第六章⑨
ルッカは頷き、マロリィに視線を向けた。
マロリィはハンマを両手で握り、広場の中心から走って距離を取る。
ルッカはシャベルがきちんと突き刺さっていることを確認した。
背後で巨大な爆発。
ラッシュによってエネルギアを膨らませた、マイコの家来の二人の魔法による爆発だ。
サブリナの様子は煙に隠れてしまっていて分からない。
「ブースト」マロリィはピンクに煌めく。
破裂。
噴射。
マロリィは回転しながら、こちらに向かってくる。
「させないわよ!」ミッキィを乗せた黒いドラゴンは、マロリィの行く手を阻んだ。「今日は鎧を着せてるんだから!」
「させないんだから!」ルッカは全身全霊で巨大な刀を編んだ。「オオタチ!」
ルッカの手に収束する、ルッカの身長の二倍はある刀。
巨大な刀の切っ先が地面に付くくらい、低く構えた。
「テアビュ!」横になぎ払う。
その波動により。
黒いドラゴンを上と下に裁断することに成功した。
ドラゴンの色の濃い血液が空気に舞った。
「ダニエルっ!」ミッキィは寸でのところでルッカのテアビュを避け、叫び、ルッカを睨みつけ、中空でピストルの照準を向けた。「貴様ぁ!」
「ジスティロ!」ガブリエラが水球をミッキィに横から叩きつける。
ミッキィは遠くの芝に背中から落ちて、気を失う。
「ふう、」ガブリエラはミッキィの近くに落ちていたピストルを拾い上げ、笑顔でルッカを見る。「危なかったね」
マロリィの進路は確保された。
ルッカは安堵した。
その時、背後に気配。
「マリエのためだ、すまんな」
羽交い締めにされ、足元が地面から浮き、視界が逆さまになり、投げ飛ばされた。
背中から、硬い石畳に落ちた。
後頭部を打ち、頭が揺れている。
遅れてくる、涙が出る程の鈍痛。
頭を押さえながら目を開けると、ドナルドがルッカの手から離れたオオタチを高く構え振り下ろそうとしていた。「よくこんな重たいものを、その細い腕で、持てるもんだ」
何か、魔法を編まねばと思った。
しかし、脳ミソが上手く回転しない。
目を瞑った。
何かを考える余裕なんてなかった。
ただ恐怖だけが急に来て。
それに対する覚悟をしていた。
しかし、痛みは来ない。
目を開ける。
横の地面にドナルドが倒れていた。
「ルッカ様ぁ!」シデンがルッカの腕を引っ張り、起こした。「大丈夫ですか?」
シデンがドナルドを痺れさせたのだ。
「……マロリィは?」
「マロリィ・ハンマぁ、」マロリィの高い声が聞こえる。「バースト!」
成功した?
そちらに視線を向ける。
違う。
まだ。
光の魔女がいる。
サブリナ。
彼女が編んだ、光の障壁、シエルミラが守っている。
今まで見たことがない色を放っている。
虹色にプラチナの光沢。
マロリィは障壁の天辺にハンマを叩き込む。
音は産まれない。
「きゃあ!」マロリィの悲鳴。
シエルミラはマロリィのハンマを反射した。
ハンマは粉々に砕けた。
マロリィは空高くに弾き飛ばされた。
『マロリィ!』ルッカとガブリエラとネイチャが叫んだ。
「もううんざりです、」サブリナが呟き、シエルミラを解く。そして空に向かって左の人差し指と中指を合わせ、マロリィを狙って発声する。「イレイザ」
それはあらゆるものを消失させる、光りの線。
「させないわよ!」
マイコだった。
マイコは髪の毛の色が悪いのに、サブリナに向かって走った。
そしてダイブ。
サブリナの体を両手で拘束し、押し倒すことに成功した。
「は、離して!」サブリナは暴れる。
マイコに二人のピンク色の家来が素早く加わった。彼らは二人ともぼろぼらだった。
ネイチャ、ガブリエラもそれに加わる。
シデンもそれに混ざった。
魔女の山が出来た。
最後にアンジュが投げ捨てられていた黒頭巾をサブリナの頭に被せた。「コレで少しは力が弱まるのかしら?」
「ルッカ!」マロリィが空で叫んでいる。「ハンマ!」
ルッカははっとなって。
両方の手の平をマロリィに向けた。
先端は粉々に砕けてしまったけれど、でも、マロリィはきちんと柄の部分を離さなかった。
ルッカはシルバに煌めき、緻密で精巧な、巨大なハンマを一秒の十分の一の速度で編んだ。
今日一番の出来。
「マロリィ・ハンマぁ、」
マロリィは縦に回転しながら。
ルッカが差したシャベルのところに堕ちる。
「バースト!」
マロリィのハンマはピンク色の炎を噴射し。
狂いなく正確に。
ルッカのシャベルの柄を叩いた。
シャベルの全てが地面に突き刺さる。
円形のプレートに亀裂が入る。
中心から円周に向かって、割れる。
瞬間的にその数を増やしていく。
地面が揺れる。
地面が陥没していく。
マロリィが地面と一緒に落ちていく。
「マロリィ!」ルッカはマロリィに走った。
「ルッカ!」マロリィはルッカに手を伸ばす。
助けようとしたのに、ルッカは亀裂に足を掬われてしまった。
マロリィの体に飛び込むような形になった。
ルッカはマロリィを抱き締めた。
地面がさらに落ちていく。
浮上する術はない。
二人とも、髪の色が悪いのだ。
どうすれば?
「ルッカ、約束して」
マロリィは指を指に絡めてきた。
ルッカを綺麗な瞳で見つめ早口で言う。
こんなときに、何?
「ずっと一緒だよ!」
マロリィはルッカに短いキスをした。
頭の中が、白くなった。
瞬間。
落ちていた地面が、上に向かって膨らんだ。
そして噴出した。
液体だ。
その液体に濡れる。
皮膚に少し熱い。
「温泉?」
しかし、その液体の色は、金色。
間違いない。
空に向かって勢い良く噴き上がる、金色の液体。
体中にエネルギアが満たされるのを、感じる。
髪の毛の色が戻る。
これが。
ファンダメンタル・ピュア・ゴールドだ。