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第十三話「王都攻防戦中盤」

第十三話「王都攻防戦中盤」






 ブランドンは眉の間に皺を作っていた。

 彼が頭を悩ませていたのは、現在ヴェルトゥブリエの王都の攻略が遅々として進まないからではない。

 彼が悩んでいるのは、攻略のことではない。

 補給のこと、そして現場の戦線と士気のことだ。

 グリーンハイランドの軍は現在、ヴェルトゥブリエの王都を完全に包囲していた。

 ブランドンとアーマンは、その包囲網より少し離れた平原に幕舎を設置。戦いを俯瞰して見ている。

 天幕だけの風が吹きざらしの幕舎から、観戦。

「上手くいかないな」

「砦の攻略なのですから、そうそう容易ではないと再三言いましたよ」

「だが地下水路のことがあるだろう?」

 プリュトン侯爵ら降った貴族らが、王都には地下水路の存在があることを説明。そこから内部に突入して、内と外と攻略できるはずだと言う。ならばとブランドンは彼らにそちら任せている。

 完全に信用していない点。罠かもしれない点。そして地下水路にグリーンハイランド軍は明るくない。それらを鑑みてブランドンは任せたのだ。

 だがそちらも上手く行っていない。

「待ち伏せなどがあったとは聞いていません」

「ではなぜだ?」

 ブランドは随伴したグリーンハイランドの兵士の言葉を思い出す。それを報告する。

 地下水路は神木が減災の大きさになる前、つまり大きくなる前に作り上げたのだ。気が大きくなるにつれて、根も広がる。それが木だ。その根が地下水路を貫いているのである。

 つまり地下水路の形が大きく変わっているのだ。

 もちろん、行く手を阻む根に、火を放ち、斧を振り下ろすが、まったく歯がたたないという。

「魔法は?」

「マナの濃度が低いのか、まったく効果を受け付けないそうです」

「除草剤も効果が無いとか」

 ブランドは同行した兵士の顔を思い出す。怯えていたのだ。自分たちはもしかしたら神と戦ったのではないかと、考える兵士もいた。

 それらの兵士は全員後方に下げたのである。今はプリュトンデューアルブル跡地の補給地点で休んでいるはずだ。

 こちらの手段の一切が通用しない木。先のプリュトンデューアルブルのご神木を燃やしたことで、少なからず兵士にも動揺が走っている。それがさらに、目の当たりにした兵士たちに拍車をかけていた。

 士気高揚のために燃やしたと、アーマンは言う。ゴドウィンは偶像崇拝を許さないと、木を燃やしたが、まったく逆の効果しかもたらしていない。

 王都攻略三日目。

 グリーンハイランドの軍は、緩やかに士気を落としていた。

「壁を落とせば良いのだ」

「簡単におっしゃるな」

「奴隷に呼びかけは?」

「効果はないと言っているでしょう」

 奴隷に自由と財産をやるから裏切れと、声をあげるがまったく効果が無い。そもブランドンは効果が無いとわかっていた。

 奴隷でも扱いを侮る無かれ。奴隷は物言わぬ家畜ではない。奴隷にも等しく意思があるのだ。

 オルフォール教の教えである。宗派は違えどヴェルトゥブリエもオルフォール教を信仰する国だ。おまけにフェリシーの善政の助けもあって奴隷に不満など無い。

「だが、我らが圧倒的だぞ」

「彼らからすれば、神木を燃やした我らは、信頼に足る存在に映るでしょうかね?」

 ブランドンは刺々しく言う。

 彼らはここに住み、そして神木を毎日見上げ、祈りを捧げているのだ。その恩恵を奴隷であろうと、グリーンハイランドの彼らより知っている。その大切な存在を奪いに来たも同然だ。こちらの言葉など聞く耳を持たない。

「必死に抵抗するでしょう。今現在、我々は一万五千の兵力を相手にしているのではないのです」

 奴隷。王都に住まう人。そして神木。それらを相手に戦っているのだ。

「我々は王都そのものを相手にしている。そうお考えください」

 アーマンは唸る。

「神木を燃やしたのは不味かったか?」

 ブランドンは顔を鋭くさせた。しかし、何も言わずにその場を後にする。

 ブランドンは天幕を出て程なくして、空を仰ぐ。照りつける太陽を睨めつけた。周囲を見渡す。兵士たちは日陰を奪い合うように、休んでいた。

 暑さに音を上げて、甲冑を脱ぎ捨てている者さえもいる。ブランドンが近くを通っても立ち上がれずに敬礼も出来ないほどの者もいた。

 ブランドンはため息を吐くと、顔を真っ赤にしている者を抱えて、自分の幕舎に運んだ。水と岩塩を与えて、侍女たちに団扇で仰いであげるように指示。

「それでも具合が悪そうな者がいたら、すぐに私に報告するんだ。それと、お前たちも体調がすぐれない時は、遠慮なく言うんだ」

 強く厳命して、彼は幕舎の外に出た。

 彼もまたアーマンと同じく壁を突破できればと考える。しかし、それは士気のためではない。日陰を求めてだ。神木の日陰を多少手に入れることが出来るうえ、壁が作り出す日陰もそれなりの効果が期待できた。

「異端か……今では少なからず我軍にも、あの日陰――神木を崇める者さえいるだろうさ」






「撤去全て完了しました」

「そうか。もう少し死守できそうか?」

 兵士は首を振った。

 第一の壁。一番外側にある壁は今のところ守りきれているが、時間の問題と言えた。数は敵のほうが三倍以上である。おまけに時折、一点集中突破しようと兵力を集めてくるのだ。

 これに耐え切れずに、打って出るべきだと言い出す者もいた。だが一度門を開けば容易に締めることは叶わない。突破されてしまう。誰もが口惜しそうに歯噛みした。

 色素の薄い金髪の青年はそうかと応じると、鼻で大きく息を吐く。

「仕方がない。全軍に第二の壁まで下がらせろ。なるべく敵に気取られるなよ?」

 兵士は恭しく頭を垂れると、急ぎ足で飛び出す。

「しかし、困ったな」

 ノエルはひとりつぶやく。

 フェリシーの魔導具に頼りきっていた面が、徐々に表面化していた。

 思念を直接伝えることが出来るのが、魔導具ヴェルトゥブリエの効果だ。つまり齟齬無く相手に伝えることが可能なのである。しかし、口頭で伝令を出すと多少のズレが出てくるのだ。

 特に王都の軍はそれが顕著であった。

 故に伝令で時折混乱が起きるのだ。ノエルは戦いが終わったら、それらの訓練をし直すべきだと考える。

 しばらくノエルは物資の確認や食料の貯蔵を確認。主だった騎士や高官を集めて情報や意見を交換し、今後の事で意見の統一をする。

 その時だ。ノエルの元に伝令が駆け込んできた。

「どうした?」

「敵に突破されました! 第二の壁、西の門が閉じれません!」






 西の撤退が気取られたのだ。

 他の参加所はほぼ同時に引き上げることが出来たのだが、西が撤退を開始したのは、北と南の兵士が動いていることに気づいてからだ。この時ほぼ半分の撤収を終えていた両方面。そこから急いで撤退の準備を始めたところで、敵にすでに気取られていた。

 一気に敵が殺到し、第二の壁。西の門は敵味方が入り乱れる事態となる。味方の撤収をさせようとする兵士と、見捨てようとする兵士でも争いが起きていた。

 それらが混乱を波及させ、悪循環となっていく。

 グリーンハイランド軍はこれ幸いと、歩兵が門に殺到する。日陰を求め、彼らも死に物狂いで攻め立てた。

「門を閉めろ!」

「駄目です。まだ逃げ切れてません!」

「見捨てろと言っているのだ」

 まだ第一の壁の門は開かれていない。突然転がってきた好機にそこまで意識が回っていなかった。これは逆にヴェルトゥブリエの軍にとっても好機なのだが、上手く活かせていない。

「だから門を閉じろ!」

「嫌だ! 仲間がいるんだ!」

 言い合う門兵。彼らの下を黒い馬が駆け抜ける。

「近衛大将?!」

 空気を割く音。矢が放たれグリーンハイランドの兵士の頭蓋を貫く。突破しかけた出鼻をくじく。馬蹄がグリーンハイランドを踏み砕き、槍を振り回す。三人を甲冑ごと貫いて、振り回し突き刺した三人を投げ飛ばす。それはグリーンハイランドの勢いを削ぐ。

 そしてグリーンハイランドの兵たちは現れた存在を視認する。

「ディオンだ!」

「ディオンが出たぞ!」

「近衛大将!」

「北からここまで来てくれたのか」

 ディオンの登場にヴェルトゥブリエの軍は士気を取り戻す。対してグリーンハイランドの士気は一気に下がった。

「参る!」

 ディオンは右に槍。左に長剣を構えた。

 足と体重移動だけで馬を操り、槍と長剣で敵兵を屠っていく。血飛沫が舞い、キリ飛ばされた頭部が舞い。胸板を貫かれた兵は、投擲された。

「今のうちに撤退を!」

 ディオンは西の兵士たちに指示を出す。撤退する兵士とは逆方向に突出。追撃する敵兵の頭を叩き潰す。

 ディオンの流れる視界の中に弓兵が飛び込む。歯を食いしばって長剣を振った。矢を弾く。

「もっと放て! やつを倒せば我らの勝ちだ」

 矢の雨が降り注ぐ。ディオンは指示を出した兵士に長剣を投擲。白刃は額を貫く。迫る矢は槍を両手で回転させて全てを払う。

 左で手綱を握る。馬首を巡らせて弓兵に突撃。馬蹄だけで弓兵を蹴散らす。槍の穂先を巧みに操り投擲した長剣を回収。

 さらに馬首を巡らせて、敵兵に向かって単騎で突っ込んだ。

 グリーンハイランドの兵士たちは、逃げ惑う。その間にヴェルトゥブリエの軍は撤退を完了する。

「ディオン様!」

 エロワが叫ぶ。ディオンは剣を鞘に納めると、全力疾走で門へとかけ出す。それを見たグリーンハイランド軍も門に殺到する。

「放て!」

 西の門上部には弓兵が整列を終えていた。矢が放たれ、次々と躯をさらしていく。

 ディオンの撤退を援護する。エロワも弓矢で、迫る敵兵を蹴散らす。

 近衛大将が門をくぐると、急いで門が閉じられていく。グリーンハイランドの兵士たちは諦めずに突破しようと迫った。

「甘いですよ」

 緑の光線が四方八方から兵士たちを襲う。

 矢と魔法の光弾に撃ち貫かれていく。

「糸? 蔦? いやマナか? 魔法でここまでしたというのか!」

 グリーンハイランドの兵がそれに触れると、それに反応して光線が撃たれる。

 門と壁、そして地面と空間を張り巡らせるように、緑の線が張り巡らされていた。そこから四方八方に光弾が撃たれているのだ。

 閉じられる門の向こうで杖を持ったヴェルトゥブリエ軍が整列して、杖を構えた。乾いた音と共に緑の光弾が壁となってグリーンハイランド兵たちを襲う。

 これがトドメとなり、グリーンハイランドの兵は潰走した。

 ディオンは息を小さく吐いてから、周囲の兵士にお礼を言い、ついでエロワにも言う。

「ディオン様が駆けつけていなければ、危なかったでしょう」

 撤退終えたディオンは、西が遅れていることに気づくと、指示を飛ばしてから駆けつけたのだ。

 南にいるエロワも一足遅れて気付き参上したのである。

「それと思えもだ。助かったありがとうタカアキ」

「お気になさらないでください」

 それよりとタカアキは第二の壁の中にある街を見た。外よりは高位の身分の者しか、足を踏み入れられない街だ。その街の建物の大半も木材で出来ており、現在解体作業が始まっていた。

「こちらも放棄なさるのですね」

「ああ、ここは反対が強かったんだがな。まあ、ノエルの奴が押し切った」

 次は今回のような失敗はしないと、ディオンは息巻く。

「こちらを放棄する理由は?」

「敵を誘い込むために使うんだそうだ」

 なるほどとタカアキは言うと、そびえ立つ神木を仰ぐ。

「やはり近くで見ると偉大ですね」

 この街の中に避難した人々がまず行ったのが、木に向かってのお祈りである。改めて自分たちはこの神木に生かされていると、実感したようだ。

「俺も最初はびっくりした。いや怯えたな」

「守らないといけませんね」

「頼りにしているぞ」

「微々たるモノでしょうが、全命をかけて務めさせてもらいます」

 改めてタカアキは見上げると、神木に対して頭を垂れた。






~続く~


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