妹にされたアドバイスを実行しようとしたら、異世界召喚された。
今日は、映画を観るため、友人と程よく混んだ電車に乗って移動している。
目的地でもあり終点でもある大きな駅に到着し、乗客全員がホームから改札口へと向かっていく。
平日の通勤ラッシュには及ばないが、休日の駅のホームも人で埋め尽くされている。
改札までは人の流れに任せながら、ゆっくり歩くしかないな。
そこまで考えてから、隣を確認すると、一緒に電車を降りた友人が居なかった。
僕は、またかと視線を前方へ向ける。
そこには、早足で人の隙間を通り抜けて行く友人の背中。
友人のこの行動に最初は焦って、人にぶつかりそうになりながらも、早歩きや小走りで必死で追いかけていた。
先を行く友人は必ず改札外の壁際で待っているので、僕は遅刻したような罪悪感に一言謝ってから再合流し、再び並んで歩き出す。
友人と出かける度に、こうなる事に困っていると、妹に話したところ、
「一旦、撒いてみれば?」
というアドバイスをいただいた。
「一緒に出かけてる意味なくね?」
「だよな……。お兄ちゃん、ちょっと勇気出してみる。」
「お兄ちゃん、優しいから、無意識になめてんじゃない?ソイツ、シメれば?」
「女の子がシメるとか言っちゃダメ!」
「ハイハイwww」
──そして、今日に至る。
映画の前に軽く腹ごしらえしようと提案し、駅で待ち合わせて休日の混雑する電車に乗った。
友人が歩幅を合わせてくれたなら、腹ごしらえをしてから映画。
いつも通り、先に行くのならば人混みに紛れ、はぐれた振りをし、腹ごしらえのための時間を使い、友人を撒いてみる。
友人を困らせるのは申し訳ないけど、僕も困ってるし、遠回しだけど気付いてくれたらいいなって思う。
妹からしたら、もっと強く出ろって言いそうだけど。
電車の扉が開く直前まで、どこの店に行くか、映画が楽しみだね、と盛り上がっていた。
しかし、扉が開くと、友人はいつも通り、僕を置いて行った。
分かっていたけど、やっぱり撒くことになってしまった。
歩く速度は全く落とさずに、人と人との隙間に体を滑り込ませていく友人の器用さに感心しながら眺めていたら、見ている方向に、光の柱が現れた。
「「「異世界召喚だ!!」」」
光の柱に触れないように、人々が慌てて距離を置く。
友人は、その足を緩める事なく、距離を置いた人々と光の柱に出来た隙間から通り抜けようとして、
──消えた。
異世界召喚が日常化してしまった日本。
光の柱や魔方陣が現れたら、距離を置くのは、今や常識である。
しかし、異世界召喚は予告が無く突然になるため、友人の様に喚ばれていないのに巻き込まれる者も少なくない。
そのために、日本人にはどこかの異世界の人達と作ったという特殊なマイナンバータグが配布され身に付けるのが義務付けられている。
地球からマイナンバータグの存在が消えた瞬間に、異世界対策機関に通知がされるのである。
目の前で召喚された人と友人については機関が各方向に対応してくれるので、僕がする事は何も無い。
もし友人を頑張って追いかけてたら、僕も巻き込まれちゃってたのかな。
でも、普通に歩いてたら、あんな風に異世界召喚には巻き込まれなかったよね。
とにかく、僕も巻き込まれなくて良かった。
喚ばれてない人間はチート能力が授からなかったり、酷い目に遇う事もあるとの経験談も結構あるから、こわい。
僕は、端末機器を取り出し、妹にメッセージを送る。
【例の友達を撒こうとしたら、余所様の異世界召喚に突っ込んで行っちゃたよ。びっくり】
妹【wwwwww】
短いやり取りを終え、撒くための迂回ルートから変更し、改札から出て、大型ショッピングモールの最短ルートへ向かう。
悩み事も一つ減って、スッキリした。
僕は予定通り、映画を観に行こう。
15年間、異世界召喚先で勇者をやってた人の実体験のお話。
楽しみだな~。
妹にされたアドバイスを実行しようとしたら、異世界召喚された。友人が。
─完─
◇
【後書き】
私自身、人混みでどんどんと抜かれるので、歩くのが遅いのかと悩んでいます。
でも、お友達とは並んで歩けてる。もしも歩幅を合わせてくれてるとしたら、みんな優しい。
◇
主人公達の名前を考えるのが面倒で出てこない。
お兄ちゃんは、ぷにぷにふわふわ系ほんわか男子をイメージ。でも本人無自覚で若干黒い。
妹は数年後に殴る系聖女で勇者達と召喚されるけど力で全てをねじ伏せて速攻で帰還する。ふわふわお兄ちゃんを心配させてたまるか。
異世界に突っ込んで行った友人は思い遣りが無いからと特別処置で与えようとされたチート諸々は却下された。




