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第十六話「散る命。動く世界」

第十六話「散る命。動く世界」






 戦いが終わると、ソラは即座に王宮に満ちたマナを霊力で払う。その場にいる魔力を持つ人間の魔力を一時的に殺し、いくつかの注意事項を告げた。それを守らねばマナ出血毒が再発、発症する可能性があるため、敵も味方も真剣に頷いた。

 ブランシュエクレールの王宮。王座の間に差し込む光が一人の男を照らす。陽光を眩しそうに見つめて、安堵するかのように息を吐く。

 玉座の間の高い天井、そこに大きな穴が空いていた。原因はワイバーンが絶命した際、そこに落着したからである。

 最期の陽の光を浴びながら、側で泣く少女たちを微笑ましく見つめた。頬を撫でようとして、思うように動かない手に、老翁は苦笑いをする。

「陛下……泣かな……いでください」

 手を差し出していたことに気づいたシャルロットは、その手を力強く握りしめた。シャルリーヌもその手を包む。

「ごめんなさい……ごめんなさいムライ」

 シャルロットから大粒の涙がこぼれ落ちていく。対してシャルリーヌは泣くことが出来ずにいた。自身が招いた結果に、腹の底を冷やしていたのだ。泣くことが出来ずに、シャルリーヌは自責の念に駆られる。

 コウメイ・ムライの肌は、部屋に連れて来られた時は土気色だったが、今では青白い色に変わっていた。

 シャルロットが盗賊を討伐に出てすぐ、彼はパッセ侯爵により捕まってしまったのだ。最初は部屋に軟禁されていただけだったが、一週間前にそれは終わりを告げる。

 シャルロットの所在、行きそうな場所を教えろと言われ、シャルロットへの忠義を貫いた宰相。しかしそれは、激しい拷問の始まりであった。

 最終的にはゾエの憂さ晴らしようの道具となり下がり、マナ出血毒が致命的となる。

 その身に刻まれた傷は生々しく、ところどころがあり得ないほど変形しているのだ。

 シャルロットが握りしめた手にも、それを痛感させる痕があった。

「私の夢を聞いてください」

「聞く。叶えてあげるわ! だから生きて――」

 コウメイ・ムライは首を振る。

 痛いほどに嬉しいその申し出に、彼はわずかばかりの後悔が生まれた。もう少し生きて彼女に仕え、老婆心を焼きたい。そんな想いが強く、老翁の胸に突き刺さる。

 ムライは、その後悔を振り払うように口を開く。

「それは、いずれ叶いそうです」

 老翁の視界の端に一人の少年が立っていた。目つきは悪く、第一印象は良くない。しかし、その少年が、シャルロットとムライを再会させてくれたのだ。自身が仕え続けた主君を、ここまで連れてきてくれたこと、支え続けていたことも察していた。

 そんな彼に、自身が抱いていた夢を一瞬だけ重ねる。否、確信して笑う。

「陛下、お似合いですよ」

「何を言っているの?」

「眠く……なってきました……」

 シャルロットは目を見開き、口を開けるが声が出せない。シャルリーヌは慌てて口を開く。

「ごめんなさい。ごめんなさいムライさん。私が――」

「それは言いっこなしですよ――殿下……人間間違うことはたくさんあります。取り返しのつかないことも……あり……ます――」

 ムライの目は徐々に光を失っていく。

「――そこで、どう向き合うか。それが貴方の今後の課題ですよ……その礎となれた事に、誇り……で……」

 シャルロットはそっとムライの瞼を閉じる。最後に強く抱き上げ、大きな声で泣く。嗚咽混じりにパッセ侯爵とゾエを罵倒し、恨み言を叫ぶ。

 シャルリーヌは声を殺して涙を流した。

 ソラを含め、見守っていた面々は彼女らが泣き止むのを待つ。

「ソラ……」

 彼は静かに「はい」と応じる。

「埋葬出来るわね?」

 ソラは首肯し、老翁を丁重に抱え上げた。シャルロットは涙を拭い。カエデたちに向き直る。

「カエデ、シルヴェストル、ジン、アラン。貴方は埋葬の手伝い。マルコは私の護衛ね」

 カエデたちは荷車に乗った亡骸を運び出す。ソラは一人の兵士の案内の元、玉座の間を後にする。

 マルコは山高帽をかぶり直し、シャルロットの側で周囲を警戒した。

 奪還したとはいえ、まだ命を狙ってくる輩がいるかもしれない。その事を考慮しての措置だ。

 続いてシャルロットはジョセフに視線を向けた。手には縄。その先は彼の血の繋がった父親である。

「ジョセフ、アドルフ・パッセを連れて広場に、ゲルマンは広場までパッセの護衛。その後は民に任せるわ」

 ジョセフは軽い調子で「あいよー」と応じた。パッセ元侯爵は、命乞いをし、喚くが彼らは聞かず、引きずりながら玉座の間から消える。

 最後にシャルロットは、シャルリーヌを引き連れながらパスト公爵を別室へ軟禁し、パスト公爵が連れてきた兵士たちを、丁重にもてなした。

「優しいことで」

「野盗に落ちてもらっても困るでしょうに」

 マルコは「それもそうだ」と納得。野盗になられたら、魔力が使えない状態での追撃を試み無くてはならない。

「生身でも自信はある。あるが、危険な真似はしない主義だ。それに則るさ」

「私が守ってあげましょうか?」

 マルコは山高帽を深く被って「遠慮する」と言う。

 シャルロットは目配せして、シャルリーヌに視線を向け、自分の後についてこさせた。それから色々滞っていた政務、事後処理をしていく。それらをひとつひとつ、シャルリーヌに丁寧に説明していく。わからなければ何度も説明を繰り返した。その事にシャルリーヌは疑問を抱く。自分に教える必要性がないのでは、と。

 王都内の公示人を呼び集め、内乱を終結したことを伝えるように指示を出した頃には、空に星が瞬いていた。






 シャルロットは机の上で伸びをし、側でへたり込んでいた妹を見て、苦笑する。

「もう休みなさい」

「はい」

 マルコは扉付近で手を挙げた。

「俺は?」

「シャルリーヌを部屋に送って頂戴」

 シャルリーヌはそこで、自身の体調が元に戻っていることに気づく。今の今まで緊張と作業の連続で、そこに意識が向かなかったのだ。ここに至って余裕を得たことにより、ようやくそのことを認識したのだ。

 そのことをシャルロットに身振り手振りで説明をする。

「――だから、良くなっているのです」

 話を聞いたシャルロットは「あー」と口を開いて、しばし考え込んだ後に呼び鈴を鳴らした。しばらくすると、扉が叩かれる。シャルロットは応じて、戸が開かれ、ソラが部屋へと入ってくる。

 この時初めて、シャルリーヌはソラの顔を認識した。ようやく落ち着いて顔を見られたためかシャルリーヌは、顔を強張らせる。その様子にソラは頭をかいてから、シャルロットの言葉を待つ。

「呼んでおいてなんだけど、よくわかったわね」

「なんとなく、です」

 彼女は「ふむ」と頷いてから続ける。

「シャルリーヌの体調がいいんだけど、そういうことかしら?」

「そういうことですね」

 シャルリーヌはわけも分からず、二人の顔を何度も見た。

 二人はシャルリーヌが知らない、共通の知識を持ち合わせている。

「そういうこととは?」

 シャルロットの視線を受けたソラが、小さい咳払いをする。シャルリーヌの視線が彼に向いたところで口を開く。

「魔力の暴走です」

 シャルロットは、サナダ領を出立する前に聞かされていた。

「え? 私がですか?」

 ソラは、シャルリーヌが生まれながらにして強力な魔力を持ち合わせていることを指摘。その言葉にシャルロットは頷き、王の印である指輪を撫でた。

「そういう方に多いのが、魔力の暴走。それは目に見えないモノが毎日起き、体に負担をかけて、人より病にかかりやすかったりするのです」

 シャルリーヌは頷く。

「きっと、霊力で魔力を一時的に殺した時に、それらも治ったのよ」

 シャルロットの補足に、ソラは首を縦に振る。

「それもありますが、強い魔力を扱いになりませんでしたか?」

 姉妹は同時に手を打った。思い当たる節があるのだ。

「お姉様と喧嘩しました。その時に――」

 シャルリーヌは自身が手に持っていた、魔導具ブランシュエクレールを見て、目を瞠る。

「お姉様、これをお返しします」

「それ、私あんまり使えないから、貴方が持っていなさい」

 予想外の返答に、シャルリーヌは頭の中が真っ白になった。

「しかし、これは王位継承の証ですよ」

「だから、貴方が持っているの」

 今度こそシャルリーヌは頭が真っ白になる。言葉を失い、助けを求めるように、ソラに視線を向けた。

「陛下、殿下にお話になっていのでは?」

 シャルロットは面倒そうに、顔をしかめた後に咳払いをする。頭をかいてから、腕を組んでシャルリーヌと視線を交わす。

 ソラはマルコに目配せして、踵を返した。

「あ、ちょっと待って。そこに二人共いて」

 シャルロットは言葉を探す。保証人になってほしいと告げられる。ソラはすぐにそれは貴族の面々にさせるべきだと促すが、それはそれで済ますとシャルロットは言う。

「そのね。私はつなぎなのよ」

 シャルリーヌは困惑する。シャルロットは助けを求める視線をソラに向けた。が、彼は首を振って、続きを促す

「母が死んだ時の事を覚えている?」

 シャルリーヌは頷く。

 アデライドが亡くなった時、シャルロットとムライにだけ告げた遺言があった。その時の文言を認めた書き残しを、机から取り出す。

「お母様の筆跡――あっ!」

 桃色のドレスを身にまとった少女は、身を固くした。そして自身の持つ剣を確かに握りしめる。

 そこにはシャルロットが即位七年以内に、シャルリーヌへ王位を譲ることを書き記されていた。

「体調が良くなってから、色々と教えていこうと思っていたの」

 しかし実際にはシャルリーヌは体調を崩しがちであり、ここ一年でようやく快方に向かってきたのである。ムライと話し合ってどれくらいの時期から引き継ぎの作業をしようかと、話し合っていたところでもあった。

 その話を聞いて、改めてシャルリーヌは自責の念に囚われる。

 それらをすべてパッセのせいにしておく。それがシャルロットの提案だった。シャルリーヌは納得いかないまでも、それで心の平静を保つ。






 ブランシュエクレールの内乱が終わったこの時期、エメリアユニティとグレートランドは、不本意な形で軍事衝突をしてしまう。お互いに牽制が目的だった軍の展開は、お互いに予期せぬ形で激突。多数の死者を出す結果になってしまった。これによりグレートランドはエメリアユニティにも、強い警戒をしなければならなくなり、ブランシュエクレールに対する動きが鈍くなる。

 さらにグレートランド皇帝、アップル・エッジ・グレート・キングオーランドがブランシュエクレールに対する軍事行動を牽制する言を発したことで、表立って動けなくなった。

 同じ時期、グレートランドの同盟国も西の大国に攻撃にあう。ロートヴァッフェ。グレートランドの西にある国である。この国の西にあるのがカンウルス。遊牧民の国だが、度々周辺国に、奴隷や収穫物を目的とした襲撃を繰り返していた。そのため大きな戦闘になる前に引き上げていくのだ。しかし、今回は違った。

「砦を構築だと?」

 中年の男の問いに兵士は恭しく頭を下げて答えた。

 男の頭には金で作られた冠。座す椅子は金の彫刻、頭部には金の冠。

 彼の眼前には赤い絨毯がまっすぐに敷かれており、端には金の刺繍がなされていた。その端より外側に、男たちが長い列を作って男を見つめている。どの表情も暗く、苦虫を噛み潰したような顔をした者もいた。

 男が座しているのは王座。そしてそこに座っている男は王である。

「ヒンメルとクーゲルは向かったな?」

「両名が対応しておりますが……」

 男はその先の言葉を聞かずとも理解していた。

「士気が問題か……」

 兵士の報告では、撃退に動いた面々の士気は低い。今はまだなんとかなっているが、中長期的な戦闘になると、敗戦は必至であることを告げた。

 その報告に部屋にいる男たちが口々に言葉を交わす。王は手をあげてそれを止めさせる。

「国の備蓄から食料を送り出せ、それで持たせるのだ」

 王の指先が金の装飾を力いっぱい掴んだ。

 兵士は異を唱える。国の備蓄は崩すべきではない。周辺の地域から徴収するべきだと。その進言に、王は首をふる。

 男は理解していた。徴収すれば民の感情を悪化させることを。ただでさえでも無理を敷いていた。ここでさらなる苦を与えることは、外敵に対応するどころではない可能性が考えられたのだ。

「お父様」

 そこへ一人の少女が脇から歩み出てくる。

 赤味の強い紫の頭髪。腰の辺りまである髪は、毛先に行くほどに波打っていた。彼女が歩くたびにゆらゆらと揺れて、兵士の視線を釘付けにさせた。

 身にまとうドレスは紫と白を重ねており、裾の先には白いフリルがあしらわれている。手には白い手袋、上腕まで覆われていた。

「ディートリンデ。どうかしたのか?」

 ディートリンデの瞳には並々ならぬ意思を感じ取れたのだ。対する父親は、溜飲を下げる。彼女が言葉を紡ぐ前に、父親は口を開く。

「また、無茶な事は言わないでくれよ」

「わたくし、そのようなこと言いませんわ」

 ディートリンデは満面の笑みを浮かべた。王は内心頭を抱える。

「よい、申してみよ」

「ブランシュエクレールにお願いするのです。助けてほしいと」

 思わず反応したのは、彼女の父親であった。

「バカを申すな。彼の国は今、非常に微妙な立場だ」

 その言葉に部屋にいる者たちは同意の素振りや、声をあげる。ディートリンデは特に気にもしなかった。

「では、グレートランドに支援を申し込みますか?」

 彼女の言葉に沈黙が訪れる。重く冷たい沈黙だ。彼らの耳にもエメリアユニティとグレートランドが激突したことを知っていた。互いに軍を動かして牽制しあわねばならず、兵力を割けるような状況ではない。なにより、ロートヴァッフェとエメリアユニティは国境を面しており、グレートランドとエメリアユニティが激突した場所も、彼女らの国の国境付近であった。

 仮に動かせたとしてもエメリアユニティからすれば、グレートランドを引き入れて両面から攻撃しようとしているように見えてしまうのだ。相手に攻める口実を与えてしまい、最悪、カンウルス、エメリアユニティ、グレートランドを巻き込んだ戦乱に発展してもおかしくない。

 故に独力でカンウルスを撃退せねばならないのだが、それが叶わない状況となっていた。

「食料、燃料。それらを支援していただければ士気はなんとかなります」

「確かに――だが、我らに支援してくれるか?」

「幸い、ブランシュエクレールもマゴヤとの激突は不可避でしょう。だから、我が国自慢の武器と引き換えに」

 ディートリンデに提案に一同が、納得の声を漏らす。しかし、一人だけ異を唱えた。

「そううまく行くでしょうか? 例えうまくいったとしましょう。グレートランドに道中略奪されませんか?」

 通行料などで、いくらでも奪うことは可能であった。その懸念がないとは言い切れない。何より――。

「パスト公爵の領土を通らねばならないな」

 王は頭の中にある地図を広げて、頭を抱える。

 グレートランドの南側はパスト公爵の管轄の領地となっていた。ロートヴァッフェから陸地で向かうにしても、海路に出るとしても、パスト公爵の領地は避けては通れない道である。

「そうなればエメリアユニティを引き入れてしまいましょう」

「なっ?!」

 一同が驚きの声をあげる。ディートリンデはさらに言葉を続ける。

「エメリアユニティにとっても、今の我が国の状況は知れているでしょう。彼らから見ればどう映るでしょうね?」

 エメリアユニティにとっても、グレートランドの同盟国の切り離しは臨んでいる状況と言えた。

 そしてディートリンデの予想は正しく捉えていた。この時、彼らはこの状況を利用してグレートランドからロートヴァッフェを離反させ、同盟国に引き入れようとしていた。

 エメリアユニティもカンウルスとか領土を面しており、厄介な相手ではあるのだ。それをどうにかしたいが、そちらにばかり注意を向ければ、グレートランドに背後を突かれる可能性があった。だがロートヴァッフェがエメリアユニティに与してくれば、カンウルスを相手にしている間に、グレートランドの牽制が出来、かつカンウルスを両面から責めることが出来るのだ。

「どちらにせよ。事態を動かす位置にいるのは我が国か」

 王の言葉にディートリンデは頷く。

 王に視線が集まり、それらを受け取った男は、二十を数えるほど考え込んだ。

「――いいだろう。ただしお前がやるのだ」

 ディートリンデは不敵に笑って首を縦にふる。

「モウトク・リョを連れて行け。後はお前が見繕うのだ」

 ディートリンデは恭しく頭を下げると、颯爽と部屋を後にした。






 ようやく落ち着きを取り戻したブランシュエクレール。ひと月の間は内乱の後処理。一ヶ月で済んだ理由にはいくつかある。ひとつはドラゴンを倒した戦士がシャルロット側にいること。パッセ侯爵の息子が進んでシャルロットに協力していること。領民たちを敵に回して亡くなった貴族も少なからずいたことや、最後にマゴヤが攻めこんでくるかもしれない。その話は彼らを仮初とはいえ団結させるのに十分だった。

 また、ドラゴンを倒して手に入れた金銭は彼らを魅了させるのに十分だったのだ。未だかつて国庫が金貨で埋まったことはなかった。そのお零れに与ろうとする者たちは、すぐに恭順の意を示したのである。シャルロットもまたそれを理解した上で、金銭をチラつかせながら飼いならそうとしていた。

 当初はその手法に批判的だったが、ソラに嗜められてからはそれも必要なことだと割りきったのだ。

「とはいえ、まだ問題があるわ」

 シャルロットは執務室で肘をついた。

 部屋にはシャルリーヌ、レーヌ、カトリーヌ、マルコ、最後にソラだ。

「ソラ、元パッセ領の代官として向かって欲しい」

 パッセ領の後処理だけ、滞っていた。理由はいくつかあるが、最大の理由は未だにパッセ侯爵の家臣たちが、協力的ではないことだ。力技で下してもいいが、それをすれば問題は残る。

 なによりシャルロットは、シャルリーヌが王位を引き継いだ後、パッセ領を受け取るつもりであった。そのための地ならしも、ソラに頼もうとしていたのだ。

「シャルロット様、お言葉ですが彼に任せて良いのですか?」

「レーヌとカトリーヌも治療のこともあるから、同伴してもらうぞ」

 レーヌとカトリーヌはマナ出血毒にかかっていた時期が長かったため、再発の危険性が一番高かった。そのためすぐに治療出来るソラの側を離れるわけにはいかない。加えて、シャルロットがパッセ領を頂いた時に、レーヌはついていくつもりなので、シャルロット的には引き継ぎの作業を楽に済ませられると、願ったり叶ったりなのだ。

 レーヌはそうではないと言い募る。

「彼は異国の人間で平民ですよね?」

 そこでシャルロットは手を打った。

「そろそろ正体を明かしてくれてもいいんじゃないか?」

 彼女はソラを見据える。その言葉の意味にマルコ以外が、理解できずにいた。

 レーヌはすぐにどういう意味なのかと、問う。

 シャルロットはここまでの経緯を話す。文字の読み書きが出来ること、馬に乗れること、武芸に秀でていること。それらを鑑みて彼女はある程度彼の身分を予想していたのだ。今まで忙しくてそれを聞く機会を逸していたのである。

 ソラは頷く。

「ですが、廃嫡されております」

「それでもそういう心得はあるのだろう? というか、聞いているのだから答えなさい」

 ソラは「はい」と頷いてから答えた。

「ソラ・イクサベ。それが俺の名です」

 その名前に全員が驚く。聞いたシャルロットですらだ。

「アズマの――」

 ソラは首を縦にふる。

 シャルリーヌが首を傾げた。答えたのはマルコだ。

「アズマ唯一の武家。二年前の大戦で黒虹の侍という異名を得た者がいたな」

 山高帽の男は意味深な瞳をソラに向けた。彼は答えずに、周囲の状況を見守る。

 真っ先に口を開いたのはシャルロットだ。

「まあ、そういうことだレーヌ」

 言外に支えてやってほしいとシャルロットは彼女の肩に手を置く。






~続く~


全話、手直しするため更新滞ります。四月中には次のお話を更新したい。

ではでは。

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