第2話 見えない火種
少年たちが発見された路地裏は、早朝から異様な熱気に包まれていた。
黄色い規制線の内側で、ベテラン刑事の佐藤は、現場の惨状を前に眉間に深い皺を刻んでいた。
「……鑑識の結果はどうだ」
「信じられません。被害者4名、全員が顔面のみに三度熱傷を負っています。ですが、着衣や髪、周囲の燃えやすいゴミには一切引火した形跡がない。まるで、顔だけを狙い撃ちにした高出力のレーザーか何かで焼かれたようです」
部下の報告を聞きながら、佐藤は吐き捨てた。
「レーザーだと? そんな漫画みたいな話があるか。だが……この『焼け跡』、ただの火傷にしちゃ綺麗すぎる。まるで、最初からそこには何もなかったみたいに、顔の造作だけが消し飛んでやがる」
被害者たちは一命を取り留めたものの、ショック状態で意識不明。もし意識が戻ったとしても、彼らがかつてどんな表情で人を嘲笑っていたのかを知る術は、もう、ない。
拡散する狂乱
警察が情報を秘匿しようとする努力も虚しく、現場の様子は野次馬のスマホを通じて瞬く間に拡散された。
@news_justice
例のいじめ動画の主犯、顔が溶けたってマジ!? 現場写真見たけどエグすぎる……。
@anonymous_A
これ、最近噂の『滅』だろ。自業自得すぎて草も生えない。
@truth_seeker
警察は火事だって言ってるけど、顔以外無傷な火事なんてあるわけない。
悪だけを焼く火。これこそ俺たちが待ってた「本物の正義」だよ。
@user_1234
次は誰だ? まだあの動画、あと2人関わってたよな。震えて待てw
ネット掲示板やSNSでは、恐怖よりも「カタルシス」が勝っていた。
法が裁けなかった悪人が、人知を超えた力で無残な姿にされた。その事実は、鬱屈した大衆にとって最高のエンターテインメントだった。
ハッシュタグ #滅による断罪 がトレンドを独占する。
人々は救世主の降臨を確信し、次なる獲物を指名する「断罪リスト」までが作られ始めていた。
静かなる火種
熱狂する街の喧騒から離れた、古びたアパートの一室。
モニターの明かりが、静かに情報の海を漂う男の横顔を照らしていた。
画面に映し出されているのは、SNSで祭り上げられる自分への賛辞。
だが、男の瞳に喜びの色はない。
「……正義だと?」
男――滅は、短く独りごちた。
彼がしているのは救済ではない。ただの「清掃」だ。
この世に溜まった垢を、本来あるべき無へと帰すだけの作業。
その時、画面の端に一つのダイレクトメッセージが届く。
『次のお願いです、滅さん。この男を……殺してください』
滅はそのメッセージを、感情のない瞳で見つめた。
「……勘違いをするな。俺を動かすのは、お前たちの欲ではない」
滅が立ち上がると、部屋の温度がわずかに上昇した。
彼の次の目的地は、すでに決まっている。
それは、SNSで「次に焼かれる」と噂されている少年ではなく、その裏で糸を引き、この狂乱を金に変えようと画策している**「真の醜悪」**だった。




