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壊の唄  作者: 猫島けい
第二章
11/13

『憧憬』

ジャンル:ホラー / ダークファンタジー / サスペンス

・本作には暴力的描写や流血表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

・宗教・神格・悪魔などを題材にしています。信条により不快に感じる可能性があります。

・心理描写や恐怖描写が強めです。ホラー表現に抵抗がある方は閲覧をお控えください。

 初めてのナイフ作りは、自分自身が想像していた以上に苦労をしたことを――今でも鮮明に覚えている。

 

 焦るな。向き合え。集中しろ。

 小さなナイフ一つを作るにも、父さんは生真面目すぎるほどに付き合ってくれた。

 槌で叩いて伸ばすときも、形作るときも。

 いつだって「初めてだから」「子供が作るものだから」と妥協せずに、自分に向き合ってくれたことが――どれだけ嬉しかったか。きっと父さんは知らないのだろう。


 これまでの人生で、鍛冶という仕事に丁寧に向き合ってきたからこそ、父さんはその技術を惜しみなく俺に教えてくれる。

 だからこそ俺も真剣に向き合って、ナイフ作りに没頭できた。


「――まだ、その面に歪みがあるな」

「えっ、……あ、ほんとだ。じゃあ――ここを叩いて……あっ、叩き過ぎた……」

「大丈夫だ。焦らなくていい。――ほら、こっちから少しずつやってみろ」


 カン、――カン、カン、と、父親のものより幾分不規則な音が、今日も鍛冶場に響く。

 汗が噴き出るほどの炉の熱さ。金属から弾ける火花に、握る鉄槌の重さ。

 始めこそ、全身が筋肉痛になるほどだったが、ナイフの形が見え始めた頃にはどれも日常の要素になっていた。


 この掌に収まってしまうほどのナイフより、何倍も大きな剣を父親は作っている。

 それも、この街を守ってくれる聖騎士が振るう、とっても綺麗でかっこいい剣を。


「いつか、俺も父さんみたいに聖騎士さまの剣を作りたいな」

「――そうか。カイなら、きっと父さんよりもすごいものを作れるだろう」

「父さんよりもって、できるかなぁ? 父さんの剣って本当にきれいですごいもん!」


 身振り手振り――を越えて、全身で父の剣がどれほどすごいのかを主張すると、父は目を細めて笑う。

 大きな手で自分の頭をすっぽり覆うように、わしゃわしゃと撫でてくれることが嬉しくて、カイは思わずくしゃりと釣られて笑った。

 

「はは、それは褒めすぎだ。ああでも――近衛聖騎士さまの剣をこの手で鍛えられたら、自慢の父さんだぞって胸を張れるかもしれん」

「聖騎士さまと近衛聖騎士さまの剣って違うの?」

「そりゃあなぁ。四人しかいない近衛聖騎士さまの専用の剣ともなれば、混ぜる結晶の質も段違いだろうさ。――ほら、これがいつも俺が使っているものだ」


 そう言って、父は薄白い結晶を手に取って見せてくれる。

 父の掌に収まる程度の大きさのそれは、つい魅入ってしまうほどに綺麗だ。

 これよりも良いものがあるなんて、カイには信じられなかった。


「質が良ければ良いほど、透明になるらしい。神殿から俺のところまで卸されるのは、これくらいの色ばかりだけどな。透明に近いほど、剣に宿るルシエル様の恩寵はより強くなる――って、父さんの父さん……カイの爺ちゃんが言ってたぞ」

「へぇ~……じゃあさ、じゃあさ、父さんが近衛聖騎士さまの武器作ることになったら、俺も傍で見ててもいい?」

「ははは、いつになるかは分からんがな。ああ、そうだな……カイも随分逞しくなったことだし、俺の助手も任せていいと思っている」


 父の一言に、カイの両目には喜色が満ちる。

 世界がきらきら光って、喜びが胸いっぱいに広がって、その場で何度も飛び跳ねたいほどの嬉しさが全身に駆け巡った。

 そんな息子の様子を見てか、父は再度カイの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。


「――そのためにも、初めてのナイフ作りはしっかりやらないとな」

「あっ、そうだった! もっと綺麗な形にするぞ……!」


 ◆


 ――それから、しばらくして。

 カイは小さなナイフに合う、革のケースを懸命に縫い上げた。

 「せっかくなら最後までこだわりたい」と親子揃っての職人気質を発揮してのことだ。

 分厚い革を針で一針ずつ縫うことにも苦労して、カイの指先にはいくつも穴が開いてしまった。

 けれど、完成した今となっては、それも勲章のように思えた。


「……できた!」

 初めて一から作り上げた、自分の作品。

 掌にすっぽり収まってしまうくらい小さなナイフだけど、それでもぴかぴかに磨き上げたそれは――唯一無二の宝石みたいに光って見えた。


 カイの目は爛々と輝いて、頬も真っ赤に紅潮している。

 父親はそんな息子の晴れ姿を、腕を組んで見守っていた。


「それで、そのナイフは自分で使うのか?」

「ううん、違うよ。これはね、プレゼントにするんだ! ――あ、母さん、カナエ!」

「カイ、完成したのね。……あ、なら今夜はご馳走にしないとだわ」

「にいさん、すごい! わたしにもみせて!」


 ご馳走と聞いてカイは途端に「肉が食べられる!」と跳ねる。

 ――が、本来の目的を思い出して「カナエ、ちょっと待っててな」と、わざとらしく咳払いをした。

 少し滲んでいた掌の汗を服で雑に拭いてから、革のケースに包まれたそれを母に差し出す。

 

「母さん、これ――プレゼント」

「――あら。あらあら、まあまあ。いいの? カイが初めて作った大切なものでしょう?」

「うん、だから初めて作ったものは、……その、母さんにあげたかったんだ。いつも、ありがとうって……」


 母親は差し出された小さなナイフを、両手で包むように受け取ってくれた。

 柔らかな手でケースから取り出されたそれは、太陽の光を受けてぴかぴかと光る。

 慈しむ眼差しと手付きに、カイの胸はなんだかむず痒いような心地でいっぱいになる。


「とっても綺麗ね。――ありがとう。大事にするわ」

「う、うん。……受け取ってくれて、ありがとう」

「……おかあさんズルい。わたしも、にいさんがつくったのほしい!」


 その光景を素直に待っていたカナエは、羨ましくなったのだろう。

 自分たちの服を引っ張りながら、「わたしもほしい!」と珍しく駄々を捏ねる。

 そんなに欲しがると思っていなかったカイは、少し面食らいながらも、カナエの頭をくしゃくしゃと掻き混ぜてやった。

  

「カナエには、まだナイフは危ないだろ? ちゃんと別の作るから待っててよ」

「ほんと? ほんとにほんと? ウソついたらダメだからね?」

「ああ、約束だ。カナエには何がいいかな」

「うーんとねぇ、……うーん……、あ、ピカピカのペンダントがいい! ずっとつける!」


 かけがえのない家族との時間。

 きっとこれからも、この時間が続くのだと信じて疑わなかった。


「――ご歓談中に失礼。神殿から『ユウ』さんをお迎えに上がりました。さあ、神の御許へ参りましょう」



〈続く〉

いつも閲覧、リアクション、感想ありがとうございます!

二日に一回のペースと言ったがあれは嘘だを地で言ってしまっていますね……。書くのが楽しいから仕方ない。

『神の御許』へ行く事は一体何を意味するのか。――次回乞うご期待!!

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「神の御許」に行くって何ですか不穏……! いつも語彙力ではなく勢いがある感想ばかりですみません 主人公達家族に何が起きるのか、続きが気になります 執筆活動、楽しんでください!
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