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壊の唄  作者: 猫島けい
第二章
10/16

『追憶』

ジャンル:ホラー / ダークファンタジー / サスペンス

・本作には暴力的描写や流血表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

・宗教・神格・悪魔などを題材にしています。信条により不快に感じる可能性があります。

・心理描写や恐怖描写が強めです。ホラー表現に抵抗がある方は閲覧をお控えください。

 ――カン、カン、と父さんが鋼を打つきれいな音が聞こえる。

 妹が、「にいさん、あさだよ」と自分を呼ぶ声がする。

 窓から差し込む光が眩しくて毛布に潜り込み、その心地よさに思わず目を閉じた。


「もう、にいさんってば! おかあさんが、パンやけたっていってるよ」

 小さな妹は、そんな自分を毛布の上からゆさゆさと揺さぶって起こそうとする。

 そんな遣り取りが楽しくて――ついつい籠城戦を続けてしまう。


「にいさんってば、おきてるのわかってるんだよ! ――えいっ!」

 ずしんっ、と毛布が大きく揺れて、身体に相応の衝撃が走る。

「――ッぐえ、」

「ほぉら、おきてた!」

「……カナエ……これ、起きてたっていうか、むりやり起こされたヤツ……」

 げほ、と咳き込みながら毛布から顔を出すと、そこには得意満面の妹の姿があった。


「にいさんが好きなパン、おかあさんが、いーっぱいやいてくれたんだよ! はやくいかないと、さめちゃう!」

「はいはい、分かったよ。……にしたって、もうちょっと優しく起こしてくれてもいいんじゃないか」

「すぐにおきない、にいさんがわるい」


 すっぱりと――それこそ父親が鍛えた剣のごとく。

 これではどちらが上なのか分からないほど、妹――カナエはしっかりした子だった。


 二人揃って階段を降りると、小麦が香ばしく焼けた良い匂いが鼻をくすぐる。

 ――途端、思い出したかのように、ぐぎゅるるると自分の腹が盛大に空腹を訴えてきた。


「ふふ、カイったら。お腹の音がこっちまで聞こえてきたわよ」

「うぅ……こんないい匂いがしたら当たり前だろ。……おはよう、母さん」

「はい、おはよう。水を汲んであるから、早く顔を拭いていらっしゃい」

「はーい」


 言われたとおり、朝の支度を済ませに向かう。

 その通り道から見える父親の姿が、カイは好きだった。

 実直に、迷いなく鉄を鍛え続ける、大きく頼もしい背中。

 いつか見た父の腕から生み出された聖騎士の剣は、きらきら輝いていて――いつか自分もあんな剣を作ってみたいと憧れたんだ。


 ◆


 母親が焼いた黒パンと、塩漬け肉。それから――あんまり好きではないけど、具沢山の野菜スープをぺろっと食べ終わったカイの居場所は、もっぱら父がいる鍛冶場だ。

 

「お兄ちゃんは、本当に野菜が苦手なのねぇ」

「ねー。カナエは、おかあさんのスープ、だいすきだよ!」

 なんて、母さんとカナエの会話が後ろから聞こえるけど気にしない。

 だって、母さんが焼くパンと塩漬け肉の組み合わせが好きなだけだし。


 ――カン、カン、と澄んだ音と、鉄の匂い。

 立ち入った瞬間に感じるむわっと広がる炉の熱気に、カイは自然と高揚していく。

 奥に見える、汗を掻きながら槌を振るう父親の背中に、口元は自然とほころんだ。

 

 忙しなく炉の面倒を見て、鋼を鍛え、刃を研ぐ父親は、今日も最高にカッコいい。

 そんな父親の真似をするようになったのは、いつの頃からだっただろうか。


 最初は、木の槌と木の板でままごとをさせてもらった。

 父さんの動きを真似して、叩いたり、じーっと見つめてみたりして。

 そんな自分を見る父さんと母さんの優しい眼差しを――今でも確かに覚えている。

 

 その次の記憶は、小さな金属片をやすり掛けさせてもらったこと。

 鈍い色の金属が、磨き込むたびにぴかぴかに光っていくのが、とても楽しかった。

 ――今では、ちょっとしたナイフの研ぎや金物の修理も、任せてもらえるようになった。ひとつずつ、ちょっとずつ、できることが増えるたびに誇らしかったんだ。


「――カイ」

「どうしたの、父さん」


 父さんが作業の手を止めて、自分に話しかけるのは珍しい。

 思わずきょとんと目を丸くして、研いでいたナイフへ落としていた視線を上げる。

 父親の表情は、なにかを決意したような。あるいは、期待するような。

 あまり見慣れない表情に、カイは落ち着かなさげに手元のナイフを弄る。


「そろそろ、作ってみるか」

「……? なにを?」

「まずは、小さなナイフあたりから作ってみるか?」


 その言葉に、カイの両の目は零れ落ちそうなほどに開かれる。

 ナイフを? 俺が? 作ってもいいって言ってる?

 それって、父さんみたいに炉の前に立ってもいいってこと?


 カイは両手をぎゅうっと握り、ぷるぷると震える。

 なにかを耐えるような仕草に、父――ケンは「まだ早かっただろうか」と心配げな視線を向けていた。


「や――」

「や……?」

「やったー!! ぜったい! 絶対だからね!? 俺、作りたいものいっぱいあるんだ!」

「わ、分かったから、一旦落ち着け。なにを作るかは、今日から父さんとちゃんと相談して決めような?」


 ぴょんぴょんとその場を跳ねまわるカイと、宥める父親の姿。

 それを眺める優しい母親と、自分を慕ってくれる妹。

 

 ――これが、俺の日常だった。

 なつかしくて、いとおしい――大事な思い出だ。


 

〈続く〉

いつも閲覧&リアクション、感想ありがとうございます。

という事で、今回よりカイの過去編スタートです。

彼がいかにして復讐を決意したのか。その過程を丁寧に書いていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
幸せに書かれれば書かれるほど後が⋯⋯。どきどきしながら待機しています。
優しくてあたたかい主人公と家族の様子にほっこりしつつ、これから先描かれることを思うと切ないです… 続き楽しみにしています!
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