ケジメ
「なっなんだこの・・・・・・・・・嫌な感じは!?」
この何かにふさわしい言葉が見つからなかったのか、アスピダが少しいい淀みながら、何かを形容する
まあだがその気持ちもわからなくはなかった。こんな"嫌な感じ"としか形容できないものもそえあるまい
「・・・・とりあえず、だ。ノース。簡易的なもので申し訳ないが聞かせてくれ────────『お前はこの事態の終息と、五級試験の終了が正式に終わるまで、私たちに危害を及ばさないと誓うか?』」
「・・・・・・・・・・・・・ああ、このノース・アスノーヴァの名において『誓う』」
「──────────よし、なら信用しよう」
今のはただの会話ではない。『誓約』の能力のひとつで、お互いの合意があれば紙などの触媒を使用せずとも『強制力のある契約』が結べる
まあやはり触媒使用時よりは罰も落ちるが、この緊急時に下手なことを起こすほどコイツは愚かではないだろう
「まずは情報を集めよう。“スクロール”。“光影絵”」
“スクロール”が燃え尽きると同時に、粒子のような光が集まっていき、最終的に巨大な長方形のような形で固まる
「眼型遠隔監視ユニット起動。同期開始」
同期開始という言葉と共に、"光影絵”にも変化が訪れる
光るだけだった表面に16等分の切れ目がつき。一つ一つが分裂し、モニターのように散らばる
静止すると、そこには森の様子が、お世辞にもきれいとは言えない画質で写し出されていた
「こっこれは───────────!!」
映し出された映像にはそれぞれ別の、いや、同じような光景が映っていた
人が────────────人を食っている
人だけじゃない、おおよそ正気とは思えない眼と見た目を持つ獣達が、受験者を襲っている
それはまるで、敗戦国で略奪を行う戦勝国を彷彿とさせる───────それほど一方的で、どうしようもない光景だった
「うっ・・・・・・・・!!」
あまりの光景に、パノプリアから呻き声が上がる。だがそれも致し方あるまい。B級ゾンビ映画のような光景が、画面越しとはいえ現実で起こっているのだから
「・・・・・・・・・・」
「ちょっ!! 待てよノース・・・・・さん?」
「ノースでいい。それで? この手はなんのつもりだ」
無言のまま今にも飛び出しそうなノースを引き留めたのは、意外にもオプロだった
「どうしたもこうしたも、あんた今自分がどういう状況かわかってんのか? 今のあんたは半分捕虜みたいなもんなんだぞ!? 勝手に行動するな!!」
「今の俺はそこの獣人の娘との契約に則ってお前らに協力するだけであって、捕虜になった覚えはない」
「そっ、それ抜きにしても─────────!!」
「それを抜きにしてもかなりダメージ残ってんだろ。一体何を焦ってやがる?」
二人の言い争いを止めたのは、見たこともないほど真剣な表情をしたアスピダだ
「────────俺はこれでもパーティーリーダー。”黒蜘蛛“のノースだ。メンバーの安否を確認したいというのは道理だと思うが?」
「おいおい何も喧嘩腰になることはねぇだろ。ただ、今の俺らは協力関係にある。そんな、瀕死とはいかなくても傷だらけ魔力カツカツのやつをいかせられねぇって話をしている」
「・・・・・・・・・・・ならどうしろと? 悪いが俺は残る気は更々ないぞ」
「だろうな。じゃあ──────────テルス。お前ついていってやれ」
「は?」
アスピダの急な物言いに、テルスが間の抜けた声を出し、すぐさま眼をつり上げ食ってかかる
「何で私なんだ!! 別に他のやつでも、私は姉御と一緒に───────」
「テルス」
「──────────!! あっ姉御?」
「・・・・・・・・・行ってらっしゃい♡」
「・・・・・・・・・・ハイ」
状況に見合わぬ甘い声とその裏に隠した怒りで、どうやら私の意図を完璧に理解してくれたようだ。やはり、持つべきものは優秀な妹分だ
そうして脅・・・・・・・・・ではなくお願いで、テルスはしぶしぶといった感じで、ノースと共に洞窟を出ていった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、じゃあ私たちは別ベクトルで調査を開始すると─────────って、なんだよその目は?」
「いや・・・・・・・お前意外と悪女なんだなって」
「・・・・・・・・・・超絶心外なんだけど」
というか、このくらいのことで悪女など、本物の悪女失礼というものだろう。私が知ってる人生最悪女のやつなら、この程度呼吸するようにやっていることだろう
「────────まあいいやそれどころじゃないし、とりあえず今私たちがとれる選択肢は、三つ
一つ。この異常事態を察知したギルドに助けを
求める
二つ。元凶に接触し交渉する
三つ。元凶を叩いて万事解決
どれが一番現実的解決策だと思う?」
「とりあえず2はない。あんな人喰いゾンビもどきを放つやつが、交渉の応じるほど正気とは思えない」
「となると3じゃないかな? ギルドの規模を考えれば、とっくにこの事態に気づいて、討伐隊が組まれてても不思議じゃない。ギルドは面子が潰されるのを何よりも嫌っているし」
「私もそう思ったんだが・・・・・・・・・そんな難しい顔してるってことは、何か不都合でもあるのか? アスピダ」
私のその言葉で、一人腕を組みしかめっ面をしていたアスピダに視線が集まる
「─────────ついさっき、あの嫌な感じのあとポンコツゴーレムが機能停止した。ギルドへの連絡はアレ無しでは出来ない」
そう言って差し出されたのは、光を失い、ただの人形のように横たわるプラズマだった
「となると2しかなくないのか・・・・・・・」
「決めつけるのは速い。中の状況を中継でもしてるかもだしな。だがどっちにしろ、情報が圧倒的に足りない。私たちは元凶が人か魔物かすらわかってないんだから」
「じゃあどうするんだい?」
「とりあえずはテルス達を待とう。私はプラズマを修理する。最悪通信機能だけでも復活させれば万々歳だしな。それと、パノ。ちょっと一緒に来てくれ」
「えっ、何で?」
「いいからいいから、後で説明する」
困惑するパノプリアを半ば強引に連れていき、この場はお開きになった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ヒギッ、ヒギッ!! どこ? どここ?」
「ふじゅるるるるるるるる・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・本当に地獄そのものだな」
そう嫌悪感を隠しもしない物言いをするのは、テルスとか言った獣人だ。猫の方はラテュロスというらしい
今ノース達がいるのは、ゾンビ(仮)の密集地帯だ。自分達の本拠地への最短ルートで、時間短縮にと来たのだが、早くも後悔しはじめている
話は変わるが、こんなゾンビのなかを普通に歩けているのは。このテルスの魔法のお陰だったりする
姿を隠す光学迷彩と匂い、音を消し去る遮気纏の合わせ技で、今のノース達は、魔力感知以外では補足が不可能になっていた
「この様子を見るに、どうやらゾンビ共は魔力感知が苦手、もしくは不可能みたいだな」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・その代わり、嗅覚や聴覚などの五感が強化されたいると見えるな」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・おい。議論に付き合ってくれるぐらいしてくれないか? お前も自分の姉貴分に任された仕事なんだし、真面目にやってもらいたいんだが」
「・・・・・・・・・・・お前、イカれてるのか? その自分の姉貴分を殺しかけた相手に、どうして友好的な態度などとってやらなきゃいけないんだ」
敵意をむき出しにしているテルスに、さすがのノースも少したじろぐ
「ぐんの音も出んな・・・・・・・だが、謝る気はないぞ。試験では殺しは禁止されていないし、正当防衛だった」
「わかっている・・・・・・・・・わかっている」
ここら辺はまだ子供だな。そうノースが思ったその時
「──────────ッ!!」
「・・・・・・・・・・なるほど、アレ、か」
自分の反応を見てなにかを悟ったのか、テルスがいたたまれないといった様子の視線を向ける
そこには天幕が張られていた。とはいっても、人一人が入るようなものではなく。家を彷彿とさせる小屋のような大きさのモノ──────見慣れたはずの光景
だが決定的にいつもと違うところがあった。いつもなら、凱旋を喜ぶ声が鳴り響くはず。大半が酒を飲んでいるはずの天幕は──────画面越しに見た化物と同じ挙動をする仲間達で、溢れていた
目の前にある光景に、信じられないと叫んでいる自分と同じくらい、どこか納得している自分がいる
そうだ、わかっていた。わかっていたのだ。このような状況になった時点で、こうなっているだろうというのは
ただ──────────少し、期待してしまった自分がいた。自分が鍛えたコイツらなら、もしかしたらと
「────────テルス、でいいか?」
「・・・・・・なんだ?」
「俺に────────できる限りの強化魔法をかけてくれないか? それと・・・・・今俺にかかっている隠蔽を解いてくれ」
「──────ああ・・・・・・・わかった」
テルスは何も聞かなかった───────だが今は、その無反応がありがたかった
疲れきった体が、わずかな高揚とともに力を取り戻していく──────これならやりきれる
強化が終わると、隠蔽が解除されたの|仲間達の視線がこちらを向く───────そこに、いつもの尊敬や、少し忌々しさが混じった視線はなく。あるのはエサを見つけた獣のような、冷たく、そして高揚したものだけだった
一人がこちらへと向かってくる。その首飾りには見覚えがあった。確か、俺に生意気を言っていた小僧だ。昔の俺を見ているようで、可愛がってやった
「───────────」
その頭を無造作に拳で貫き潰す。だが、頭を失ったことを意に介さぬように、ゾンビは飛びかかる
「───────────」
今度は体の中心。全力で振り抜かれた拳は、腐ったような柔らかさの体に風穴をあける──────今度は、動かなくなった
自分達の仲間が殺されたのを見て、ゾンビに動揺が走る──────────それを冷たい目で、だが安堵したように、睨む
「──────なるほど、わかっちゃいたがやっぱりガワだけか・・・・・・・・・・・俺の仲間はさぞ着心地がよかろう」
怒りで声が少し上ずるのがわかる。憎しみで血が滾るように流れている
逃げ腰になるゾンビどもに、静かに、だが確かな声で、名乗る
「ギルド6級。五級試験生“黒蜘蛛“のノース・アスノーヴァ・・・・・・・砕き参る」
妙に目が熱かった気がした




