『衝突』
ジャンル:ホラー / ダークファンタジー / サスペンス
・本作には暴力的描写や流血表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
・宗教・神格・悪魔などを題材にしています。信条により不快に感じる可能性があります。
・心理描写や恐怖描写が強めです。ホラー表現に抵抗がある方は閲覧をお控えください。
暗闇が支配する中、閃光と衝撃が容赦なくカイに飛来する。
(なんだって、こんな大物が――!)
たった四人しかいない、神の寵愛を受けた近衛聖騎士。
中層でお目にかかることなんて有り得ない。それが、まさかこんなところに出てくるなんて。
完全に想定外の釣果を前に、カイは思考を巡らせ続ける。
その間にも、一瞬の光が弾け――地面が、壁が抉れていくほどの衝撃から、カイは寸前で飛びのいていく。
(近づ、こうにも、――この、頻度のっ……斬撃はッ……!)
大剣による大振りな攻撃だからこそ、まだなんとか回避できる範囲ではあるが、本当にギリギリの避けっぷり。
むしろ、ただの一般市民がここまで避けていることを褒めてほしい。
「避けるか。ならば――」
白騎士の、後ろに撫でつけた金の髪は一切崩れることなく。涼やかな表情も保たれたまま。
――つまり、この相手は本気すら出していない。
「悪魔に逃げる隙など、与えるものか」
純白の鎧を纏う聖騎士は、大剣を両手で構え直し――ぐ、と重心を降ろす。
「――我が正義、揺らぐことなし。唯一神ルシエルの名において、今ここに裁きの光を」
(あれは――まずい)
本能がうるさいほどに警鐘を鳴らしている。
途端、強まっていく大剣の輝き。
そこから打ち出される斬撃は――こんな街の往来で放っていいものじゃないはずだ。
どうする。考えろ、考えろ、今ここで――隙を作る手段を――!
針を打ち込んで、僅かでも幻覚を見せる? 駄目だ、そもそも近付けない。
杭の大きさを打ち込むなんて――そもそも、論外だ。針すら届かないのだから。
接敵すら許さない相手に、ここまで太刀打ちできないのかと歯噛みする。
杭を握る手に、じっとりと汗がにじむ。
大剣に宿る光は煌々と夜闇を照らしていく。
純白の騎士の存在に、敵意――いや、明確な殺意に足が竦む。
――蛇に睨まれた蛙とは、まさにこのことか。逃げ出そうにも、逃げ出せない。
(――そうだ。『欺瞞』の力は、俺自身にも……)
今やろうとしていることが、どんな影響を齎すかは未知数だ。
(だが、試してみる価値はある――!)
「――終わりだ、悪魔」
「死んで、たまるか……!」
一瞬の逡巡ののち――欺瞞の釘を、自分に打ち込んだ。
直後、眩く溢れんばかりの光が、カイへと向けて放たれる。
避け切れない、直撃すれば、死ぬ。
――だが、ここで死ぬわけにはいかない。
――たとえ、自分のなにかが『不可逆的』に変質してしまったとしても。
――鼓動が、大きく跳ねる。
――全身の血液が、沸騰する。
――どくっ、どくッ、ドクッ……ドクンッ!
若き神官も、大剣を携えた聖騎士さえも――悪魔は消滅すると疑わない。
黒い影のような様相の悪魔は、圧倒的な光の前に消え失せるのだと。
「――そこだッ!」
「なっ――?!」
それは、一瞬のこと。
消滅したはずの悪魔は、白騎士の後方に躍り出る。
先までと異なる速さと動きに、虚を突かれた聖騎士はその薄い金色の目を見開いた。
――が、その隙も本当に僅かなものだ。
「……舐められたものだな」
「――ぐッ、あ!」
大剣に杭を叩き込む――が、ソウエイの一振りでカイは壁に叩きつけられる。
背に受ける衝撃で腹からせり上がるものに、げほ、げほ、と咳き込んだ。
月光を背に、純白の騎士は一歩、また一歩とカイに近づく。
その手に握られている大剣は、カイの命を屠ろうとしている。
冷え冷えとした薄金の瞳は、無様を晒すカイを見下ろす。
「私の信仰が、悪魔なぞに揺るがされるものか」
「っげほ、……――はは、それはどうかな?」
軽薄そうな笑い声が、仮面の下でくぐもって響く。
その様子に不快さを隠そうともせず、ソウエイは大剣を大きく振り被った。
「軽口を……。――死ね」
大剣の刃が、眼前に届く刹那。この瞬間を待っていた。
きつく握り込んだ鉄槌で、あの『一点』を叩く――!
――ばきん!
鉄槌の一撃が、大剣の腹に撃ち込まれる。
そこから大剣は脆い音を立て――刃がばらばらに砕け散った。
「――なっ?!」
「ッはは! そう簡単にやられるかってなァ!」
ソウエイの瞳が驚愕に染まり、カイは歪な笑みを浮かべる。
次いで、もう一撃――杭を打ち込もうとして、びたりとカイの手が止まった。
「こっちだ! 早くソウエイ様の元に!」
「急げ! もっと応援を!」
……最悪のタイミングだ。
目の前に極上の獲物がいるのも関わらず、狩ろうとすれば自身が多数に狩られる状態。
カイは一度、ぎりと奥歯を噛む。
僅かな逡巡の後――手にしていた杭を、一思いに自分自身に突き刺した。
途端、カイの姿はどろりと、闇に溶けていく。
「逃がすか!」と自身に伸びる白銀の手を、寸で振り切り。
――悪魔は完全にその場から消え失せた。
〈続く〉
感想、リアクションありがとうございます! とっても!! 嬉しい!!
「続きが気になる」その一言で、頭の中のカイたちが元気に暴れまわります。
また、次回以降は彼らの生きざまとじっくり向き合いたいので、2日に1話のペースで投稿予定です。
楽しんで書くので、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。




