表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊の唄  作者: 猫島けい
第二章
15/16

『思考』

ジャンル:ホラー / ダークファンタジー / サスペンス

・本作には暴力的描写や流血表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

・宗教・神格・悪魔などを題材にしています。信条により不快に感じる可能性があります。

・心理描写や恐怖描写が強めです。ホラー表現に抵抗がある方は閲覧をお控えください。

 朝日が差す中、山を降りて、カイは鍛冶場へと戻る。

 しん、と静まり返った――自分に残された居場所。

 「ただいま」と言っても、返ってくる言葉はない。

 ……慣れなければならないのに、慣れたくないと思っている。

 

 ぱち、ぱち、と炉が爆ぜる音を聞きながら、持ち帰られるだけ持ち帰った悪魔の遺骸を奥の空間に広げた。

 泥や土にすっかり塗れているから、材料にする前に一旦綺麗にしなければならないだろう。――ああ、その前にぼろぼろの装飾品らしきものも、なにか利用できないだろうか、とも考える。

 

 結局のところ、自分は鍛冶師の息子でしかないのだと、こういう時に実感する。

 華々しい騎士にも、猛々しい戦士にもなれない。

 ただ、なにかを素材に作ることしかできない職工のひとり――というのも、もはやおこがましいのだが。

 

 この『悪魔の遺骸』を使って、抗う力を手に入れる。

 ――そのために自分ができる事は、この骨を元に、俺の力となる武器を鍛えることだけだ。


「……っていっても、なにを作るか……」

 力を象徴する武器――といえば、剣が筆頭に挙げられる。

 ――が、いきなり片手剣だとか両手剣を試作するというのも、失敗したときに中々痛い。

「だとしたら……。――まずは、ナイフくらいから……ナイフ、ナイフか」

 否応なしに、初めてナイフを作ったことを思い出し――目の奥が昏くなる。

 ……ああでも自分の力の象徴としては、ちょうどいいかもしれない。


 骨を砕いて磨り潰すことに、なにも感じない。

 かつて『命』だった『もの』を、力のために利用しているというのに。

 鋼鉄を熱し、叩いて、伸ばして、叩いて――磨り潰した骨を混ぜて――さらに叩く。


 ――相手の命を奪えるように。

 ――より鋭利に。

 ――どこまでも鋭くあれ。


 願いながら、一回一回、槌を振り下ろす。

 異物が混ぜ込まれた金属は、いつもと叩き心地が違った。

 

 このナイフで、カナエをどう取り戻そうか。

 まずは、あの神官の命を奪うことから? いや、子供ひとりが神官ひとりをどうこうしたところで、大神殿に連れていかれた『カナエ』を取り返すことなんて無理だ。

 もし――近衛聖騎士の武器に使われていたら? ……小さなナイフで近衛聖騎士の武器が壊せるのだろうか?


 疑念と思考を巡らせながらも、槌を握った腕をまっすぐ振り落とし続ける。

 何度も、何度も、何度も。――行き場のない感情を、ぶつけるように。

 

「――あれ? なんでだ……?」


 ふと、違和感に気付く。

 まったく『鋭く』ならない。それどころか――酷く歪で――誰も殺せないほどの鈍ら。

 どれだけ鋭利な刃物を望んで、叩いても叩いても、俺が望んだ形にならない。


 出来上がったナイフは、ナイフとしての形を成していない。

 とんだ失敗作を生み出してしまった、と自分自身の未熟さに思わず呻いた。

 「……まあ、一番最初の試作、だしなぁ……」

 刃を作ろうとしても刃とならなかった、ただの金属の塊を手元で弄る。

 

 直後――ぴり、と皮膚に痺れるような痛みが走った。

 なんだ、と掌を見ると、一直線に赤い切り傷ができあがっていた。まさか、この鈍らで手が切れたのか? と我が目を疑うが、今のところ原因はこれしかない。


「刃が潰れてるのに、切れる。……この見た目で刃物として成立している……?」

 そうっと指先で金属の塊を摘まみながら、試しにその辺に転がしていた布を撫でてみる。

 

 ――すぱり、となんの抵抗もなく切れた。

 

 嘘だろ、と驚愕の声が思わず零れる。

 本当にこの見た目で、鋭利なナイフになっている事実を目の当たりにしてしまった。 

 これは一体どういうことなのだろうか。考えられるとしたら、混ぜ込んだ『遺骸』くらいしか原因がない。

 ――じゃあ、この遺骸がもたらした効果は、なんなんだ?


「……わからないなら、何度も繰り返して、試していくしかないか」

 

 なんの手がかりもないのだから、試すしかない。

 馬鹿みたいに愚直に重ねていくことしか――俺にはもう、選択肢がないんだ。


 ◆


 金属の塊なのに、鋭利に切れるナイフ。

 ナイフの形をしているのに、何も切れない鈍ら。

 重そうな見た目に反して、木のように軽い槌。

 逆に軽そうなのに、地面が凹むほど重い小さな金属片。


 どれもこれも、見た目と中身がちぐはぐだ。

 辺りが真っ暗になるまで試行錯誤を続けていれば、カイの周りにはガラクタじみたものがいくつも転がっていた。


 ガラクタたちから導き出せる共通点を、カイは探る。

 ぱち、ぱち、と火が爆ぜる炉の前で思考を巡らせていると、顎先からぽたりと汗が落ちていった。


「……ちぐはぐ……、見た目と中身……。……まさか――俺の感情が、影響している?」


 ――なによりも、鋭くあれと願った。

 ――きっと、これも切れないと思った。

 ――槌が、もっと軽ければ楽なのにと願った。

 ――材料が、もっと少なく済めばいいのにと思った。


 点と点が、繋がっていく感覚。

 身体はひどく熱いのに、妙に頭が冷えていく心地だ。


「――信じたものが、……真実とは、限らない……」

 はは、と笑いが零れた。

 ――父さんが布に残していた遺言。

 見逃してしまいそうなほどに端に小さく書かれていた、その意味を……今、ようやく理解できた気がする。


 そうだ。嘘、偽り――欺瞞の力。

 この遺骸はきっと――『欺瞞の悪魔』のものに違いない。


「ああ……、それなら……『釘』と『槌』を作ろう」

 俺は、俺が刻みつけたいものを、対象に打ち込める力を求める。

 それなら、相手が『人』でも『物』でも――『信仰』そのものでも、太刀打ちできる可能性が生まれるんじゃないか。


 ――だったら、槌は墓にある石を使いたい。

 もし礎石があるのなら、それが一番いい。感情を刻みつける槌に相応しい『素材』だ。

 作るときには、感情を一つに集中させる必要がある。だから、これも何度か練習を重ねないといけない。

 ああ、それならまた今夜も山に行かないといけないな、と次から次へとやるべきことが湧いて出てくる。


 やることが沢山あるのは良い。余計なことを考えずに済む。

 カイは、慣れたようにガラクタを片付けて――いつものように黒い外套を羽織った。


「――さ、今夜も励むとしますか。今夜はきっと、大仕事になる」



〈続く〉


いつも閲覧・リアクション・感想ありがとうございます。

今回は、現在軸のカイのスタイルが決まった回となります。

かくしてカイは、この遺骸は『欺瞞の悪魔』であると認識しました。

実際はどうかは兎も角として、認識・定義って大事ですよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なるほど〜! そういうことね! となっています 楽しみながら執筆活動頑張ってください! 続き楽しみにしています
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ