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壊の唄  作者: 猫島けい
第一章
5/12

『標的』

ジャンル:ホラー / ダークファンタジー / サスペンス

・本作には暴力的描写や流血表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

・宗教・神格・悪魔などを題材にしています。信条により不快に感じる可能性があります。

・心理描写や恐怖描写が強めです。ホラー表現に抵抗がある方は閲覧をお控えください。

 あくる日、カイは仕事の準備すらせずに街へと出向く。

 天気は快晴。雨の予兆すら感じられない。


「さーてと、まずは本命から」

 都市の中央に座す大神殿。そこから根を張るように、この街は広がっている。

 

 中央に近いほど神職や貴族が暮らし、城壁に近づくほど人の目も荒くなる。中層はその名のとおり、その狭間だ。

 間違っても中層に住む女子供が城壁近くになんて近寄っちゃならないと、両親から口酸っぱく言われてたっけな、と思い出す。それに――。

 

(――なにが「神の御慈悲は平等だ」だ。それなら階級もすべて平等にすりゃいいだけの話だろ)

 彼らのいう「お慈悲」は、結局のところ炊き出しや支援にとどまっている事実に、カイは呆れたように溜息を吐く。

 

 カイが住まう家は、中層に位置していた。

 これは、かつて父親が『聖騎士の武器』を鍛える鍛冶師だったことによるものだ。幼い頃は、そんな父親の背中が誇らしく見えていたものだ、と小さく肩を揺らして笑う。

 今となっては、何処にでも出向きやすいこと以外、特に益を感じてすらいないが。


(大神殿そのものに入るにも、無策で飛び込む訳にもいかないしな)

 せめて内通者でも作れれば――とも思いもしたが、今のところ該当する交友関係もいない。となれば、いっそお貴族様に媚をと思っても、中層の研ぎ師兼何でも屋に貴族がわざわざ依頼をするかと言われれば「あり得ない」と黙るしかない。


(……となると、現状『釘』を使ってどうにかするしかない訳だ)

 自分の手札と呼べるものは「カイ」としての人脈、釘とそれを打ち込むための鉄槌に、正体を隠すための仮面のみ。

 無策で無鉄砲に本陣に突っ込んで殺されるほど愚かでもないが、今すぐに復讐を果たせるほどの金も人脈も、武力もなかった。


 それに、釘とて無限にあるわけでもない。

 悪魔の遺骨から作りだした『欺瞞の釘』は、それなりにストックはあるとはいえ、無尽蔵ではない。昨晩の針程度ならともかく神官相手に用いた力は、むやみやたらに使えない。

 であるのならば標的は慎重に選定すべきだと、カイは釘を作り上げてから早々に結論付けている。


「――お、見えてきた。今日も立派なことで」

 家を出てからしばらく歩いたところで、白亜の大神殿がくっきりと目に映る。カイは住まいからほぼ直接距離で行けることから、四方を守る門の内の東門へとやってきた。


 真っ白な石づくりの門は、実に目に眩しい。

 白という色は、この都市に根付く宗教の大切な色だそうだが――照り返しを知らないのだろうか、とカイは目を眇める。とにかく目に痛い。せめて曇天であればマシだったのだろうが、生憎と今日は雲一つない快晴だった。

 

「んー……――さすがに近衛聖騎士サマはいないよなぁ」

 大本命に最も近しい位置の存在。彼らが用いる武器に対しても、できることなら『欺瞞の釘』を打ち込みたい。あの武器には、そうするだけの『価値』と『理由』があるのだから。

 

 だが、この宗教都市のトップたる枢機神官を守る存在が、何の用もなく門まで出てくるわけもない。

 不審に思われないためにも、カイの独り言は平生より少なめだ。

 うっかり聖騎士たちに目を付けられたら、今後の動きにも障りが生じてしまう。


「一旦、あの辺りも見てみるか」

 大神殿から四方に伸びた先にある――通称、神の恵み。

 日々、生きるために必要な清潔な水が供給されるだけでなく、太陽が沈んだ後でも周囲に一定の光を齎す。


 この中央部に住まう人々は、この神の恵みを何の条件も対価も必要とせずに受け取れるそうだ。……まあ、中層住まいの人間には一生縁のない話だが。


 水源もないのに、こんこんと清水が湧くその場所を、カイは遠目に見つめる。見習い神官や貴族に仕える下女下男たちが、神が齎す恵みに感謝の祈りを捧げ、桶に汚れひとつ浮かばない水を汲み上げていた。

(俺達なんて、必死に井戸を掘ったりなんだりしてるってのにな)

 ただ祈るだけで、清潔な水が手に入る。それを彼らは当然のような顔で受け取っている。


 だが、それを羨ましいと思わない。

 神の恵みが、奇跡がなにを由来としているのか――俺はもう、知ってしまっているのだから。

 思考せず、ただ神の慈悲と恵みを享受し続けている人々の姿は、カイの目には滑稽にすら映っている。


(ここを標的とするにも、見張りのパターンを集めてからだな)

 中央部において「神の威光を示す場所」であるからか、昼夜問わず聖騎士たちの姿は多い。

 馬鹿正直に真正面から挑むには分が悪い。

 だが、ここに『欺瞞』を打ち込めれば――。

(――より多くの存在に『神』への疑念をいだかせることができるはずだ)

 その予測に、カイの口元は知らず歪んだ――ことに気付き、慌てて口元を掌で覆う。


「――先輩、今からどこに行くんですか?」

「南門だ。お前の『神の雫』を授かりにな」

「! ということは、僕も奇跡行使の代行者に……?!」

「はは、ササグはもう見習いではないだろう? 今や私と同じ、立派な神官の身じゃないか。民たちに奇跡を齎すひとりとして、今日から励んでもらうぞ」

「~~! はいっ! 僕、がんばります!」


 そんな会話が聞こえて――カイは、ぴたりと動きを止める。

(――あの子供が、見習いから出世したっていう……)

 ルシエルが愛す、白と薄い金。それを体現したような柔らかい金の髪と純白のローブ。まだ着慣れないのか、ローブに着られているような様子も相まって、彼こそが、出世を果たしたあの見習いなのだと悟った。

 

「ああ、そういえば先ほど上位神官さまから、『ササグは神の御許に向かうに相応しい魂を持っている』と訊いたよ。きっと、お前の奇跡はルシエルさまの慈愛と救済の御力を、民たちにより知らしめることができると――私も期待しているんだ」

「え、ええっ! そんな、僕なんてついこの前まで見習いだったのに!」

「はは、奇跡を行使するには、純粋な祈りが必要だ。その点……、うん。お前ならきっと問題ないだろう。ほら、実際に試すためにも早く行くぞ」


(……なにが神の御許だ)

 会話を盗み聞きしていたカイは、ぎゅうと拳を握りしめた。

 奇跡も、恵みも、象徴たる神の雫さえも。すべて、すべて、嘘偽りのものに過ぎないというのに。


 この短時間で、彼が純粋な性格をしていることはよく理解できた。

 なればこそ、あの神官のような目に遭わせるのは避けたい。まだ、幼い子供じゃないか、とも。


(――次の標的は、『あれ』だ)

 カイは静かに標的を、そして計画を定める。

 成すことは決まった。あとはもう、動くだけ。



〈続く〉

 

評価、ブックマークを付けてくださった方ありがとうございます!

とても嬉しく、大興奮してしまいました……へへ。

次回も楽しく書いていきますので、お待ちいただければ幸いです。

===

脱字修正。

誤字もあった……修正済み。

リアクションもありがとうございます!☺かわいいですね。

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