三話:東方の国
襲撃者を撃退した二人は、再び砂漠を歩き始めていた。
「なぁカザネ、まだジャポネスには着かないのか?」
「もうとっくに領地には入ってるわ。国境は越えてるけど検問はまだね。」
「風の魔術で飛べないのか?」
「!?!?その考え方はなかったわ・・・!私の魔術の練習にもなるし、いいわね。」
「やってみるか・・・!」
「魔力を一つに固めるっていうのはどういう感覚なの?」
「なんかこう・・・。一点に力を集中させる・・・みたいな感じかな・・・。」
「やってみる・・・。『風よ』・・・!!」
瞬間、耳をつんざくような破裂音とともに爆風が巻き起こる。
「ぐおあぁぁぁぁぁ!!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
なんと魔力のコントロールに失敗し、魔術の暴走が起きたのだ。いかに優秀なカザネでもぶっつけ本番は難しかったようだ。二人は豪快に数メートル吹き飛んだ。二人は立ち上がり、元の場所に戻る。
「うん、やめよう。」
「そうね・・・。」
というけで、二人は普通に歩き始めるのだった・・・
二人が歩き始めてからさらに数時間が経過した。足元の悪い中、ズルズルと歩いていると、カザネが口を開く。
「見えたわ。あれが検問よ。」
「やっとか。長かったぜ・・・。」
カザネが近くにいた検問官に話しかける。
「ジャポネス皇帝親衛隊長、サクライ・カザネよ。こちらは親衛隊に特別入隊の客人。検問のパスは可能かしら?」
「カザネ様・・・!おかえりなさいませ!もちろん可能でございます・・・!」
「感謝するわ。お勤めご苦労様。」
「はっ・・・!!」
この通り、検問はパスできたわけだが、ここからが問題である。何が問題なのかというと、王国側の検問から皇室本部のある帝都にはかなりの距離があり、無事に辿り着けるか・・・ということだ。今のジャポネスは荒れに荒れている。毎日のように両派閥過激派による戦闘が起こっている。それに加え、国軍の分裂も明確化してきており、国軍内でも反発が強まっている。カザネが馬車の手配をしようとした、その時だった。突然、三箇所から爆発音がしたのだ。
「なんだぁぁぁ!?」
「この音、魔術じゃないわ。爆薬ね。」
「ちぃぃ!音の大きさと方向から大体の場所は把握した。ここは分担だ・・・!」
「それが妥当ね。私は右に行く。ノアは正面を頼むわ。」
「了解だ!」
二人は一旦の別行動となるのだった。
現場に先に到着したのはカザネの方だった。事件現場に到着したカザネの前に広がっていたのは、無惨に爆破され、跡形もなくなったいくつかの民家の姿だった。そこにはすでに犯人の姿はない。それを見た瞬間、カザネを支配したのは底知れぬ怒り。
(さっきの音と周辺に残った若干の匂いからして、爆発の根源は火薬・・・。革新派の過激派は火薬なんか使わず魔術で爆発させるはず。となると犯人と考えられるのは・・・・・保守派の過激派ね。)
考えを巡らせるカザネの前に一人の軍人が現れる。
「カザネ様、陛下が折り入っての相談があると・・・。」
「陛下が・・・?わかったわ。すぐに行く。でも、一人連れていきたい人がいるの。一緒に連れて行ってもいいかしら。」
「すぐに確認します。」
「感謝するわ。」
数分後、その軍人が戻ってきてカザネにこう伝えた。
「カザネ様、許可が下りましたので、早速向かいましょう。」
「そうね、その連れていきたい人なんだけど、先の爆発の後処理をしてくれているわ。検問所から正面のところにいるはず、向かいましょう。」
「はっ!!」
一方その頃、ノアはというと、爆発の現場を見て思いを巡らせていた。
(ジャポネスが内乱状態ってのは聞いてたが、ここまでとは思わなかった。俺の認識が甘かったか・・・。)
その時だった。ノアの背後に黒い影が現れる。
「・・・!?なんだ!?」(俺としたことが、気配を読みきれなかった・・・。)
「その命、貰い受けようか・・・。」
一閃。黒い影から銀の刃が走る。その刃は、無情にもノアの背中を深く捉える。
「ぐああぁぁぁ・・・。」
ノアは際で正面に飛んだため、致命には至らなかった。しかし、いきなりの深傷だ。振り返ったノアの目が捉えたのは、着流しを羽織った老人。その手には刀が握られている。明らかに軍人ではない。その目はドス黒く濁り、怪しく光る。
「ちっ!ジジイ・・・、何者だ・・・?」
「そちらさんこそ、この国じゃ見ない顔だねぇ。どこの国の者だい。」
「俺はこの国の皇帝から客人として招かれてんだ。いきなり切り付けられる筋合いはないね。」
「私はねぇ、よその国の人間が心底嫌いでねぇ。陛下が呼んだ客人とはいえ、保守派の私には関係ありゃせんよ。ここでお命いただきやしょう。」
「それはこっちのセリフだぜ?獄炎剣の魔術師を、ベルナールの魔術を、舐めてると痛い目見るぜ?」
「おぉ〜、怖い怖い。力を持った若造はすぐに図に乗る。だからこそ私に勝ち目があるんでさぁ。」
「黙れ。来ないなら、こっちから行くぞ・・・!」
瞬間、ノアがレイピアを抜きながら先ほどのお返しだと言わんばかりに突っ込む。
「よそ者の力、見せてみんさい。」
「死ね。ジジイ・・・!」
放たれたのは、強烈に螺旋回転のかかった刺突。それはまだ未熟なノアが放てる最大出力だった。しかし、なんと着流しの老人は踏み込まれた分を正確に見極め、後ろに飛んで完全に外して見せた。
「な・・・なんだと・・・?」
「殺すには惜しいねぇ。螺旋の回転がかかってる、危ない技だねぇ。封殺させてもらいやしょうか。」
「いちいちムカつくんだよ。大人しく逝け。『憤怒の炎帝よ』」
ノアがそう呟いたと同時、周囲に熱気が立ち込める。なんと、ノアはいきなり最大出力で魔術を放とうとしたのだ。
『イグニッション・ダイナミック・プロミネンス』
「おっとぉ。こりゃあちとまずいかねぇ・・・。」
刹那、紅の光と共に爆炎が放たれる。頬を掠めるだけでも危険な爆炎は見る見るうちに老人へ迫る。
「ここは一旦、退きやしょう・・・。」
老人は紅の光の中で、闇へと消えて行った・・・・・。
光が収まった後、ノアはあることに気づく。
「焼けた匂いがしない。ちっ、逃しちまった。畜生が・・・。」
そこにカザネと付き添いの軍人がやってくる。
「ノア!?その傷、大丈夫!?」
「あぁ、不意打ち喰らっちまっただけだ。それより、あのジジイ、このツケは払ってもらう・・・!」
「ジジイ・・・?まさか・・・!」
カザネはその老人に覚えがあるようだった。
「急いで応急処置よ、帝都に行くのはその後ね。」
「すまねぇな。」
三人はその場を離れるのだった・・・・・
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