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第八話「反乱依頼」

第八話「反乱依頼」






 ローランはフェリシーを追いながらも、各地のデューアルブルを統治する貴族たちに早馬を出していた。

 王都陥落は時間の問題なので、自分に降れと。降伏した場合、爵位も領地もそのままで迎えることを約束しようという内容である。

 だが大半の貴族たちはすぐには返事をしなかった。フェリシー行方不明の報は彼らの耳にも入っているのだが、見極めるためである。王都が耐えるかもしれない。そして彼らを渋らせたのは、北の神木が全て焼き払われたことである。

 プリュトンデューアルブルだけならまだしも。北の神木を全て偶像崇拝だと言って、ゴドウィンが燃やしてしまったのである。

 対応を考えあぐねている中、とあるデューアルブルにフェリシーたちは立ち寄っていた。南の貴族たちの力を借りるためだ。

 彼女を蝕んだ毒は、霊力を持つソラによってすでに祓われている。そのため馬での移動は難なく出来ていた。

 北の貴族たちを統べていたローランと同様。南の貴族たちに絶大な発言権を持つ貴族がいたのだ。

 フェリシーはその貴族に援軍の要請を頼みに来たのである。

 先の戦いでは、王都と北の戦力でグリーンハイランドを撃退に動いていたため、南の戦力は手付かずである。

 北ほどなくとも、対等以上に戦えると考えていたのだ。

 サチュルヌデューアルブルの第一の門をくぐると、フェリシーとソラたち一行は馬を降りた。

 ソラは町の中を見渡す。道は汚れゴミの山があちこちに出来ていた。脇道に視線を向けると人が座り込んでいる。お世辞にも裕福な町並みに見えなかった。

 彼らのいる大通りの先にはまた門がある。

「もうひとつ中に町があるのか?」

 シルヴェストルは疑問を口にした。

「ええ、王都意外は壁二つですね」

 フェリシーは柔らかく笑いながら説明する。

 上空から見ることができれば二重の円が神木を中心に描かれているように見えるだろう。

 門を警護していた兵士が、フェリシーの前で膝をつく。

「恐れながら、ご確認させてください。フェリシー・ロイ・ヴェルトゥブリエ陛下でございますか?」

「その通りよ。サチュルヌ伯爵にお会いできるかしら?」

「すぐに確認させていただきます」

 兵士は配下に指示を出し、第二の門へと走らせた。程なく兵士は戻ってくると案内を始める。

 ソラたち一行はフェリシーと共に第二の門をくぐった。

「すごいな」

 中は別世界である。

 活気に満ち溢れ、人々は威勢よく商売などを行っていた。

「外とはえらい違いだな」

 シルヴェストルの言葉にカエデが反応し、肘で強めに突く。フェリシーは困ったように笑うしか出来ない。

 彼女もどうにかしたいと思っていても、地方までは上手くいかない。今は王都で手一杯だ。

 すぐにサチュルヌ伯爵の屋敷に通される。馬を兵士に預けると、全員は客間に案内された。

「こりゃまた」

 感嘆の声を上げたのはジン。

 部屋は豪華の限りを尽くしていたのだ。調度品は金銀鮮やかに輝き、絨毯は細かく刺繍が施されている。

 彼らが待っていると程なくして、ひとりの男が現れた。禿頭に肥えた体躯。下膨れした腹が服を押し出す。

 フェリシーは立ち上がり、お礼を述べる。

「サチュルヌ伯爵、ありがとうございます」

「いえ、わたくしとしても陛下をお救いできてなによりです」

 フェリシーはソラたちを紹介すると、単刀直入に兵を出してほしいと要請。

 しかし、サチュルヌ伯爵はすぐには首を縦に振らなかった。

「国の一大事というのは理解しています。しかし、少し考えさせていただきたい」

 それよりもと伯爵は言う。

 あからさまな話の変わりそうに、エメは不快感を示す。辛うじてソラたちも顔を変えることはなかったが、内心は不信感を抱いていた。

「ゆっくりとお休みください。ささやかながらお食事を用意させていただきました。ブランシュエクレールの皆様もどうぞご参加ください」

 伯爵の兵士に部屋に案内され、各々は別れる。フェリシーは個室に、エメもまた個室へ。ソラたちは一室に通された。

「へえ、もっと雑な部屋かと思っていたぜ」

 ジンは部屋に入って開口一番そう言う。カエデがそれを嗜めるが、気に留めずにバルコニーに出て外を眺めた。

「おお、外側の町は見えないんだな」

 ベッドにも金の装飾。天幕は無いものの、布団は羽毛が入っているのか、ふかふかである。

 ベッドは人数分あった。各々武器をベッドに立てかけていく。

 ソラは周囲を注意深く確認してから、蒼穹の姫を不可視で出す。そのままフェリシーの元へと送り出した。

「で、どう思う?」

 カエデは単刀直入に問う。ソラはすぐには答えずに周囲に気を張った。

 目付きの悪い少年は、周囲に人が居ないかを確認していたのだ。隣室にも人の気配がないことを確認してから、口を開く。

「サチュルヌ伯爵の思惑ひとつでしょう。さすがにそこまではわかりかねますが、あからさまと言ってもいいくらい、兵士を出し渋っていますね」

 ソラは言葉を切る。

 彼は扉の外に視線を向けた。全員が武器を手に持ち警戒する。外で兵士が制止する声が響く。

 その時点でソラは手で武器を置けと手で指示を出す。

 程なくして扉が叩かれる。ソラはどうぞと応じると、サチュルヌ伯爵よりも肥えた少年が飛び込んできた。

 勢いのあまり床に転がるが、すぐに起き上がる。

 そこで一同はサチュルヌ伯爵に連なる者だと理解した。顔が似ているのだ。違う点を上げるならば禿頭ではないこと。つぶらな瞳であることだ。

「き、君たち! 君たちはブランシュエクレールの兵だってね? き、聞きたいことがあるんだ」

「ブリス様! 失礼ですぞ」

 お付の兵士に注意されてしょんぼりとした顔となった。そして彼は詫びる。

「無礼をお許し下さい」

 ソラはいえと言うと、黙って言葉を促す。

「君たち、ドラゴンを倒した戦士ってどんな人なんだい? 僕知りたいんだ」

 つぶらな瞳をソラたちに浴びせる。突然のことと純真無垢な瞳故に、無意識に彼らの視線はソラに集まった。

 それでブリスは全てを察する。ソラの手をとると勢い良く手を上下に振った。

「君かい? 君なんだね? すごい! すごいや!」

 ブリスについていた兵士は驚きに目を見開く。

「え、ええ。お褒めに預かり光栄です」

 ソラはどこまで話したものかと思案する。目の前のブリスは悪意などから聞いているわけではない。それがわかるからこそ、後ろの兵士を視界に捉えながら色々と考えた。

 しかし、ブリスはそんなことを知ってか知らずか、質問を矢継ぎ早にしていく。見かねたお付の兵士がそれを止めた。

「ブリス様。ご無礼ですぞ。まず名乗られておりません」

「わわわっ、しまった。なんということか。すいません。僕、つい興奮すると色々と抜け落ちてしまって」

 ブリスは改めて頭を下げると、名乗る。

「僕の名前はブリス・ヴェルトゥ・サチュルヌです」

「サチュルヌ伯爵のご子息でございますか」

「そんな堅苦しい言い回しはいいよ。後ろに居てくれているのは、シモン。僕の片腕さ」

 ソラはではと断ってから改めて手を握り返す。

「それで、ドラゴンを倒したのかい?」

「はい。ですが、正確には私と後ろにいる皆さんで、です」

 ソラはそこから当時の記憶を辿りながら語る。一喜一憂しながらもブリスはうんうんと興味深く聞き続けていた。

 途中カエデたちの意見を求めたりし、ブリスは有意義な時間を過ごす。

 話の終わりに彼は言う。

「やっぱりすごいや」

 その後真剣な面持ちになった。先ほどまでの落差に全員が驚く。この時ソラはしてやられたのか、とも考えた。

「君たちとなら……」

 しかしそれはすぐに杞憂で終わる。終わったのだが、今度はとんでもない話をブリスは彼らに投げたのだ。

「ねえ、僕と一緒に父を打倒してくれないかな?」






~続く~


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