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第二十三話「そして外へ」

第二十三話「そして外へ」






 ソラがこの機会に来ることが出来たのは、奇跡だった。

 銀の姫将軍を救出してから二週間。彼がここに来たのは、実際に自分の目で状況を確認しようとしただけなのである。

 ソラは参戦するつもりは毛頭なかった。ある程度状況を見て、エメリアユニティ経由で帰還するつもりだったのだ。折が悪く、開戦に遭遇してしまったのである。

 遡ること二週間前。

 彼は負った傷を一晩で治し、領地に戻るとそれぞれに指示を出した。すぐに自分の目で状況を確認して、文でシャルロットに仔細の情報を伝えて帰るつもりであった。その間の事を、タカアキとジャクソンにルミエール領の統治を任せ、歓楽街の運営とそこに滞在する上瀬軍の管理をバーナードに、アオイには遺跡の調査を。そしてオスヴァルトたちには軍の調練と収穫の手伝いを命じたのだ。

 ひと月で帰ると言い残し、ブランシュエクレールを出たはいいのだが、エメリアユニティは先のドラゴンの襲来以降、東の港は使えなくなり海上都市経由で、エメリアユニティの南東にある港に行かねばならなくなった。おまけに道中カラミティモンスターの襲撃に何度もあい、到着したのは予定よりも五日遅れである。

 彼はシャルロットには、今回のロートヴァッフェの戦には参加させないと口頭で伝えられていた。

 最大の理由は、ルミエール領の統治がおろそかになっていたためである。また武功をこれ以上余所者であるソラに与えるようにするのは、彼女も思うことがあり、第一から第四までの騎士団と、ペ男爵、オルディネール子爵、そしてブークリエ伯爵の軍で派兵するつもりであった。

 が、現在彼はディートリンデの騎士団と、肩を並べて前線に立っている。

 南から北へ目指す道中。王都が一日で陥落したことを知り、大きな町まで向かう道中で集めた情報で、シュペルリングシュナイダーが裏切ったということを予想。

 町につくと大きな騎士団が入れ違いに南下したと聞き、対話を試みたところ生まれつきの顔で怪しまれ捕まってしまったのだ。

「さてソラどうしましょう?」

 顔つきが特徴的だったこと。そして前回知恵を貸したことでディートリンデには覚えられていた。

 ディートリンデの期待のこもった眼差しを受けた少年は、頭をかく。

「敵の斥候は?」

 ソラの問いに、モウトク・リョが一歩前に出て答える。

「こちらを確認したようだ」

 ソラとディートリンデは頷く。

 彼女の騎士団は男性千二百人。女性八百人の構成である。現在先の戦闘で数十人が怪我で戦闘不能となっていた。

 幕舎にはソラ、ディートリンデ、リンコ、ハイデマリー、モウトク・リョ他数名が顔を並べていた。

 ソラは先のブランシュエクレールの物資で知恵を貸した功績で、ここに立たせられていた。

 立たせられてしまったのだ。

「敵の動きは三つにわかれています」

「ここで迎え撃つのは?」

 ひとりの男性の報告。それに対してディートリンデは陣を構えて迎え撃つのはどうだろうかと言う。

 丘の上にすぐに撤収できるように、簡易的な幕舎をいくつか設置。堀や柵は用意していない。

 今から設置するべきだとディートリンデは言うが、ソラの言葉が無いことに気づくと押し黙る。

「三つにわかれた軍勢の大凡の数は?」

「東に千。北に迂回しているのが五百。南が本隊でしょう千五百です」

 なるほどとソラは言うと、全員を見渡す。

「各個撃破の好機ですね」

 モウトク・リョは確かにと同意し、列席した男性は表情こそ渋いが、好意的に受け取っていた。

 ディートリンデがよくわからないという顔になる。それを見かねて、モウトク・リョが補足する。

「現在敵は我が方を取り囲もうとして、戦力を分散しております」

 この会話が終わる前に、騎士団の男は幕舎から飛び出し、休んでいる兵士たちに大声で呼びかけていく。

 ディートリンデは黙ってモウトク・リョの言葉を促す。

「つまり、数的優位を維持したまま、敵を殲滅できる状況にあります」

「加えて、こちらには一級品魔道具が多数あります。よほど下手を打たない限り、負けないでしょう」

 ソラの言葉にディートリンデは満足そうに頷く。

「幸い人数分以上の馬もありますし、馬蹄の音は布を巻けばぎりぎりまで気づかれないかと」

 モウトク・リョの後押しもあり、ディートリンデの腹は決まる。

 反対意見出たが、ディートリンデは最終的にソラの提案を受け入れた。

 モウトク・リョが軽度の幕舎を残すという修正を加えて、全軍で動き出す。

 丘の上にあることで敵の注目を集めていた。だが同時に上の状況がわからない点。そして他の戦線が見づらいという点を、利用したのである。

 ディートリンデたちは北の五百の軍勢を強襲し、これを潰走させると、東の千の兵力を後背から突くように攻撃。パスト公爵の軍勢は士気が低いこともあって、魔道具からの中距離攻撃で、少し突くと総崩れとなった。

 本隊の千五百が二隊が潰走したことを知ったのは、丘の上を襲った時だった。周囲の状況が大きく一辺。下にはディートリンデの軍勢が待ち構えるように、彼らを睨む。

「丘の上にいる我らが有利なのだから、一気に駆け下りるぞ!」

 魔道具の存在。そしてディートリンデの騎士団の情報の少なさが仇となり、最後の本隊も魔道具の攻撃の前に為す術もなく壊滅。白旗を揚げて、最後は降伏したのである。




 改めて幕舎を設置して、主だった兵士以外は解放し情報を収集した。

 結果。

「パスト公爵の狙いはわたくしですか」

 ディートリンデは面白く無いと憮然とした態度となった。

「それもそうですが、これからどうしましょう?」

 リンコが話を先に進めた。外の国の助力を得ようと南に来たのはいいが、パスト公爵の狙いがディートリンデというのだ。またリンコ自身もリーンハルトに追われている。

 さてどうしようと全員が首を捻る。この騎士団の身の振り方をどうするべきなのかと、口々に意見を出しあうがしっくり来ない。

 自然と全員の視線が外の国の者へと移動する。

 目付きが悪い少年は、視線を一心に浴びると頭をかいた。

「赤レンガの港街。レッドゲートをご存知だと思いますが、そこを制圧するのはどうでしょうか?」

 全員が頷く。

 ここで外の人間の意見を求めたのは、援助が欲しいというのもあるが自分たちを客観的に見れる存在を欲してのことである。

「レッドゲートは先日も利用しましたわ」

 かつてグレートランドとエメリアユニティの間には、ひとつの国があった。その国は今やエメリアユニティに併合されているのだが、その話を知ったグレートランドは武力的にも政治的にも、その国の一部を実効支配したのである。

 その時グレートランドに編入されたひとつの港街があった。レッドゲートと呼ばれる港街だ。最初こそはグレートランドに入れたことを喜んだ街だが、現在はその逆。

 パスト公爵の重税に苦しんでいた。

 この港街は自立心が高く、街独自の軍を所持していたのだ。編入当時は、グレートランドの兵力を呼びこむことで自分たちの街をエメリアユニティの支配下から逃れたのである。それどころかその先の領地を制圧するのに手伝ったほどである。

 そんなレッドゲートはロートヴァッフェでも有名であった。

 さらにディートリンデたちはブランシュエクレールの物資を、その港からおろしたのである。

 しかしロートヴァッフェからかなり離れていた。

「そこをディートリンデ殿下が降すのです」

 ソラの言葉に全員の頭が真っ白になる。

「どういうことですの?」

「そこにディートリンデ殿下がおわすことで、敵の戦略目標が分散します。加えて、パスト公爵軍の補給線を襲うことが可能となります」

 あとモウトク・リョが大きな声をあげる。

「そうか。確かにできれば凄いぞ。ブランシュエクレールからの支援も受けれますね?」

 はいとソラは頷く。

 騎士団の何人かは否定的な意見を述べる。レッドゲートにも盛況な軍があり、手持ちの戦力で制圧するのには難しい。

 しかし、ソラは武力での制圧を考えていなかった。

 レッドゲートは緩やかに衰退している。

 グレートランドでは僻地の港。そんなところを利用することは少なく、編入後は物流が激減。おまけに重税である。

「そこをロートヴァッフェの領地とし、かつ国までの領土を引き伸ばせばどうでしょう?」

 机上の空論ではあるがレッドゲートの物流が復活し、ロートヴァッフェも海を得ることが出来る。

「他国の介入は?」

 エメリアユニティの事を暗に言う。

「今の国境線を越さないようにすれば、問題はないかと。エメリアユニティとしては、グレートランドとの間に国が欲しいはずです。特に今は」

 両国はいつまでも睨み合っているわけにもいかない。冬の時期になれば一旦は終わるだろうが、また今回のように軍を指向か合わさねばならないかもしれなかった。

 そこにグレートランドの領土が奪われて、緩衝材のような役割を持つ国が出てくることは、エメリアユニティにとっても悪い話ではないはずだ。

 話が一旦終わると、ディートリンデはその瞳に強い意思を見せた。

 ソレを見たモウトク・リョは顔を抑える。

「それで行きましょう! 今難しい状況なのですから、多少の無理で捻じ曲げるのです」




~続く~


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