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第三十六話「異種族大集合」

第三十六話「異種族大集合」






 普段は空にある太陽は厚い雲に隠れ、雲からは大粒の雨が降り注ぐ。海上都市はいつのも活気を失っていた。それでも商いが行われており、他の楽市からすれば盛況に見える。幸い風は弱く、船の出港には支障はなかった。

 しかし、雨のため中央の使用は見送られる。時間を持て余したソラたち一行は、奴隷たちに説明会を開いていた。

 もちろん異例中の異例である。奴隷に今後の就く仕事や国について説明するのは手間のだが、ソラはそれを行うことにした。

 ソラたちはサキュバスモールで大広間を借り、そこに人を集める。購入した奴隷たちと、第五騎士団。そして三大商人たちの主だった面々が集まっていた。

 ひとつは奴隷たちにブランシュエクレールという国を知ってもらうため。もうひとつはカエデたちに、教えるということを経験させるためである。

「モスシルクワーカーだ。なんかすっげー」

 ジョセフの言葉にゲルマンが頷く。

「初めて見ました」

 シャルリーヌはひとりの前に立ち、断るとあちこち触る。人族にはない、体の体毛から触覚。羽もだ。

 蚕蛾の人虫族だ。体のあちこちに白い体毛。頭髪は全員白絹を彷彿とさせる。耳の上辺りから触覚が延び、背中から生えている羽は外套のように体を覆っていた。

「でかい胸! でかい尻! 最高だな!」

 ジョセフは大声で叫び、ゲルマンに咎めの肘鉄を見舞われる。

「なんで、だ」

「殿下がおられるのですよ」

 ジョセフの言ったとおり、一族全体を見ても豊満な体つきをしていた。もちろん個体差はあれど、妙に艶かしい体つきに、男性は理性と戦い始める。

「そして次がレイヴンスイーパー」

 ほとんど人族と身なりは同じである。しかし、腰のあたりから黒い羽と尾羽根が生えていた。

「スレンダーだが、素晴らしい一族だよゲルマン君。確か具合はかなりいいはずだ」

 ゲルマンは応じず、拳をみぞおち辺りに叩きこむ。

「なんでだ」

「だから殿下いるでしょうが」

「綺麗な羽ですね」

「あ、ありがとうございます」

 レイヴンスイーパーの羽を触るシャルリーヌは、その手触りを楽しんでいた。

「そして次にクロコダイルヴァーチャー」

 レイヴンスイーパーと同じく人族に近いが、頬と体の一部が鱗となっており、鱗の尻尾もある。

「この中では比較的に標準的だ。しかし、平均的な水準を引き上げているのは、やはりモスシルクワーカー! ごっは」

 ジョセフの股間にゲルマンの膝が入った。

 シャルリーヌは鱗を触らせてもらっている。

「そして最後にバニーハイランダー――と?」

 ジョセフはバニーハイランダーの足元にいる存在に気づく。全員がその小さな存在に、顔をしかめていた。

 開始前から説明会は異常事態になる。

「そのスタンドシバーヌ族はなんですか?」

 ソラはバニーハイランダーの足元を指差し問う。

「えっと……その……ごめんなさい」

 バニーハイランダーの族長、ブランディーヌは頭を垂れて謝罪する。

 彼女たちの足元には二足歩行する小人の短毛立ち耳、巻尾の犬がいた。スタンドシバーヌ族である。赤毛、黒毛、白毛、胡麻毛と約二百人いる。

「オイラたちが頼んだのだワン」

「可愛い……」

 シャルリーヌは前のめり気味にひとりを覗きこむ。

 ソラはすでにシャルリーヌが心惹かれていることに、察して頭を悩ませた。この先の光景が目に浮かぶのだろう。しかし、ソラは態度を軟化させることなく。再度問う。

「ブランディーヌさん? 詳しいご説明をしていただけますね?」

「は、はい」

 ブランディーヌは白い耳を撫でた。

 結論から言うと、スタンドシバーヌ族が同行を求めたのだ。彼らはブランシュエクレールへの移住を希望し、奴隷になることもバニーハイランダーたちよりも受け入れていた。

 彼らスタンドシバーヌ族は、バニーハイランダーたちが流浪をしている間に、共に行動するようになったという。

 そしてエクレール復活の兆しを目の当たりにし、バニーハイランダーたちが浮足立つのを見て、自分たちも住む場所がほしいと望んだという。

「それでは俺が嘘をついたことになる」

 これにはサファリラインのコウノスケが難色を示す。

 商人としての信頼を裏切る形となっているのだ。

「ダメなんですか?」

 シャルリーヌの潤んだ瞳に一同がたじろぐ。サキュバスのエルフリーデまでもが、動揺をした。

「殿下! これ以上はダメです!」

 レーヌが止めに入る。妖狐のシラヌイは面白可笑しそうに口を開く。

「いいんじゃない? 今更二百人増えても問題ないでしょう? それにスタンドシバーヌ族は悪く無いと思うわよ?」

「そこ、けしかけない!」

「ソラさん」

 シャルリーヌがソラを覗きこむ。その腕にはひとりのスタンドシバーヌ族。二人が目を輝かせて覗き込んだ。一同の視線がソラに集まる。全員がソラの判断に委ねたのだ。

 目付きの悪い少年は断ろうと、必死に考えた。

「ダメなんですか?」

「あぐっ」

 ソラは突然部屋を飛び出し、何食わぬ顔で部屋に再び入る。そして態とらしく、初めて気づいた素振りでスタンドシバーヌ族の族長と相対する。

「ちょうどいまわがりょうどでほしいとおもっていたところなんです。どれいですがどうでしょうか?」

「わあそれはとってもいいはなしだわん。ぜひともおねがいするわん」

 シャルリーヌ以外の全員が手で顔を覆う。

「ソラさん? 殿下?」

 レーヌは暗い笑みをソラに向けた。

「これで最後ですからね?」

 二人は項垂れながらはいと頷く。

「で、どうするんですか?」

「なんとかします。シラヌイさんが、おっしゃったとおり、スタンドシバーヌ族は役に立ちます」

 ソラは思案しながら、ブランディーヌに向き直る。

「こちらとしては大分譲歩したつもりです。ですので、そちらもお願いしますね?」

「すみません」

 この一件のおかげか、バニーハイランダーたちは特に奴隷化することに対して、反論しなかった。

 彼女らはスタンドシバーヌ族と共に過ごす時間が長かったのだ。それ故の信頼と愛着があった。そんな彼らが進んで奴隷化したこともあってか、彼女らは一族全体として、考え方を軟化させたのである。

「さて、殿下。殿下にも説明をしていただきますからね? カトリーヌさん。シラヌイさん。ついていてあげてください」

「私は?」

 カトリーヌ=ルとシラヌイは頷き、シャルリーヌの説明の不足分を補う役目を請け負う。

 手隙となったレーヌは、自分の分担はどするのだと問う。ソラは彼女を商人への説明の担当してもらった。

 これは間違いがあっては困るためだ。その間違いに付け入るかもしれないのが、商人である。

 説明会は程なくして始まる。






~続く~


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