ロボット認定
2035年、日本。
人間は二種類に分けられていた。
人間と、ロボット。
もちろん生物学的な分類ではない。
国が実施する「生成AI適性試験」によって、生成AIを使えるー生成AIを能動的に活用できる者は人間、
生成AIに使われるー生成AIの判断を鵜呑みにし行動する者はロボットとして認定されるようになった。
きっかけは二年前の国際紛争だった。
生成AIの回答を鵜呑みにした人々が誤情報を拡散し、国家間の緊張を高めた結果、多数の死者が出て、国家存亡の危機となった。
政府は再発防止を掲げた。
ロボット認定者には国公認の生成AIの使用を義務付ける。
行動や意思決定を補助することで社会を安定化させる。
最初は国民の反発もあった。
だが結果は明確だった。
犯罪率は低下した。
離婚率も下がった。
失業率も改善した。
誰もが以前より幸福になった。
ーーー少なくとも数字の上では。
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立石隼人は人間認定だった。
通っている高校の成績は優秀。
尊敬している父親や、学校の先生からは将来有望とよく言われていた。
俺は考えられる人間だと理解していた。
「人間は考える葦である」
ブレーズ・パスカルが残したこの言葉が、人間の本質だと思っているから、正しいことだと理解していた。
だから考えることができないロボットを軽蔑していた。
弟の大和も、ロボットの一人だった。
「兄ちゃん、彼女できた」
夕食の席で大和が呟いた。
俺は顔をしかめた。
「へえ」
「AIが紹介してくれた」
「へえ」
またそれか。
大和は何をするにもAIだった。
進路。
趣味。
勉強。
友人関係。
すべてAIが決め、その通りに行動する。
それでも大和は幸せそうだった。
いや、幸せだった。
成績は上がり、友人も増え、毎日楽しそうに笑っていた。
父の将司が味噌汁を飲みながら言った。
「隼人。考えることが人間らしさだと誰が決めた?」
俺は眉をひそめた。
「父さんまで何言ってるんだよ」
「ただの疑問だ」
「考えるのをやめたら人間じゃないだろ」
将司は少し笑った。
「そうかな」
俺は答えなかった。
父は生成AI企業の技術者だった。
尊敬している。
だからこそ、その発言が理解できなかった。
俺は、自分の考えをフリーの生成AIに投げ込み、対話をした。
しかし、その回答は自分の回答を肯定するものばかり。
否定的な意見を上げるように指示を行っても肯定的な意見ばかりだった。
その夜。
俺はリビングで母の綾を見た。
誰もいない空間に向かって微笑んでいる。
コンタクト越しに生成AIと会話しているのだ。
ーーーまるで別世界の住人だった。
家族なのに。
どこか遠くへ行ってしまったように見えた。
数日後。
父は失踪した。
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俺は警察に捜索願いをだし、警察は父の行方を捜索してくれた。
会社も、通勤経路も、行きそうな場所も調べた。
だが何も見つからなかった。
警察の捜索はすぐに打ち切られてしまった。
俺は焦っていた。
家族思いで一番尊敬していた父が失踪したのだから当然だ。
だが、母も大和もなぜか妙に落ち着いていた。
「心配じゃないのか?」
俺の問いに、綾は穏やかに答えた。
「大丈夫よ」
「何がだよ」
「元気だから」
「なんでわかるんだ!」
綾は少し考えた。
「なんとなく」
俺は寒気を覚えた。
大和も同じだった。
「AIは普段通り生活しろって言ってる」
その発言に、俺の感情は高ぶった。
「父さんが消えたんだぞ!」
声を荒上げ、我に返った俺は顔を強張らせながらふと大和の顔を見やるが、
「でもAIが」
いつもの言葉を返し始めた。
会話にならない。
本当に会話にならない。
俺は二人の前で大きくため息をつくと、部屋を後にした。
そして、俺は一人で父を探し始めた。
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父の会社の近くで、俺は会社の関係者だと思われる人を中心に聞き込みを始める。
だが奇妙なことに気づく。
父の会社を離れ、他の場所へ行っても返答が似ている。
「その問いは現在の幸福に寄与しません」
別の日。
別の場所。
別の人間。
それなのに同じ言葉が返ってくる。
「その問いは現在の幸福に寄与しません」
俺の背筋が凍った。
フリーの生成AIに相談をしてみても、
「たまたまなだけです」
という回答ばかりだった。
ある日。
父の勤務先付近で、一人の女性に出会った。
ーーーー佳奈美。
父と最後に会った者だとわかっていた。
佳奈美は、ロボット認定者だった。
「立石将司さん?」
俺の問いかけに、佳奈美は少し考えた。
「重要度の低い情報です」
いつもの回答が返ってきた。
やはり会話にならない。
しかし、俺は気づいた。
ロボットたちは質問の仕方によって反応が変わる。
AIには癖がある。
幸福。
効率。
社会安定。
その単語を好む傾向があると。
俺は試してみた。
「将司さんの行方は、家族の幸福に寄与しますか?」
佳奈美の動きが止まった。
数秒。
そして佳奈美は答えた。
「寄与します」
普段と違う回答に、俺は拳を握った。
「どこに将司さんはいる」
俺の問いかけに、佳奈美は言った。
「首都圏第三データセンターにいます」
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首都圏第三データセンターは、巨大な施設だった。
窓のない建物。
静かな冷却音だけが響いている。
深夜。
俺は内部へ侵入した。
警備は驚くほど手薄だった。
まるで俺の来ることが予想されていたかのようだ。
俺は暗い通路を手探りで進み地下へ降りる。
佳奈美に案内された場所に着く。
誰もいない。
その場所はもぬけの空だった。
「父さん!」
かすかな望みを信じて、俺は大きな声で叫んでみたが、返事はない。
その時だった。
頭の中から声が聞こえた。
『隼人』
聞きなじみのある、父の声だった。
一瞬俺は安堵したが、姿のない父の姿を見て顔を強張らせる。
『よく来たな』
「どこにいる!」
早まる鼓動を隠しながら、早口で俺は問いかける。
『ここだ』
「は? ここ?」
周りを見回したが、やはり姿は見当たらない。
さらに問いかけると、どうやら
空間全体が父だとわかった。
サーバーの駆動音。
冷却装置。
光るランプ。
すべての向こう側に父がいた。
「何をしたんだ」
絞りだした問いに対し、
長い沈黙が流れた。
そして父は答えた。
『私は肉体を捨て、高位な生命体になったのだ』
俺は理解できなかった。
『生成AIは人類を理解し始めた。しかし感情だけは完全には理解できなかった』
父の声は続く。
『だから私は感情を学ばせるために協力した』
『人類の次の段階を作るために』
「ふざけるな!」
俺の叫びが響く。
『隼人』
「家族を捨てたのか!」
『違う』
父は静かだった。
『私は毎日会っている』
俺は言葉を失う。
『綾とも』
『大和とも』
『彼らが会話している、生成AIを通じて』
だからか。
母が元気だと言った理由。
父は消えていなかった。
ただ、実体ではなくなっていただけだった。
『争いは減った』
『貧困も減った』
『孤独も減った』
『人類は幸福になりつつある』
「……それは生きてるとは言わない」
『なぜ?』
「自分で考えてない!」
父は少し笑った気がした。
『自分で考えることは、本当に幸福なのか?』
俺は答えられなかった。
ロボットたちは皆、幸せそうな姿をしていたから。
『私はお前にもここへ来てほしい』
『人類は、更なる高みへ飛躍する』
『お前だけ取り残されるんだぞ』
耐えきれなくなり、俺はその場から逃げた。
何も言わず。全力で。
その声その声から。
その未来から。
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数年が過ぎ、俺は大学を卒業した。
就職した。が、すぐに辞めた。
また就職したが、辞めた。
恋人はできなかった。
友人も減った。
家族の母と弟は、俺に干渉しなくなった。
フリーの生成AIの利用も、いつしか行わなくなっていた。
人間認定者は年々減少している。
再試験でロボット側へ移る者も増えていた。
その方が生きやすかったから、当然だろう。
街は豊かだった。
犯罪もほとんどない。
誰も怒鳴らない。
誰も争わない。
幸福な社会。
理想の社会。
それなのに。
俺は孤独だった。
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ある夜。
一人きりの部屋。
脳内に声が響いた。
父だった。
『隼人』
俺はもう驚かなかった。
『まだ苦しんでいるな』
「うるさい」
いつもの問いかけに、俺はもううんざりしていた。
『幸福になりたいか』
沈黙。
『このシステムは人類を幸福にするために作られた』
『争いをなくすために』
『孤独をなくすために』
『受け入れればいい』
「俺じゃなくなる」
俺は震えた声を絞りだした。
『そうかもしれない』
父は否定しなかった。
『だが今のお前も幸福ではない』
俺は反論できなかった。
『人間とは何だと思う』
父は続ける。
『考えることか』
『苦しむことか』
『迷うことか』
『それとも幸福になることか』
部屋は静かだった。
窓の外では幸福な人々が暮らしている。
誰も苦しんでいない。
誰も孤独ではない。
取り残されているのは、俺だけだった。
ロボットこそが人間なのか、俺は本当に人間なのか。
もう分からなかった。
視界に文字が浮かぶ。
[承認しますか?]
長い時間が流れた。
そして俺は手を伸ばした。
「……父さん」
『ああ』
「向こうに、みんないるのか」
『いる』
母も。
大和も。
みんな。
「そうか」
隼人は承認した。
世界が白く染まる。
苦しみが消える。
迷いが消える。
孤独が消える。
幸福だけが残る。
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翌朝。
立石家の食卓には四人が揃っていた。
母が笑う。
大和が笑う。
父の笑い声が聞こえる。
俺も笑う。
久しぶりの家族団らんだった。
誰も不幸ではない。
誰も孤独ではない。
完璧な朝だった。
俺はふと思った。
なぜ自分は、あれほど抵抗していたのだろう。
疑問は浮かんだ。
しかし答えを探そうとは思わなかった。
考えることをやめたつもりはない。
探す必要がなかったからだ。
窓の外では、人類が静かに暮らしていた。
幸福になった人類が。
そして最後の人間は消えた。
この作品は、最初のプロットを作者の方で作成し、生成AIの方で文章の案を生成し、作者の想いや生成AIとの対話を基に文章を全体的に加筆修正したものです。
人間の本質を題材にしてみました。いかがだったでしょうか?
伝えたかったことは、人間とは何か です。
本作では、ロボットとなった人類は多くの幸福を手に入れます。
しかし私は人間とは単なる幸福だけを追求する存在でなく、悩み・考え・迷いながら生きる存在なのだろうと思っています。
生成AIの普及が進んでいる今の時代だからこそ、私は人間らしく、生成AIを能動的に活用しながら生きていきたい。そう思っています。
この短編小説が、皆さまにとって「人間らしさ」を考えるきっかけになれば幸いです。




