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第一話「出会い」

外伝「鬼を宿す商人と虹彩異色の少女」

第一話「出会い」






 夏の日差しが青年の肌をジリジリと焼き焦がす。

 南風に乗って湿気が彼を包み込む。その旅に彼は大粒の汗を浮かべた。

 褐色の肌に緋色の頭髪。髪はバッチリと決めたリーゼント。しかし、汗と湿気で崩れている。

 褐色の青年は前髪をかきあげた。それだけで前髪は崩れてぶら下がる。

 青年は直そうとして諦めた。

「駄目だ」

「おいフェルナンド。甲板で横たわるなって」

 網が置けないと船乗りが怒鳴る。しかしフェルナンドは動けずにいた。

「暑い」

 動いて船室に入れば良いのだが、動く体力すら彼にはない。そう体現していた。

「金属製の網をかけてやろうか?」

「ローストビーフはごめんだ」

 フェルナンドは慌ててその場からどく。

 彼はオオサカ出身の商人。現在そのオオサカに向かって、海路を西へと進んでいた。

 ブランシュエクレールの内乱に遭遇し、そのまま彼なりに解決に尽力。そのおかげで彼はブランシュエクレールから、商材の優先販売権を獲得していた。

 商人との折り合いの悪い国だったのだが、彼がその突破口を開けたのである。

 徐々に商人との繋がりは出来ていくだろう。そうフェルナンドは考えていた。

 色々な事を考えながら、彼は縁に寄りかかる。

 彼はオオサカに諸々の用事を済ませに向かっていた。

 ン・ヤルポンガゥの海上都市から出ている定期便を選んで乗船。たまたま知り合いの船乗りがおり、道中の暇は潰せている。

 そんな彼の視線の先に変化が訪れた。水平線の向こうに陸が覗く。

「お! 陸地じゃーん」

「そろそろ着くぞ」

 程なくして船はオオサカの港に着く。

 港は石造りで出来ており、海に面している家は殆どが港と同じ石造りだ。

 その港は海の上に延伸して出来た港である。故に、海の上にも建物などがあり、陸路を行くよりも水路を進んだほうが早い場合がある。

 それらを利用した観光産業も取り入れ、水先案内人が水路を小舟に乗って客商売をしていた。

 フェルナンドはその光景を横目に、自身の相棒である馬と、商売道具の荷車を船から降ろす。

 船乗りに挨拶を済ませると、彼は商人組合へと足を運ぶ。道中色々な人間に声をかけられる。

 そこで色々な話を済ませると、露天や商店などを眺めていく。

 道中彼を見つけては、あれこれと売りつけようとしたり、買おうとしたりしていた。褐色の青年は適当に済ませて、改めて商品の並びを確認。

「相変わらずモテモテだな」

 鍛えぬかれた体躯を持ち、鋭い眼差しを持つ禿頭の頭の男が話しかけていた。フェルナンドもその男とは親しいのか、軽い調子で応じる。

「女だったら良いんだけどな」

「よく言うぜ。なんか景気のいい話はないか?」

「あるけど秘密」

 フェルナンドは白い歯を見せて笑う。

「また稼ごうって腹づもりか? 少しは噛ませろ」

「追々話は持っていくかもだ」

「それでまで生きていてやるさ」

 そうだと、禿頭の男はフェルナンドに耳打ちする。

「どうも戦争をするらしい」

「どことだ?」

「西の国だ」

 フェルナンドはげんなりして、またかと漏らす。

 禿頭の男は顔を離すと、手を差し出す。フェルナンドはいくつかの商品を手にとってから金貨を一枚隠すように渡す。

 禿頭の男は手触りで目を見開く。

「お前――マジか?」

「追々話は持っていくといっているんでしょうよ」

 禿頭の男は機嫌を良くすると、もうひとつ話があると言う。

「イチたちが大変なことになっている」

 その話を側で聞いていた商人も頷く。

「お! おっちゃん生きてたのか」

「まだ三途の川を渡るつもりはないよ」

 それからしばらくしてフェルナンドは商人たちから解放される。

 どこも奴隷が安値になりつつあり、武器や食糧の値が高値になりつつある。

 フェルナンドは空を仰ぎ見た。広がるは蒼穹。その先に九つの月を幻視する。

 九魔月。

 彼らの済む星は九つの月が回っている。

 それらが全て夜空に顔を覗かせることを、九魔月と呼んでいる。

 そうなってしまうと数年から十数年はその状態が続く。少なくともそうは言われている。過去の記録を見ても定期性があるわけではなく、なってからじゃないと対応が出来ないのであった。

 フェルナンドは九魔月を、初めて体験している。

 やれやれと褐色の青年はため息混じりに言う。

 ふと彼は路地裏に入った。なぜ入ったと聞かれれば、彼はなんとなくと答えるだろう。

 晴れ晴れとした夏の昼下がり、それでも路地裏は薄暗い。

 そこでは奴隷らが売られていた。首輪に値が貼られており、フェルナンドは「うへー」や「ひょえー」など感想を口にする。

 どれも強気の価格なのだ。

 奴隷として売られている少年に特技を聞くが、何もないという。フェルナンドはいぶかしんだ。この場にいて、物流を読めないなんてことはないはずだ。

 ならば少年が嘘をついているのかとも考えたが、フェルナンドは内心かぶりを振った。

 彼の直感がそうではないと告げている。

 怪しいから逃げよう。余計なことに首を突っ込むのは、ブランシュエクレールだけで十分だ。フェルナンドはそう言い聞かせて踵を返す。

 そこで口論の声が耳に飛び込む。

 フェルナンドは好奇心に勝てず、声のする方へと進み行く。

 声は曲がり角の向こう側からしていた。フェルナンドは物陰に隠れるように、覗き見をする。

 恰幅のいい男が、商人の胸ぐらをつかんでいた。そばには幼い少女がひとり。年の頃は十いけば良いほうだ。片目を眼帯で覆っていた。

 この薄暗い中でも輝いて見えるプラチナブロンドの頭髪に、フェルナンドはほーっと驚く。

 奴隷にしては身なりが良すぎる。綺麗過ぎる上に髪質も滑らかであった。危険な香りを感じ取った褐色の商人。

 彼はリリアナを思い出す。

 フェルナンドはブランシュエクレールの内乱の際、作戦に必要と、シャルロットにそっくりな奴隷を購入して用意した。

 が、その時購入した奴隷は、貴族の娘である。しかも現在彼がいるオオサカで、それなりに権威を持つ貴族だ。

 ――そういや、今頃アソー子爵とよろしくやっているのかねぇ?

 内乱が終わった後、本人の希望でアソー領に預かられている。

 奴隷の印はソラによって消されているので、いつでも帰れるのだが、帰ろうとしない。またフェルナンドも彼女を連れて帰る勇気はなかった。

 彼女を連れて帰る場合、女性の冒険者をかき集めて護衛をさせる必要がある。

 出費などを考えると物凄いことになってしまう。

 ならば、リリアナの父親に情報を渡せばいいだろうかとも考える。

 ――いやいや、それだと戦争の引き金になるかもでしょうよ。そんな片棒担ぎたくないね。

 そんな事を考えていると、その幼い少女と目が合ってしまう。

 フェルナンドは慌てて顔を引っ込める。

 ――悪い癖だぞ俺。何も見なかったことにして、ここを去ろう。

 今度こそ外に向かおうとして、脳裏に先ほどの少女の顔が浮かぶ。助けを求めるような眼差しにフェルナンドは、良心の呵責にさいなまれる。

 何か大きな声を発するとフェルナンドは、幼い少女のいる路地へと入った。

「なんだお前は」

「その娘。超好みだから俺に譲ってくれよ」

 商人はあからさまに警戒心を示す。

 そこでフェルナンドは、この商人は外から来た人間だと察する。きっと露天にも出せないほど地盤固めができていないのだろう。

 おまけにフェルナンドを知らない様子だ。

 彼はここでは顔が通る方だ。それを知らないとなると、商人ですらない可能性がある。

「商談中だ」

 恰幅のいい男はあからさまに不機嫌となった。

「まだ買ってないんだろう?」

「魔法に長け、読み書きできますよ」

 ――読み書き出来る少女ねぇ。

 フェルナンドはの頭の中で警鐘が鳴り響く。おまけに顔見知りでもないフェルナンドに、高額商品を売りつけようとしていた。

 商人はなんでも売るが、相手を選ぶ。それをしないということは――。

 彼はすぐに済ませようと、幼い少女の首輪に書かれている値を見る。

 フェルナンドはその倍額を袋ごとほれと差し出す。

 商人は袋の中身を見て「こんなに金貨を?」と声をあげる。

 そこで決定的となるフェルナンドは、目の前の商人は潜りであると理解した。

 褐色の商人は左腕の様子を確認。それから二人の様子を気にせず、幼い少女へと手をのばす。そして眼帯を一瞬で引っぺがす。

 制止した商人モドキは遅く、そこから覗いたのは虹彩異色――オッドアイだ。

「貴様、凶兆をこの俺に売りつけようとしたのか!」

 恰幅のいい男はそのまま商人モドキを掴み上げる。

 フェルナンドはその男にも、きな臭さを感じた。

 褐色の商人は少女を抱え上げると、その場から逃げるように去った。






~続く~


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