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第一章①

色の少ない漆黒の夜。

 空では満月が雲に隠れ損ねている。

 野犬の遠吠えが響く。

 漆黒の衣装を纏った魔女二人は、夜に隠れている。

「ココ掘れ、わんわん」

 紫の髪の色。雷の魔女、伊香保シデンは立ち止まってこちらに振り返る。両手に持ったL字の銀の針金は左右に開いていた。つまりダウジングの成果が見えている。シデンはブーツの爪先で地面を叩く。新大陸シンデラのカリフォルニア州最大の金鉱山、ノーザン・サクラメント・バレイの、ナンバ・サーティーンというエリアの赤茶色の地面をブーツの爪先で叩く。爪先で円を描く。「強い反応、今度こそ、今度こそかもしれません」

「ええ、今度こそ」

 頷いたのは銀の髪の色。鋼の魔女、甲原ルッカ。頷き、ルッカは体の輪郭を僅かに輝かせる。ルッカは手を前に出し、甲を上に向ける。手の平から下に銀色が集合する。それらは確かな重さを持ち、互いに絡まり、二秒の間に道具を造り出す。その先端は地面に突き刺さる。

 銀色のシャベル。

 ルッカはシャベルを魔法によって造り出した。そのシャベルは魔法のシャベル。普通のシャベルじゃない。全てが純銀製、先端は鋭く研磨されている。武器にもなる。本来の使用用途よりも武器として使うことが、ここ最近は多い。とにかく、このシャベルは特別で、銀行の金庫くらいだったら簡単に穴を開けることが出来る。

「よいしょ」ルッカはシャベルを軽々と肩に乗せ、シデンの方へ歩く。シャベルの重さをルッカはほとんど感じない。他人は持てないほど重いシャベルだが、主のルッカは簡単に振り回すことが出来る。そういう魔法なのである。重さは箒よりも軽く、ルッカには感じられる。長さはルッカの身長と同じくらい。その長さがベストだと最近気付いた。ルッカはまだ十四歳の成長期。シャベルはルッカの成長とともに伸びる予定。

 さて。

 シデンがブーツの爪先で円を描いた地面に、ルッカはシャベルを突き刺す。

「……ん?」違和感を覚えた。

 土が柔らかい。

 一度、最近、掘り起こされた形跡?

 それとも。

 私が欲しいもの?

 ルッカは首を傾けながらも土を掘り起こす作業に入る。

 掘り起こした場所を照らすのは、シデンの額の前に輝く紫色の球体の光。

 ルッカは黙々と掘り進めた。

 掘り起こした土は穴の横で山になる。

 穴は早いペースでルッカの腹部くらいを隠す深さに達している。

 ルッカは一呼吸置く。

 シデンはルッカを淡い光で照らしながら膝を抱えて様子をじっと見ている。

 ルッカは自分の長い銀色の髪を一つに束ねた。

 そして作業を再開する。

 シャベルを地面に突き刺した。

 その時。

 シャベルの先端は硬いものを捉える。

 とても硬い。

 このシャベルの行く手を阻むものだから、相当硬い。

 ルッカは少し力を込めて地面に刺してみる。

奥まで行かない。金属同士の衝突音が響く。ルッカは顔を持ち上げて、シデンを見る。

シデンも驚く表情をしている。シデンの可愛い八重歯が覗く。

ルッカはシャベルを穴の外へ置き、穴の中で跪き、手で土を掻き分ける。フリルの多い黒い魔女の衣装は既に土に汚れている。構わない。安物だ。手に伝わってくるのは金属の感触。

一体何だろう?

 合金製のプレート?

 丁寧に土を払っていく。「……何、これ?」

 現れたのは赤く錆びた正方形のハッチ。地下シェルタへの入り口か? 一体、訳が分からない。このハッチはどうやら横にスライドするようだ。しかし、スライドさせてその下の状況を確認するためには周囲の土を殆ど撤去しなければならないようだ。とにかく、このハッチ、ルッカの目的に何か関係のあるものかもしれない。いや、あまりないような気がするが、今回もハズレらしいが、とにかくルッカはこの硬いハッチの下に興味が沸いてくるのを抑えられない。

 ルッカはシャベルを手に取り、そして先端をハッチに突き立て。

 魔法を編む。小さく言う。「テアビュ」

 ルッカのシャベルは強烈なシルバを光らせる。

 けたたましい炸裂音。

 ハッチはルッカの全てを貫き斬るテアビュという魔法によって穴を開けられた。

 ルッカは穴に半身を突っ込んだ。

 ハッチの下には空洞がある。

 暗い。何も見えない。ルッカは穴から顔を出す。「シデン、明かりを落としてくれる?」

「はい、どうぞ、」シデンは手の平に丸い紫色の光を灯す。それを丸い形にして、シデンは穴に落とした。「何が見えますか?」

「うん、っとねぇ、」ルッカは再び穴に顔を覗き込む。ハッチの下はシデンの雷玉によってとても明るい。ハッチの下は煉瓦によって、空間が作られていた。そのハッチからこの空間の床まで三メートルくらいだろうか、ハッチの手前に梯子があり、降りられるようになっている。縦横は広くない。狭い。四畳半くらいのスペース。その中心に石膏で作られた四角い台座がある。その上にゴールドに輝くものがガラスに囲まれて、ある。「……王冠?」

「王冠?」シデンの声が近い。彼女も穴の中に移動していた。

「中に降りてみよう」

「え、入るんですか?」

ルッカは足からハッチの下の空間へ降りた。煉瓦の色を見て、まだこの空間が出来てそれほど日が経過していないことが分かる。触る。施工されたのは近い過去だ。空気は土の香りで充満している。酸素の濃度は薄い。

「ルッカ様ぁ、」シデンが顔を覗かせた。「受け止めてくださいねぇ」

「うん、来て」ルッカはふんわりと降りてきたシデンを両手で受け止める。

「きゃあ、」シデンは無邪気に顔を綻ばせる。「ルッカ様にお姫様抱っこされちゃった」

「降ろすよ」

「はい、ありがとうございます、」シデンはルッカの横に並び立つ。シデンはまだ十二歳。魔女になってまだ一年。背はルッカの肩くらいまでしかない。顔つきもまだ子供である。シデンはガラスに囲まれた王冠に近づき、目を輝かせて見ている。「あ、うわぁ、凄いですね、とても綺麗、素敵な金色」

「シデンのダウジングはきっとこの王冠に反応したのね」

 ルッカも王冠をじっと見つめた。おそらく純金製。宝石などは見当たらない。王冠には精巧な細工がなされていた。複雑な幾何学模様の中で、小さな天使たちが羽根を広げている。「……いくらで売れるかしら」

「ルッカ様、」シデンは五指を組みルッカを見る。「私、お肉が食べたい」

「そうね」

 ルッカは王冠を囲むガラスに触れた。

「きゃっ!」ルッカは手を引っ込める。「……なに?」

「きゃ、だなんて」シデンは笑顔だ。「ルッカ様、可愛い」

「むぅ、」ルッカはシデンを睨む。「シデン、何かしたでしょ」

「え、いや、そんな、私は、何もしてませんよ」シデンは首を横に勢い良く振る。

「え、でも、ビリリッとした、」ルッカは再びガラスに触ってみる。「ほら、何ともないわけだし」

 ルッカは少し力を入れた。なんともない。けれど。

 ガラスは僅かに向こうに動いた。

 その瞬間、ガラスの中の王冠が消えた。

「えっ?」ルッカはガラスの中を確かめてみる。

 台座に穴が開き、下に堕ちたのでもない。

 向こう側に堕ちたわけでもない。

 王冠は全ての方向から囲まれていた。

 それなのになぜか。

 王冠はルッカが見ている前で消えた。

「王冠は?」シデンもガラスの中を注視している。シデンも見えていないらしい。

 ルッカの目が変なことになったという可能性も消えた。

 それじゃあ、一体、なぜ?

 ルッカは脳ミソを回転させようとした。

 しかしその前に。

 厳戒態勢を告げる、金属のベルの音が……。



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