最終話:永遠の残光
神城グループの拠点、天を突く『アーカイブ・タワー』の最上階。
そこでは、かつて滅が消し去った数千、数万の「罪」がデータとして統合され、一つの巨大な神にも似た異形――『アーカイブ・ゴッド』が産声を上げていた。
「無駄だ、滅。お前を覚えている人間はもうこの世にいない。観測されない存在は、この世界には存在しないも同然だ!」
神の口を借りて、神城の残留思念が嘲笑う。
滅の身体は、限界を超えた力の酷使により、足元から蒼い粒子となって崩れ始めていた。佐藤という唯一の「錨」を失い、滅自身もまた、この世界の理からこぼれ落ちようとしていたのだ。
「……ここまでか」
滅が瞳を閉じ、その存在が虚無に飲み込まれようとした、その時。
――ガシャン!!
タワーの非常扉が、乱暴に蹴破られた。
「おい、死神。勝手に一人で消えてんじゃねぇよ」
現れたのは、息を切らし、全身傷だらけの佐藤だった。
その瞳には、失われたはずの鋭い光が――執念という名の「業火」が宿っていた。
「……なぜだ。貴様は、俺を忘れたはず……」
「忘れたさ! 脳みその回路は全部焼き切れた! ……だがな、この『燃えかす』を握りしめた右手の痺れが、魂が、お前を覚えてやがったんだよ!」
佐藤が掲げた右手。そこには、ただのゴミに戻ったはずの「燃えかす」が、かつてないほどの激しい蒼炎を吹き出していた。
「理屈じゃねぇんだよ。『滅』を忘れられる訳ねぇだろ、この大馬鹿野郎が!!」
二人だけの聖域
佐藤が滅の肩に手を置いた。その瞬間、滅の崩れかけていた身体が、劇的な輝きを取り戻す。
佐藤の「執念」が、滅という存在を再びこの世界に繋ぎ止めた。
「佐藤、貴様の身体が……!」
佐藤の身体もまた、滅と同じ蒼い粒子に包まれ始めていた。
人間であることを捨て、忘却の理に自ら飛び込んだ証。佐藤は今、滅と同じ「世界から認識されない存在」へと昇華しようとしていた。
「ハッ、これで見合いっこだな。誰からも覚えられないなら、俺とお前で覚え合えばいい。……行くぞ、相棒!」
佐藤の指が、滅の蒼炎をその身に纏い、一本の巨大な「断罪の銃」へと変貌する。
滅が放つ「消去」の波動と、佐藤が放つ「執念」の弾丸。
二つの力が一つになり、神という名の偽りの記録を、根源から消滅させた。
結末:透明なバディ
崩落するタワー。
夜明けの光が差し込む中、そこには二人の男の姿があった。
街の人々は、自分たちを救った者たちが誰なのかを知らない。
佐藤の名前は警察の名簿から消え、彼の家も、記録も、すべてが「最初からなかったこと」になった。
だが、路地裏を歩く二人の影は、かつてないほどに力強かった。
「……後悔はないのか、佐藤。貴様ももう、誰の記憶にも残らんぞ」
滅の問いに、佐藤は新しく買った(もちろん、店主の記憶からは支払った事実さえ消えるのだが)煙草に火をつけ、ニヤリと笑った。
「悪くねぇよ。お前という特等席に、俺の名前が刻まれてるんだからな。それに……」
佐藤は、路地の暗がりに蠢く「新たな悪意」の気配を睨みつけた。
「俺たちが忘れてやらない限り、どんな悪人も逃げ果せねぇ。……だろ?」
滅は、初めて微かに口角を上げた。
「……ああ。行こう、佐藤」
街の雑踏の中へ、二人の影が溶けていく。
一人は、罪を滅ぼす蒼き死神。
一人は、決して忘れない執念の刑事。
世界が彼らを忘れても、彼らが世界を見捨てない限り。
永遠に続く忘却の戦いが、今、ここから始まる。
【完】
物語が最高に熱い形で結実しましたね!「記憶」を媒介にした二人の絆が、物理的な限界を超えてバディとなるラストは、まさに王道でありながら切なさと希望に満ちています。
これにて『滅:新章』完結となりますが、もしまた彼らの「次の任務」や「エピローグ」が読みたくなった時は、いつでもお声がけください。素晴らしい物語の旅をありがとうございました!




