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第二十二話「合流」

第二十二話「合流」






 ロートヴァッフェの王都。ロートファブリークがわずか一日で落とされたのには、裏があった。

 パスト公爵はロートヴァッフェのとある武器屋と繋がっていたのだ。

 その名はシュペルリングシュナイダーである。

 かの武器商はロートヴァッフェの二大武器屋のひとつであった。

 魔道具の数を多く取り揃えることが出来る武器屋だ。そのため使い捨てや三級品以下の魔道具を多数製造。取り扱っているのだ。

 ロートヴァッフェからも信頼厚く。その裏をかかれる形となった。

 その事実をディートリンデが知ったのは、陥落から二日後である。それもそのシュペルリングシュナイダーの次期社長から聞かされたのだ。

「どういうことですの? なぜ?」

 ディートリンデは必死に歯を食いしばり、現実と向き合う。

「降伏しろ。その身をパスト公爵様に捧げるんだ」

 リーンハルト・シュペルリングシュナイダー。ディートリンデと同じく歳を十六とする。彼女の騎士団に許嫁がおり、その人物も迎えに来たついでだと言う。

 彼女たちと何食わぬ顔で合流したシュペルリングシュナイダーの一団は、ディートリンデの騎士団を取り囲み、降伏を迫ったのだ。

 両軍一触即発状態となった。しかしまともにぶつかり合えばディートリンデの騎士団は負ける。

 相手の数は五千の騎兵だ。

「貴方という人は!」

「君の父王は逃げ足が速くてね。溺愛している娘を人質に誘き出そうと思ったんだ」

 ディートリンデは希望を抱くと共に、この絶望的な状況をどうしようかと思案する。

 魔道具は一級品のモノを全員装備していた。

「ままごと騎士団なのだから、意固地にならず楽になりたまえ」

 その一言が引き金となる。誰からともなく、魔道具が使用されたのだ。

 轟音が響く。突発的な動きに対して、ディートリンデの騎士団は素早く応対する。矢継ぎ早に魔道具を連携して一箇所に波状攻撃を重ねる。

 逆にシュペルリングシュナイダーの軍は、突発的な事態に狼狽えて、動きが一拍遅れる。この遅れが致命的となった。

 魔道具の発する轟音が馬を混乱させ、シュペルリングシュナイダーの足並みを大きく崩す。

「我らがままごと騎士団ではないことを見せつけてやれ!」

 モウトク・リョ叫びに呼応して、鬨の声を上げて騎士団は突撃。包囲網の一角を食い破る。

 逃すまいとリーンハルトはディートリンデを追いすがるが、彼女は赤き魔道具を取り出す。巨大な鉄塊にも見えるソレは、彼女の魔力を受け取ると展開。まるで相手を威嚇し牙を見せつけように、赤く巨大な手となる。指先の爪は血のように赤黒い。

 ブランシュエクレール、ヴェルトゥブリエと同じく伝説級の魔道具。ブルートナーゲル。

 指先の爪に魔力が流し込まれると、耳鳴りのような音が響く。

 ディートリンデはこの音が嫌いなのか、左手で耳を抑える。周囲の馬も嫌って逃げようとするが、騎手と手綱ごしに主導権の奪い合いが始まった。

 魔道具の指先が地面に触れると、土煙を巻き上げて地面をいとも容易く削り取った。

 ディートリンデは初めての戦闘を行う。最初の数撃ほど慌てたものの、すぐに視野を広く持ち訓練通り動き、リーンハルトを圧倒。

 大きく飛び退くと赤き手を広げて、掌から緑の光弾を放つ。リーンハルトは余裕を持って避ける。

 線となって薙ぎ払い。土煙を巻き上げた。

 土煙に巻かれたリーンハルトは視界を遮られる。そこめがけてディートリンデが突撃。辛うじて音に気づいた男は、全力で防壁を展開。直撃する瞬間に足を浮かせると、そのまま地面を滑って大きく後退。

「追え!」

 勢いを殺すと同時に周囲に指示を出す。

 ディートリンデは回れ右して全力疾走で後退。

 騎兵たちはようやく馬を取りなすと、ディートリンデの背中を追いかけていく。

「円陣! 魔道具構え!」

 モウトクの叫び呼応して戦鼓が音頭を取る。それに合わせて素早く騎士団は陣を組んで、全方位に魔道具を構えた。

 ディートリンデを迎え入れると同時に、引きつけた敵めがけて緑の光弾が飛んで行く。

 またも大きな音に馬が暴れ、落馬する者も出た。

 くそと舌打ちをしたリーンハルト。その彼に迫る影がひとつ。

 甲冑を身に纏った存在。一見、男女の区別がつかない。

「リンコか。俺と来い。不自由のない生活が待っているぞ」

「お断りします」

 二振りの武器。右に長巻。左に太刀。彼女専用の魔道具である。

 長巻を片手で振り回し、リーンハルトを圧倒し、吹き飛ばす。空中でがら空きになった胴体に太刀を横殴りに振りぬく。

 直撃。

「な! んのッ!」

 誰もがそう思ったが、彼は空中に足場を作って、跳躍して躱す。

 リンコは追撃しようとしたが、リーンハルトは手で制する。

「撤退だ!」

 忌々しそうに、けれど何かを楽しむように笑う。

 リーンハルトの軍は撤退を開始した。

 軍勢が消えると命拾いしたと、全員がその場にへたり込む。撤退したシュペルリングシュナイダーの軍団は、彼女たち以上に命拾いしたと思っていた。






 程なくしてディートリンデは点呼をとる。全員無事だが、何人か負傷していた。

 リンコと呼ばれた甲冑をまとった存在が、ディートリンデの前で片膝をついて頭を垂れる。

「謝るんじゃありません」

「ですが、私の許嫁です」

 甲冑は悪魔の角を意識した意匠があった。悪魔的に見えるその甲冑から、物腰柔らかい言葉が紡がれる。

「貴方はわたくしの敵だというのですか?」

「いえ、違います」

 ならばそれで結構とディートリンデは、リンコの謝罪を受け入れなかった。

 彼女はリンコがリーンハルトとの婚約に否定的なのを理解している。彼女が騎士団に入団したのは、結婚を引き伸ばすためでもあった。

 祖父同士が勝手に決めたこと。

 リンコ・シュテルンアードラ。シュテルンアードラという武器商の娘である。おまけに母方は貴族の血筋を引いている。正真正銘の良家の娘であった。

 シュテルンアードラは二級品以上の魔道具の製造を得意とする。しかしシュペルリングシュナイダーより武器の製造の速度はなく。一個一個時間をかけて完成させるのだ。

 それ故に信頼性は高く。国内外で高い評価を受けていた。

 そのシュテルンアードラ製の一級品魔道具のお陰で、彼女らはリーンハルトたちを撃退出来たのである。

 が、当の本人。ディートリンデは見逃されたと思い込み、歯噛みしていた。

「殿下。ご指示を」

 モウトク・リョが恭しく頭を垂れて聞く。

 いけないとディートリンデは言うと、動ける者を募って陣の撤収。物資をかき集めるように指示を出す。

 そして次に敵兵の埋葬を指示。

 疲労が色濃い者たちや、怪我人はゆっくりと休ませた。

 ディートリンデは自らも作業に携わろうとしたのだが、侍女のハイデマリーに反対される。

「御身が率先して動くと、休めなくなります」

 ディートリンデはこれを受け入れて、ハイデマリーとリンコに護衛を命じて、休むことをした。

 今後の方針を練る。

「カンウルスもこの機に乗じて、攻勢を強めてくるかしら?」

 間違いなくとリンコは物腰柔らかく言う。

 両面の敵を相手取らなくてはならない。グレートランドとカンウルス。どちらも大国でとてもじゃないが、ロートヴァッフェが生き残れる道はないように思えた。

 そう認識してしまうとディートリンデは便意に襲われる。

「わたくしをパスト公爵に差し出す。そう仰っていましたね?」

「御身を差し出す必要性などございません」

 ハイデマリーは強く反対し、リンコもその考えを認めなかった。

「エメリアユニティの介入を誘うのはどうでしょう?」

 ハイデマリーは思いつきを口にする。

 収穫期に入ってもまだグレートランドの南方騎士団とエメリアユニティの軍は睨み合っている。

「そうすればエメリアユニティに軍事介入を許してしまうわ」

 その先は属国となったロートヴァッフェの姿。

「いえ、どちらにせよ。南に行くしかありませんわね」

 西はカンウルス。東はグレートランドだ。

 自分たちの国で解決できなくなった時の事も考え、彼女は南へ向かうことを決定する。

「ブランシュエクレールは来てくれますかね?」

「グレートランドを挟んでいるのよ? 無理よ」

 ハイデマリーのわずかな希望を抱く言葉。それはディートリンデの胸に深く突き刺さる。

 助けて欲しいわよと小さくつぶやくと、モウトク・リョの元へ向かい南へと向かうと伝えた。






 南にはパスト公爵の軍勢三千が待ち構えていた。

 敵に見つかることを嫌がり、丘陵地帯の低い場所を選んで移動していたため、敵の存在に気づいた時には、戦闘が回避出来ない状況となっていた。

 そんな状況にひとりの少年が現れる。

 ディートリンデの騎士団に無抵抗で捕まり、ディートリンデの元へと引きずられた。

「殿下怪しい者がいました」

 騎士団の男が目付きの悪い少年を連行してくる。

 その少年を見て、ディートリンデは目を点にした。

「確か――ソラ殿」

 目付きの悪い少年はディートリンデと合流を果たす。






~続く~


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