表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第4話:観測者と追跡者


 警視庁庁舎の一室。そこは、普段の喧騒とは無縁の「非公開捜査室」だった。

 佐藤刑事は、真っ白なモニターを指差したまま、並み居る専門家たちを睨みつけていた。

「……もう一度言ってみろ。データが『消えた』んじゃないだと?」

 解析官は額の汗を拭いながら、震える声で答えた。

「はい。消去された形跡も、上書きされたログもありません。……最初から、ゼノンという男のSNSアカウントも、銀行口座も、この世界には『存在していなかった』ことになっています。物理的なハードウェアが消失しているわけではないのに、その中身(情報)だけが、概念ごと蒸発しているんです」

 佐藤は、かつてない戦慄を覚えた。

 いじめっ子たちの顔を焼いたのは、物理的な攻撃かもしれない。だが、デジタルデータの存在そのものを抹消するなど、人間、いや、国家にすら不可能な芸当だ。

「これはもはや、傷害事件でもテロでもない。……世界のルールを書き換える『何か』だ」

 佐藤の独断で、警視庁内に『対・特別事象対策班(通称:火種)』が発足した。

 彼らは、科学では説明のつかない「滅」の正体を、超常的な視点から追い始める。

唯一、彼を見る者

 一方、月明かりも届かない深夜の跨線橋。

 滅は、眼下を走る深夜貨物列車の音を聞きながら、自身の右手に刻まれた痣を見つめていた。

 罪を滅するたび、その痣は少しずつ心臓へと伸びている。それは、この力を使い果たす時、自分自身も「滅」するという宣告だった。

「……また、少し熱が上がったな」

 その時。

 背後で、小さな靴音が響いた。

 滅の全身に緊張が走る。彼の「感知」を潜り抜け、ここまで接近できる人間など、この世にいるはずがなかった。

 

「……おじさん、また寂しい火の使い方をしてるんだね」

 鈴を転がすような、幼い声。

 滅が振り返ると、そこには白いワンピースを着た少女が立っていた。

 年の頃は十歳前後。夜の闇の中でも、彼女の瞳だけは透き通った琥珀色に輝いている。

「貴様……なぜここにいる。俺が見えるのか」

 滅の問いに、少女は無邪気な笑みを浮かべて一歩近づいた。

「見えるよ。だっておじさんは、この世界の『消しゴム』でしょ? でも気をつけて。消しすぎると、紙そのものが破けちゃうよ」

 少女は滅の黒いコートの裾を指先でつまんだ。その瞬間、滅の右手の痣が、呼応するように激しく拍動した。

「誰だ、お前は」

「私は、ただの『予報』。……おじさんが次に滅ぼすものが、おじさん自身の手に負えないものだって教えに来たの」

 少女が指差した先。

 そこは、街の権力を一手に握る大企業『神城グループ』のビルだった。

「あそこにね、おじさんと同じ『火』を持った、でもおじさんとは違う『罪』を飼っている人がいるよ」

 滅が再び問い詰めようとした瞬間、突風が跨線橋を吹き抜けた。

 風が止んだとき、少女の姿はどこにもなかった。

 ただ、彼女が触れたコートの裾だけが、冷たい夜風の中で不自然に凍りついたように白くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ