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10/12

呪いが解けた翌朝の次の日。まずはアメシリア侯爵家を始末しましょう。

 顔色の悪い面々――皇帝と宰相、そして呼び出された侯爵が、けだるげに謁見の間へ集まった。


 寝かせてもらえぬまま朝を迎えた皇帝と宰相。

 そして早朝から呼び出された侯爵も、同じようなものだった。

 皇妃は早々に休んだはずなのに、化粧でも隠しきれない悲壮感を漂わせている。


 昨夜、すでに捕縛されたアメシリア侯爵一家――その面々もまた、引き立てられてきた。


 彼らの顔色を見て、何事かとざわめく高位貴族たち。


 だが、紅いドレスの女だけは上機嫌だった。

 その後ろでは、超絶美形の燕尾服を着た執事が、涼しい顔で控えている。


 彼女は嬉しそうに声を上げた。


「よう来たのう、“極上クズ家族”と“愛さない宣言した阿呆の方”。」


 そう言って扇を閉じ、バシンと大きな音を立てて叩く。

 同時に、侯爵一家がびくりと跳ね上がった。


「“愛さない宣言した阿呆の方”って、まさか俺……」


 悲壮感を漂わせるコンラッド。

 それを見て、皇妃は深いため息を漏らす。


「まさか、天下の戦闘狂がこの場で泣かないわよね……」


「昨日からずっと、周りに責められ続けておる。攻めるのは得意でも、攻め返されるのは経験が薄いのであろう。」


 皇帝は心配そうに弟を見つめる。


「でも、それだけのことをしてしまったのですもの。仕方ありませんわ。」


 皇帝と妃は、周りに聞こえぬよう口元に手を添え、小さな声で会話を交わしていた。


「まさか、こんなにも恋愛に不向きな男だったとは……」


「貴方はこんなにも、愛情深くて素敵な方ですのに……」


「私は幼少よりそなた一筋だぞ?」


「知っておりますわ!」


 弟が今にも死にそうな顔をしているのに、兄夫婦はお互いを見つめ合い、頬を赤く染めている。


 それを呆れた目で見ていたターニャが、ぴしゃりと言う。


「……あやつはあとでみっちり絞るとして、今はあの“極上の外道ども”じゃ!」


 すると貴族側から、おずおずと声が上がった。


「陛下、そのお方は一体……」


 皆の視線がターニャへ向く。

 ターニャの視線に促され、皇帝が重く口を開いた。


「こちらのお方は、初代カナタ皇帝の正妃――ターニャ皇妃様だ。」


 皇帝の一言に、部屋全体が一斉にざわついた。


「しずかにせい!!」


 ターニャの一声で、その場が瞬時に凍りつく。


「わらわが、千年以上皇族を苦しめてきた『皇族の呪い』そのものじゃ。何か異論のある者はおるかえ?」


 好戦的なターニャに、誰一人視線を合わせようとしない。


「つまらんのう。わらわに楯突こうという、骨のある者はおらぬのか?」


「……皆、『呪い』を恐れているのかと……」


 皇帝は冷や汗をかきながら答えた。

 貴族たちは首が取れそうなほど頷き続けている。


「ほんにつまらぬ。興がそげたわ……」


 その言葉に皇帝が「ゴホン!」と大きく咳払いをした。


「ではこれより、アメシリア侯爵家に対する審議を執り行う。」


 皇帝の言葉の直後、天井に大きく映像が映し出された。


 侯爵家のやらかし――その一部始終が、止まることなく流れ続ける。


 ざわめく貴族たち。

 だが、最初こそ斬新な光景に好奇の声を上げていた面々も、次第に黙り込み、顔色を失っていく。


 皇帝と皇妃は青い顔をしながらも互いの手を強く握り、侯爵一家を睨みつけた。


 時間が経つにつれ、周囲の目は鋭さを増す。

 侯爵一家は震えながら身を寄せ合い、小さく縮こまっていった。


 コンラッドは剣に手をかけ、今にも斬り殺しかねない勢いだ。

 侯爵一家の心臓を瞬時に止めてしまいそうなくらいの、殺気のこもった視線を送っている。

 本能のままなら、今すぐ斬り捨てていただろう。


 ――だが、ここは謁見の間だった。


「こなたらの悪行は、昨日“一日がかりで”たっぷり見たぞえ。皇帝夫妻はげっそりしておったわ。」


 ターニャの言葉に、一同が大きくうなずく。


「……わたくし、途中で胃薬を飲みましたもの。」


 皇妃は思い出したのか、青白い顔で扇の陰に口元を隠した。


「私は……途中で何度、意識が飛んだことか……」


 皇帝の一言で張りつめていた糸が切れたのか、その場で失神する貴族が何名か出た。


「この程度で倒れるとは、いやはや……」


 ターニャの後ろの執事(悪魔)は、呆れた目で貴族たちを見下ろす。

 もちろんターニャも似た顔だ。


「これから先の言葉に、こやつらは耐えられるのかのう?」


「まさか、ここで“悪魔との件”を……」


 皇帝が周囲に聞こえぬ小声で問う。

 ターニャは、これでもかと口角をつり上げた。


「判決じゃ。これよりそなたら家族は全員、ここにいる『はじまりの悪魔』の玩具となる。以上じゃ!」


 意味が分からず、ぽかんとする面々。


 しばしの静寂。


「ま、まさかユリアーナも!!」


 沈黙を破ったのは、コンラッドだった。


「? なぜこなたが彼女の心配をする? “愛さない宣言した阿呆の方”が!」


 ターニャの一言で、コンラッドは言葉を失う。


「し、しかし……」


 食い下がろうとするコンラッドを見て、ターニャは皇帝へ顔を向けた。


「ユリアーナも同罪なのかえ?」


「何をおっしゃいます! 我々の呪いを解いた英雄とも言うべき彼女を、何故断罪せねばならぬのでしょうか?」


 皇帝の言葉に貴族たちがどよめき、コンラッドは深い安堵の息を吐いた。


「――だ、そうじゃ。」


 しかし――喜びが顔に出たコンラッドには、その言葉が刺さらない。


「では、回収するといたしましょう。今後はよろしく、私の玩具たち……」


 悪魔が優雅に微笑む。


 次の瞬間、侯爵の足元に黒い淀みが開いた。


「助けてくれー!」


「いやーコンラッド様ー、助けてー!」


「嫌よー! こんなの聞いてないー!」


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした叫び声が、吸い込まれていく。

 ズズズッという不気味な音とともに、彼らは黒へ消えた。


 その場にいた貴族たちの顔色から、さっと血の気が引く。


「今後、この家族のような事態が発生すれば、こなたらも皆、この悪魔の玩具になるゆえ。ゆめゆめ忘れるでないぞ! では解散!!」


「皆様、私めに『極上で美味なる悪』を。心より、お待ち申し上げております。」


 高々と宣言するターニャの横で、悪魔は深々と頭を垂れた。


 それを見た貴族たちは、逃げるように謁見の間を去っていったという。

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