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壊の唄  作者: 猫島けい
第二章
14/15

『誕生』

ジャンル:ホラー / ダークファンタジー / サスペンス

・本作には暴力的描写や流血表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

・宗教・神格・悪魔などを題材にしています。信条により不快に感じる可能性があります。

・心理描写や恐怖描写が強めです。ホラー表現に抵抗がある方は閲覧をお控えください。

 ざく、ざく、と落ち葉を踏みしめる音。

 木漏れ日と、濡れた草木の匂い。

 カイはひとりで、山を登っている。


 ――あれから結局、父さんの自死はすぐに近所で騒ぎになった。

 騒ぎを聞きつけてか、神官たちも早々に訪れて――


(……カナエも、連れていかれた)


 爪の痕が付くほど、拳をきつく握りしめる。

 カナエだけじゃない。他の白い結晶――かつて人だったものも全て持っていかれてしまった。

 今の俺が聖騎士の武器を鍛えられるとは、到底思えなかったらしい。


 権力を前に、なにも持っていない子供にできることなんてない。

 そもそも――もう、聖騎士の武器を作りたいなんて言えなくなってしまった。

 無知な子供のままであれば、どれだけ幸せだっただろう。でも、知ってしまった。知ったからには、もう――戻れない。


 父さんが遺してくれたものは、本当にシンプルだ。

 鍛冶場に、家、これまでの蓄えと――遺言が書かれた布きれ一枚。

 遺言と言っても、子供の俺でも読めるくらいに簡単な文字しか使われていない。それも、これまで見てきた注文書に使われているものばかり。

 

 短い謝罪。それから、この山の話。

 あとは――

「――自由に生きろ、って言われてもなぁ……」

 父さんらしい言葉だと思う。

 真っ当に鍛冶師となる前の段階だからこそ、他の生き方もあるのだと。


「父さんには悪いけど、……やらなきゃいけないことが、できたからさ」


 ――取り戻すと、決めた。

 あらゆる理不尽から、権力から、カナエを取り戻して――壊す。

 母さんの行方は分からない。だから、せめてカナエだけは。

 妹を――誰にも、何にも利用させてなるものか。


 だから、力が必要だ。

 ただの子供が、世界に傷を残すための力。

 ――ルシエルに、依存しない力が欲しい。

 

 その一心で、カイは獣道を掻き分けながら、山の深くを目指す。

 黒い瞳には、ちらちらと青い炎が燃えていた。


 ◆


「――見つけた」

 太陽の光が届かない、鬱蒼とした場所にカイは辿り着いた。

 うち棄てられた廃墟の残骸じみたものが、数多の植物に吞み込まれている異様な光景。

 

 これが、墓だなんて誰が信じるだろう。

 ――それも、悪魔の墓だなんて。


「この山が、墓のための場所だったなんて――父さんの遺言じゃなきゃ、俺だって信じなかっただろうけどさ」

 

 でも、今は『これ』しか縋れるものがない。 

 遥か昔に、神に殺された『悪魔』の遺骸。とんだ厄ネタだなんて、子供の俺にだって分かることだ。

 けれど、力が手に入るのなら、俺の身体だって魂だってなんだって差し出してみせる。俺自身が――道具になったって構いやしない。


 どんな悪魔なのかはわからない。どんな力となるかもわからない。

 そもそも――使えるかどうかすらも、わからない。

 ――それに、今から俺がやろうとしていることは、きっと赦されないことだ。


 ――俺は、ここの墓から『悪魔の遺骸』を掘り起こす。

 その遺骸で、俺の、俺だけの力を得る。

 代償はなんだって払ってやる。目的が果たせるのなら、魂だって差し出してやる。だから、だから――


 カイは、一心不乱にその場を掘り始める。

 どれだけ泥だらけになろうとも、気にする必要なんてない。俺を止める人間なんて、もうどこにもいないんだ。


 犬みたいに這いつくばって、落ち葉を、枝を掻き分けて、鋭利な石や棘で肌が傷だらけになろうとも――カイは、決して手を止めない。


 ◆

 

 ――そんな日が、何日続いただろう。

 最初の内は記録を付けようとしたけど、面倒になってやめてしまった。


 ……ああ、変わったことが一つある。

 墓荒らしの時間だ。人目を避けるようにしていけば――自然と、夜半過ぎから明け方に掛けての作業になってしまっていた。


 そこから、父さんを真似るように、炉の火を守る。

 何が使えるか分からないから、この火を殺すわけにはいかない。

 そんな俺を見て、近所の人たちは痛ましいものを見るような視線を向けてくるけれど、それを気を留める余裕なんてない。


 父さんを真似るように、金属を熱して、叩いて、形を作っていく。

 カン、カン、と澄んだ音が響いて、炉の熱が肌を伝わり、汗が零れていく。

 ――この時だけが、すべてを忘れられた。

 ――この時だけが、俺が俺でいられる気がした。


 たとえ目の下に色濃く隅が染みついてしまっていても、頬が日に日にこけてしまっていたとしても、槌を振るっているこの瞬間だけ――鍛冶師ケンの息子のカイでいられる。


 そうして日中を鍛冶場で過ごしていれば、あっという間に夜が訪れる。

 自然と『夜の鍛冶場』を避けるように、カイは真っ黒な外套を羽織り、山へと踏み入っていく。

 

「――さ、今夜も励むとしますか」

 ここも、随分と様変わりした気がする。あちこち掘り起こして、ひっくり返して、また掘り起こしての繰り返しをしていればさもありなん。


 ここまで掘り続けて、まだ悪魔の遺骸は見つからない。

 本当にここに埋まっているのだろうか。

 ――そう、疑いを持ったこともある。

 だが、それでも、今のカイには『これ』しかないのだ。

 ただ愚直に、一心不乱に、墓を暴き続けることしかできない。


 ――かつん。

 なにかが、指に触れた。


 目を思わず見開いて、カイはその硬い感触を求めるように掘り進める。

 掘って、掘って、掘り進めて。

 泥まみれになって――


「――――これ、だ」


 ぼろぼろの大きな骨。錆びついた装飾品。

 ヒトではない、奇妙にねじ曲がった形の角は――まさしく『悪魔』の姿。


 

 はは、と笑みが零れた。


 

 なにが可笑しかったのか、わからない。

 悪魔の遺骸が本当にあったことに? ――いや、違う。

 これで力を得られるかもしれないこと? ――まだ確実じゃあないだろう。

 わからない――けれど、笑いが止まらない。……止められなかった。


 慟哭じみた笑い声が、ただ闇夜に響く。

 ――少年が死に。一人の悪魔が、ここに誕生した瞬間だった。

 


〈続く〉

>>>あとがきはあとでかく!!!!<<<

って毎度下書き時に書いています、猫島けいです。

いつも閲覧、リアクション、感想ありがとうございます。誰かがカイの生きざまをこうして見てくれていることが、とても嬉しいです。

引き続き、お付き合い頂けたら嬉しく思います。

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― 新着の感想 ―
最後の〆の一文がかっこいいです 父親が悪魔の墓をなぜ知っていたのか気になりますね…! 続き楽しみにしてます
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