親友
「おはよう!」
親友、加藤双に向かって、挨拶をした。
俺、櫻井湊が芸能人、五十嵐翼の息子だということは世間に公表されていない。昨年、結婚していたことを発表した際に、俺のことも発表しようかという話になったのだが、父が反対したことによりその話は無しになった。俺を誹謗中傷に巻き込まないためだとか言っていたが、それが真実なのかは分からない。
……というわけで俺の身に何があったのか、クラスのみんなはともかく友達も知らない。
だからばれないように気をつけなければ、といつもより少し大きめの声を出してみた。少しおかしかったのか、双は首を傾げた。それから何かを思い出したように、にやりと笑いながらこちらを見た。
「あーお前昨日の手紙のことで悩んでるんだろ?俺はもちろん行くけどねー。」
昨日の手紙というのは生命委員会からの手紙のことだろう。やはり双のところにも来ていたようだ。
しかしそのことよりも、双がその勝負に参加すると言ったことの方が驚いた。
「双…参加するのか…?」
「うん。ちょっとやりたいことがあってね。」
動揺してたどたどしくなってしまった湊に、双はそっけなく答える。
やりたいことってやっぱり、、、
「誰かを生き返らせたいってこと?」
「………殺したいほど憎んでる奴がいるって言ったらどうする?」
真っ直ぐこちらを見ながらそう言った彼は、気がつけばどこかに消えていってしまいそうな、そんな淋しそうな顔をしていた。
初めてみる親友の顔に、胸が締め付けられるような思いだった。
キーンコーンカーンコーン
1時間目開始のチャイムが鳴った。
俺はとうとう声をかけてやることができなかった。
またあとでね、と双は自分の席に戻った。同じく席に戻った湊は、先程の会話にどうして何も返すことができなかったのだろう、と後悔の念に苛まれた。