表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/672

第三十話「戦い終わって」

第三十話「戦い終わって」






 シャルロットは目を覚ますと、見慣れない天井が飛び込んできた。しばらくの間、ぼんやりと眺めていたが、すぐに目を点にすると飛び跳ねるように起き上がった。

 窓の外は青空が広がっている。

 一生懸命思い出そうとしたが、ぼんやりとした頭では霞がかかって思い出せない。

 部屋を飛び出そうとして、ネグリジェだけを身に纏った格好だと気づく。

 部屋を見渡すと、ベッドの横に霊剣。側にある机に籠手が置いてあった。

 タンスに手をかけるが衣服はない。

 シャルロットは困ったとつぶやいて、布団を羽織ろうかと思案する。すると扉が叩かれ、返事をする間もなく開けられた。

 人の耳の位置に垂れ下がったウサギの耳を持つ、バニーハイランダー。その族長であるブランディーヌが戸口に立っていた。

「失礼しました陛下」

「気にしないで」

 彼女の手には、シャルロットの着替えが綺麗に畳まれていた。

 ブランディーヌは慣れた手つきで服を広げ、シャルロットも何も考えずに着替えを手伝わせる。

 終わった頃に疑問を口にした。

「貴方こんなこと覚えてたの?」

「シャルリーヌ様がご滞在の間に覚えさせていただきました」

 そうとシャルロットは応じると、改めて布団を見て桃色の布団にシャルリーヌの部屋かと理解する。

「ここは?」

「歓楽街にございます。戦勝で皆宴を催しております」

 戦勝という言葉に勝ったのだと、胸を撫で下ろす。そこで仔細を聞かされた。

 マゴヤの軍勢が見えなくなるとシャルロットは意識を失ったのである。霊力を大量消費による気絶であった。

 敵の損害は五千。捕虜は二千人である。ほとんどが混乱の時に生じた同士討ちであった。

「こちらの犠牲者は?」

「死傷者は約五百人です」

 シャルロットは歯噛みする。

 すぐに他種族の犠牲者の名前を列挙させた。ブランディーヌは首を傾げたものの、すぐに答える。

「その人達の名前を石碑に刻んで、歓楽街の中心に置いてもらわないとね」

 ブランディーヌは目を白黒させた。

「奴隷ですよ?」

「国民よ」

 しれっと答えるとシャルロットは頭をかく。その仕草に自身で顔を赤くして、手を払って毛先をいじる素振りに変えた。

 ブランシュエクレールは移民を奴隷という形で受け入れている。もちろん例外も多々あるが、奴隷という位置づけであっても人ではないと、一言も言及していない。

 改めてそれを言うと、ブランディーヌに背中を向ける。

「それに、今回は私達の身勝手な戦いに巻き込んだのよ。これくらいはして然るべきよ」

 ブランディーヌはあと応じて、籠手を眺めた。

 再び向き直ったシャルロットは、籠手を手に取りブランディーヌに差し出す。

「ありがとう。助かったわ」

 ブランディーヌはため息をつくと、それを押し返す。

「私たちでは使えません」

「これは貴方達の宝具でしょ?」

「道具は使える人にこそ相応しいのです。王命というなら割腹して拒絶します」

 シャルロットは頑固だなと言って、それを左の前腕につけた。

 バニーハイランダーの族長は、胸中そっくりそのままお言葉を返しますよとつぶやく。

「さてと、事後処理をしないと」

「それですが、ブークリエ宰相が行うので、休むようにとおっしゃってました」

 何でもかんでもやろうとするんじゃない。という言葉と共に白髪の宰相は、今も歓楽街を奔走していた。

 シャルロットはでもと言ってから、かぶりを振る。

 たまには甘えよう。そう考えると、ブランディーヌに付き従うように命じて、部屋を出る。






 マゴヤの軍勢は最後の軍団が城に辿り着く。疲労困憊なのか、辿り着いた者たちは、着の身着のまま、その場に倒れこむ。

 それを先に帰還していた者や、城の留守を預かっていた兵士たちが運び。寝かしつける。

 ヨリチカの側近。トシイエ・マエダは自身の主君。ヨリチカが居ないことに気づく。慌てて探しまわるが姿が見つからない。

 スミレの姿を見つけて、問うが、わからないとかぶりを振られた。

「そんな……」

「それより、殿に書簡を送って頂戴。急いで援軍の要請よ」

「それはすでに済んでおります」

 トシイエは最悪の事態を想定して、ヨリチカたちが出ると同時に、本国に書簡を飛ばしていた。

 スミレはよくやったと頷き、トシイエを誘惑するが彼は顔を真赤にして拒絶した。

 彼女はちぇっとつまらなそうにすると、後の事を自身の側近とトシイエに任せる。城の自室に戻ろうとした時、騒ぎが起こった。

 ヨリチカとミツヒデが帰還したのである。

 ミツヒデはヨリチカに支えられての帰還であった。スミレは血相を変えて駆け寄る。

「何が?」

「黙れ! 黙れ……」

 ヨリチカは馬から降り、ミツヒデを抱え降ろす。ヨリチカは血で真っ赤に染まっていた。それは自身の血だけではなく、ミツヒデの血で染められていたのだ。そしてその量もミツヒデの方が多い。

 息は弱々しく、顔は蒼白していた。城内は騒然となる。その騒ぎにミツヒデは意識をはっきりとさせる。

「お? おお……。着いたのか」

 ヨリチカはああとだけ応じる。

「そうか……。クロダはおるか?」

 クロダは駆け寄り、ミツヒデの前で片膝をついた。

「よく働いてくれた。息子の補佐を頼むぞ」

「命に代えても」

 クロダは涙をこぼしながら、頭を垂れる。それに満足そうに頷いたミツヒデは、助けた少年の足軽を発見。手招く。

 少年は脇差しを差し出す。

「持っておれ。格好がつくぞ」

 少年にも同じく息子に仕えるように頼むと、次はスミレを見つめる。

「息子に手を出すなよ」

「向こうから手を出すかもよ」

 ミツヒデはクロダに、息子に近づけさせるなと厳命。最後にヨリチカを見上げる。

「酒を持ってこい」

 ヨリチカは言うと、トシイエは慌てて城内に駆け込んだ。

 その間二人は黙って見つめ合う。沈黙が生まれ、すすり泣く声があちこちで漏れだす。

 二人の間に風が吹き抜ける。

 二人は共に戦場を駆け抜けた日々を思い出していた。文句を言い合いながら、敵兵を倒し、マエカワに仕えた日々。

 程なくしてその沈黙をトシイエが打ち破る。

 何も言わずに杯を二つ出し、酒を注ぐ。その手は振るえており、多量にこぼれたがヨリチカもミツヒデも気にしなかった。

「旨い酒だ」

「もう一度戦場を……一緒に……」

「もう一度立つのだ」

「殿に……謝っておい……くれ」

「お主が……自身で謝るのだ」

 ミツヒデは小さく笑う。

 杯を交わすと、二人は酒を口に運んだ。しかし、ミツヒデは口から酒をこぼすと、そのまま力なく杯を地面に落とす。

 ヨリチカは杯を地面に叩きつけた。ミツヒデを抱きかかえると、大口を開けて泣き叫ぶ。






 ブークリエ宰相は捕虜を商人に引き渡す。

 奴隷市場は供給過多のため、二束三文にもならなかったが、面倒を見てやるほど慈悲はくれてやるつもりはなかった。

 逆に奴隷を買ってくれと言われたので、目付きの悪い少年に買わさせると口約束をする。もちろんソラには許可をとっていない。

 シャルロットがブランディーヌを連れてやってきたのを見て、宰相はため息をつく。

「ここはお任せください」

「任せる。ただの見回りよ」

 ブークリエは驚いた後、すぐに取り成し頭を垂れる。

「一応報告だけ聞かせて、そしたらゆっくり休ませてもらうわ」

「承知いたしました」

 遠出している貴族を含めて歓楽街に一時的に滞在。兵士たちに棒給を与えて歓楽街で娼館や食事処に足を運んでいる。

 アソー子爵やミュール伯爵はすでに自領地に戻って、政務を行っている。

「トゥース公爵令嬢は現地に留まり、後処理を行っております」

 山道の補修やアラクネの糸の撤去。亡骸の埋葬などを引き受けている。

「常設軍の代表なんだっけ?」

「ソラ殿がいない間のですが」

 彼女はこれからしばらく多忙となるだろう。そうブークリエ宰相は言う。

 常設軍を運用しての反省点のまとめ。出した損失の補填やらの庶務が山のようにあるのだ。

 それらを一手に引き受けているのである。

「早く帰って来いソラは」

「無茶を言いなさるな」

「終わったのだから、もう帰って来るべきだ。というかフェリシー変なことをしていないだろうな」

 変なこととはなんだとブランディーヌが聞くと、シャルロットは耳まで顔を真赤にして、ゴニョゴニョと言葉を濁す。

「なんでしょうか?」

「なんでもないわよ!」

 シャルロットは叫ぶと、荒々しい足取りで歩き出してしまう。それを慌てて追いかけるブランディーヌ。二人を眺めたブークリエ宰相は、苦笑いをして青空を仰ぐ。

「これで収穫期まで凌げるかのぅ?」






~続く~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ