5話 呪術に、ひとさじの愛情
この世界での体感時間は現実の約2倍。そしてログイン時間は1日最大12時間と制限されている。つまり、こっちの世界での行動時間は約2日に1日丸ごと行動できる。この手のゲームにしてはログイン制限は緩めらしいが、まあ、成人以上と限定されてるし、自己責任と言うことだろうな。最大2日に1日というのは……ぎりぎり、この世界に過干渉できないくらいのラインか。この世界の人々は、俺たちプレイヤーがいなくても、それぞれの生活があって、世界は回っていく。それなら俺たち『訪問者』は、この世界にとってどういう存在か?やはり突然現れた俺たちは、この世界から見たら”異物”でしかないのだろうか。ふと、そんな疑問がよぎる。……まあ、答えが出そうにもない疑問だ。いっそのこと、率直に聞いてみようか?
そんなことを考えているうちに、覚めていく感覚がした。夢の中であれこれと志向を巡らせていたようだ。目を開くと、朝日の柔らかな光が窓から差し込み、眠気を追い払っていく。まだ微睡む目をこすって体を起こすと、既に家じゅうは活気づき、皆が忙しなく家事を始めている。
「あ!お兄ちゃんおはよ!もうすぐ朝餉ができるけえ、待っとってや!」
バタバタ走る少女見てふと意識がすっきりして我に返る。この家に世話になっているのに、これでは余りにも失礼ではないか。
急いで身支度をし、調理をしている鶴子さんを見つける。
「おはようございます、鶴子さん」
「あらおはよう。ぐっすり眠れた?」
「はい、それはもう。何か手伝うことがありませんか」
「そうね……実は一つ、お願いがあるのよ」
そう優しく微笑む……と思いきや、急に鬼の形相に。
「うちの旦那起こしてきてくれる?ったく、あのぐうたら、いつまで寝てるんだか」
いつも書斎で夜更かししてはそのまま気絶して朝まで爆睡、とのことらしい。急に見知らぬ人が起こしにいったらお互い気まずいのではないかと懸念したが、一応頼まれごとなので、気は進まないが……起こしに行くか。
ずぼらな人なんだろうなと思いながらも、書斎の扉の前に立つと、はいそうですよだと言わんばかりに、爆音のいびきが中から伝わってくる。ちらっと覗くと、部屋は想像通り、本が無造作に積み重ねられたカオスな空間。机の上には昨夜のまま開いた書物やら紙束が散乱していて、まるで何かの研究に没頭していたかのように見える。
頭をかいてため息をつき、書斎の奥へ進む。すると、椅子に深くもたれかかったまま、天を仰ぐ鶴子さんの旦那、恒之さんが見えてきた。粉雪と信之や、鶴子さんよりもやや長い額の2本の角は、いかにも鬼だと語っているが、元々優しそうな顔立ちと無精髭なのも相まって、緩い寝顔でどうも威圧感にかける。そして片足を机の端に乗せ、もう片足は椅子の肘掛にかけるという、普通では到底考えられない姿勢で爆睡している。
「……一体全体、どうやったらこんな姿勢で寝れるんだ?」
思わず呟きながら、肩を揺さぶってみる。
「おーい……」
「んが?」
一瞬だけ、苛立ちを覚える。
初対面でなのもあって遠慮気味に声をかけて、一瞬だけいびきが止まったが、一ミリも起きる気配はない。空気を吸って、思い切って腹から声を出す。
「起きてください!」
「おあっ!?」
びっくりして飛び起きようとして、足が縺れて椅子ごと横に倒れる。
「しまった!大丈夫ですか!?」
「いててて……あれ、君は?」
◇
食卓にはすでに朝食が並んでいた。湯気が立ち上るみそ汁の香りが鼻をくすぐる。信之と粉雪もすでに座っていて、俺たちが戻ってくると笑顔で迎えてくれた。
「ほら、あなた、さっさと座って。お待ちかねなんだから」
丁寧な口調とは裏腹に、鶴子さんがややきつい口調で圧をかけるが、恒之さんはそれを何処吹く風と言わんばかりに、のんびりとまだ眠そうな目をこすりながらも、席に着いた。
「さあ、一梧君も。今日はたくさん食べてね」
そう言って席に座り、みんなで箸を取った。手を合わせて「いただきます」と唱え、食事が始まった。
「改めて自己紹介をするよ。僕は霧島家の恒之、お互い気軽にいこうね。呪詛師をやっているよ……って言ったらちょっと不気味に思えるかもしれないけど、実際のところただ薬を作って売ってるだけだよ。君も体調が悪くなったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます。信之と粉雪に拾って頂いた、一梧です」
「おーお前たち、人助け偉いぞー。拾ってきたんだから、ちゃんと世話を焼いてあげなさいよ」
……拾ってきた野犬や野良猫扱い?
くしゃくしゃに大きな手で2人の頭を少々乱暴に撫でるが、ちょっと嫌そうだけどまんざらでもない表情を2人はしている。きっと、2人の親からたっぷり愛情をそそられているんだろうな。
「ところで、一梧君」
ふと恒之さんが口を開く。みそ汁をすすりながら、ゆっくりと俺の方に視線を向けた。
「君はこの世界に来たばかりだと聞いたけど……君はどういう目的でここに来たんだい?勿論無理に聞きたいわけじゃないが……困っているならば僕たちを頼りなさい」
少し考えて、言葉をゆっくりと紡ぐ。
「すみません、困っているのは事実なので、お言葉に甘えさせていただきます……俺は、他の世界から友人と一緒にこの世界に来ました。でも、多分来るときにばらばらになって……その友人と合流したいのですが、連絡手段も何もないので、どうやって探しに行けばいいか検討もつかなくて」
「あら……それは大変ね。その友達がおおよそどこにいるかも」
「全く持って検討もつきません」
「それは……かなり困ったね」
難しそうに顔を顰める大人二人だが、対照的に無邪気な顔で卵焼きを頬張る粉雪から一声。
「お兄ちゃん。暫くうちにおったらええよ!」
「そうじゃけえ、一兄、まだこの世界に来たばっかじゃろ?俺たちがf色々教えてあげるけえ、一緒におったらええ!」
信之もそう継げる。
「……確かにね。一梧くん、まだこの世界のこと何も知らないよね?僕と鶴子が教えて上げるから、勉強していきなさい」
俺は一瞬、返答に詰まった。この家族は、俺という見知らぬ者をこれほどまでに手厚く迎え入れてくれている。しかし、その厚意に甘え過ぎるのは、余りにも図々しいのではないかと。
「……本当に、そんなにまでしていただいてよろしいのでしょうか?俺は、いつこの世界を去るかも分からない立場で、こんなにお世話になってしまって」
そう口にすると、鶴子さんは穏やかに微笑みながら、ゆっくりと首を振った。
「そんなこと、気にしないで。出会いも縁というもの。焦らずに、ゆっくりと方法を考えるのよ」
信之が、その話を聞いて顔を輝かせ、口を挟んだ。
「一兄、俺たちが案内するけえ!この世界のことをもっと知れば、きっと友達探す手がかりも見つかるよ!」
粉雪も、楽しそうに笑みを浮かべて言葉を重ねた。
「そうそう!うちにおったら、きっと何かいいことあるけえ!それに、一兄ちゃんと一緒に遊びたいけ!」
2人の飾り気のない、無邪気な誘いに、俺はつい口元が緩んだ。確かに、この世界について何も知らないまま、ただ盲目に友人を探し回ってもきっと、成果は得られないだろう。
「……そうですね。まずは力を蓄えて、周到に準備してから、旅に出ようと思います」
「『世界は何も語らないが、約束を守る者の為に世界は在る』――私たちの世界の格言よ。意味、わかるかしら」
……誰だろうと世界は区別はしないし、約束を遵守する者であれば世界は歓迎する。という意味よ。と、鶴子さんは静かに語る。
……鶴子さんの優しい言葉に、胸の内に蟠っていた焦りが次第に溶けていくのを感じた。別世界の人だと、差別しない彼女達の言葉がひどく暖かい。いつの間にか出来ていた、小さな悩みの種を、今摘んでくれた。
「ありがとうございます……皆さん、本当に感謝しています。もう少しだけ、お世話になります」
俺が深く頭を下げると、恒之さんが穏やかな微笑みを浮かべながら、軽く手を振った。
「そんなに気負わなくていいよ。一梧くん、ここを第二の家だとでも思って、気楽に過ごしてくれて構わない」
「それじゃあ、一兄!早速なんやが、明後日俺と粉雪が山に行くんよ。一緒に来ん?」
信之が期待に満ちた瞳で提案する。粉雪も笑顔で手を挙げて賛同する。
「うんうん!一兄ちゃんも一緒に来てや!山には楽しいことがいっぱいあるけえ、いろんな生き物も見れるじゃけえ!一緒に冒険しようや」
「……冒険、か」
俺は少し戸惑いながらも、信之と粉雪の熱意に惹かれ、僅かに胸の奥にドキドキするものが芽生えた。この世界での初めての『冒険』という提案に、自然と期待が膨らむ。
「そうそう、山の上には俺たちだけが知ってる秘密の場所おってじゃけえ。一兄にも、ぜひ見せてあげたいのお」
「わかった。じゃあ、明後日は一緒に行こう」
「やったー!一兄、楽しみやの!」
信之と粉雪の無邪気な笑顔を見て、俺の心にも自然と安堵が広がっていった。
「じゃあ、今日は一梧くんは、粉雪とのぶと一緒にお勉強だな」
「勉強、ですか」
「あら、お勉強は嫌いか?」
「いや、そんなことは全くなく、むしろすごくありがたいですが……一体どういう内容を」
「まあ慌てないで、まず一緒に認識を擦り合わせて行こうじゃないか」
◇
「……あ、予め言っておくと、僕たちの世界と君の元いた世界の技術力は違うと思うし、どこまで世界の法則が解明されているかも全然違うと思うし、そもそも世界の法則も異なるから、一旦僕たちの世界の知識を基に話すね」
「はい」
「所で、一梧くんは、自分が元居た世界とこの世界『イーサリア』、どういう違いがあると思ったんだい?」
「うーん……まだ来たばかりですが、気づいたところでは、虫、植物や動物などの生き物は似たようなものもありますが、やはりみたことのない生き物ばかりですね。まあ、これは当たり前ですよね」
「当たり前?どうして生息している生き物が違うのは当たり前だと思ったんだい?」
「それは……環境の違い、ですかね」
「はは、合ってはいるけど少し漠然としすぎているね。もう少し詳しく説明できるかい?」
「……すみません、わかりません」
「あはは、ごめんごめん、急にこんなこと聞かれても答えられないよね。例えばの話しだけれどね、もし環境が全く一緒の星が二つはあっても、生息する生き物は全く同じような進化を辿るとは限らないよ。むしろ、極めて低いとも言えるね。それはなぜだかわかるかい?」
俺はふと、地球の進化の歴史を思い出す。確か、地球の最初の生命は海洋で誕生し……長い時間かけて進化し、陸へ進出した生き物も出てきて……一度”大絶滅”と呼ばれるイベントが起きて、地球の生態系が再編されて……そこから恐竜が現れて、しかし氷河期によって殆ど絶滅して……?あ、なるほど、ここまでの2度に渡る地球の生態系の再編というのは、環境の大きな変化が起きたせいなんだ。つまるところ、
「……環境の変化や天災などの、外的不確定要素が絡むと、進化はの道が分かれてしまうから?」
「正解!これもかなり難しい質問だったけど、殆ど完璧な答えだね。進化は偶然の産物だ。同じ環境でも、個体差や遺伝的な変異によって全く別の進化を辿ることがあるんだ。それが第一の理由。第二に、生命そのものがどう始まったかは、未だに完全には解明されていないが……最初の命が違えば、その後の進化も大きく変わるだろう。わかるかい」
「……要するにスタートが違えば、その後も全く同じにはならないってことですよね?」
「そういうこと!理解が早いね。第三の理由は、競争や環境適応による違いなんだ。仮に同じような環境でも、微妙な気候の変化や、他の生命との競争の影響で、異なる種が優勢になったり、適応の仕方が変わったりするかもね。例えば、環境が少し寒くなって、ある生き物はそれに適応しようとするだろ?その生き物はどういった適応の仕方があると思う?」
「……例えば、脂肪を蓄えるようにしたり、毛皮を生やしたり……とか?」
「そうそう、あるいはいっそ暖かい地域に移動したりとかね。同じ生き物でも、対応の仕方が色々あると、異なる適応の仕方を選んで、別々の進化を辿ることになるんだよ。これが第三の理由だね」
「なるほど、すごくわかりやすいです」
「だろ?ここまでが前提だね」
「まだ前提か……」
「まあそう焦らずに聞いてくれ。ここまでは、『全く同じ条件でも、同じ進化を辿ることはほとんどない』という話だね。でも、僕が思うには……君がいた世界――『地球』だっけ?と僕たちが今いる世界『イーサリア』は、そもそも根本的な法則が違うと思うんだ」
「根本的な法則、というと?」
「これはかなりの自信あるけど――一梧くんの世界には、『呪術』というものは存在しないだろ?もしくは……存在していてもほとんど認識されていないんじゃないかい? 」
「……なんとなく言いたいことがわかりました。その通りです、僕たちの世界にも恐らく呪術というものは存在しますが、それは殆どの人が迷信だと思っている程度の認識です。かくいう俺も、そんなに信じてませんが……火のない所に煙は立たぬと言いますし、少なくとも、僕の世界に置ける呪術はイーサリアの呪術よりはずっと認識は遅れていると思います」
「やっぱりね。僕が『呪術師』と名乗った瞬間、一梧くんからものすごく胡散臭そうな視線が飛んできたからね」
「すみません、信じてないわけじゃないですが……」
「大丈夫だよ。僕もよく胡散臭いって言われてるからね、気にしてないよ……とほほ」
あからさまに落ち込む彼に、どう反応すればいいのか少し困った表情を浮かべる。
「この調子だったら、地球では魔術や錬金術も同じようなものじゃないかい?」
「そうですね。魔術は呪術と似たようなもので、迷信だと言われていますが……錬金術の存在だけは、俺たちの世界では科学によってはっきりと否定されていたはずです」
「なるほど、科学か。僕たちの世界では、魔術などがある分、科学はそれほど進んでいないかもね、地球と比べて。では一旦世界の法則の話に戻るよ。地球と違って、魔術、呪術や錬金術はこの世界でははっきりと存在するものだと人々に認識されているんだ。それは人々だけでなく、自然界の生き物にも色濃く影響が出ているんだ。魔法の使える生き物だっているからね」
「へえ……!では、魔術と呪術って一体どんな違いがあるんですか?魔法も魔術とは違うんですか?」
突然横から元気な掛け声が飛び込んできた。
「それなら粉雪にもわかるけえ!お兄ちゃんに教えてあげる!」
父親の話が難しすぎたのか、ずっと黙って聞いてた粉雪が、目を輝かせて話に加わる。
「よーしじゃあ粉雪、魔術というのはどんなものか答えてみて」
「んーとね、魔術っちゅうのは『魔力を使って、自然や宇宙の法則を変える力』やけえ!」
「おお、正解!ちゃんと教えたことは覚えてるんだね、偉いぞー。もう少し補足すると、それは『技術や知識に基づいた行為』だよ。それとは対照的に、魔法というのは、同じ『魔力を使って、自然や宇宙の法則を変える力』であるが、発現するのに技術や知識は勿論用いるが、『先天的な能力』、『遺伝による継承』によってのみ発現できるものなんだ。これが大きな違いだね」
「……つまり、魔術というものは訓練次第で誰でも使えるもので、魔法は生まれ持った才能、もしくは血の継承によるものだということですか?」
「その通り!一方で、知性のない生き物が使う魔力による行使は殆ど魔法と呼ばれるんだ、やつらは『種で力の継承』をしているからだね」
「種で力の継承……遺伝か」
「遺伝とはまた少し違うが……まあ概ねその通りだから、一旦その話は置いておくね」
「なるほど……では、呪術はどう違うんですか?」
「よし、そこでうとうとしているのぶ、答えてごらん」
「はえ?」
鼻提灯を吹かしていた信之が突然指名されて慌てだす。
「ね、ね、ね寝てないよ!」
「はは、話詰まらなくてごめんね、後で易しく説明するから。でも今、呪術はどういったものか、説明してくれるかい?」
「ああ、呪術な!呪術は個人の感情に根ざした行為で、『呪力を使って、人間に影響を与える力』……で合ってるかな?」
「おお、のぶもちゃんと覚えてるね、偉いよー。もう少し補足するとね、ここ人間というのは決して人族だけではなく、我々のような鬼族やその他の知的生物全てのことを指すよ。つまり、殆どの知的生命体に影響を与えられる力だね。もっと言えば、感情を備わっている生き物なら誰でも駆使できるけど、魔術ほどではないにしろ、技術と知識を駆使するものが殆どだからね。だから、殆どの生き物には呪術を使用できるポテンシャル自体はあるんだ。また、『人間に影響を与える力』と言ったが、具体的に言うと人間にしか影響を与えられないわけではない。『その人間のいる空間ごと、広範囲の影響を与える』だってできるものもあるからね」
「……逆に言えば、もしかして誰もいない空間に関しては使用できないものなんですか?」
「おお、いい所を突くね。呪術というのは対象がいないと駆使できないのはその通りだが、対象を限定しない時はその限りではないからね」
「……?どういうことですか?対象がいないと駆使できないのに、対象を限定しなくてもいい……?」
「例えば、僕は普段薬を作って販売していると言ったじゃないか。それも呪術の一種で、『この薬を使う人が少しでもよくなりますように』という念を込めながら作っているよ」
「なるほど……!物に念を込めるというのも呪術の一種、なんですね。……しかし、僕の世界にはなじみのない考え方で、素敵なものですね」
恒之さんは少し目を見開く。
「素敵、というと?」
「いえ、俺の世界では、呪術というのは恨みや怒りなどの負の感情を込めるものなので、薄汚く、陰湿なものだと思ってましたが、この世界の呪術は、すごく、前向きで、良いものだなと思いました」
「はは、そう褒められるものでもないが……これは僕の持論だが、技術に善悪なんてものはなく、ただそこに在るのみ。結局使い手次第だと思うんだ」
「なるほど、そういう考え方もありますね……その、もしよければですが、俺にも呪術を教えてもらえませんか?」
「……こんなに素直に頼まれたら断れないね。元より、そのつもりだったし、のぶと粉雪と一緒に習って行きなさい」
少し得意げな表情を見せる信之。
「へへん、今だけなら一兄に俺も教えちゃるけえ」
「ああ、お手柔らかに頼むよ」
一度、少し冷めたお茶をすすり、乾いた唇を湿らす。
「そういえば、錬金術というのも、どういったものか聞いてもいいですか?」
「ああ……悪いけど、僕は錬金術に関してはあまり詳しくないんだ。でも、理論だけなら少し知っているよ。それでも聞くかい? 」
「ええ、ぜひ」
「もの作りというのは、特別な手段を用いないで、素材の本質を変えることなく、素材の潜在力を引き出して利用できる状態にするというのが僕の解釈だけど……例えば、そのまま食べても殆どの効果を見込めない薬草を、摂取しやすく効果を取り込みやすい薬の状態にするようにね」
「なるほど。では、錬金術というのは……?」
「錬金術というのはね、そこに魔力を込めて、特定の工程を踏むことで、物の本質に働きかけるんだ。潜在力を大幅に増幅させたり、あるいは変質させたり、あるいは素材を組み合わせて、一方の素材の本質をもう一方に付与したりね。例えば、錬金術の名の由来の通り、最初の錬金術は無価値の石ころを金に変えるんだ。物の本質が大きく変化しているだろう?」
「なるほど……すごくわかりやすいです。所で、気になったのですが、魔術や錬金術は魔力を用いますが、呪術は呪力というものを用いますよね。それらはどういったものですか?誰でも備わ得るものですか?」
「ああ……実は、魔力と呪力というのは本質的に同じエネルギーなんだ。単純に魔術や呪術の創始者がそれぞれが別々の名を付けただけだね」
「ああ……なるほど」
こういった話は元の世界でも聞いたな。創始者は自分が発見したものに自分で名付けをしたがると。
恒之さんが俺の表情を見て何を考えているか悟ったか、ゆっくりと諭す。
「一梧くん、めんどくさいからって、そういった名前を疎かにしてはいけないよ。呪術と魔術は我々の先達によって発見された偉大な技術なんだ。これは伝統という。伝統というのは、ただの名残ではなく、その本質を見失わないための、未来への道しるべでもあるんだ。我々技術の後継者は、この技術をこれから受け継ぐ者のために、そして歴史を築いてきた先達への敬意を込めて、彼らの呼び方に従わないと」
「それは全くその通りです、すみませんでした」
「でも確かに紛らわしいね、呼び名を勝手に変えたくらいで怒る先達たちは器は小さくないとだろうし、その技術自体は偉大な発見に変わりないんだから、これからは統一して魔力と呼ぼうな!」
「今のやり取りいりました……?」
「つまるところ僕が言いたいのは、常々技術の発見者である先達への敬意は忘れないことだね。いいかい、こういう細かい所でも決して疎かにしないことだよ、さもないと”バチ”が当たるね」
「は、はあ」
いまいち要領がつかなく、曖昧の返事をする。
「他には世界には『召喚術』『降霊術』『巫術』など、色々あるみたいだが、それらについては僕は名前しか知らないね。君がこの世界をもっと深く知ろうとするなら、その道で出会うこともあるだろう。君が望めば、いつか、それらの技術と向き合う日が来るはずさ」
「召喚術、降霊術、巫術……名前を覚えておきます」
「さて、長かった前置きの解説は終わって、今から本題の呪術に入れるね。今から呪術の基礎を……」
「あ、大変申し訳ないですが……そろそろ、長い昏睡状態に入るみたいです……」
「……ああ、訪問者に訪れる、不定期の昏睡状態のことか。ゆっくり休んでおいで」
心配そうに見つめてくる粉雪。
「一兄ちゃん……大丈夫?」
「ああ、心配するな。必ず、明後日までに起きてくるから」
「……ほんと?待っとるけえのお!」
一室を借りて、俺は名残惜しく、今日の長い冒険を終えた。思った以上に、俺はこのゲームに夢中みたいだ、それはもう、規定制限時間がギリギリになるくらい。もう、向こうじゃ早朝だ。久々にこんなに、一つのことに夢中になったな。




