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第三十八話「いざ帰らんブランシュエクレールへ」

第三十八話「いざ帰らんブランシュエクレールへ」






 ソラたち一行はン・ヤルポンガゥの王都へやってくる。上空から王宮を見たシャルリーヌの感想は、星の城。

 上から見る城壁の形が星を象っていた。三重の星形の城壁。その中央に人口の湖の上に城が鎮座していた。

 魔王は直接城の広場にコンテナを置き、降りるとそのまま人の姿とへ成る。樽はマルコとジンが運び、カエデとシルヴェストル、アランはその護衛。ソラ、レーヌ、カトリーヌ=ルはシャルリーヌの護衛をしながら城へと入っていく。

 突然の事態にも関わらず、ン・ヤルポンガゥの城で仕事に従事しているモノたちの対応は早かった。

 滞り無く執務室に通される。普段ならば王座の間なのだが、ことがことだけに魔王は王座の間に通す手順を省いた。

 そのことから、一部のン・ヤルポンガゥの高官たちは重い事態と認識する。いついかなる状態でも動けるように、関係各所に通達を進めていく。

 ン・ヤルポンガゥにとって魔王の執務室に通される人物は、特別中の特別の待遇と言える。それも王座の間を通さないことは、異例中の異例。

 すぐに魔王の腹心たちが集う。それを確認して、扉を守る衛兵に頷くと、扉が閉められる。

「さて、ここに集まった我が配下諸君。申し訳ないが樽を開けずに、中身を察しろ。固有名詞を出さないでね」

 それほどまでに情報を秘匿するべきだと、魔王は判断していた。その徹底ぶりにブランシュエクレール側の面々は、ソラとマルコ以外は唖然となる。

「魔王陛下……これは一大事ですよ」

「ルシファー気づいたか」

 銀の頭髪。白い肌。見ようによっては血色の悪い紫の唇。中性的な顔立ちの男は頷く。

「よろしい。お前とその配下にこれの死守を命じる」

 魔王は視線でシャルリーヌとソラに問う。

 ソラはシャルリーヌが答えるのを待ったが、彼女は咄嗟の事態に対応しきれていなかった。

 目つきの悪い少年は頭をかいてから口を開く。

「ルミエール領――旧パッセ領です」

「いい名前になったな。埋蔵量は――不明と言ったな?」

 ソラは頷き説明をする。

「ええ、優秀な部下が、意識を持って行かれそうになったそうです」

「グッドだ」

 ルシファーと同じく銀色の頭髪の男と、金髪の柔和な表情の女性がわかったと言う。

「これは俺達も出向いたほうがいいのでは?」

「私も同感です」

「よろしい。ならばアザゼル、ウリエル。両名にも行ってもらう。ウリエルはついでにコゥティの一族を連れていくんだ。海上都市の調査という名目だぞ」

 ウリエルは頭を恭しく垂れると、その場から一瞬で消える。

「それでルミエール領の代表は?」

 ソラが一歩前へ出る。

「そうか。ならば細かいことの調整は任せる。後日陛下と殿下を交えて、色々と詰めるぞ」

 では解散と言うと、魔王の腹心たちは下がっていく。

 ソラたち一行は魔王に手で引き止められる。

「彼らの準備が終わるまで、少し話をしようではないか」

 白い頭巾を深く被った存在が椅子を運ぶ。シャルリーヌに手で促す。彼女は一瞬躊躇ったものの、ソラの頷きを確認して腰を落とした。

「しかし、トンデモナイな。こんなのが近くにあるなら占領しに行くべきだったよ」

「冗談でも冗談に聞こえませんよ」

 シャルリーヌの困ったような言葉に、悪いと魔王は謝罪する。彼は占領するつもりはないが、国として成り立たなくなればルミエール領だけでももぎ取るつもりでいる。

 そのことをシャルリーヌは冗談の言葉の中に、感じ取っていた。

「海上都市は色々理由つけてこちらで作ってやる手はずでいた。いたのだが、やられたよ。まさかあんな手で来るとはな。いい案だ。競りにかけて魔王に買わせる」

 ソラは恐縮ですと応じる。

「これで他国にもある程度の言い訳が立つわけだ」

 シャルリーヌは疑問に思っていたことを問う。

「ミ――樽の中身がない場合、どうやって海上都市を?」

 魔王は簡単だと言う。

「マゴヤと戦争するよね? となると君たちは僕らの戦力を引き込んでも国を守ろうとする。そう考えていたのさ」

 現状の魔王の知っているブランシュエクレールの戦力では、マゴヤからの侵略を防ぐことは出来ない。内乱の傷痕を最小限に留めたとはいえ、決して小さくないと魔王は説明する。

 おまけにグレートランドとの同盟にも亀裂が出来た。現状、ブランシュエクレールをまとめられたとしても不可能であると魔王は断言する。した後にソラに視線を向けた。

「だが、彼がいる。彼がいるならば我々の戦力は不必要だろう。色々とあれやこれやとやっているだろうからね。まあ、勝つことは出来るな」

 シャルリーヌは嬉しそうに微笑むが、ソラは苦々しい表情となる。全員が小首を傾げていると、その答えはソラから聞かされた。

「望む勝利ではなく、勝つだけですか?」

「そうだとも、勝つだけだね」

 つまり被害を考慮しない勝利である。

 ブランシュエクレールが半分以上焼け野原になっても、国民が半数以上死に絶えても、勝てると魔王は言う。

 だが、それは結果的なものであり、実際は国土が半分も焼かれ、国民が半数も死ねば勝利とはいえない。

「戦術的な勝利。それは約束されたも同然だ」

 だが、戦争は戦術的な勝利では意味を成さない。政治的な勝利を得なくてはならないのだ。

 その話に、シャルリーヌは体が冷えるのを錯覚した。

「戦略的な勝利をどこに設定しているのかわからないが――まあ、そのためには色々としておくべきだね」

 魔王は執務机の引き出しに手を伸ばす。小さな小袋を取り出すと、ソラに視線を向けた。

 ソラは咄嗟に飛んできたそれを受け止める。

「これは?」

「洗脳とかの呪術的なモノを解呪する丸薬だ。君が噛み砕き、霊力を流し込んで、それを対象の体内に取り込ませるんだ」

 全員の頭に疑問符が浮かぶ。

「話が少し飛ぶぞ」

 魔王の背後に世界地図があった。正確な地図に全員が度肝を抜かれる。

 この時期、まだ世界地図を持っている国は一握りであった。つまり地図を手にしている魔王は、いつでも世界に覇を唱えることが出来る位置にいる。

 しかし、当の本人はその気はさらさらなく、戦慄する一同を余所に話を進めていく。

「グリーンハイランドという国を知っているか?」

「ヴェルトゥブリエの北にある国ですね」

 ソラが補足して、全員がなるほどと頷く。

「そうだ。その国が近々戦争を起こす。相手はそのヴェルトゥブリエだ」

 ソラたちは驚愕する。

 魔王はその様子に、胸中落胆する。まだ外の国を見られていない現状に、憂慮しているのだ。

「しかし、グリーンハイランドの戦力ではヴェルトゥブリエを押しきれないのではないのでしょうか」

 シャルリーヌはヴェルトゥブリエには精強な騎馬兵を例に言う。

 そこでソラはそうかと手を打った。

「この丸薬はそういうことですね?」

「そうだ。殿下のために説明すると、フェリシー・ロイ・ヴェルトゥブリエには腹心の騎士がいた。名はジャンヌ。彼女は今洗脳されてグリーンハイランドの将となっている」

 シャルリーヌは目を見開き、手で口を覆う。

「そんな……」

「その手引を魔族がした。そこでソラ。君はヴェルトゥブリエに行く約束があるね?」

 そこまで知られている事実に、ソラは肩をすくめる。

「さすがですね」

「ふっふーん。もっと褒めてくれ。僕は褒められるのは好きだよ。特に君に褒められると、なお嬉しい」

 白頭巾の配下が、魔王をたしなめた。

「魔族が関わっているのが、正直面白くない。ジャンヌを取り戻し、抹殺してくれ」

「よろしいのですか?」

「君と蒼穹の姫じゃなければ、あいつは倒せないだろう」

 蒼穹の姫が、音もなく顕れる。腰に両手をあてて、蒼穹の姫こと蒼は、ふんぞり返った。

 任せろと表情が語る。

「ヴェルトゥブリエが存続しないと、僕としても困るし、君たちもマゴヤと戦争する時に必要となるだろう」

 将来出来るであろうブランシュエクレールの海上都市。そこにヴェルトゥブリエの物流もなければ、魔王の描く未来絵図と変わってしまう。

 将来の国益のため、魔王はソラたちに助力するのだ。

「利害の一致ですね」

「そうだ。そうでなければこんなこと頼まんよ。まあ、そのへんの貸し借りは話し合いで決着をつけよう」

 頷くソラに、魔王はさらに言う。

「急げよ。グリーンハイランドもグレートランドの間者にせっつかれているんだ。そう時間は長くないぞ」

 その言葉に、シャルリーヌはグレートランドがブランシュエクレールを狙っているのだと、理解する。当然他の面々もだ。

 シャルリーヌは自身のしてきたことを後悔しながらも、グレートランドとの戦争も内心決意する。

「用意はもう出来ただろう。時間が惜しいので君たちを私が送る」

 樽の中身がどういう状況か知りたいと言いながらも、魔王はソラといることを喜んでいた。

 魔王は立ち上がる。それと同時に扉が開かれた。

 歩きながら魔王はそうだと口を開く。

「ソラ。君、僕の報酬置いて行ったでしょ? あれ管理するのも面倒なんだから、戦争する前になんか上手く処理してよ」

「わかりました。ヴェルトゥブリエの件が終わりましたら」

 魔王が退出すると、他の面々も促されそれに続く。

 ソラたち一行が王宮の広場にあるコンテナに乗り込むと、魔王は魔龍へと姿を変えた。

 その中には魔王軍の兵士たちもおり、コンテナ内部はすし詰め状態一歩手前となる。それでもシャルリーヌのために広く場所は確保されていた。

 あっという間に海上都市へと辿り着くと、第五騎士団の面々とマルコが降りる。彼らは船で帰るのだ。すでに船の出港準備は整っており、後はカエデたちが乗り込むのを待つだけとなっていた。

 ソラたちも急いで降りて宿に預けていた荷物を受け取り、三大商人宛の書簡を用意。フェルナンドに手渡し彼ともここで別れる。

「後でブランシュエクレールでな」

 ソラたちは再びコンテナに乗り込むと、程なくしてブランシュエクレールへと帰還した。

「色々と始まりますね」






~つづく~

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