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第十九話「王都攻防戦終幕」

第十九話「王都攻防戦終幕」






「戦争は始めた瞬間に終わりを考えねばならないのです」

 ソラはそう言うと地下水路を歩いて行く。その背後にはフェリシー。彼女は小さく頷く。

 水路は汚く、苔やカビ。埃や泥にまみれていた。おまけに外の光が入り込まないた暗い。それを照らすのが、フェリシーの魔導具ヴェルトゥブリエ。緑の錫杖だ。歩くたびに鳴ってしまうため、先は布で覆われている。その先から、緑の光が球体となって出現。浮遊し闇を照らす。彼らの視界を確保していた。

 二人は申し訳程度に口元を布で覆っている。が、効果がどれほどあるのかわかったものではない。

「掃除しないといけないですわね」

「その前に空気の通りを確保しなければ」

 フェリシーは頷き、魔法で風を送り込む。敵に気取られる可能性を考慮したが、見つかりに行くのだから同じことである。

 先の話し合いの元、ヴェルトゥブリエとグリーンハイランドの戦争は終わりを迎えた。

 グリーンハイランドの求めていた港を、ブランシュエクレールが一部使用を貸し出すことで、終わらせたのである。

 一見ブランシュエクレールが損をしたように見受けられるが、物流が増えることを考えるとそうでもない。

 また、この後のマゴヤとの戦を考えると、ヴェルトゥブリエの戦力は必要不可欠である。そこにグリーンハイランドも加われば、ブランシュエクレールとしては港の使用権を貸し出すことは安いのである。

 グリーンハイランドは外への物流は非常に制限されていた。

 周辺国に出荷するにしても、東はリヒトヒンメル帝国。北はオプスキュリテコンギッド帝国。どちらもグリーンハイランドの物流を必要としていなかった。西の同盟国のグレートランドに出荷する時は、隣接している貴族が法外な税を求め、それを支払わねばならなかったのだ。

 結果、グリーンハイランドはモノがあっても、売る相手がいない状況になっていたのだ。

「我々は織物と酪農。向こうはそれを欲していなかったのです」

 南のヴェルトゥブリエとは宗派の違いもあり、また互いに欲しているモノが食い違っていることから、積極的な交流がなかった経緯がある。

 ヴェルトゥブリエの欲する木材は、比較的に容易にノワールフォレから。レンガなどはリヒトヒンメル帝国から、買い取っていたのである。その他は飛び地ではあるが、ブランシュエクレールから買い取っていたのだ。

「グレートランドも交流を持たせないように、あれこれ仕込んでいたかもしれませんね」

 ソラの言葉にフェリシーはそうかもしれないと応じる。

 グレートランドからすればグリーンハイランドから、金を巻き上げたいのだ。自分たちのところにしか、売り物を出させないようにして、法外な税で私腹を肥やす。

 そのためには南のヴェルトゥブリエと仲違いさせるのが一番である。

「今回の戦争もグレートランドの思惑が動いているはずです」

「それを早急に回避できたと思うことにしたいわね」

 それでもフェリシーは納得がいかない様子だ。自国を踏み躙られたのだ。挙句神木を三つも失った。

 それを行ったのは、他でもないグリーンハイランドである。

 彼らはそれを詫びたが、それでも彼女の感情は収まらない。

 幸いそれを行った者は独断である。その者を討ち取ることをグリーンハイランドは許可し、逃げたとしても差し出すことを約束した。

「それでも燃やしたのよ」

「辛いですね」

「人が、多くの人が夏を越せなくなってしまった」

 ソラは聞くに留め、時折相槌を打つ。解決策などは言い出さないように務めた。

 三つのデューアルブルから逃げ出した人はどこへ行ったかわからない。死んだり、他国に流出した可能性もあった。どちらにせよ人材が失われたことには変わらない。

「駄目ね。どうすればいいのかしら」

 フェリシーの気が晴れたのを見計らってソラは口を開く。

「領地を割譲しあうのはどうでしょう?」

 フェリシーはオウム返しをする。それをソラは振り返らずに頷く。

「もっと後の話になりますので、とりあえずこれは置いておきましょう」

 彼らは中央に立てこもっているヴェルトゥブリエの軍と合流を目指していた。

 秘密裏にグリーンハイランドと繋がることが出来たのだ。後はヴェルトゥブリエの反乱分子と、ゴドウィンを討ち取ることでこの戦争は終わりである。

「それとジャンヌを」

 ソラは頷く。小さな麻袋を取り出す。丸薬があることを確認する。

「急ぎましょう」

 しかし行く手を太い木の根が遮った。

 どうしようと二人が困っていると、突如木の根が動き始めた。周囲の壁や天井を崩しながら、根が動く。

 あまりの事態に二人は言葉を失う。

「道? 道を作ってくれているの?」

 ソラは木の根が作った穴を覗き見る。

「緑の光?」

「私の魔法かしら?」

 そうかとソラは納得しかけて腑に落ちない。

 ――さっきから覗き見られている気が。

 そんなソラの胸中を察するように、蒼い指がうっすらと輝く。

「それにしても、やはり神木ですね」

 ソラはフェリシーに笑いかける。

「ええ、我らが信仰するのはオルフォール様とこの神木。そしてエクレール様です。あ、他にもおりますよ?」

 嬉しそうに笑うフェリシー。自分たちを手助けしてくれる神木に勇気を貰ったようである。

「勝つわ。勝って取り戻す――全てを!」






 ディオンは数人の制止を振り切って厳重な扉の前に立った。

「使うのか?」

「近衛大将なのだから、使っても問題ないだろう」

 ノエルの問いにディオンはぶっきらぼうに答える。

「だから責任は――」

「俺達二人でだ」

 ノエルの言葉に数人が反対を示す。しかしノエルは聞く耳を持たない。

「あの魔導具はジャンヌ様の。フェリシー様もそうだと」

 年老いた高官が二人を止めに入る。

「だから、俺の! この近衛大将の俺の責任で使うと言っているのだ!」

「カッコつけるな。俺とお前の責任で使うんだ」

 すでに中央はいつ突破されてもおかしくない状況だった。

 ここ数日押され気味だったのである。原因はジャンヌの単騎駆。これだけでヴェルトゥブリエの士気は落ちていた。

 かつての大英雄。それを敵に回すことを、友軍も民衆もよしと出来なかった。おまけに声高らかにジルドと名乗る人物が、洗脳したと言いふらしていたのだ。

 一見自己顕示欲の塊のような言動。しかし、それだけで兵士たちの攻撃は、迷いを産んだ。

 ノエルの取り戻したいという言葉もあって、迷いに拍車をかける。ディオンもそれが痛いほどわかっていた。

 そんな中、ディオンは一か八かの賭けに出ることにしたのだ。

 宝物庫の扉が開かれる。中央の石台に剣が立てかけられていた。黄金に輝く剣。

「かつて、この剣を使っていたのだから、この剣を見てなにか思うはずなのだ。そうでなければ、倒す」

 ディオンは苦悶に満ちた表情で黄金の剣を見やる。天使の翼を模した鞘に収められている。

「気負うな。陛下もわかってくださる」

 黄金の剣を手にとった時、呼応するかのように輝く。それと同時に叫び声が響く。

「来たか」

「未だに主はジャンヌか」

 ディオンは少しだけ顔を俯かせると、大きく息を吐いた。

「参る」

 ジャンヌの単騎駆を皮切りに、総攻撃が始まる。プリュトン侯爵とゴドウィンの連合軍。この時はまだノエルたちはグリーンハイランド軍としてしか認識していない。

 しかし、すでにアーマンからもフェリシーからも、反乱連合軍と名を打たれていた。

「ええい。ジルドめ! また勝手に!」

 プリュトン侯爵は忌々しいと叫ぶと、周囲の者たちに問う。

「地下水路はどうなっている?」

「攻略に戸惑っている模様です」

 ここ数日ジルドたちは攻撃を勝手に始めては、勝手に終わらせるのだ。完全に振り回されているのであった。

「あの変態め! フェリシーが来るのを待っているというのか!」

 だがその杞憂もまもなく終わる。分厚い鉄で来た門。そのひとつが壊れようとしていた。

 あと少しだとプリュトンは笑う。

 中では激しい攻防が繰り広がられていた。

「ジャン! 急げと言っている!」

「これ以上早く動けるかって言ってんの!」

 タカアキの言葉に反論しながら、ジャンは目にも留まらぬ突きを繰り出す。しかし、買わされてしまう。

 ジャンは長剣を数本持っていた。剣を数度受け止めると、長剣は折れる。折れた先からジャンヌに向かって投げ捨て、次の長剣を取り出す。漆黒の影が刃となって飛んでくるのは、一撃のもと砕け散る。

「刃が歪んでいるじゃねぇか!」

「玄人みたいなことを!」

「玄人だよ!」

「乞食だろうが!」

「戦っているだろうが!」

 タカアキとジャンは文句を言いながらジャンヌを抑えようとしていた。しかし、四方八方から飛んでくるマナの光線も、目の前で繰り出される突きも、息を乱すこと無く避けていく。

「当てろ下手くそ!」

「こちらの言葉だ!」

 ジルドはカノンとエロワと相対する。銀の布の攻撃を躱し、懐に飛び込む。

 顔と顔がぶつかりそうな距離で睨み合う。

「吸い付くような肌。いいですねぇ」

 カノンを呻くように声を漏らすと、飛び退く。先回りをしたジルドが背後に立つ。

「そんな!」

「その魔導具。厄介ですね」

「カノンさん!」

 エロワが矢を放つ。それを至近距離で受け止めるジルド。

 銀の布のなぎ払い。攻撃は虚しく空を切る。懐に飛び込んだジルド。叫ぶカノンは太ももに帯刀していた短刀を逆手で抜き放つ。

「おやおや危ない危ない」

 ジルド拳を振りぬく。エロワが間に入って、槍の柄で受け止める。鉄の軋む音が響く。

「こんのぉ!」

 押し返そうとして、勢いを利用されてしまう。背中を蹴飛ばされ、エロワは前のめりに地面に倒れ込む。ジルドはカノンに迫り――。

「タカアキ! ジャン! カノンを手伝え!」

 褐色の近衛大将が突進して、ジルドを引き剥がす。

「おやおやひとりでジャンヌを相手に?」

 ジルドはディオンの持つ黄金の剣を見て、血相を変えた。

「そんなモノを取り出してどうするというのだ! 今更聖処女の洗脳が溶けるとでも考えたか? 無意味無価値無思慮」

 ディオンは相手にせずジャンヌと相対する。黄金の剣を引き抜く。

 煌めく刃にジャンヌは顔を強張らせる。すぐに憤怒の顔へと変わった。雄叫びを上げると、先程までと打って変わり、力任せな剣閃となる。

「やはり!」

「ジャンヌ! 何をしているのですか! そんなモノに心乱されちゃあ駄目じゃないですかあ」

 ジルドは四人を徒手空拳で撃退。

「駄目じゃあないか! 君が心乱すのは、フェリシーを見てからだ。それからじゃないと駄目なんだよぉ!」

 ジルドはディオンを排除しようと飛び込む。

「させるかよ!」

 ノエルが間に入る。

「軍師がなにを!」

「近衛大将のお前が不甲斐ないからだろうが!」

「飛び出て格好つけるな!」

「それはこっちの台詞だ!」

 二人は背中越しに言葉を交わす。すでにすべてが癪に障るのか、ジルド額に血管を浮き上がらせる。

「何をゴチャゴチャと!」

「急げよ!」

 ノエルは剣を抜き放ちジルドに振りぬく。動きの精細は欠いているものの、攻撃はまったく当たらない。タカアキたちもそこに加わり五人がかりで抑えこもうとする。

 それを横目にディオンはジャンヌと再び相対した。

「この剣が何かわかるか?」

「触るなぁ! 触るな!」

 ディオンは槍と長剣を構える。

「ならば奪ってみせろ!」

 ディオンは左右の手に持つ魔導具に魔力を流し込んでいく。褐色の近衛大将は顔をしかめる。思った以上に魔力を持って行かれたのだ。

 彼は内心数度使えば終わると悟った。それと同時に目の前の相手に尊敬する。

 黄金の剣閃と漆黒の剣閃が雄叫びと共に激突。地面を吹き飛ばし、衝撃波が周囲を襲う。

 刺突。斬撃。殴打。激突。

 互いに持てる魔力。体力を振り絞っていく。

 三度目の激突。黄金と光の刃と漆黒の影の刃の衝突。周囲を吹き飛ばす。塀の上にいる兵士も。中で囲いを作っている兵士たちも、唖然としてしまう。

 唐突に終わりを迎える。ディオンが膝を折ったのだ。

 ジルドは五人を相手にしながら笑う。勝ったと叫ぶ。

「やったぞ! これで後はジャンヌにフェリシーを殺させるだけだ」

 鼻歌交じりに声高に宣言。

「フェリシーを殺すその瞬間。洗脳を解いて、苦しむジャンヌを犯す。そして完全に心を壊し、私のモノにするのだ!」

「外道が」

 ノエルが苦し紛れに剣を振った。

「亡骸になら、お前も手を出してもいいぞ? んっんー?」

「ふざけるな!」

 門を太い丸太が叩く。鉄製の門は留め金の部分から壊れていく。

 誰もが迫る破壊に動きを止めて見守ってしまう。

 外ではゴドウィンが狂喜し、プリュトンは胸を撫で下ろす。

 勝ったと反乱連合軍が思った時だ。

 地響き。地面と壁に亀裂が走る。誰もが動きを止めた。なんだとこれから起こる事態を見入ってしまう。

 地面を突き破り木の根が第三の壁に這う。崩れ落ちそうになった門を侵食して補強する。それは圧倒言う間に壁を覆い尽くしてしまう。

「神……か」

 誰かがつぶやいた言葉。全てのモノが神木を仰ぐ。

 神木は光り輝く。緑の光の粒子が降り注いだ。

「これは神木の言葉だ! 抵抗せよ! そうおっしゃられておる! 皆武器を取れ! 我らは神木の加護を得たぞ!」

 ノエルの言葉に、王都にいる全ての人間が応じた。雄叫びが呼応して地鳴りを起こす。

 ノエルたち五人はジルドに猛攻をする。ジルドは明らかに動きを鈍らせていた。

「見えない。動きが見えない!」

 エロワの槍の石突。それの殴打が初めてジルドに直撃した。

「堅い!」

「魔力障壁よ!」

 エロワは自身の震える手を確認した。カノンの言葉にタカアキは緑の光線を浴びせて確認した。

「魔族か!」

 ジルドは犬歯を向いて唸ると、一飛で壁を飛び越えた。ジャンヌもその後に続く。ノエルは目を見開き叫ぶ。

「全軍、力の限り戦え!」

 民も奴隷も武器や石を持ち、壁の上から外に向かって投げ込む。対して反乱連合軍は士気を落としてしまう。

 自分たちは神と戦っているのだと、逃げ出すものも現れた。ゴドウィンやプリュトンは鼓舞するが目の前の事態に彼らも動揺を隠し切れない。

 ゴドウィンは苦し紛れに叫ぶ。

「フェリシー陛下は我らに降ったのだ! お前らも降れ!」

 ゴドウィンの言葉に一瞬だけ動揺が広がる。彼らはフェリシー陛下の姿を確認出来ていないのだ。

 ノエルは壁に登ってそんなことはないと応じる。しかし、最初の勢いはしぼみ始めていた。

 ゴドウィンはしめたとまくし立てる。

「そんなことがあるのだ! フェリシー陛下は王位欲しさに、お前たちを切り捨てたのだ!」

 ノエルは激情のままに叫ぶ。

「それ以上侮辱するな!」

 ノエルの声は戦場に響き渡る。

「あの方は! 囮になったのだ! 我々を逃がすためにな! 王など飾りだと言って、代わりはいくらでもいると言ってな! エメひとり付き添わせて囮になったんだよ! 毒に侵された身で!」

 それは遠くにまで届く。包囲網を完成させつつあるヴェルトゥブリエの軍とグリーンハイランド軍の同盟軍にも届いていた。

「そんな陛下が! 王位欲しさに寝返るかぁ!」

 ノエルはゴドウィンの言葉を嘘だと斬り捨てる。

「敵を追い詰めているぞ! 殺せぇ!」

 誰もがその存在に気付かなかった。壁によいしょと上がると、すたすたとノエルの元に駆け寄る。

 ノエルは愚か敵も味方も直前まで気付かなかった。

「殺せは、言い過ぎよノエル」

 全員が絶句する。

 背中まである長い金髪。緑の丘を思わせる瞳。麻織りの服であるが、フェリシー・ロイ・ヴェルトゥブリエがそこにはいた。

 彼女はノエルに笑いかける。

「ただいま」

 フェリシーは布で覆っていた錫杖を取り出して、一度打ち鳴らす。

「さあて、反撃開始よ」

「へ、陛下? 本物ですか?」

 芝居がかった動きで、魔導具ヴェルトゥブリエを使ってみせるフェリシー。その行動にヴェルトゥブリエの軍は叫んだ。

 彼女は神木に導かれるまま、地下水路を抜けてここまで来たのだ。ソラは道中であった敵兵と戦闘になって、彼女を先に行かせたのである。

「さて、打って出るわよ」

「え? いやしかし」

 ほらとフェリシーが錫杖で遠くを指し示す。彼らの目の前で第二の壁の門が閉じられていく。ひとつを除いて全てが閉じられていった。

 それに反乱連合軍も気づいて混乱が波及。我先にと、まだ閉じていない門から逃げ出そうとする者たちが出てきたのだ。あちこちで人の押し合いが起きた。馬から落馬し、馬蹄に踏み抜かれた者も出てきた。

 それを見てノエルは察する。

「近衛大将も奮起するで」

「門を開けろ!」

 先ほどまで膝を屈していたディオンは愛馬に乗って、先頭に立っている。急いで門を開けろと、ノエルにせっつく。

「早いんだよお前!」

「遅いんだよお前が!」

 彼らが出ていこうとしている門は、まだ無傷で木の根も這っていない門である。ノエルは指示を飛ばし兵士が開門させる。敵も殺到するが矢と投石で撃退されていく。

「陛下! ジャンヌの剣を!」

 ディオンは黄金の剣を投げ飛ばす。ノエルが受け取り、それを差し出した。

 敵は士気の低さと混乱から、勢いはなくあっという間に追い払われ、門が開門した。ディオンたち騎馬兵は鬨の声をあげる。

 今までの鬱憤を晴らすかのように、門から飛び出す。陣形を乱さずに突撃。混乱の抜けきっていない敵兵を蹂躙していく。

 先頭のディオンが槍に三人を突き刺して掲げた。それを見た敵兵たちは、唯一開いている門から飛び出そうと、駆け出す。

 最初に飛び出した兵士は、周りの光景に足を止めてしまう。グリーンハイランド軍旗とヴェルトゥブリエの軍旗。そしてブランシュエクレールの軍旗が並んでいたのだ。

 門の周囲を同盟軍が覆う。弓矢と杖を構える。

 飛び出した兵士は引き返そうとして、迫る友軍の壁に、足を止めてしまう。

 逃げ出そうとする兵士と、戻ろうとする兵士で混乱が生じる。

 ブランドンはグリーンハイランド軍に命じた。

「放て、逆賊ゴドウィンとプリュトン侯爵らを討ち取れ」

 矢と光弾が門を襲う。壁の上にもグリーンハイランド軍とヴェルトゥブリエ軍はおり、眼下の敵に矢を放っていく。上と前。そして後ろからの味方。それらにより、多数の死傷者が出る。

 その光景を見たプリュトン侯爵はジルドを探す。

「ジルド! フェリシーを殺せ! ジャンヌはどうした?」

 ジルドは音もなくプリュトンの元に参上する。

「わかっています。しかし、中は危険です。マナの濃度が薄いのです」

「それがどうしたというのだ!」

「それが影響すると言っているのです!」

「フェリシーを殺したいのではないか!」

 二人が言い合っているのをよそに、ジャンヌは壁の上にいるフェリシーを見つけた。駆け巡る激情。その横で黄金の剣が輝く。

「私のだ!」

 叫んだジャンヌは飛び出すと、一飛で壁の上に飛び乗る。迫る兵士を全て斬り伏せ、フェリシーの元へと突撃。ノエルが止めようと黄金の剣を引き抜く。漆黒の剣閃で斬りかかる。受け止めたものの、耐え切れずに壁から落ちる。

 フェリシーとジャンヌは相対する。

「ジャンヌ……会いたかった」

 緑の丘の女王は微笑む。対するジャンヌは歯を食いしばる。

「殺す。殺してやる」

「髪、伸びたのね。似合っているわ」

「お前の髪が嫌いだった! 綺麗で長い。私は! 嫌いだった!」

 ジャンヌは飛びかかる。フェリシーは抵抗したものの、ろくすっぽ敵わず簡単に組み伏される。緑の錫杖が壁から落ちて、甲高い音を打ち鳴らす。

 ジャンヌはフェリシーの髪を掴んで引っ張りあげる。痛みにフェリシーが顔をしかめた。

「痛いわジャンヌ!」

「髪が! お前が! 嫌いだった!」

「それは、彼の気を引きたくて?」

 フェリシーは痛みに顔をしかめながらも、言葉を紡ぐ。

「でも、髪なんてあの人は気にしない」

「黙れ! 胸もでかい!」

「私はあなたくらいがいいわよ!」

「うるさいうるさいうるさい! 筋肉もない! 女らしい体!」

「戦いで役に立てないのよ!」

 ソラと並び立てないと叫ぶ。

 ジャンヌはその名前に狼狽えた。すぐに怒りを露わにして、掴んでいた黄金の髪を切り飛ばす。

 フェリシーの背中まであった長い髪は、肩に届くくらいまでになってしまう。

「胸も切り飛ばしてやる!」

「これは駄目!」

 必死に抵抗するフェリシー。切っ先が乳房の表面に突き刺さ――。

 突如地面が吹き飛ぶ。緑の風が吹き抜ける。黒い体躯に緑の外殻。

「―――――――――――――――――――――――――――ッ!!!」

 龍の咆哮。それが戦場に響き渡った。

 ジャンヌは手を止めて、見入ってしまう。

「来てくれた」

 フェリシーは勝利を確信して微笑む。

「ソラと会ってきなさい」

 ジャンヌの頬に手を添えると、一層優しく笑う。それに驚くジャンヌは完全に動きを止めてしまう。

 直後に緑の突風が吹き抜ける。ジャンヌは龍の超戦士に弾き飛ばされる。

 一瞬だけ龍の超戦士とフェリシーは目線を交わす。互いに頷き合うと、緑色の龍の超戦士は飛び出していく。

 しばらく見送ったフェリシーは起き上がると、頬を叩いた。

「さあって、最後くらいはちゃんと王らしくしないとね!」






~続く~


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