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第二十一話「決着」

第二十一話「決着」






 フェリシーは戦いが終わると同時に駆け出す。

 約二十ミール(約二十メートル)の高さを誇る壁。そこから飛び降り、華麗に着地。手には黄金の剣。普段は見せない鬼気迫る顔で全力疾走。揺れる乳房を抑えることもせず、ジャンヌの元まで駆け寄ると、黄金の剣を抜いた。

 その瞬間背筋が寒くなる程の殺気を、周囲に振りまきながら黄金の剣が振りぬかれた。

 ソラは咄嗟に剣を素手で受け止めた。真剣白刃取りである。

「へ、陛下?!」

「ジャンヌが! ジャンヌが!」

 フェリシーは顔を真赤にさせて目の端に涙を浮かべていた。

 周囲の人間は唖然となって、見てしまう。ノエルも呆気に取られていた。

「何を?」

「キス! キスです! キスしたんですソラと!」

「ジャンヌを取り戻したかったんですよね?」

 突然の事態にソラは声が上ずる。彼は突拍子もない出来事に、混乱していた。蒼穹の姫はフェリシーの嫉妬を理解して、笑う。

「蒼?!」

「ちなみに陛下。もろもろの初めては私が全て頂いているので」

 フェリシーは涙目になって、左手をあーとかうーとか言いながら振り回す。

 ソラの背後から呻くような声が漏れ出る。ようやくフェリシーは剣を収めて、ジャンヌに駆け寄った。

「ジャンヌ? ジャンヌ! わかりますか?」

 ソラは一応身構える。蒼穹の姫は大丈夫だとソラの背後を浮きながら胡座をかく。

「あ、う? フェリシー……に、ソラ」

 ジャンヌは顔を抑えて、混乱する記憶を整理していく。そして顔を上げると、目付きの悪い少年が視界に飛び込んでくる。

 ジャンヌは煙が出るのではないかと思われるほど、顔を真赤にさせた。顔を俯かせて、小さくソラにお礼を言う。

 フェリシーの手は自然と黄金の剣に伸びる。見かねた蒼穹の姫がフェリシーの右手を掴んで、ソラの左手に添わせた。

「はいこれで引き分け」

「そ、そんなキス。せめてジャンヌの次でいいので」

「ま、待ってください。陛下は操られてません」

 そうじゃないと叫ぶフェリシー。

「陛下。外にまだ敵兵が」

 ノエルは慌てて駆け寄り、緑の錫杖――魔導具ヴェルトゥブリエを差し出す。それを受け取った時点でフェリシーの顔は年頃の少女から、王の顔へと変わった。

「ジャンヌ。罪の意識があるのなら、改めて私に仕えなさい」

 ジャンヌは逡巡した。差し出される黄金の剣に手を伸ばしたものの、受け取れないでいる。

「私は汚れました」

 ジャンヌは念じると、広げた両手から黒い影泡が現れる。程なくして先ほどまで使っていた漆黒の剣が現れた。

「もうフェリシー――いえ、陛下の側にいることは……」

 ジャンヌは三年前から王都の事情は知らないでいた。が、フェリシーとノエルのやり取りで全てを察した。そして洗脳されていた間の記憶を頼りに、現王がフェリシーだと理解したのである。

 そして三年前から彼女は魔の力に魅せられている。今も、彼女は武器を呼び出してみせた。これにはノエルも警戒心をむき出しする。

 しかし、それを否定するように黄金の剣が輝く。

「ほら、この子も貴方がいいって。それに、二本使うのはなしかしら?」

 フェリシーは柔らかく笑う。

「黄金と漆黒。その両方を使うことが出来る。それが今の貴方よ――ジャンヌ」

 肩に届くくらいの頭髪になってしまったが、フェリシーはその毛先を嬉しそうに撫でる。

「ソラさんどうかしら?」

「似合っています。俺はそっちも好みですね」

 まあと笑ってフェリシーはお礼を言う。その背後でノエルは歯ぎしりするくらい、口を食いしばり、悔しそうに顔を歪ませた。

「それに、罪を背負っているのは私も同じ。二人で一緒に返しましょう?」

 改めてフェリシーは黄金の剣を差し出す。ジャンヌは一瞬ソラを見てしまう。

「今の貴方もジャンヌさんです。だから、信じてください。ご自分を。そして仲間と陛下を」

 ジャンヌは改めてフェリシーを見上げる。

「今一度問います。貴方の望むのは?」

「この神木のように、この国を強く大きくさせたいの。その恵みをみんなと分かち合いたい。失敗したり、間違うかもしれない。でも、だからこそ側で見ていて欲しいの」

 ジャンヌは恭しく頭を垂れる。

「我が全身全霊を賭けて」

 フェリシーはジャンヌ両肩に剣の腹をあて、鞘に収めるとソレを差し出す。受け取ったジャンヌが立ち上がると、笑顔のままフェリシーは言う。

「ソラさんとキスしましたよね?」

「い、いいではないですか。あの時は陛下が美味しい思いをしました。今回は私の番です」

「いいえ許しません。キスのことも含めて、近衛中将の任は解きます。代わりに私の相談係兼護衛ね」

 ノエルは彼女の背後で顔を抑えこんでつぶやく。それは近衛中将とあまり変わらないのではと。

 ソラは彼女らの会話はすでに耳に入っておらず、神木を見上げていた。

「どうかしたのかしら蛮族」

「藪から棒になんですか?」

 桜色の頭髪の神官――カノン。彼女は銀の布を羽織ってやってきていた。

「神木に敵を叩きつけたり、蹴っ飛ばしたのですから蛮族です」

「すいません。そうしろって木が言うもんですから」

 カノンは口をあんぐりと開けて、ソラを見つめた。

「頭でも打った?」

「いや、違うんですよ。聞いてください」

 敵襲という声でソラは切り替わる。駈け出し、迫る敵兵に手斧を投擲。頭部に命中し敵兵は絶命する。

「潰走しているとはいえ、油断は出来ない。ソラ殿、門の死守お願いします」

 ノエルの指示にソラは頷き応じる。

「異教徒共がァ!」

 ノエルはその言葉に誰よりも早く反応。禿頭の男ゴドウィン大司祭。

 馬を繰り、少ない手数で突撃してきたのだ。少数によるフェリシーの首を狙った突撃。誰の目にも成功しないとわかっていた。それでもゴドウィンはソレ以外の方法を取ることを許されないのである。

 ノエルは馬に乗って迎撃に出た。いや、決着をつけに出る。長剣を抜き放ち、剣戟。鉄がたわむ音が響き合う。即座に数撃を交わす。

「お前はこのノエルが倒すのだ!」

「洒落臭いわ!」

「陛下への侮辱を許せんと言っているのだよ!」

 激昂を伴う一撃。ゴドウィンの長剣ごと顔面を縦に断った。ゴドウィンは落馬して絶命する。

 ソラはもう一度龍の超戦士となって、ゴドウィンの手数を緑の風で引き裂く。そして壊れた門の前に立ち塞がる。その側にはタカアキ、そして復帰したばかりのジャンヌである。

 その姿に敵兵は門を突破することを諦めて、降伏していく。

 程なく、フェリシーの魔導具の助けもあって、外と内からの完璧な挟撃で、あっという間に反乱連合軍は追い詰められ、プリュトン侯爵他二人の貴族も捕縛することに成功する。






 歓楽街は大枠だけは完成していた。後は中の建物だ。

 ルミエール、トゥース、ミュール、アソーの四つの領地から、募った入植者。また、三大商人と金の姫将軍が連れてきた奴隷や人々も、必要な建物。割り当てられた区域で、どうするかを話し合う。

 隣接した場所に広大な平原がある。そこは四領地の合同常設軍の敷地であった。そこに大量のクロスボウと専用の矢が運び込まれる。

 シャルリーヌは物珍しそうに眺める。

 今の歓楽街の責任者はシャルリーヌになっていた。海上都市の練習になるからと、シャルロットがソラの補佐を命じたのもあったが、現在そのソラは他国に出ていた。

 またブークリエ宰相も今はこの場に居ない。彼はホワイトポリスに出向いていた。

 一度ホワイトポリスの立地を確かめるために、向かったのである。

 また他の三貴族も、もろもろの事情でこの場には居なかった。

「どうしてこんなに?」

「第一騎士団の皆さんが買ってきた、クロスボウですね」

 シラヌイの問いにシャルリーヌは思い出しながら語る。

 以前ロートヴァッフェから助力を打診されたのだ。その際にソラが知恵を貸したのだが、それが功を奏したのである。

 第一騎士団は無事にロートヴァッフェの殿下を護衛し、かつ物資も届けてエメリアユニティからボウガンを買い付けて、ここに舞い戻ったのである。

「なんでも、女性だけで作る部隊の主武装です」

 シラヌイはひとつを手に取る。

「これ、まだ外の国に出回ってない型だわ」

 シャルリーヌはそうなんですかとシラヌイを覗きこむ。

「シラヌイさんは私より物知りです。凄いです」

 無垢な笑みを向ける。シラヌイは頭をかいて照れ隠しした。そして顔を暗くする。

「戦争が始まるんですね……」

「殿下、その顔は身内だけに見せてくださいね」

 シラヌイが頭を撫でると、シャルリーヌは嬉しそうに目を細める。

「後はソラさんさえ居てくれれば」

 ため息混じりに言った言葉。

 殿下とカトリーヌ=ルが呼んで駆け寄る。

「陛下がお呼びです。王都へ戻ってください」

 シャルリーヌとシラヌイは顔を見合わせる。






~続く~


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