別れ
俺、櫻井湊は芸能人の息子だ。父は有名だが母は一般人。母は看護師で、忙しく働きながらも優しい母のことが、湊は大好きだった。
そしてその父は昨日の夜、とんでもないニュースが報じられた。
【五十嵐翼、愛人とお泊まり!?】
五十嵐翼というのは芸名だが、確かに湊の父だった。何なら湊の母である櫻井芳との結婚を昨年発表したばかりだというのに。息子の俺でもこんなにショックなのだから、母である芳はもっとショックだろう。
父に一目惚れをされて付き合った母は当時はあまり売れていなかった父を養うため、看護師の仕事を次から次へと引き受け、看護部長まで登り詰めたのであった。父のために身を粉にしてまで働いてきたが、今回のことで、母の中の何かが崩れたのかもしれない。精神的ダメージを受けた母は自殺した。
そして今朝、死亡が確認された。
看護師に母の死を告げられた俺は頭が真っ白になって、どうしたらいいのか分からなかった。
かといって病院に長居するわけにもいかない。湊はなんとか力を振り絞って家に帰ることにした。
家のポストに2通の手紙が入っていた。1つは水道使用量のお知らせ、もう1つは生命委員会というところからだった。
そんなところあったっけ?
保険会社かなと思った湊だが、とりあえず封筒を開けてみることにした。
最近有名の如月株式会社の資金と科学技術の援助のため、人を生き返らせること。また、完全犯罪が可能だということ。
そして、そのどちらかの願いを叶える権利を高校生の中で1人、競い合って決めること。
その勝負に命の保障はないことが書かれてあった。
3日後の10時、記載の住所でその説明が行われるらしい。
これ、大人にばれたら警察沙汰だろ。
警察に密告する気はないが、湊は思った。この内容を誰かに見られたら、誰かに通報されかねない。湊は家の中に入ることにした。
改めて内容をみると、えげつない。
しかし湊は、母が帰ってくるかもしれないという一筋の希望をもって、その勝負に参加しようと考えた。
そして、母を連れ戻せたとしてまた死なれては困る。どうしたらこの世にとどまってくれるだろうか、と思考を巡らせ始めた。
目が覚めると朝だった。机には生命委員会からの手紙が置きっぱなしになっていた。勝負のことや母のこと。いろいろなことを思案しているうちに湊は寝落ちしてしまっていたのだ。そのおかげで、手紙に書いてあった住所に行くために、新幹線で約3時間かかることが分かった。
湊は時計を見ると、ゆっくり立ち上がった。
学校行くか。
今日は月曜日。そして時計はいつも家を出ている時間の20分前を指していた。だが母を失った今、湊が学校に行こうとする理由は別にある。あの手紙には高校生の中から競い合うと書いてあった。つまり、湊の親友である加藤双にも同じ手紙が来ているのではないか。確かめなければ、という使命感。それだけが彼を動かしていた。