二話:風の刀
出国手続きも無事に済み、ノアとカザネの二人はジャポネスへ入国するため、砂漠越えをしていた。
「あちぃぃぃぃ!!」
ノアの咆哮も虚しく、ギラギラと輝く太陽の下、虚空に消えていく。
そんな中でノアがカザネに向けてこんな質問を投げかける。
「なぁカザネ、ジャポネスってのはどんな国なんだ?他国についてはあまり知らなくてな。」
「ジャポネスはね、一言で言えば魔術とシノビの国ね。」
「シノビ?なんだそれ・・・。」
「ジャポネスに古来から住んでいる戦闘部族をシノビって言うの。今は少し減っているけど、昔はシノビが跋扈していた時代もあったとか・・・。」
「どんな戦い方なのか気になるな・・・。」
「シノビはね、主に投擲と刀で戦うそうよ。私も一目見てみたいわ。」
「そうなのか、俺も見てみたいな。」
ジャポネスは長い間鎖国をしてきたため、他国のように聖ガルシュ教会の影響を受けていない。魔術を禁止していないのもそれが影響している。それもあってか革新派と保守派に分裂し、争っているのだろう。
そんなことを話している時だった。ノアたちの前にガラの悪い男三人組が現れた。その男たちはカザネを見るなりこう言い放つ。
「お前、サクライの娘だな。ここで殺す。」
その言葉を聞いた瞬間、ノアがレイピアを抜きながら前に出る。
「おいおい、いきなり出てきて殺すはねぇだろ。カザネを狙ってんなら見過ごせねぇな。」
それを静止するようにカザネも前に出る。
「ノア、いいの。私が相手する。」
「お、おい。いいのかよ。」
そうしてカザネが刀を鞘から引き抜くと、男たちは臨戦体制に入るが、襲ってはこない。カザネも一端の戦闘者だ。怯えがあるのだろう。
「来るならきなさい。」
「お前ら!ビビるな!こっちは三人だ。勝てるはずだ・・・!」
(カザネはサクライ家の末裔・・・。どんな魔術を見せてくれるのか・・・。)
次の瞬間、三人の男が一斉に飛び出す。その手にはロングナイフが握られている。
「一気に行くぞ・・・!力で押し切れ・・・!」
それを見たカザネは刀を正眼に構え、こう呟く。
『風よ』
それは洗練された魔術方程式を織り交ぜた呪文だ。その刹那、カザネの身体が風に包まれる。男たちがナイフを振り上げようとしたと同時に、カザネが雄叫びをあげる。
「このサクライ・カザネを舐めるんじゃないわ!!100年早いのよ!!」
「関係ねぇ!!やっちまえ!!」
一人のナイフがカザネを捉える・・・と思った。だがなんと、血飛沫が舞ったのは男の腕からだったのだ。カザネは風を纏わせた刃を常人の目には捉えられもしない速さで振り抜いたのだ。
「ぐおあぁぁぁ・・・!!何が・・・起こった・・・?」
「言ったでしょう?100年早いと。」
それを見た残りの二人は停止する。
「あんなん勝てるわけねぇよ・・・。逃げるか・・・?おい。」
「いや、ここであいつを刺し違えれば、俺は英雄だ。俺は残るぜ。」
「なら俺も・・・やってやらぁ・・・!!」
二人の目に覚悟が宿る。そして殺気を見せた、まさにそれと同じタイミングだった。カザネがこう呟く。
『旋風剣・一文字』
瞬間、カザネが突風を纏い男たちのゼロ距離に滑るように入り込む。こうなればもはや勝ち目はない。
『斬』
カザネの刀が、横一文字に走る。
「が・・・!!」
「見えな・・・い・・・。」
ドサッ、と音を立てて落ちたのは・・・・・上下両断された二つの骸だった。
「さぁ、トドメよ。覚悟しなさい。」
「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
砂漠の真ん中に断末魔の叫びがこだまするのだった・・・・・。
その光景を目の当たりにしたノアはというと・・・
「す、すげぇぇぇぇぇぇ!!」
この通り、大興奮していた。ノアは屈指の強い者好きだ。ノア自身が人の身でありながら魔術を使う魔術師なのだが・・・。
「なぁ!今のどんな魔術なんだ?是非とも教えてくれ!!」
「魔術というのはこういうものではないのか?ノアの魔術は見たことないからな、他の一族の魔術はわからないんだ。」
「俺は魔力のコントロールが甘いからな・・・。あまり得意ではないんだが、ちょっとだけ見せてみるか。」
「頼む。」
『焔よ・拡散せよ』
ノアがそう唱えたと同時、左手に法陣が浮かび上がり、一つの火球が出現する。そしてそれが前方に放たれる直前に三つに分裂し、拡散射出された。これがノアの言う”魔術”だ。
「なるほど。身体や武具に纏わせるのではなく、属性エネルギーを一つに固めてそれを放つ・・・か。」
「すげぇな。さすが今ので完全に理解したのか!?」
「魔術師はこの世の性質を理解することが大切とされているからな。これも訓練のうちなんだ。私の一族に伝わる風の魔術は、シノビの技と刀を合わせ、そこに魔術を纏わせる、というものだ。さっき二人を切り伏せた時に使った足捌きもシノビのものだ。」
「なるほどな。その情報、俺の魔術書にはなかった情報だ。俺のレイピア術にも落とし込んで使えるかもしれん・・・。」
「やはり属性の特徴を活かした魔術が発達していたのかもしれないな。」
「その可能性があるな・・・。」
元は同じ魔術といえど、全てが同じわけではない。それを砂漠の真ん中で理解する二人なのだった・・・・
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