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「もし」シリーズ

定期人事異動

作者: 笛伊豆

サラリーマンの宿命です。

 ライル王国王宮の大広間。

 普段は舞踏会やパーティが開かれる広い部屋だ。

 着飾った紳士淑女が集ってこその豪華な会場には大勢の者がつめかけているものの、浮ついた雰囲気は微塵もない。

 それどころか緊張の高まりで気の弱い者なら気分が悪くなりそうな気配が漂っている。


 それもそのはず、つい先日この国の国王が退位されられたのである。

 正確に言えば宗主国であるタラン皇国皇王の名の下に国王の交代が告げられた。

 ライル王国は独立国家ではあるが、タランの完全な属国である。

 国王を初めとした貴族の進退すら皇国が決める。

 異議は一切認められない。

 万一命令に従わなかったらタランは平然とライル王国を潰すだろう。


 アレクト国王はタラン皇国からの命令に従って、粛々と王冠を返して去って行った。

 王政府の重臣たちも同様に爵位を返上したそうだ。

 これからどうなるのかはタラン皇王の胸先三寸だ。

 そして、本日ライル王国貴族の処遇が決まる。


「陛下……いや、前陛下はよくやっておられたと思うんだけどなあ」

「それでもタランが満足するほどの成果は上げられなかったんだろう」

「次の陛下はどなたになるのか」


 王国の重鎮の方々が深刻な表情で語り合っておられるが、私みたいな木っ端子爵家の跡取りでもない三女には関係ない。

 いや関係なくはないけど、少なくとも国の行く末なんかには関わらない。

 そもそも私は臨時のメイドとしてここにいるだけだ。

 身分がある者しか入れないため、私達子爵家以下の下位貴族家の者が雑用にかり出されている。


「お! いよいよ発表だぞ!」

「神様お願いします!」

「何とか、せめて横滑りで……」


 普段は落ち着いた態度で威厳ある行動をとる王国の重鎮の方々が祈るような姿勢で待ち受ける中、王宮執事の制服を着た若い男がスタスタと歩いてきて、あらかじめ用意してあった掲示板の前で止まった。

 抱えてきた荷物をいったん足下に置くと、丸い筒のようなものから巻いた紙を取り出して掲示板に貼っていく。

 そこには辞令が箇条書きで記されていた。

 まず最初は退任者の通知だった。


 アレクト・ライル  ライル国王の任を解く。



「何と! 会長職も相談役すらなしか」

「厳しいお沙汰だな」


 続いて人事異動の通知が張り出される。



 以下の者、次の役職を命ず。


 代表取締役国王   フレンス・ライル(ライル王国王子)



「おお!」

「ついにフレンス殿下が!」

「これはやはりタトル地方の飢饉を速やかに落ち着かせた功績が評価されたのか」



 取締役王妃     アレナ・ヒスタリス(ライル王国侯爵息女)



「何と! 次の王妃殿下はアレナ嬢か」

「まあ、学園では才媛という噂だしな」

「フレンス殿下とも交流があると聞いているから妥当か」



 取締役宰相     ホルト・デイカス(ライル王国伯爵)



「ホルト伯爵か」

「フレンス陛下のご友人だ」

「まあ宰相として適任ではあるな」



 執事が淡々と張っていく人事異動の通告を見て一喜一憂する重鎮の方々。

 そんな雲の上の話は私には関係ないので黙々とテーブルの拭き掃除などをしていたら友人のアトル男爵息女エリーが駆け寄ってきた。


「あっちの方で下位貴族の異動が張り出されているわよ!」

「そうなの!」


 雑巾を放り出して駆けつける。

 数人の執事が異動通知を貼っていた。

 ずらずら並んだ人の名前を辿っていくと、末尾の方に私の名前があった。



 バレル伯爵家三男婚約者  メリア・ホルト(ホルト子爵家息女)


 やった!

 バレル伯爵家三男のレイス様は近衛騎士団の騎士をされている有望株。

 将来は騎士団長まで行くのではないかと言われている。

 今まではユラグンス子爵家の嫡男サンドラス様の婚約者だったけど、正直言って子爵夫人って疲れる上に面倒くさいのよね。

 サンドラス様とはそれなりに交流していたけど、別に愛しているというわけでもなかったし。


「メリアやったじゃない!」

 友人のエリーが背中を叩いてきた。

 痛いけど許す。

「ありがとう。エリーは?」

「それがね」


 エリーが指さす先には人事異動通知があった。


 ユラグンス子爵家嫡男婚約者  エリザベス・アトル(アトル男爵家息女)


 何と横滑りだった。

 エリーの前婚約者は確かどこかの男爵家の嫡男だったからステップアップしたわけね。


「おめでとう!」

「ありがと。お互いに希望が通って良かったわね」


 そう、サンドラス様には内緒だったけど、ずっと異動願いを出していたのだ。

 がさつな私に子爵夫人なんかめんどかったし、そもそも私の好みは筋肉だし。

 エリーも一緒で、学園では成績優秀だったエリーはチンケな男爵領の差配なんか退屈だと漏らしていた。


「でもユグランス子爵領でいいの?」

「うん。頑張って発展させたら次の異動では伯爵領に行けるかもしれないでしょ? 夢が広がるわあ」


 うーん。

 私は騎士団長夫人でいいかな。

人事異動は運命です。

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