第5話:対極の劫火
神城グループ本社ビル。その最上階にある特別応接室で、一人の男が「火」を弄んでいた。
男の名は、神城 黎。若くしてグループの裏仕事を統括する、冷酷な支配者だ。
「……面白い。僕の集めた『データ』を概念ごと焼き消す奴がいるなんてね」
彼の指先で踊るのは、滅の青い炎とは対照的な、悍ましいほどにドス黒い**「紅蓮の火」**。
滅が「無(消去)」を司る火なら、神城の火は「執着(変質)」を司る火だった。彼はこの火を使い、人の精神を焼き、自分に都合の良い「傀儡」へと書き換えてきたのだ。
「『滅』か……。掃除屋にしては生意気だ。世界を書き換える権利は、選ばれたこの僕にあるというのに」
唯一の「物証」
同じ頃、佐藤刑事は『火種』のラボで、ある一点を見つめていた。
それは、消滅したゼノンのマンションに残されていた、たった一つの**「燃えかす」**。
「佐藤さん、これ……やはり異常です」
分析官が震える手で顕微鏡のモニターを指す。
「物質的には炭化したプラスチックですが、分子構造が一定のパターンで整列しています。まるで……**『文字』**のように」
佐藤が目を凝らすと、そこには微細な配列で、ある古い住所が刻まれていた。
滅が消し去る際に、無意識に、あるいは何らかの意図で残した「記憶の断片」。それは、20年前に焼失したはずのある孤児院の跡地を指していた。
「……見つけたぞ。お前が『人間』だった頃の尻尾をな」
佐藤は拳を握りしめた。だが、その背後には、警察内部に潜り込んでいる神城の息がかかった捜査官の影があった。
少女の囁き
孤児院の跡地――崩れた瓦礫の上に、滅は立っていた。
そこに、再びあの少女が現れる。
「おじさん。あっちの火が、おじさんを呼んでるよ。赤くて、ドロドロした、欲しがりの火」
「……答えろ。貴様は何者だ。なぜ過去を揺り起こす」
滅が青い炎を揺らめかせると、少女はふわりと宙に浮き、彼の耳元で囁いた。
「私はね、『書き損じ』。消しゴムのおじさんが消し忘れた、悲しい記憶のカス。おじさんが神城を消せば、私も消える。おじさんが負ければ、世界は神城の赤に染まる」
少女は味方ではない。滅が力を振るうことで生じた、世界のバグのような存在だった。彼女の目的は、ただ「結末」を見届けること。
「さあ、行って。警察もおじさんを狙ってる。赤い火も、おじさんを食べようとしてる」
激突の幕開け
その瞬間、跡地を数十基のサーチライトが照らし出した。
「警視庁だ! 抵抗はやめろ!」
佐藤率いる対策班が包囲する。だが、それと同時に、上空から巨大な「紅蓮の火球」が降り注いだ。
「――あはは! 警察なんて邪魔だよ。僕と君で、どっちの火が強いか決めようじゃないか!」
ヘリから飛び降りる神城 黎。
警察の重武装、神城の紅蓮、そして滅の蒼炎。
三つ巴の死闘が、静寂の跡地で爆発する。




