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第1章:転生したら幼女の体になってしまった

イダール山脈、人々が「恐怖の峡谷」と呼ぶその縁に、総勢二十万の兵士が集結していた。


浩浩蕩蕩、流れる水のように移動する黒い集団は、圧倒的な光景を醸し出していた。


二十万の中でも最も目立っていたのは先頭に立つ一人の男だった。


全身の筋肉は大蛇のように骨に巻き付き、真紅のマントが鎧に密着している。


左手には星を貫く槍を握り、右手には聖なる盾を携え、鷲のような鋭い眼光で天空を見据えていた。


その堅い瞳には怒りが満ちていた。


半秒の沈黙の後、圧倒的な気魄を込めた雄叫びが彼の口から爆発した。


「諸君! 我と共に突撃せよ!」


槍を高々と掲げ、星辰を指し示す!


「おおおおお!」

「突撃だ!」


麾下の兵士たちが一斉に武器を掲げ、鎧のぶつかり合う音が響き渡った。


壮大な勢いだったが、誰の耳にも叫び声に混じる恐怖は明らかだった。


真昼の空から降り注ぐのは死の影、大陸全体を貫く虹色の光。


「手の見えぬ闇」と表現するに相応しい光景は、ケイラ大陸誕生以来の第三次大戦後、初めてのことだった。


天空では魔法の奥義と闘気の衝突が止むことなく閃き、降り注ぐ光の一切を覆い尽くす眩い光が広がっていた。


この世の最強たちがぶつかり合い、戦っていたのだ!


瞬く間に大地は崩れ、海は逆流し、天地は色を変えた。


二十万の軍勢の士気は一瞬にして霧散した。


兵士の心が崩れたのも無理はない――この非人間的な戦いを目にすれば、誰もが戦意を失うだろう。


先頭の戦神はただ一人、前進を続けた。


大地を蹴り、槍を掲げて天空へと飛び立つ。


意味不明の言葉を咆哮しながら。


「クソが!!! これはギャルゲーのはずだろ! どうして高武世界に変わってるんだ!!! しかもエロゲーとか言いながら、全然そんな感じじゃねえじゃねえか!!!」


転生者として、これは最悪の状況だった。


リカ・チャールズは教国の貴族として、常人には想像もつかない快楽人生を送れるはずだった。


自分が転生者であることを思い出した時は尚更だ。


手持ちの資源と人脈だけで、この世界の技術を一気に進歩させられる。


特にこれがギャルゲーの世界だと知ってからは尚更だった。


しかし……ギャルゲーの魔法と近戦設定が現実ではとんでもない力に変わり、


元々デザイナーの冗談で設定されたものが、現実では恐怖の力となった。


貴族としての人生を楽しむ間もなく、


家族は魔術で陥れられ、没落した。


自分もそのせいで軍隊に送られ、死ぬのを待つだけの身となった。


幸い才能はそこそこあり、努力した結果、常備軍の将軍まで上り詰めた。


だがリカは全く満足していない。


転生者としての人生がスパルタ戦士で終わるなんて。


誰が納得するものか!


大小様々な戦いを経験したが、これは楽しい龍傲天なのか?


しかもこの世界の最強ですらなかった。


完全なる失敗人生だ!


天空へ槍を掲げて突撃するリカの目から、一滴の涙が零れた。


家が没落し、学院に入ることすら叶わず、


ギャルゲーのヒロインに会う機会さえなかったことが、最大の後悔だった。


転生した意味がまったくない!


「もう死んでもいいや!」


そんな過激な考えで、リカは天空へと突入した――七彩の光の衝突の中、一筋の白い閃光が走る!


ザラッ!


白光は急速に拡大し、天を衝く衝撃波となって大地へと叩きつけられた!


息をのむような衝撃波が、槍を掲げるリカの姿を一瞬で飲み込んだ。


人生の最期、リカはふっと笑った。


「もしもう一度やり直せるなら……今度こそちゃんと……」


ほんの一瞬の出来事だった。


上空から放たれた強烈な光!!


戦う高手たちは一斉に吹き飛ばされ!!


中には血を吐きながら後退する者もいた。


高手たちは驚愕の表情を浮かべた。下からこんな力を持つ者がいるとは思わなかった。


一瞬、天空は白昼のように光り輝き、地上へと光を降り注いだ。


だがリカは次第に消散していく。


槍を高く掲げ、誇り高く死を受け入れる。


余波ですらないこの一撃の中で、彼は死んだ。


…………


…………


ドルアーク教国。


首都、ユニヴェール、公暦3031年。


侯爵家にて、教会主席魔導師でありチャールズ家当主のディア・チャールズは、


産室の前で焦りながら待っていた。


周囲の使用人たちは誰も口を開かなかった。当主の焦りは誰の目にも明らかだ。


これは当主にとって初めての子。


当然の緊張だった。


そして――産室から響き渡る産声と共に、


中の動きが大きくなった。


産婆が扉を開け、男は狂喜して中へ駆け込んだ。


「わが子を見せてくれ!」


疲れ切った妻の腕の中には、泣き止まない赤子がいた。しわくちゃな顔に男は一瞬固まった。


思わず口に出た。

「なんでこんなにブサイクなんだ?」


傍らの産婆が笑いながら言った。

「おめでとうございます、お嬢様ですよ」


妻が囁く。

「ディア……あなたの子よ……そんなこと言ったら傷つくわ」


男は我に返り、急いで妻の傍らに寄った。

「よし! じゃあリカと名付けよう。リカ・チャールズだ」


妻は優しく微笑んだ。腕に抱かれた赤子は、血脈の継承を象徴していた。


リカの視界はぼんやりとしており、痛みに耐えるように泣き叫んでいた。


痛い、とても痛い!


私は死んだのか?


視界が戻った瞬間、リカは自分の小さな手を見た。


その刹那、彼女は悟った。


再び転生したのか?!


だが何かがおかしい!!!


………


五年後。


ディア侯爵家の屋敷。


広大な庭で、使用人たちは無表情に五歳の少女が棒で人形を突いているのを見ていた。


もう慣れた光景だ。


「127! 128!」


棒は突き出され、200回に達した時、少女は棒を放り投げて草地に倒れ込んだ。


無防備にスカートを広げながら。


「体が弱すぎる。ゆっくり鍛えるしかないな」


リカは地面に座り込み、口元に笑みを浮かべた。


力こそが幸福をもたらす。


彼女はそのために努力を続ける。


そしてもう一つの事実――自分の「アレ」がなくなっていたこと……。


悲しみと共に、どこか興奮も感じていた。


前世では力を過小評価し、


科学の発展の方が有用だと考えていた。


特にエロゲーの世界なら尚更だ。


小さなエロゲーの剣と魔法がどれほどのものか?


彼は個人の力に対して傲慢で偏見を持ち、前世では高手止まりだった。


今回は同じ過ちを繰り返さない。


槍を握り、鍛える!


これしか道はない。


しかし現実は思い通りにはいかないものだ。


ディアは庭でため息をつきながら、娘の自虐行為を見守っていた。


そして腕を組み、リカに叫んだ。

「リカ! 着替えてこい。父さんのところへ来い。婚約者に会わせるから!」


地面に倒れていたリカは、一瞬で凍りついた。


はぁ?!

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