10 - 穴に落ちる、魔道士二人
バレスヴィア山麓部は広大である。過去には集落や村が多くあったというのもうなずけるほどの広さだ。
百年前の大噴火によりすべてが焼き払われたはずだったが、貧相だがささやかな森が出来ていた。キリルによれば、大地と森の精霊の力が長い時間をかけて集まり、再生し始めているのではないかということだ。
遠目にはなだらかな斜面で見えていたが、実際は鋭くとがった大岩がごろごろ転がっていたり、大地の歪みからか割れ目やごつごつした隆起が至るところにあったりと、ただ歩くだけでも危険で神経を使った。
草を掻きわけ、まばらに生えた若木のアーチをくぐるように進み、千秋とキリルは段々と山の中腹まで入っていった。人が通れるだけのスペースを見つけては、キリルの指示のとおり腰を屈めて足跡や魔物の死骸、糞など何か生活の痕跡を探す。
「はぁ……」
「チアキ様。もう四度目のため息ですが。ジャック様と何かありましたか?」
「あ、バレました? そりゃ、バレるか……」
出発前の予定では、キリル・シリルとセイカーとチェイス・千秋とジャックの三チームで探索を行うはずだった。到着後に変更を言い出したのでは、移動中に何かがあったと言っているようなものだ。
「さっき、ケンカしたんです。いや、ケンカっていうか、オレが一方的にキレただけなんですけど。なんかオレ、あいつのことよく分かんなくなっちまって……」
「よく分からない?」
「ていうか、そもそも分かってなかったっていうか」
ジャックは千秋を助けてくれた。日本に帰るまで同行してくれる、身を守ると言ってくれた。千秋がこの世界で生きていくための常識を教えてくれたし、魔法を使えない千秋をフォローして世話までしてくれた。
「ジャックは、すごく、強いじゃないすか。オレのことを助けられるくらい、強くて物知りで何でもできて正しい。オレ、そう思ってたんすよ――でも、そうじゃなかったのかなって」
そもそも、彼が千秋を助けたのは純粋な正義感からくるものじゃないのだ。ノーヴェルヴィアの言い伝え――すなわち、山頂にたどり着けば願いが叶うという山のしきたり、『己の信念のみを指針とし、困難に立ち向かうこと』を破らないようにするためなのだった。
ジャックには、どうしても叶えたい願いがある。願いを叶えるためだったら、見知らぬ千秋を助けて遠周りするほど。
千秋にはよく分からなかった。それだけの願いとは何だろう。あるいは、千秋を助けなければならないような信念とは何なのだろう。はじめはその口ぶりから『子どもを守ること』だと思っていたのに、千秋よりも年若いチェイスの生死は気にしないと言う。
なぜ?
わからない。
彼にとって、人の命は軽いんだろうか。一瞬で人を殺せるくらいだから、そうなのかもしれない。ジャックの中にはよく分からない何かがたくさんあって、千秋をひどく混乱させた。
「オレがその力を持ってたら、絶対チェイスの姉ちゃんを探すのに使う。だから、そうしないアイツが腹立つんだと思う。オレのこと助けてくれたのに、なんで他のやつは助けないんだよって、不思議なんだ。なあ、師匠。強いやつは弱いやつを守るべきだよな? 『守るためには犠牲がいる』ってどういうことだ? なんで守るやつを選ぶんだよ」
「それは……なるほど、少し、あなたの考え方が分かりました」
千秋の疑問に、キリルは顔を顰めて唸る。
「ジャック様は、自分よりも弱いものだから、チアキ様を守るとおっしゃっているのでしょうか」
「……うーん、それは、そうなんじゃないかな。だってオレがバッタバッタと魔物を倒せるくらい強かったら、別に守る必要がないだろ?」
「ふむ」
キリルは千秋を促して、次の分かれ道を探し先へ進んだ。下生えの草が途切れ、視界を遮る木々もまばらになってくる。
「では、例え話をしましょうか」
「例え話?」
ざり、ざり、と靴底が乾いた粒を擦って足を取られそうになる。身体を隠す死角が少なくなったことで、千秋は木陰を選んで身をかがめながら歩いた。
「チアキ様は、妹君がいらっしゃるんでしたね」
「うん。います。すげー生意気なやつだけど」
「魔物に二人の女性が襲われている。一人はあなたの妹君、一人は見知らぬ小さな女の子。妹君と見知らぬ子どものどちらか一人しか助けられないとしたら、どちらを助けますか」
木の根近くを眺めていた千秋は、はっと息をのんだ。
「……それは」
「あなたなら、妹君を選ばれるでしょう?」
「でも、ジャックは二人を救えるだろう」
「いいえ、誰だって救えますよ。二人の盾になるなら。彼女たちの代わりに死ねるならね。国のために忠誠を誓った兵士なら間違いなくそうするでしょうね。ですが、ジャック様は違うのではないですか?」
「そっすね、ジャックは兵士じゃない……。誰にも忠誠を誓ってないって言ってた」
「二人を助けられないから、一人を選ぶのでしょう」
「あいつならなんでもできちゃうって思ってるのはオレだけ、ってことか」
もし、ジャックが全知全能の正義の味方だったなら、困っている人すべてを救ってもいいんだろう。でもそうじゃないんだ。一人の人間が守りきれるものは限界があるんだ。
「もしも二人を助けると言って、万一にでもジャック様が死んだなら、困るのはあなたですよ。チアキ様の身の安全は彼の死後誰が守るのでしょう? 殿下でしょうか。アルバート様でしょうか。自分たち私兵は、殿下の命令で動いておりますし、魔道国へ御同行することはできません」
もし、ジャックがいなくなったら? 千秋はこれからどうするのだろう。
リチャードは『対価』がないと動いてくれない立場の人間だ。アルバートは、職を提供してくれるなどと言ってくれたこともあったから、彼に頼って生きていくことはできるかもしれない。けれど、仕事を覚えて金を稼いで自分で元の世界への帰り方を探しに行けるようになるまでどのくらい掛かるか。考えただけでも悪寒がする。
「ジャックが言う、守るって、そういうこと? でも、なんでオレ? たまたま、願掛け途中に、ノーヴェルヴィア登山中に出会ったからか?」
「それは、自分には分かりかねますね」
「やっぱ、オレじゃなきゃいけない理由、ないよな。オレが強かったら、ちょっとは譲歩できたんじゃないかな」
「あなたが強くても、おそらくジャック様はあなたを選んだと思いますが」
わかるようで、分からない。
「先ほどの例で言うなら、自分はリチャード殿下以外の人間のためには死ねませんから、二人のどちらかを救うことで殿下の身が危なくなるのなら、二人とも犠牲にするかもしれませんね。これならいかがです。あなたにとっては、ジャック様より酷いのではありませんか?」
「……でも、それがキリルさんの仕事だしな。オレと考え方が違うのは仕方ないと思うし」
「忠誠を誓ったなら許せると? ふむ。それなら、もう答えは――」
腰を落とし、草を掻きわけていたキリルは、目を細めて地表を撫でた。
「……何か通った痕がありますね。ただ一日は経っています」
「マジですか!? 時期的に、チェイスの姉ちゃんを攫ったやつとビンゴじゃ?」
「可能性は高いでしょう。小型の魔物を使って荷物を運ばせ、数人が歩きのようです。向こうに、糞尿を始末した跡がありますね」
「うへっ、汚ぇ。じゃあ、もうちょい山登ったとこすかね。足跡残ってます?」
「お待ちください。土魔法を使って痕跡が崩れないよう固定します」
「固定って。時間掛かりそう」
キリルは携帯袋から消しゴム大の鉱石のようなもの――<マテリアル>を取り出して呪文を唱え始めた。
真剣な表情で地面近くを睨み集中してしまった同行者に、千秋はため息をついて、周囲を見回して足元に気をつけながら歩いた。
先ほどまでのキリルとの問答で、少しだけ千秋の心は緩んでいた。自分がジャックに理不尽さを感じるのは、彼に対して抱いていた幻想から来るものなのかもしれない。
だが、なぜ千秋だけ守るのか。それはどうしても分からない。ジャックに聞かなければいけないだろう。
「よし、もう考えんのやめ! 敵がいるかもしれないし気をつけ――」
千秋がぐっと拳を握りしめ、地面を力強く踏みしめたときだった。
ぼろり、とその踏みつけたところがまるで紙粘土のように崩落し、目の前が真っ暗になった。
「うわ――あ――穴――!?」
穴の中に引き込まれていく。まるで千秋のために開けたような、人一人がやっと通れるくらいの穴だった。人が落ちるときは、重量の大きい頭から先に落ちるというけれど、上下さかさまになるスペースもないくらい、千秋にぴったりの穴だったからだ。
指が痛むのを承知で、壁に引っかけようと爪を立ててみる。が、落ちるスピードが緩くなることもなく、ただ一定のペースで、千秋は内部に引き込まれていた。
「チアキ様!!!」
もう手のひら大くらいまで小さくなってしまった穴の向こうに、キリルの影が見えた。
「【行使する、木の力を宿し聖なる物質よ。同胞に呼びかけよ。根を伸ばし彼の者の――】」
キリルの<ヴェムノム>が終わらないうちに、地鳴りのような轟音が千秋の鼓膜を襲い、さらに穴全体も揺れたせいで身体じゅうを岩に打ち付けてあちこちを切った。
ボコッ、ボコッ、と穴の内部が隆起した。何かが外側から通ろうとしているのだ。盛り上がりが大きくなり、やがて土塊が割れてボロボロと千秋の上に降ってくる。目や口や鼻が土だらけに鳴りながらも、千秋はそれが木の根らしいことに気づいた。
「キリルさんッ!」
キリルが<ヴェムノム>を唱えていたこと、そこから起きた事象から、これがキリルの魔法で出来た木の根なのだと判断した千秋は、にゅるにゅると意思を持ったように動くそれを掴もうと、必死に手を伸ばした。
依然無理矢理木の根が穴に入ってくるときに落ちて来る土に邪魔されながらも、腕の筋肉、指先までをぴんと張って根を掴もうともがく。
あと、数センチ。
「あっ――」
木の根が指先を掠り、千秋が助かる、と希望を持った矢先。
ふっと千秋の身体を襲っていた圧迫感と地鳴りが止み、視界が真っ暗になった。ぐるり、と身体が回転した。狭い穴から解放されたことで、身体の上下が逆さまになったのだ。
まさか、と嫌な予感がよぎった直後。ごきり。鈍い音が遠くに聞こえ、千秋の意識はそこで途切れた。
■ ■ ■
「ウガアアア、ウウウギュググググググ――」
腕を振るうと、パッと鮮血が飛び散った。断末魔が響き渡る。その人物が作り出す最期の音。至高の音楽だ。
「ひゃははははははは」
炎、炎、炎。周囲を取り囲む炎柱を背景に、彼は狂喜に溢れた笑い声をあげる。右手には大剣、左手は先ほど断末魔をあげたばかりの物体の首を掴んだままだ。楽しませてくれた物体には感謝をこめて首をへし折っておくことにする。首を絞めたせいで意思とは違った断末魔に変化させてしまったことは哀れだけれど、彼が楽しめたのだから充分役割は果たしていたのだ。それだけで生きていた価値があっただろう。
用なしになった物体をぶんっと放り投げるとぐしゃりとどこかで潰れる音がした。おそらく炎の中で焼けるだろうから、始末には困らない。
「なんだなんだァ? 弱えなァ! 盗賊団、とか大仰なことやってるって聞いてたから、もっと骨がある奴らかと思ってたぜェ。『素質』のあるヤツも居ねーし、剣の腕も大したことねーし、あげる声はぎゃあだのうがあだの、つまんねーなァ、つまんねーよ。小物の集まりだったのかねェ?」
次の遊び道具をひとつ、ふたつ、みっつと刺し殺してみたはいいが、そのどれもが弱く、つまらなかった。殺し方が悪いのかと、他の方法を試しているうちに、彼の周りは死体の山が出来て、その場から動く影はいなくなった。
「あー、つまんね。『魔道士が魔道を唱える前に潰せ』つっておいて、剣で負けてる盗賊団とか。プッ、だっせェ。まあ、オレ様に剣で敵うヤツなんて、早々いねェけどよォ。あーあ、軽ぅぅぅく肩慣らしのつもりだったのによォ、こんなんじゃ逆に疲れるっつーのォ。ひゃはー。ま、楽しかったけどなァ」
腕や首を回して身体の具合を確かめるが、疲れはないしむしろ絶好調だ。元気があり余っていてまだまだ殺し足りない。
一瞬で殺せてしまうので準備体操にもならなかったが、殺し方を試せるのは楽しかった。特に、あの首をへし折ってやった『オモチャ』はよかった。死にゆくあれの鳴き声が、まだ耳に残っていてニヤニヤと口が緩んでしまう。血が噴き出し断末魔を上げる試し切り人形なんていないから、そこだけは雑魚人間相手の楽しみだったりする。
「ひゃあああ、どうしましょうぅぅ。逃げていく者たちが見えますぅ」
どたばたどたばた。どんくさい足音が後ろから聞こえてきて、彼は機嫌を急降下させた。
眉根を寄せ、返り血を浴びたマントを翻して背後を振り返ると、手のひらサイズはありそうな大きなレンズの丸メガネを掛けた少年がこちらに向かって走ってきている。走っている、のだが、どんくさ過ぎて競歩に見える。小さく華奢な身体には大きすぎるローブをずるずる引きずって、わたわたと上半身を身ぶり手ぶり大袈裟に動かしながら何かを訴えかけてきた。
「陛下あぁぁ。逃げてゆく者どもはどういたしましょー! ご命令ください~」
「あーん?」
『陛下』その単語を聞いた途端、彼はひくりと口元を歪めた。どたどた走ってきた小さな身体を右足で蹴りあげる。
「ひゃうっ、ひゃうん、きゃうん!」
それは鞠のようにぽうんぽうんと弾み、死体の山に頭から突っ込んでいった。ぐちゃっ、と音がしてからしばらく静かになった。
しばらく経つと、もぞ、もぞ、と死体の山が動きだしずざざざと雪崩が起きた。彼は耳に指を突っ込んで待機した。
雪崩が止み死体の山が小さくなったころ、ずぼっ、とメガネの少年がやっと顔を出した。
「ひっ、ひどいですよぅ、陛下ぁー! ボクちゃんとお伝えしに来たんですよぅっ!!」
きぃーん、と耳が痛くなりそうな、声変わりもしていないような高音で、少年が不満を訴える。
「キャンキャンうるせェなァ。なんで蹴られたのか分かってねェんだな。おバカちゃんよォ。陛下はナシだっつったろォ、身分バレたらどーすんだ。オレが外出てるって知られたら困んのよ、権力じじィがうっせぇの」
少年を片手で回収して、地面に投げるようにして放してやる。ぽてんと尻から落ちた小動物は、すぐにたちあがるとぶんぶんと腕を振りまわして駆け寄ってくる。
「そうでした! ごめんなさいです、陛下ー!」
ぽふっと腰に抱きついてきた少年は、どうやら懲りていないらしい。拳で殴ってやる。
「だから陛下はナシだ、バカメガネ。なんのためにメガネ掛けてんだよォ」
「ひゃうんっ。殴らないでくださいっ。メガネは生まれつき目が悪いからですぅ。勉強キャラになるためじゃありませんんん」
「ギルちゃんのメガネはムダメガネで、バカメガネー。オッケ。今度はこの歌をオルランドの塔で流行らせるぜェ。ひゃはははは」
「あうー。それだけはー! ボク、またイジめられちゃいますぅ。へい……ユリウス様、やめてくださいですー」
「泣け泣け、イジめられろ、身も心もボロボロに犯されろ。んでもって、オレ様を楽しませろ」
「あうあうー。痛いのイヤですぅ。ボク、痛がってるの見るのが好きなのにぃ」
「オレ様相手じゃお前はぐっちょんぐっちょんに痛がる方に決まってんだろォ。諦めやがれ」
「でもでも、痛いのイヤなんですぅ」
ギルはメガネをずらしてぐしゅぐしゅとユリウスの腰巻き布で涙を拭いた。本当に懲りていないようだ。
がっとギルの首根を掴んで、目の前に引き上げる。身長の二倍はありそうなローブの中、ぶらんとギルの四肢が垂れた。ローブは血まみれだ。死体の山に身体ごと突っ込んだのだから当然である。
ギルはぐすぐすと鼻を鳴らし、大粒の涙を流している。泣けばユリウスが満足すると思っているのだ。相手が本気で泣かないと満足できないことくらい、同じ性癖を持っているのなら分かりそうなものだが。
ユリウスはふっとため息をついて、話題を戻した。
「ギル。報告しろ。逃げていくやつがどうしたって?」
「あう。そうでした!」
ギルははっ、としたような顔をして、ぱちーんと小さな手のひらを打ち合わせた。涙はどこへやら、けろりとしている。理由は簡単で、泣き真似だったからだ。本当に懲りない。
「さっきまで殺していた盗賊団とは違う盗賊団がいるようですぅ。騒ぎを聞きつけて、逃げていく根性の無いカスどもの集まりなんですぅ。どうなさいますかぁ?」
「あぁ? 追ってもつまんねーからほっとけほっとけ。本番はこれからなんだしよォ。連れてきた連中の精神力が八割割らねーうちに、ヘイズワナ小国に、『遊びに』行かなきゃなんねーしィ? ひゃはははは」
楽しくて仕方がない、というようにユリウスが笑うと、ギルもぱっと瞳を輝かせ、ほんのりと頬を赤らめた。
「はぃー。そうですよねっ。うふふ。楽しみですぅ。侵略! 破壊! 虐殺! いい『素質持ち』が居るといいですね」
「おうよ」
まるで恋を語るようにうっとりと喋るギルに、ユリウスも興奮を押さえきれずニヤニヤと唇を引きあげて笑う。
が、すっかり心がヘイズワナ小国大虐殺に飛んでしまったらしく、夢見る少年は手を組んでへらへら笑うだけでまともな反応をひとつも返さなかった。
腹が立ったので、もう一度地面に転がして踏んづけてやった。
「【ウォータ】【フレイム】」
水の魔道を使い、空中から地面へ向かって水の球を投げつける。狙いは炎柱――ではなく、ギルだ。炎柱は、同時に使った火の魔道で消したから、そもそももう姿はない。
「ぶはっ!?」
「おい、ギル。さっさとミレイユを呼びやがれェ。長居は無用だ」
血まみれの上びしょぬれになってしまったぬれ鼠を足で蹴りながら命令する。と、「あっ!」とギルが突然声を上げ、むくりと起き上がった。
「報告もう一個、忘れちゃってました」
「あん? なんだァ、忘れ物か?」
「ちがいますー!」
何が気にくわなかったのか、ギルはぷっくりと頬を膨らませてから、話を続けた。
「仕掛け穴、掛かったみたいなんですぅ。反応がありました」
「なんだァ? 遊びで作ったのに……引っかかるバカガキがいるんかよォ。まァ、いるだろうなァ。弱い盗賊がいる山だもんなァ」
「ですぅ」
「んじゃま、ガキ回収してから、ヘイズワナ行くかァ?」
「はぁい」
せっかく引っかかってくれたのだから、バカガキはバカガキでも、『素質持ち』だといい。ユリウスはそう思ったが、だが特に期待はしているわけではなかった。
子どもを見つけても、同類の割合は極端に少ないからだ。
だが、素質持ちにせよ、無しにせよ、ガルファンにとって子どもは貴重だ。女の割合が少なく、男ばかりの国だから、子どもがなかなか生まれないのだ。子どもが素直に、従順に育つように、よく躾けて見守るのが魔道国の慣例だ。間違っても、魔道国に恨みを持つように教育してはならない。命を捧げてはならない。命を奪う側でなくてはならない。
これから拾う子どもをどうやって調教してやろうか、などと考えてニヤニヤしながら、ユリウスは反応があったという穴へ向かった。
■ ■ ■




