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第十五話「王座奪還」

第十五話「王座奪還」






 アソー領は王都ブランシュエクレールから見て北東にある。

 林檎の栽培が盛んであり、林檎酒、林檎の花からとれるはちみつなどが特産品だ。また海や国境に面しており、それなりの物流を誇っている。アソー領の東には唯一陸地で繋がっている国境が有り、アソー子爵の性格も相まって、すぐにでも外敵に対して即応出来るようにしてある。

 生前のアデライドが、アソー子爵をそこに配置したのだ。その勇猛さと愚直さを評価してのことであった。アデライド亡き後、これに異を唱える者が出る。理由は子爵としては分相応な広大な領地。そして彼を嫌ってのことであった。

 シャルロットもアデライドと同じく、彼に相応しいと判断。異論を一蹴。アソー子爵に改めて領地を授けた。

 それ以来、アソー子爵はシャルロットに絶対の忠誠を誓ったのだ。

 本陣で赤髪をオールバックにした大男は、フルヘルムを被った金髪の女性に、身振り手振りで話をしていた。

「――ドラゴン討伐の時、一太刀浴びせたあの勇姿、とても美しかった」

「そうなんですか」

 ロラン・アソー子爵は拳を作ってリリアナに力説する。彼女と目が合うと、気恥ずかしそうにそっぽを向く。

「ですから、その私にとって貴方を守るというのは、陛下と同じくらい重大なことで、そのなんといいますか……」

「猪貴族がどうした? 怖じけたのか」

 アソー子爵は口をパクパクさせて、耳まで真赤にする。

「ランス! なんだ貴様!」

「怒鳴るな怒鳴るな。邪魔して悪かった」

 アソー子爵は腹心であるランスに掴みかかった。赤い髪の槍兵は、面白そうに二人を見て笑う。リリアナはわけも分からず首をかしげていた。

 彼女とフェルナンドが到着した時に遡る。夜空に九つの月が瞬く中、彼らは合流する。アソー子爵は当然の事ながら、リリアナをシャルロットと勘違いした。

 彼は嬉しさのあまり熱い抱擁してしまう。その時、彼女の瞳を初めて確認。密書を渡されて、影武者と理解したのだ。

 当のロラン・アソーはそんな彼女に一目惚れしてしまう。彼女の事情も理解したので自制をしようとしたのだが、性分故に、想いを告げるだけはしておこうと思ったのだ。

 が、それが出来ないでいた。

 ここに至るまで遠回しな言葉を送ってみたものの、彼女には届かなかったのである。

「あの手は鈍い。直接的な言葉の方がいいぞ」

「わかっている。だが、彼女のこれまでの経緯や、色々なことを考えるとだな」

 二人は小さくなって寄り添い、恋の作戦会議を開く。勝利の決め手は理解しているにも関わらず、主がそれを拒否するというやり取りだけが続く。

「あー、お二人さん? そっちより、こっちの事を相談したほうがいいんじゃないか?」

 褐色の肌の青年が二人を現実に引き戻す。

 二人は慌てて立ち上がる。振り返った。彼らに配下と協力者してくれる貴族たちの視線が集まる。

 アソー子爵は咳払いをして誤魔化す。

「ランス、戦況は?」

 赤髪の槍兵は「良くない」の短く告げた。

「ついでに濃度も九魔月のせいで高い」

 ランスは円筒のマナ計測器を振って見せる。マナの濃度は六割を示していた。これは他国からすれば高いほどではない。しかし、ブランシュエクレールにとっては高い水準であった。

 本陣に緊張が走る。全員の表情が強張った。

 数の上ではアソー子爵たちが圧倒的な優位である。しかし、数だけだ。民兵を合わせて二万いるが、実際に戦闘が行えるのは二千であった。武器も持たぬ民が集まり、座り込んでいる状況だ。

 本陣の四方に民を座り込ませて壁を作っている。その先をパッセ連合の貴族たちが取り囲んでいる。彼らの兵力は約八千だ。

「民兵はそこまで被害が出ていない。ほとんどが取り囲まれて拿捕されている」

「相手がミュール伯爵で良かった」

 民を扇動したとはいえ、実質アソー子爵とその協力者の私兵対、パッセ侯爵の派閥とその私兵を合わせた大群である。

 最初こそ睨み合いで済んでいたが、シャルロットに扮したリリアナが来てから一変。パッセ連合が攻め立てて来たのだ。

 とはいえ、彼らも理性的に対応していた。兵力を一箇所に集中させ、民の座り込みに割り込ませて、取り囲んで捕まえて領地に帰るように促すだけだ。少しずつ壁の一角を崩されており、本陣に敵が到達するのは時間の問題となっている。

「こちらは二千。対する向こうは八千」

 リリアナは言いながら地図を見やる。彼らの本陣は丘の上にあり、その四方を囲まれていた。

「突破されればどうなりますか?」

 本陣にいる全員は、リリアナがシャルロットではないことを理解している。故に、突破された後の事を考えて押し黙った。

 その雰囲気に察したのか、彼女は笑顔を作った。そのぎこちない笑顔にアソー子爵は胸を痛め歯がゆく思う。

「私は影武者です。覚悟はできています」

「陛下と同じように――否! それ以上にお守りします! 必ずや私がリリアナを国へお返ししてみせます! だから、安心してください」

 リリアナは驚き言葉を失くす。

「おお、熱いねぇ」

 ロラン・アソーはランスと視線を交わす。

「いっちょやるか?」

「派手にな!」

 アソー子爵は黒いフルヘルムを手に取る。

「フェルナンド殿、いざというときのため逃げる手はずを」

「あーあー嫌だね。そういう暑苦しいの」

 褐色の青年は頭を抱えた。リリアナは堪らず口をはさむ。

「何をなさるおつもりなのですか?」

「私は他の貴族たちに、猪貴族と言われておりましてね。猪らしく戦場を駆けようと思います」

 アソー子爵の言葉に、彼女は目を瞠る。

「とはいえ、ここが手薄になる。それでは我々も危険だ」

 貴族の一人が異を唱えた。他の者も頷く。何よりリリアナがここにいればパッセ側の貴族たちは一気に攻め込んでくるのは、明白だった。

 沈黙が本陣を支配する。

「でしたらどうでしょう? 皆さんで突撃というのは?」

 全員が息を呑む。

「民はどうする?」

「皆さんには一気に散ってもらいます。その混乱に乗じて、敵の本陣に突撃。私が最前線に立ちます」

 全員が驚愕の声をあげた。

「最悪、私が影武者とわかれば。彼らはここを放棄します」

「確かにその可能性はありますが危険で――」

 アソー子爵の制止はリリアナの言葉によって切られる。

「ここに注意を向けた。その時点で私達の勝ちです」

 全員がその言葉に頷く。こうしてパッセ侯爵の私兵を引きずり出せただけでも儲けものなのだ。

「確かに陛下なら今頃、王都で大暴れしている頃だろうな――いや、しかし、だからこそここで時間を稼いでもいいのでは?」

 フェルナンドの言葉に彼女は首を振った。

「時間を稼いでも突破されるのでしょう?」

 アソー子爵は「そうですが……」と呻くように声を絞り出す。

「ならば、戦場を引っ掻き回しましょう徹底的に」

 リリアナの言葉に、他の貴族たちも頷き始める。

「それはいい」

「しかし民を一斉に解散させると言ってもどうやる?」

 一人の老翁が口を開く。

「火事はどうじゃ?」

「火事。祭り火事は人を騒ぎ立てるに十分だな」

 全員がその意見に賛同する。細かい部分を補いながら作戦を詰めていく。

「リリアナ殿、戦いの心得は?」

 彼女は「ないです」と笑顔で即答した。

「だから、守ってくださいアソー子爵」

 アソー子爵は呆気にとられて、しばし間を作ってしまう。すぐに気を取り直すと顔を引き締めて彼は誓う。

「我が身命に代えても、お守りいたします」






 パッセ連合はアソー子爵の本陣から見て、東に位置している。兵力はパッセの私兵五千を含めて八千。東の本陣に五千、残りの三千をそれぞれ千で分けて、北、南、西に配置していた。

 東の民で出来た壁は、徐々に切り取られており、突破は時間の問題となっている。しかし、その手際は非常に非効率的であった。民の中に兵士を割りこませて、囲んで戦意を奪って拿捕し、戦場から離れた場所で民を解放。それを繰り返しているのだ。

 ミュール伯爵は、アソー子爵討伐隊の総指揮を執っていた。

「殺したほうが早くないか? 民など、湧いて出てくるのだぞ?」

 一人の貴族の意見に「なるほど」と応えてから続ける。

「つまり国内の実りを減らして良いと、卿は言うのだな?」

「そうは言っておらぬが、早いことに越したことはないだろう?」

「武器を持たぬとはいえ、数の上では向こうが優勢だ。二万が一気に暴動となれば、我々も対処しきれないのだぞ?」

 彼らが恐れているのは、今いる民が一気に動くことである。騎馬を持ち、武器を持っていようとも大群の前には為す術もなくなってしまう。

「卿は腰抜けだな! 民でしょうよ。武器もないのだから、簡単だって言ってんだ」

 厳つい顔の男がミュール伯爵に異を唱えた。

「このままでは、パッセ侯爵に申し訳が立たなくなるとも言っているのだ」

 ミュール伯爵は内心罵倒する。

(手柄が欲しいだけじゃあないか)

 彼らは言わば、目の前に餌をぶら下げられた馬なのだ。餌とはシャルロットのことである。その首級を上げてパッセ侯爵に取り入ろうと考えていたのだ。

 パッセ連合の総指揮は、少し考えこむ。

「では、卿はお好きな様に動いて構わない」

 ミュール伯爵は、厳つい顔の貴族を指さし言う。

 彼は言ってわからぬなら、見せしめにした方がいいだろうと判断したのだ。実際、パッセ連合の面々は手柄をあげようと必死だった。すでにシャルロットの生死の有無も忠誠心もない。野心を剥き出し、我こそはと昂っていた。

 民が暴徒となって押し寄せても、現在の位置から逃げることは容易であった。

 早速厳つい顔の貴族は、何人か扇動する。その中にはパッセ侯爵の私兵、三千も加わえての四千だ。

 つまるところミュール伯爵と、積極的に動こうとしない貴族以外は全て動くこととなったのである。この自体はミュール伯爵も想定しておらず、少し狼狽えた。

 一人の貴族がミュール伯爵に問いかける。

「よろしかったのですか? 本陣が手薄になりますが」

「呆れるね。どいつもこいつも、目先の手柄しか見てない。内乱だよ? 外の国と戦っているんじゃないんだから! 彼らが出たら、逃げる準備」

 異を唱えられる前に「いいね?」と念を押す。手薄な本陣などあってないも同然だ。

 後にこの判断が彼らの生死を分けることとなった。

 程なくして気炎の声を上げながら、パッセ連合は攻めこむ。そんな彼らを見送って程なくしてミュール伯爵は異変に気づく。

「煙が上がっている」

 残った面々は敵の本陣から立ち上る煙に、釘付けとなった。煙が狼煙のような白ではなく、黒い煙だ。すなわちそれは火事を意味している。それを察して彼らは困惑した。

「火事ですか?」

「見りゃあ、わかるって――いや待て」

 ミュール伯爵は顔を青ざめさせる。

「火事ということは逃げる」

「そりゃあそうですね」

「逃げるってことは大混乱じゃあないか!」

 本陣に残った貴族たちは顔を青ざめさせた。ミュール伯爵は自身の私兵を手招く。

「逃げるんだよぉ!」

「はっ? いえ、しかし」

「義理立ては出来たのだから。ここで倒れちゃあ意味がないって言ってんの! 俺達の負けちゃうじゃあないか!」

 彼らの目の前で民の壁が大きく動き出す。四散したもの、その動きはうねりとなって突撃した三千の兵士を飲み込んだ。

 本陣に残った貴族たちは手勢を固めて戦場から我先にと逃げ出す。

 ミュール伯爵は私兵をまとめて逃げ出す頃には、突撃した四千の兵士は烏合の衆と成り果てていた。事態の急変に追いつけていないのだ。

「馬鹿め。手柄などに目がくらむからそうなるのだ!」

 彼らの突撃はアソー子爵らにとっては絶好の機会となったのである。人の濁流に呑まれて動けなくなった一団に、黒い甲冑、黒いハルバートを装備した騎兵が突撃していく。対応する間もなく主だった兵士、貴族たちは絶命していく。

 アソー子爵は貴族を発見すると、優先的に討ち取っていく。

「シャルロット様の邪魔とならぁ奴は陛下が許して俺が許さん!」

 血飛沫が舞い、土煙が上がった。戦場は思わぬ形でアソー子爵たちの勝利で終わる。

 この時の敗因を後にミュール伯爵は語る。「あの時防御に徹していれば」と。






 王都では民の武装蜂起が始まった。それに乗じてシャルロットたちは王宮への秘密の通路へと侵入。それを見送ったソラは、戦場へと駆けつける。

 民とパスト公爵の私兵の激突は始まっていた。地竜が人を蹂躙し、その力に民は恐怖し、後退し始める。

 ソラは駆けながら、口を開く。

「最初から使う――蒼の手助けも必要にならないよ」

 誰も彼の側にはいない。だが、彼は確かに話しかけた。

 ソラは変身する。雷が地面から天に迸ると、黄色のドラッヘングリーガーへと変わっていた。間髪入れずに稲妻が爆ぜ、稲光が迸る。鋭角的な軌跡は、あっという間に戦場に飛来し、轟音を響かせながら隊長格の兵士の首を跳ね飛ばしていく。

 突然の落雷。突然の血飛沫は両陣営の動きを止めるには十分だった。地竜二体が作った開けた場所に雷が爆ぜる。煙が立ち込め、全員が息を呑む。

 煙が晴れると、そこには異形の戦士。左手を地面につき、身を低く構えていた。右手には逆手に持った短剣。黄色の瞳孔が地竜二体を射抜く。

 地竜は激しく威嚇の咆哮を上げた。しかし飛び出そうとせず、距離を取ろうとする。

「おい! どうしたっていうんだ! 怯えるんじゃあない!」

 二体の地竜は怯えていた。目の前の未知なる異形の存在に。

 ドラゴンライダーの二人もそれを感じて、臓物が落ちる感覚に襲われる。

「な、なんだっていうんだ! こっちがドラゴンなんだぞ! 地竜だ!」

 騎乗者に呼応するかのように、一体の地竜が飛び出す。咆哮を上げ、地面を破裂させながらソラへと迫る。

 稲光が閃くと、ソラは消えていた。次の瞬間、飛び出したドラゴンライダーの耳に水のような音と、鈍く肉を打つ音。それは彼の背後からする。慌てて振り返ると、先程まで隣で地竜の手綱を握っていた仲間が、首を失っていた。

「あ、ああ……」

 青い一閃が走り、水飛沫と血飛沫が周囲に飛び散る。彼の目の前で地竜の首が飛ぶ。青いハルバートには血潮がべっとりと塗りつけられていた。

 地竜の首を跳ね飛ばしたソラは内心「弱い」と驚く。彼の経験したドラゴン討伐はどれも、厳しい戦いだったのだ。故に簡単に倒せてしまったことに驚いたのである。

 同族、同僚の死に地竜とドラゴンライダーは半狂乱になった。反転すると、なりふり構わず突撃。

 ドラゴンの咆哮には威厳は微塵もなかった。

 緑の疾風が駆け抜けるときには、地竜とドラゴンライダーは真っ二つに断ち切られていた。六尺(約一メートル八十センチ)の大太刀は次なる獲物を映す。ワイバーンだ。

 ソラは飛翔する音に反応して、飛び退く。直後に地面が吹き飛び、衝撃波がパスト公爵の私兵と市民を吹き飛ばす。

「なんだっていうんだこれはよぉ! どういうことだ!」

 ワイバーンに乗ったドラゴンライダーは叫ぶ。味方は愚か、敵ですら答えることは出来ない。

 ワイバーンの手綱を繰り、上空へ飛翔。

「異形だかなんだか知らねえんだがよぉ! 地べた這いつくばっていたら、どうしようもないよなあ!」

 彼らは眼下を睨むが、そこには緑色のドラッヘングリーガーはすでにいなくなっていた。

「あ?」

 そして彼らは陽光を遮るのを感じる。天を仰ぎ見ると、緑の疾風が彼らに迫っていた。

 ワイバーンの咆哮と、ドラゴンライダーの絶叫が上空でこだまする。






 時を同じくしてブランシュエクレールの王宮。王座の間。

 ソラを除く、シャルロットと、カエデたちはパスト公爵、パッセ侯爵とその私兵たちと対峙していた。全員が武器を構える。

 シャルロットの開口一言。

「シャルリーヌブランシュエクレールを持ちなさい! あなたの決意を見せなさい」

 パッセ侯爵たちは驚く。この言葉には、彼女の配下一同も驚きを見せる。

「なっ! おい! 助けるんじゃあないのかよ?」

 ジョセフの問いに彼女は鼻を鳴らすだけだ。

「決着を付けなくちゃいけない問題があるの。それまで誰も私に近づけないで」

 その言葉にカエデたちは頷くしかなかった。あまりの剣幕に口を挟めなかったのだ。

 シャルリーヌはわけも分からず呆然としていた。シャルロットはさらに追い立てる。

「剣を取りなさい! 私から王位を奪いたいのなら覚悟を見せなさいって言ってんの!」

「戦ってその女を殺せシャルリーヌ!」

 パッセ侯爵は煽った。

 全員が唖然とする中、シャルリーヌは追い詰められる。訳もわからないまま玉座に置いてあるブランシュエクレールを抜き放ち構えた。

 剣の持ち方はなっておらず、また手も震えて剣先は激しく震える。呼吸は乱れていく。

「どうしたの? 来ないの? こちらから行くわよ」

 シャルロットは霊剣の切っ先をシャルリーヌに向けた。

「貴方の覚悟はその程度? 貴方は何がしたいの? もしかして何にもなかったの?」

「あ、ああ、あああああああああああああ」

 シャルリーヌは叫びながら剣を振りかぶる。遅い剣閃は容易く弾かれる。

「どうしてそんなこと聞くんですか?」

「聞いているのはこっちでしょう! 答えなさいよ!」

 平手をシャルリーヌに叩きこむ。びっくりしたシャルリーヌは叫ぶ。

「違います! 違います! 私はブランシュエクレールだけじゃなく、他国も幸せになってほしいのです! 争いのない世の中を――」

 振りかぶった一撃。しかしシャルロットは剣を使わない。剣の腹を手の平で弾いて、軌跡を大きく変えた。勢いに負けてシャルリーヌは地面を転がった。

「それでこのザマ?! お母様から譲り受けた想いはその程度?」

「違う! 違うんだから! なんでも持って見下して!」

 二人の激しい罵り合いが始まる中、ゾエは静かに王座の間から消える。




「さて、こっちもやりますかね」

 ジョセフはすぐに我に戻り、マルコと対峙した。

「おい、そいつは――」

「アラン、手伝ってくれ。残りは任せたゲルマン」

 山高帽の男は、一見してジョセフの異常な魔力に気づく。彼はすぐに拳を構えた。

 それを合図に彼の部下、そしてパッセ侯爵たちの私兵が動き出す。

 カエデは弓を構えた。

「こんな至近距離で弓なんか役に立つわけないだろうが!」

「と、思うよな」

 敵の挑発にカエデは冷静に応える。彼は矢を一本番え曲線を描くように放つ――。

 すぐさま三本の矢を筒から抜き取り走りだす。それを合図にシルヴェストルは槍を投擲、ジンは駆け出す。槍は一人の首に命中、鮮血を甲冑の隙間から吹きこぼす。

 兵士たちは動きを鈍くなる。

 カエデはすぐに矢を番え一本を射掛けると放った。

 残りの矢八本。

 ――矢がフルヘルムの隙間から目玉を貫き、脳髄を貫く。

 放物線を描いていた最初の矢が命中。それと同時にもう一人を射抜く。石柱を魔力で強化した脚部で一気に駆け上がる。

「ジンさん!」

「あいよのよい!」

 シルヴェストルの掛け声にジンが反応。彼もまた駆け出しており、投擲された槍を回収。それをシルヴェストルに投げ渡す。空中で受け取ったシルヴェストルは、勢いと体重を乗せてマルコの部下に襲いかかる。

 反応は遅かったものの、槍を短剣で受け止めた。シルヴェストルの背後にもう一人が回りこむがジンに阻まれる。

 ゲルマンの部下たちは全員メイスを持っていた。彼らは重装な甲冑を身に纏い。盾を構えてパッセ侯爵の私兵達の群れに突撃。魔力で強化された肉体は、強力な突進力を生み出し、体当たりで兵士たちを打ち崩す。手近な敵の頭部をメイスで砕く。それをカエデの弓が援護していく。

 矢は残り三本。

「マっさん頼んだ!」

「そっちも気をつけろよ」

 ゲルマンは部下の一人に指揮を預ける。彼はマルコの部下の女性と対峙していた。

「あんたらもあたしらと同じ、雇われの身だったじゃあないか! なんでさ!」

「気持ちのいい主君を見つけた。それだけさ」

「愚かね! お金が入ったのにねぇ!」

 両者は交わり、激しい剣戟。しかし圧倒的な膂力の差に、女性はあっという間に組み伏されそうになった。彼女はなんとか抜け出し、速さを活かして翻弄しようと試みる。ゲルマンは冷静に剣を構え直す。彼は自ら動こうとしない。

「どうしたんだい? 怖気づいたのかしらぁ?」

 ゲルマンは挑発に乗らず、溜息を吐く。

「速さこそが唯一にして絶対! 縮地って捉えられないんだから!」

 彼女が言い終える頃には、彼女の挙動は瞬間移動のようになっていた。

 パッセ侯爵は遠くで拳を作って吠える。

「動けなくなっているぞ! その裏切り者をやってしまえ!」

 呼応するかのように女性は飛び込む。そして彼女の視界は暗転した。

 鮮血が飛び散り、鈍い音が地面を打って転がる。

「速いだけではな」

 如何な速さと言えど、攻撃は点であった。

 パッセ侯爵とパスト公爵は絶句する。彼らは他の兵士たちに視線を向けた。

 重装の甲冑を纏った兵士たちに、自分らの手勢は押されている。

 シルヴェストルの突きは躱され、懐に飛び込まれた。短剣が彼の首筋を襲う。シルヴェストルは大きく身をそらして、その一撃をやり過ごす。槍を支えに身体は弧を描く。槍の石づきで地面を弾き、体勢を立て直す。至近距離で短剣の連撃を、体を捻り避けていく。

「ああ、そうだ弓兵に気をつけろ」

 シルヴェストルの言葉に、男はカエデの存在を思い出す。飛び退いて、視界の端で探すが見当たらない。

 そして男は気づく。矢で射抜かれた兵士たちから、矢が消えていることに。

 残りの矢は十本。

 石柱を跳ねる音に男は驚愕する。

「隙あり」

 槍の鋭い一撃が胸を貫く。

「卑怯な……」

「あんたらに言われたくないね」

 シルヴェストルは男を貫いたまま、ジンが相手している男へと死体を投擲。

「ジンさん!」

 死体を避けた男の懐にジンは飛び込んでいた。

「なっ!?」

「さようならだ!」

 剣閃が上半身と下半身を分かつ。

 矢の雨が振る中、マルコは異様な防御力を持った男に苦戦を強いられていた。

 ジョセフの魔力障壁は異常な硬さ。そして彼の持ちうる治癒能力がマルコを苦戦させていた。彼一人ならばマルコもなんとか出来ただろう。しかし――。

 短剣を二本。フルヘルムだけは脱がないアランと、石柱を足場に跳ねては矢を放ってくるカエデが、彼を追い詰める。

「一撃は已む無しか」




 シャルロットとシャルリーヌの戦いは一方的だった。シャルリーヌの攻撃は全て、シャルロットには届かない。

 今ではシャルロットは、霊剣を鞘に納め、手だけでシャルリーヌの剣撃を対処していた。

「世界の平和? 自国の平和も守れないようなあんたなんかに、出来るわけないでしょうが!」

「お姉様が扇動したからでしょう!」

 シャルリーヌは言いながらも違うことは理解していた。民が選びとった道。自分自身に言い聞かせる嘘。嘘で塗り固めなければ負けてしまう。しかし、その嘘は剣にのり、迷いが剣先に現れる。

「私は! 平和になって欲しくて! でもお姉様のように出来なくて!」

 シャルリーヌは息を乱しながら叫ぶ。

「魔力がないのになんでも出来て、私は魔力をもっているのに、なんにも出来ない!」

 彼女は肩で息をする。純白の剣、魔導具ブランシュエクレールを構えた。対するシャルロットは霊剣を抜く。赤い光が閃いた。

「全力で来なさい。私よりブランシュエクレールの扱いは得意でしょう?」

「あ、ああああああああああああああああッ!」

 緑の光が迸る。巨大の光が柱のように立ち上る。王座の間にいた面々は、視線が釘付けになった。

 シャルリーヌが表出させた光に対して、シャルロットの光はあまりにも小さい。傍から見ていたパッセ侯爵は勝利を確信して叫ぶ。

「いいぞシャルリーヌ! その無能を殺してしまえ!」

 シャルリーヌは上段に構え、駆け出す。ヒールが折れ、スカートの裾を踏んで、盛大に転ぶ。顔面から転がったせいで、彼女は鼻から血を流していた。

 涙目になって見下ろすシャルロットに叫ぶ。

「なによ!」

「何も言ってないでしょうが、はい。自分で立つ。離れて剣を構える」

「ば、馬鹿にしないでください! 私を殺せるでしょうに」

 シャルロットは赤い光を霧散させて、鞘に収める。霊剣を肩に担いで、シャルリーヌに背を向けた。

「ば、馬鹿にして! 殺しなさいよ!」

「い や だ」

「なんでよ!」

「だって私の自慢の大切な妹だもん」

 シャルロットは振り返り、満面の笑みを彼女に送る。虚を突かれてシャルリーヌは目を点にした。

 彼女は顔を俯かせて、涙をこぼす。何も出来ない自分に対して、情けなく想い、悔しさと、姉の優しさに大声で泣いた。剣を捨てて大きく口を開けて泣き喚く。

 シャルロットは優しくシャルリーヌを抱きしめる。

 嗚咽混じりに彼女は問いかけた。

「どうして?」

「家族なんだから、当然でしょうに」

 シャルリーヌは姉の胸の中で大粒の涙をこぼす。

 当然の破壊音。石柱が一本折れ、瓦礫とともにジョセフが吹き飛ぶ。シャルロットはシャルリーヌを抱えて、自分の家臣の元へと行く。

 彼女が戻ると、ジョセフ、カエデ、アランが倒れていた。

「だ、大丈夫大丈夫。なんか感動的な場面に気を取られただけ」

 ジョセフは崩れた前髪をかきあげて、視界に飛び込む影に気づく。すぐにシャルロットを突き飛ばす。直後にマルコが飛び込んで来た。彼の拳がジョセフの心の臓を直接打つ。

 激痛に叫ぶ声と同時に口から吹き出る。

 マルコの背中には折れた矢が二本ささっていた。左腕には短剣が刺さっており、鮮血が左腕を濡らす。

「これでもダメか。頑丈だな」

「それだけが取り柄なんでな!」

 ジョセフはマルコの脚をつかむ。ジンが背後から飛び込むが、裏拳で迎撃され、掴まれてシルヴェストルに向かって投げ飛ばされる。飛び出そうとしていたシルヴェストルは吹き飛ばされた。そのままジョセフを踏みつけ、脇腹に蹴りを入れて引き剥がす。

 パッセ侯爵たちの私兵は絶好の機会とばかりにシャルロットたちに飛びかかろうとする。

 赤い光の一閃。

 飛び込んできた兵士たちは、霊剣で裂かれて絶命する。

「僕の奥さんなんですけどおおおおお」

 パスト公爵は耳まで真赤にして、怒りを露わにした。

「私の妹よ」

「無能が触るな!」

「こっちの台詞よ糞豚共が!」

 シャルロットの言葉はパスト公爵の怒髪天を衝く。

「貴様ぁ! マルコそいつを殺せ!」

 マルコは無言で頷き、シャルロットに飛びかかる。対する彼女はシャルリーヌを背に、狂拳を霊剣で受け止めた。

 マルコの拳を纏う緑の光がゆらゆらと揺らめく。

「なっ?!」

 驚きの声をもらしたのはシャルロット。驚きの表情を露わにしたのはマルコ。

「驚いた。お前、霊力を持っているのか」

 マルコは冷静に対応する。拳に込める魔力を強化して、シャルロットの霊力と拮抗させたのだ。稲妻が迸り、シャルロットは弾き飛ばされる。

 ゲルマンと部下たちが、マルコに飛びかかり、全員が殴打され吹き飛ばされていく。

 彼女はすぐに起き上がって剣を構えた。

(金の力が使えれば……)

 彼女は一か八かで全霊力を霊剣にこめようとした時だった。

「そこまでよシャルロット。これを見なさい」

 声の主に全員の視線が向く。そこにゾエと男二人。男二人の手には鎖でつながられた女性が三人。レーヌ、カトリーヌ、マリアンヌだ。

 そしてゾエの手には土色の老人。彼女はそれを蹴飛ばし、地面に転がした。

「ムライ!」

 コウメイ・ムライであった。彼の体には大小様々な傷があり、今もなお血を流している。激しい拷問の後を物語っていた。対してレーヌたちは赤い斑点を体中に作って、そこから出血を起こしている。

「へ、陛下……わ……たし……のことはいい。お逃げを」

「逃げても遅いんだよ! 直にこの国は終わるわ!」

 ゾエは高らかに笑う。狂気をはらんだその声に全員の視線が釘付けとなる。

「マナ出血毒ね」

 シャルロットは辛うじて正気を保つ。内心は、ムライやレーヌたちのところに駆け寄りたい衝動に駆られていた。背後ではシャルリーヌがヒステリックに叫び、自分を責めだす。

 シャルロットは歯を食いしばり、衝動を抑える。

「あら、知っているの? つまらないね?」

 シャルロットの言葉にパッセ侯爵は、顔を青くした。

「な、何を言っている?」

「あんたたちの差金じゃないようね」

 シャルロットは歯ぎしりをする。

「どういうことだと聞いている? 答えよ!」

「あら? 想像力のないこと糞豚には高度すぎる状況かしら?」

「質問しているのはこっちでしょうが! 質問で返すな! 答えろ!」

「てめぇで考えろって言ってんだろうが!」

 そんな二人のやり取りにゾエは満足そうに笑う。

「ありがとうパッセ侯爵。おかげで私の復讐が果たせそうですわ」

「なん……だと……?」

 マルコは纏っていた魔力を解いて、周囲の状況を確認する。円筒の計測器は、室内のマナの濃度が七割だと示していた。

(おかしい。この国の平均濃度は低いはずだ。ここでの戦闘もさほどマナを滞留させないはず)

「九魔月よ」

 シャルロットは小声でマルコに話しかける。

「失念していた」

「二日前の私も同じ」

 マルコは帽子を深くかぶり、シャルロットに問う。

「霊力でなんとか出来ないのか?」

「その術を教えてもらってないの」

 シャルロットは肩をすくめて見せた。その様子にマルコは鼻で溜息を吐く。

「やれやれ」

 パッセ侯爵らの私兵はマナを纏ったままでいた。それを視認したパスト公爵は叫ぶ。

「マナを解け! 解くんだ! マナ出血毒にかかるぞ! 解けと言っている!」

 一人の兵士が突如倒れこむ。仲間が慌てて助け起こし、フルヘルムを取ると顔に斑点を作り、血を吹き出す。

 それは一気に狂乱を招く。我先にと兵士たちは玉座の間から逃げ出そうとした。しかし、シャルロットがそれを阻む。折れた石柱を掴みあげて、扉の前に投げ飛ばす。全員が閉じ込められる。

「何をしている?! そんなことすれば我々は死ぬんだぞ」

「国中にマナ出血毒をまき散らす気? ここにいるほうが安全よ」

 冷静なシャルロットの対応にゾエは怒りを露わにする。彼女はシャルロットたちが慌てふためく姿を予想していた。否、見たかったのだ。しかし、目の前にいる彼女は取り乱すことなく、冷静に周囲の状況を見ていた。

「お、お姉様」

「私の側にいれば少しは大丈夫。あいつ遅いわね」

 ゾエは顔を大きく歪ませる。

「マナ出血毒ですよ!」

「そうね」

 ゾエは「それだけか」と怒鳴った

「貴方の計画は素晴らしいわ。母を殺した手際。そしてシャルリーヌとパッセ侯爵たちを上手くそそのかして、ここまで国をズタズタにしたのは、褒めるに値するわ」

 その言葉にゾエは逆に追い詰められていく。彼女は幻視したのだ。シャルロットにアデライドの姿を

「アデライドのような事を言うな!」

「あら、知らなかったの? 私、そのアデライドの娘なのよ?」

「殺してやる! 殺してやる! 奪ってやるんだから! 全部!」

 シャルロットは不敵に笑ってみせる。

「なんで取り乱さないんだよ!」

「知ってた? 私の家臣って、ドラゴンを倒せるのよ?」

 彼女が言い終わると同時に轟音が降ってきた。瓦礫と血飛沫と土煙にまみれた何かが、玉座の間の天井を貫く。

 シャルロットの前にソレは降りた。

 土煙の中に立つ存在、黒い体躯に赤い外殻を纏った龍の超戦士。

 霊力の業炎は周囲のマナを焼きつくす。

「――――――――――――――――――――――――ッ!!」

 咆哮が玉座の間を支配する。

「遅いわよソラ」

 シャルロットの言葉にソラは手で謝罪を示す。

「ゾエと糞豚共を倒せ。ああ、殺しちゃダメよ?」

 赤きドラッヘングリーガーは小さく頷く。直後に爆炎を爆ぜさせて、鎖を持つ男たちの前に跳躍。間髪入れずに男たちの腹部を両の拳で貫く。それらを無造作に投げ捨てる。理解と反応が追いつかないゾエに、当て身して気絶させた。

 赤い視線がパッセ侯爵とパスト公爵を射抜く。

 この時点でこの内乱は終わったと言ってもいいだろう。

 赤色のドラッヘングリーガーが一歩踏み出す。

「ま、待て! 金なら払う。シャルロットを殺せ。そうしたら許すし、お前に最高の地位を約束するぞ!」

 彼らは命乞いをしはじめる。自分こそがお前に地位を授けると。

 その光景にシャルリーヌは、自身がマリアンヌにしていた光景を重ねる。

「地位じゃ、惹きつけられない人もいる」

 その小さな言葉、それは確かに響いた。

「よくわかっているじゃない」

 シャルロットはシャルリーヌの頭を優しく、強く撫で回す。

 桃色のドレスを身にまとった少女はそれを嬉しそうに甘受した。

 シャルロットの近くにはマルコが立っている。彼らは勝利を確信して叫ぶ。

「マ、マルコ!」

「その女を殺せ!」

 マルコは振り向く。シャルロットは指をさす。その先にはワイバーンの亡骸。

「貴方、雇われアサシンの類よね? あのワイバーンって売ったらどれくらいになると思う?」

 マルコは言葉の意味を察する。

「お前、悪い女だな」

 シャルロットは白い歯を見せて笑う。

「でしょ? ――で、どうなの?」

「今までで一番の大金だ」

「契約成立ね」

 山高帽の位置を正す。

「おっと内容を聞かないと頷けないぜ?」

 彼らの背後でパッセ侯爵らは「やめろ」と叫ぶ。

「今決めるの? じゃあ私の言うことを一年くらい聞く」

「大雑把だな。だが、まあいいか」

 二人は握手を交わす。

「裏切るのかマルコ!」

「裏切るも何も、支払い分は働いたし、コレ以上の戦闘は俺の将来にも影響が出る」

 彼は確かにシャルロットを殺せる位置にいる。しかしそれは彼の五体満足が保証されていることが前提であった。殺したところで報復が起きる上に、彼はすでに手負いであった。

「やぶれかぶれは俺の主義じゃない。それにワイバーンまるまる一頭分の金はそうそう入らないしなあ」

「僕の配下のワイバーンだぞ」

「うっさいわね。人質になるか、死ぬかどっちか選べ!」

 パスト公爵はシャルロットの剣幕と、目の前にいる赤き戦士に股間を濡らす。

「僕の奥さんが、僕のワイバーンが……」

 泡を吹いてパスト公爵は気絶する。それを確認したシャルロットは叫ぶ。

「聞け! マナ出血毒はすでに伝播している。助かりたければ武器を捨てよ。助ける方法はある!」

 シャルロットの言葉に、パッセ侯爵らの私兵は武器を捨てた。パッセ侯爵は蒼白の顔で、逃げ道を探す。しかし龍の超戦士がそれを阻んだ。

 彼の視界の端にジョセフが映り込む。

「ジョセフ! 私を助けろ」

 パッセ侯爵はまだなおも命乞いを行う。

「え? 誰あの人?」

 ジョセフは気だるそうに上体を起こして、知らん顔をする。視線を向けられたゲルマンは苦笑いをした。

「お前はこのアドルフ・パッセの息子だろう!」

「俺、今ただのジョセフだしな。ちなみに騎士団の団長。その後は爵位を受けてパッセ以外の名を襲名する予定なのでよろしく!」

 ジョセフは満面の笑顔を作ってゲルマンに手を差し出す。

「その時はお前が俺の腹心な」

「勝手に決めないでくれ」

 パッセ侯爵は絶句する。

「そうだ陛下。パッセ侯爵の処遇は、なんか王都の民に決めさせるのはどうでしょう?」

 ジョセフの提案に、シャルロットはこれ以上ないくらい悪い笑みを浮かべた。

「いいわね」

 パッセ侯爵の絶望の叫びが王宮にこだまする。

 この日、ブランシュエクレールの内乱は終結を迎えた。






~続く~


内乱編終わり

しばらく内政編

【追記】

カエデやソラが行っているのは弓道ではございません弓術です。

参考にしたのはラース・アンダーソンさんです。

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