が入り乱れていた、ノワールフォレの介入により、グレートランド軍の戦線の維持は難しくなったのだ。

 ではなぜマゴヤとノワールフォレの戦列が乱れているのか。

 たった三人の守護将軍によって、彼らの計画は崩れたのである。

 マゴヤの当初の予定では、スミレが駆け上がっているはずであった。しかし、黄昏の姫将軍との戦いが長引いていたのだ。

 別の戦線から駆け上がったマゴヤの兵士たちも、ひとりの守護将軍に足止めさせられていた。

 彼の眼前には躯が山を築く。

「黒の超将軍だ~! 逃げろ!」

「馬鹿! 回り込め! 回りこむんだよ!

 黒き甲冑を全身に着込んだ大男。右にメイス。左に大剣。どちらも片手で保持。そしてその男に似つかわしく、他の軍馬よりも二回りも大きな軍馬。否――。

「あれが噂の魔導馬か」

 軍馬には血が通っておらず、その体躯を巡るのは魔力だ。緑の光を放つ。魔導具と同じく造られた馬だ。故に通常の矢や槍を弾く。

「両手のも魔導具だぞ!」

「どれが守護将軍の魔導具だよ!」

「どれも同じだろうが!」

 マゴヤの兵士たちは、及び腰で槍を構える。黒の超将軍は足で魔導馬を蹴り、突撃。

 漆黒のメイスが振り下ろされ、兵士ごと地面を破裂させた。緑の魔法陣が地面に広がる。来るぞと叫ぶマゴヤの兵士たちは駆け出すが、直後に地面が爆ぜる。土埃と土砂、血飛沫が舞う。

 怒号と叫喚が響き渡る。辛うじて戦意の残した者たちが戦列を組み直し、槍を突き出す。しかし、魔導馬がそれを横に飛び跳ねて躱す。黒の超将軍は左手に持つ大剣を振りぬき、マゴヤの兵士たちを断つ。

 その光景を眺めていたマゴヤの兵士たちは、我先にと逃げ出す。漆黒の超将軍はそれを追撃。メイスと大剣を振り回し、馬蹄で敵兵を踏み砕き、屍を増やしていく。

 これに対してヨリチカは飛び出そうとしたが、考えなおし後退を決定。

「マナ信号を打ち上げろ」

 乾いた破裂音と光が戦場を照らす。ヨリチカを筆頭に後退していく。追撃しようとしたのは銀の姫将軍の手勢と東方騎士団の軍勢だ。

 彼らの前に黒の超将軍は回り込み、制止の声を上げる。

「退け! 退くのだ! シルバーラインを放棄する! 撤退の準備をせよ!」

「ここを棄てるのですか!」

 マルヴィナはたまらず抗議し、反対した。

「ノワールフォレの軍が横合いから突いてきた。後詰のストロベリー殿下が抑えてくれているが、そうは保つまい。兵力を集結し、民を守るのだ」

 言い残すとデュークはその場を去った。エレン――黄昏の姫将軍の援護に向かったのである。

 程なくして彼らも渋々と後退した。




 ストロベリーの軍は思わぬ援軍により、戦線をなんとか維持する。

 備えていたとはいえ、三万という大軍勢。

 そこへ金の姫将軍が単騎で現れ、ノワールフォレ軍を横合いから強襲。敵の勢いを大きくそぐことに成功する。

 大鎌が黄金の光を閃かせば、敵兵の首が舞い。戦斧を振り下ろせば人馬もろとも血肉と化し、槍となれば敵を胸板から真っ二つに貫き割る。

 縋を振りぬき地面が破裂。衝撃波が緑の波紋となって、地面を伝わり波打たせると周囲のノワールフォレの兵士ごと吹き飛ばす。

 彼女の衣服には血や泥に汚れていない。綺麗なままを維持していた。

 ノワールフォレの動きが変わる。金の姫将軍はそれに対応しようとせず、相手の出方をただ眺めるだけだ。

 敵兵を指揮する者が大口を開ける。

「矢を射よ!」

 弓兵が戦列を作り上げ、弓を構えた。狙いは金の姫将軍。

「放て!」

 金の姫将軍は無表情で迫る矢の雨を一瞥。

「あーあ。つまんない」

 いつもの間延びした口振りではない。冷淡で吐き捨てるように言う。

 黄金の矛先が盾を象る。それは徐々に大きく広がっていく。

 黄金の傘が矢を弾いていく。ノワールフォレはすぐに次を射放つが、どれも傘に当たると弾かれていく。

 衣服に傷と汚れはない。それでも彼女はスカートの裾をつまんで、汚れがないか確認。

 鼻で息を吐くと、踵を返し前線から歩いてストロベリー軍の戦列に戻っていく。

 この行動には両軍も唖然としてしまう。

 兵士たちの間をすり抜けて、彼女は黄金の傘をしまうと布をどこからか取り出し、くるんでいく。

 言外に自分の仕事は終わったと言う。

 馬が近寄り馬上で金髪碧眼の男が叫ぶ。

「おい! 戦えよ!」

「鈍い。次の行動に移りなさい」

 それだけ言い捨てると、金の姫将軍は戦場から離れていく。ストロベリーはその背中を見送りながらしばし考えこむ。自身では答えが出ないと判断し、ヤマブキを探す。

 黒いローブ覆われたひとつ目。裾から覗く手は機械のような手。その珍妙な存在はすぐに見つかる。

「ヤマブキ! 聞いていたか?」

 ヤマブキは頷くと、現状の戦線の維持を提案。納得がいかないとストロベリーは首を振った。

「どうしてだ?」

「ノワールフォレの介入は予想外です。このまま戦えば泥沼化は避けられないでしょう。シルバーラインを放棄し、戦線を後退させようと動くはずです」

 ストロベリーは舌打ちすると、そうするように兵士たちに命令を飛ばす。

「怒ってらっしゃいますか?」

「怒っている! だが、それはこの事を予見できなかった自分にだ」

 ヤマブキの問いにストロベリーはふんぞり返る。

 この後、見事戦列を維持したストロベリーは、シルバーラインの民の脱出を補佐。メロン第一皇子とオレンジ第三皇子の撤退の時間を稼ぎ、黒の超将軍と黄昏の姫将軍と共に後退していく。

 シルバーラインがグレートランドの手に落ちたのは、明朝のことだ。






 そして時を同じくして、マエカワ将軍を筆頭としたマゴヤ軍は、ブランシュエクレール軍と最初の戦闘を行っていた。

 マゴヤの騎馬隊は山道を駆け抜けていく。両脇から矢が放たれるが、今回の騎馬隊は重装。馬にも甲冑をあてがい、矢を弾いていった。

 マエカワ将軍は魔導具の黒い弓を構え、緑の光を放つ矢を同じく緑の光を放つ弦で引き絞る。

 鷹のように鋭い瞳は、約一キール(約一キロ)先にいる少女を捕捉。

 乾いた音が響く。

 約一キール(約一キロ)から放たれた矢は、陣頭指揮をとっていたシャルロットの頭を寸分違わずに――。

 マエカワは直後の光景に目を見張る。

 魔力でつくり出した矢が大きくブレ、勢いを落としたのだ。シャルロットは勢いを落としたこともあったが、超速で反応して霊剣を振るう。魔力で出来た矢を雲散霧消させた。

 マエカワ将軍は確認のため、一息で矢を三本射放つ。どれも先ほど同じ現象を起こし、大きくブレ、勢いを落としてはシャルロットに弾かれていく。三本目はそれまでの二本と違いブレも勢いの落ち方も、大きかった。

 驚いていると突撃した騎馬隊が、大きな壁に阻まれる。飛び越えることも出来ず、たたら踏んでいる間に緑の光に射抜かれていく。

「なんと!」

 高さ三ミール(約三メートル)の壁。木の壁の表面に板札が蝶番で止められている。

 マエカワは視力を魔力で強化し、山道を見渡す。

 緑の光――魔力で糸が張り巡らされており、そこから四方八方にマナの光弾が放たれていた。

 マエカワ将軍はすぐに撤退を決意。マナ信号を打ち上げると、撤退を開始する。

「勢いを削ぐつもりが、こちらが圧倒されるとは」

 将軍の小さくつぶやく。






「陛下。後はこのヤリノスケ・サナダにお任せください」

「待て待て! この壁盾を作ったのはわしじゃ。ここはこのガエル・ブークリエ宰相にお任せください」

 二人の老人は隣の男を睨みつける。そんな様子にシャルロットは小さく笑う。

「宰相は下がって国の執務を行え!」

「なんじゃとー!」

「お主こそなんじゃ!」

 ようやくシャルロットが手を叩いて、それを制止に入った。

「ではお二人にお願いするわね?」

 えー。と二人は隣の人物を指さし、自分こそがと主張する。

 春先より元気の良さにシャルロットは笑う。

 二人は内乱が起きた時には表立って動かなかった。

 当初はシャルロットが死んだと聞いて、意気消沈していたヤリノスケはシャルロットと合流を果たしてから、力を貸し。ガエルは最後まで様子見を決め込んだ。

 ガエル・ブークリエはそれが仇となり、領民に非難を浴び自身の決断力のなさから隠居を決め込んだ。

 それを引き止めたのが、シャルロットと、今は亡きムライ宰相である。

 ムライの遺言に自分がもしもの事があった場合は、後任をガエル・ブークリエにと記入してあったのだ。

 ムライの遺言も手伝って、宰相の職に就いた。

 歓楽街の話を機に、それまで失っていた気力と活力が戻りはじめ、今では誰よりも競争心をむき出しにする宰相となったのである。

 それに感化されるように、ヤリノスケも対抗心を燃やし、今も言い争っている。

「「わしの方がこいつより凄いわ!」」

 シャルロットははいはいと、ブークリエ宰相に指揮を命じ、その補佐にヤリノスケを命じる形で終息させた。

 最初こそ渋々だったヤリノスケも、すぐに気持ちを切り替える。

「じゃあ、お言葉に甘えて後方に下がるわ」

 言いながら馬に乗り込むと、あと大きな声を上げて振り返った。

「まだ暑いんだから、ちゃんと水分は摂りなさいよ」

 二人は恭しく頭を垂れて応える。

「お心遣い痛み入ります」

 ガエルは言いながら、深々と頭を下げた。それを茶化すのはヤリノスケ。

「ガエルのようなヘマはしないから安心せい」

 老武者は意地悪く笑う。

「な、ん、じゃ、とー!」

「お主は昔暑さで倒れたことがあっただろう! かっこつけて我慢大会なんて開くから――」

 二人の言い合いを尻目に、シャルロットは駆け出す。




 明日シャルロットが歓楽街に辿り着くと、ソラたち一行と合流する。そしてそこにグレートランドの守護将軍がひとり。金の姫将軍の姿もあった。

 他国の人間とはいえ、歓楽街の設置に一部噛んでいる彼女。いること事態は普通なのだが、金の姫将軍としての役割がそれを異質にさせる。

 金の姫将軍――グラディスはシャルロットに恭しく頭を垂れると、口を開く。

「お願いがありましてぇ来ましたぁ」

 彼女は周囲の目を気にも留めないで言う。

「銀の姫将軍の救出のぉ、お手伝いをお願いしたいのですぅ」






~続く~


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