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第六章⑪

降り注ぐ、ゴールドのシャワーの下。

「ああ、もう!」マリエは黒頭巾を焼き、強い光を放った。「なんてことをしてくれたんですか!?」

 強い光に、マリエを拘束していた魔女たちが離れた。

「許せません、」マリエはヒステリックになって、髪の色を強く輝かせている。「私は仕事を邪魔されるのが、一番嫌いなんです!」

「真面目はとてもいいことだけれど、」ファンダメンタル・ピュア・ゴールドによって纏うものが輝くマイコが、マリエに言う。「たまには肩の力を抜いて、休むのも大事よ」

 マイコはマリエを警戒するように構えた。

「休んでなんていられません!」マリエは大きな声を出しながら、マイコに近づく。「急がなくてはいけないんです!」

「それはどうして?」マイコの傍に立つ、ゴールドに濡れたアンジュが聞く。

「どうしてって!」マリエは髪を振り乱す。

「なぜ、急がなくてはいけないの?」アンジュは澄ました表情で言う。「あなたは私とは違うじゃない、急ぐ必要がない人よ」

「……それは、」マリエの目から大粒の涙が落ちる。「……それは、私が、急いでいれば」

「それはクラウンに宿りし、魂の記憶?」ソフィアは声を出した。

 マリエはソフィアを見て。

 両手で顔を覆った。

 声を上げて。

 泣いた。

 悲しみに溢れた声が、コプリ広場に満ちる。

 マリエ・クレイルに何があったのかは、分からない。

 けれど、その悲しみは、魂に付随し。

 魂となった未来にも、涙を生産するものなのだ。

 噴出するゴールドは、徐々にその高さを低くし、陥没した地面に溜まっていった。

 ソフィアは考えた。

 出来るかな。

 私に。

 出来るだろうかって、考えた。

 ソフィアはこの場所にいて。

 一度も魔法を編んでいない。

 どちらの味方になればいいか、分からなかったし。

 この広場での、小さな戦争の意味も、分からなかった。

 これからの、私の未来のことを考えていた。

 私の未来。

 それは。

 見えなかった。

 見えずに。

 見えるものさえ、淡くしか、見えていなかった。

 今さえ、分からないのに。

 未来が見えるはずもない。

 未来よりも。

 今だ。

 未来は今だ。

 この瞬間だ。

 私はこの瞬間を。

 救いたい。

 マリエの悲しみを消してやりたい。

 私の魔法で。

 私の、スピーカで。

 あの時の、愉快な気分。

 それを思い出す。

 互いに想い合った、あの時。

 ゴールド・シンフォニィでのステージ。

 あの時の、瞬間を。

 ここに、再現したい。

 ソフィアはゴールドのシャワーに潜り、エネルギアを充填した。

「マリエ、」ソフィアはマリエの肩を触る。「こっちを見て」

「ソフィア?」

 マリエの瞳に、ソフィアが映った。

「おやすみ、マリエ」

 ソフィアは無色に煌めき。

 叫んだ。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 響く。

 響く。

 響く。

 ソフィアの声は、どこまでも、天高く響いた。

 ……どう?

 ……届いた?

 マリエに、届いた?

 私の、声。

「……ソフィアってば、」胡乱な目がソフィアを見つめる。「優しいんだから」

 マリエの煌めきは収束。

 マリエは目を瞑り。

 再び、開いた。

 その煌めきを取り戻す。

 前髪を払い。

 ソフィアに笑みを見せる。

 その表情は。

 サブリナだった。

「……素晴らしい判断よ、ソフィア」

 ソフィアはその優しい表情を見て、とても安堵した。「ありがとう、サブリナ」

「お礼を言うのは、私の方よ、」サブリナはソフィアを抱き締めた。「ありがとう」

 抱き締めて分かる。

 サブリナの体が小さいこと。

 この小さい魔女を、ソフィアは守りたいって思った。

「皆さん、マリエが、少し、騒がしいことをしてしまって、代わりに、この体の主人格である私が、無礼をお詫びします、」サブリナはソフィアから離れ、マイコの方に向かって両手を上げた。「私に、戦争の意思はありません、コレ以上、広場を無茶苦茶にする気はありません」

 マイコは構えをそのままに。

 サブリナを睨み続けていた。

 紅の色を強くして。

 さらに、強くして。

 もう、その色は、紅色を、遥かに超えている。「私、怖がりなの、一度、あなたから恐怖を感じてしまったから、簡単にあなたのことを信じられない、会話をしているだけ、私の優しさだと思って」

 サブリナは首を竦め、息を吐いた。「インクが消えて、よかった」

「え?」

 サブリナはマイコに近づき、輝く紅の髪を触った。「いえ、必ず、このインクを消すことの出来る魔法があると信じていました、しかし、でも、少し、後悔していたのです、もし、この世界にインクを消すことの出来る魔法がなかったらって、後悔していたのです、あなたの髪の色を奪う、トラップを仕掛けたことを、きっと素晴らしい色だと、思っていましたから、だから、こんなに近くで、確かめることが出来てよかった」

 マイコはキョトンとした表情を一度見せて、吹き出すように笑った。「……私の方こそ、貴重な経験をさせて貰ったわ、きっとこれからの未来、経験することのない出来事だった、でも、そのおかげで、今、私は産まれ変わったような、晴れ晴れとした気分なの、あなたに感謝しているとは言わないけれど」

「もちろんです」サブリナも笑う。

「あなたとの出会いも、運命だった、ということにしておくわ」

「運命?」サブリナは首を傾げて言う。「ええ、そうですね、そういうことにしておきましょう」

 マイコはリンプを呼び、纏った紅華を脱いだ。紅華は丁寧に畳まれ、リンプのトランクに収まった。

 マイコは紅華を脱いだが、その髪の色は信じられないほど鮮やかで、紅で、美しかった。

 マイコに寄り添うように隣に立った、アンジュの蒼い色も。

 サブリナのゴールドも、綺麗で。

 その色に圧倒される。

「私はマリエと違って、不真面目です、そして正直に話せば、クラウンを髪に溶かしてから、ゴールドへの興味もありません、」サブリナは噴き出す勢いを徐々に弱めているファンダメンタル・ピュア・ゴールドから視線をソフィアに向ける。「興味と言えば、一人の魔女に関する、ミステリィを解明する、という事ぐらいでしょうか」

 サブリナの流し目に、ソフィアの心臓は騒いだ。

 ソフィアは自分のそんな反応がおかしくて、一人で笑ってしまった。

「きっと、ここから湧き出るファンダメンタル・ピュア・ゴールドは、もうこの程度でしょう、これ以上はおそらく望めません、ですから、皆さん、どうでしょう?」サブリナは人差し指を口元に当てて言う。「ここにはマンブルズ家の人間はいませんし」

「私がいるよ、」マロリィが剽軽な声を出す。「サブリナ」

「ああ、そうでしたね、無礼をお許し下さい、」サブリナはマロリィに向かって頭を下げ、そして尋ねる。「それでは、マロリィ様、このゴールド、どうなさいますか?」


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