脱出ー舞台裏
「うっうぼぇぇぇぇ・・・・・!!」
「おら、立って走れ!!」
「────ッッッたぁ!!」
疲れて膝をつきうずくまっていた男に、容赦なく鞭が振りかざされ、強制的に走らされる
かくいうペオニアも、もう三発は鞭をもらっている
舞台は変わらず奴隷商外のグラウンド(仮)、そこでペオニア達は三時間前から走り続けている
気絶しても鞭で起こされる、終わりのないランニング
「これが・・・・・・!! 『選別』かよぉぉ・・・・!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「イッ・・・・・!!」
「大丈夫か・・・・・? 全く奴らこんな小さい子まで・・・・!!」
あれから全員が倒れて動けなくなったところでようやく一区切りがついたのか、全員が放り込まれるように牢に叩き込まれた
今はその時に一緒にあった包帯や消毒液で全員が鞭での傷を応急処置している
「・・・もう、限界だ!! やるなら今しかないんだ!!」
「あまり大きな声を出すな、どこで聞き耳たてられてるかわからないんだぞ・・・」
消毒液が傷にしみる痛みを必死で堪えていると、奥の方から怒号のような話し声が聞こえる
(・・・・なんだ一体?)
だが、徐々にその音も収まり、話も一段落ついたのか、男達が牢の中の奴らに集まれ、というジェスチャーを送る
痛む体を引きずるように男達に近づくと
「お前ら、ここから全員で逃げないか?」
集められた獣人達の間に驚きと希望が混じったような声が広がる
だが
(脱出は、考えてはいたが、あるのか?本当に)
「俺たちは脱出経路やそこまで行くための方法まで考えている。だからおまえたちにも協力してほしいんだ」
再びどよめきが走る、けれども今度は頭が冷えているのか、少し不安が混じっている
だが、それを見ても男は全く焦ることなく語りかける
「別に無理にとは言わない、だが、この作戦は100%成功する、とだけは言っておこう、冷たいようだが、作戦に参加しないものには作戦を聞かせる訳にはいかない。共にここを出るものだけがここに残ってほしい」
ペオニアは男の話術に舌を巻く
これはいわゆる二者択一話法というものだ
不自由な二択とも言われるこれは、どっちしろ自分達に利になる選択肢を与える話法だ
この場合、YESなら覚悟の決まった兵が、NOなら数を減らした少数精鋭が得られる
ペオニアはこの選択自体は興味があるし、何より脱出のヒントが得られると考えるのならば
(乗らないのは悪手、だな)
周りも同じ事を思ったのか、誰も動かない
「・・・ありがとう、では作戦を説明をしたいと思う」
ペオニア達の脱出劇が今始まろうとしていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まずは、みんなが残ってくれたことに感謝する。この作戦は人数が多ければ多いほど良いからな」
(よく言うな、あんな二択を迫っといて)
ペオニアと同じ気持ちの者も結構いるらしくその言葉に数人が苦い顔をする
そんな反応はお構いなしに、リーダーらしき男は話を進める
「作戦を説明する前に、自己紹介をさせてくれ。俺の名前はユダ、一応覚えといてくれ」
リーダー男、ユダは簡単な自己紹介を済ませ、せっせと説明を始める
(話が速くて助かるけど)
「俺たちが脱出するのは明後日、最後の『選別』だ─────内容は、サバイバル訓練、生存能力を計るための『選別』だ」
「ちょっと待て」
誰かがユダの声を遮ると、人混みの中から丸太のような腕が胸ぐらをつかむ
ユダの体が上がると同時に、その巨腕の持ち主が姿を現す
よく見ると、その男は自分を起こしてくれた男だ
「・・・・・・なんだ?、ホルス?」
「俺の名前知ってたんだな、まあそれはそれとして、まああんたの話しはわかったよ、
ようはその『選別』は名前からして森でやるから、俺らに有利だし逃げられるって訳だろ」
「語弊があるな、名前からしてじゃなく実際そこでやる、確かな情報筋からの情報だ、間違いない」
「だとしてもだ!!」
ホルスと呼ばれた男は声をあらげる
「分かってんのか? あんたここにいるやつの命預かってんだぞ!! それをそんな曖昧な作戦で・・・・・・」
─────────トン、ドサッ
「っな」
ユダはホルスに腕を掴まれたまま、ホルスの顎を撃ち抜いた
ホルスはそれによる脳震盪で、その巨躯を床へと落とす
「ホルス、おまえの言いたいことはわかった、だがこっちも命賭けてんだ、話は最後まで聞け」
ホルスは、呻き声をあげながら立ち上がる
ユダはそれを見てニッと笑うと
「それじゃ、作戦会議を始めるぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・というわけだ」
「なるほど、確かにそれならいける。 ・・・・・・ユダさん、さっきはすまなかった・・・ 話を最後まで聞かず」
申し訳無さそうにするホルセをユダが慰める
「なに、理解してくれたならいい。それより今日は早く寝ろ、明日の選別を乗り越えなきゃ話にもならん」
「そうだな、じゃあ明後日は全員で逃げられるようにしよう」
その言葉に牢の中に居るすべての獣人が、静かに、だが、はっきりと自らを鼓舞する雄叫びをあげたのだった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
牢が寝静まった夜、ペオニアは目が覚めてしまっていた
(まずいぞ・・・テストが返ってるの前の日みたいだ、全然眠れん・・・こういう時は、変に寝ようとしても疲れるし)
ペオニアは、自分の体内にある魔力を知覚し、巡らせる
(魔力は、ウォーミングアップなしに動かせるものじゃない、ましてや明日は魔法の『選別』だし!! 感覚を少しでも取り戻さないと)
そうして、ペオニアは懐かしい感覚に身を包まれながら、脱出に向けて牙を研ぎ澄ませていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
二日後
いつも通り呼ばれて立たされると、昨日もさんざんやってくれたフツ達とその取り巻きがいた
「それでは、三日目の『選別』はサバイバル訓練です。それでは始めたいと・・・」
「フェルツさん、説明しないとわかりませんよ・・・」
「・・・今から森に叩き込むので、妙な気を起こさずに夕方まで生き残る、以上」
(どんだけ説明嫌いなんだよ・・・)
もうなれたが、こいつはおそらくこういう試験官に世界一向いていない
だが、この思いも今日で最後だ
(情報もある、勝算もある、しかも相手はこちらの手の内を知らないときた。この状況でもし失敗でもしたら)
魔王ペオニア・フォース・クローバーの名が泣く
ペオニアは頬を歪め作戦を復唱する
(作戦決行の合図は・・・)
「それでは、始め!!」
フツのその言葉と同時に、ペオニア達は走り出す
(さて、不謹慎かもだが・・・作戦開始だ)
ここに奴隷達の、いやペオニア達の大脱出劇の火蓋が切って落とされた
このままだとダラダラしすぎるので、多少強引でも話を動かしました
ブックマークと評価お願いします